「羽入さんと魅音さんは、お亡くなりになりました」
葛西が冷然と告げる。
私たちは互いに視線を交わし合い、誰が犯人なのかと腹を探り合う。……この中に、必ず犯人はいる。
犠牲者二人は、ただちに墓場へと送られた。
私と羽入は兄弟の関係だから、羽入と相部屋だったレナが敵であることは確信できる。
問題は、詩音と相部屋だった鷹野のほうだ。
鷹野が敵ならば、レナと鷹野を追い詰め投票でくびり殺すだけで事は足りるのだが……可能性はあと二つ。
詩音が狂人であり、鷹野を疑わせるために自殺してみせた場合。
詩音が人狼であり、鷹野が祈祷師であったために返り討ちに遭った場合。
いずれも、詩音の死亡という結果につながるのだ。
「どうぞ、会議を始めてください」
葛西が言って、沙都子が口火を切った。
「まずは死んだ二人と相部屋だったレナさん、三四さんの申し開きをお聞きしたいですわね」
「あはは、レナはね、祈祷師さんだよ。羽入ちゃんが襲ってきたからね、返り討ちにしたんだよ!」
笑顔でいけしゃあしゃあと嘘をつくレナだった。
「私は何も知りませんわ。魅音ちゃんは狂人で、自殺したんじゃないかしら」
鷹野もすました顔で、もはや定番とも言える言い訳を口にしていた。
「レナは嘘をついてるよ。祈祷師は僕だ」
悟史が神妙な顔で言い募るが、レナの笑顔は崩れない。
「迂闊だったわね、レナ。……羽入は私の姉よ。レナが狼なのは、間違いないわ」
私もそう言った。とりあえず今回は確実に敵とわかっているレナを縛り首にしなくてはいけない。
「嘘だッ!」
でもレナは、恐ろしい顔でそう声をあげた。
「どうして嘘、つくのかな。梨花ちゃんか悟史くん、どっちかは狼さんかな? かな? もしかすると、そうじゃないほうも狂人さんかもしれないね?」
「待てよレナ、それだとおかしいだろ。羽入が狼で、二人が狼と狂人だったら、魅音が死んだのはどう説明する?」
圭一の推理はもっともだ。
「じゃあ梨花ちゃんが狼で、悟史くんは村人かもしれないね。魅ぃちゃんはきっと狂人さんだったんだよ」
「にーにーは保身のために祈祷師を名乗っているとおっしゃりたいんですの?」
そういうこともありえるだろう。祈祷師は一回だけ、襲ってきた人狼を返り討ちにできるのだ。人狼としては相部屋になりたくない。
「どちらを信じたものでしょうね?」
鷹野は自分が追及されていないのを良いことに傍観を決めこんだらしかった。彼女だって怪しいものだと言い募ろうとしたが、すぐに思い直して黙る。へたに票を分散させるべきじゃない、まず始末すべきはレナなのだ。
「そこまでです。どなたを縛り首にするのか、投票してください」
私は手持ちのカードからレナの名前を選んで葛西に差し出し、葛西はそれを確認して返してきた。
全員が投票を終えると、葛西が宣言する。
「今回は、レナさんを処刑することになりました。どうぞ墓場へ」
レナは哀しげな顔をしながら無言で墓場へと向かった。
……まったく詩音のやつめ、魅音ほどゲームに精通してないから海外版のボードゲームを持ってきたりはしないが、今回はまた複雑なゲームを選んできたものだ。
会話と推理、心理戦が肝のこういったゲームは、私はそれほど得意じゃない。
アホの子だからじゃないわよ!?
相手の油断を誘う私の戦術が、油断しないことが前提のゲームでは使いにくいだけだ。最近は常に素で過ごしてるからもはや油断してくれる人もいないんだけど。
今回チームメンバーに恵まれたせいもあって成績は上位に属してるのが、アホではない証拠だと思ってほしい。
無駄な抵抗だとかいま思った? 思ったでしょ!
きー! きー!
「なにじたばたしてんだ梨花」
圭一に呆れられてしまった。
「ではまもなく夜です。……梨花さん、相部屋になる相手を選んでください」
私に相手選びの権利が回ってきた。
確実に狼だったレナは死んだがゲームが続行しているのであとの四人の中に一人は狼が残っている計算になる。
それは、詩音が狼でなかったことを意味する。彼女の自殺か、鷹野が狼であることを疑わねばならない。
レナに投票した人間が私以外にもおそらく二人はいるはずだから、私と羽入が兄弟だったことは信じてもらえただろう……ここは、チームの勝利のために賭けに出るか。
「鷹野、ご一緒願えるかしら?」
そう言ったら、鷹野は一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに微笑んでみせた。
「……ええ、喜んで」
私と鷹野は背中を向けてビニールシートの一隅に陣取る。
「これがきっと、最後のゲームよね」
鷹野は私にそう囁いた。
「……でしょうね。これで勝者と敗者が決まる」
誰がどの陣営にいるかはまだわからないが、ポイントから計算すれば、ここで詩音か私のどちらかが勝利した陣営に属していれば優勝が決まる。そしてどうやら、圭一か悟史のどちらかがビリになりそうな気配だ。
「ふふ。……スリリングなゲームだったわ。久々に脳の普段使わないような部分を使った気分ね」
メイドとしての日常生活と、研究者としての活動。その繰り返しの中で彼女が刺激を求めるのはわからなくもない。
……と、そこに審判の葛西がやってきた。
「いかがなさいますか?」
ここで私たちのどちらかが狼で、パスの権利を使わないなら相手に狼のカードを見せなければいけない。そのための質問だ。私は当然狼ではないから、鷹野を見た。
鷹野はくすりと笑って、手の中のカードに指を滑らせる。
……やはり、彼女が狼なのか?
二重の意味で緊張した私だが、鷹野はすぐに剣呑な笑みをひっこめて、悪戯っ子のような可愛らしい笑みに変わる。
「うふふ♪……冗談よ。ごめんなさい」
と、いうことは……彼女は狼ではないのか、それとも今回牙を剥くのはパスしたのか。どちらだろう。
ますます混乱した私だったがそのゲームの結果はすぐに決まった。狼だったらしい圭一が悟史を襲って返り討ちに遭い、人狼が全滅してしまったらしい。
ということは、鷹野は本当に狼ではなかったということ。
……現実でもそうだといいんだけど。
「ということで、優勝は梨花ちゃん! ビリは圭ちゃんだね! 私ももうすこしだったのに、残念ッ!」
詩音の宣言で私ははっと身をすくめた。
……あ。
そういえば、詩音は狂人の役割だったみたいだから、負けチームだったのか。ということは、ということは……。
「ちぇ~、俺が犬さんかよ~!」
ぼやきながら犬耳や首輪をつける圭一。
「あはは、圭一くんかぁいい! 狼さんから犬さんに格下げだね! だね!」
圭一を犬さんにした上、ボートの上でふたりっきり!?
だ、誰か……! 誰かバター持ってこいッ!(何故)
思わず理性だけでなく全身全霊でたりらりら~ん♪と踊り出してしまってみんなに爆笑されてしまった私だけど……か、考えてみたら、ボートの上で逃げ場がないのって私のほうもなのよね……そりゃ圭一になら何されてもいいとは思うけど、犬さんモードの圭一が理性をなくして襲いかかってきたらどうしよ。
……ごくり。
そ、そんなムードのないのは嫌だな……。最悪、岸からみんなに見られちゃいそうで怖いし。
「おーい、なにかエローイことを考えてないか?」
「な、ないわよッ! け、圭一……おあずけ!」
「は?」
真っ赤になりながら私はそう言った。
そして腕組みをしながら、もっともらしく申しつける。
「ら、来年、春になってボート小屋が普通にやってる頃になったら、ふたりっきりでここに連れてきて私をボートに乗せなさい。せっかくの犬さんプレイだもの、おあずけするくらいでちょうどいいわよね!」
おぉお、と皆が感嘆の声をあげる。
「お~、さすが梨花ちゃん、まごうことなきドS幼女!」
「わたくしの親友は、小学生にして立派な変態ですわ!」
「それだと、この自由時間、圭一は放置プレイ……!?」
「おあずけされてきゅーんってなってる圭一くん……☆」
……思いの外、大絶賛だった。
「くぅう……! たしかにこいつはつらい。むしろ思う存分バターを舐めたかった俺がいるのを否定できないぜ!」
圭一も悶絶してのたうちまわっている。
……べ、別にそのくらい、いつでもさせてあげるけど。
「で、そうなるとさ、今日ボートに一緒に乗るのは誰にするの? 羽入? それとも沙都子?」
詩音に言われて、それを考えていなかったことに気づく。
ふむ……羽入はともかく沙都子は魅力的なんだけど、それだと漕ぐのに苦労しそうだ。沙都子と私じゃ、ちっともさっぱりボートが進まない気がしてくる。
ここはやっぱり、ある程度筋力のある人間がいいだろう。
最強はたぶん、逆立ち腕立て伏せや鉄棒にぶらさがっての腹筋を軽々とこなすレナではないかと思うのだが、これはこれでお召し上がりの恐怖というものがある。
あとは悟史か詩音か……、あ、そうか!
「鷹野、付き合ってもらうわよ!」
「あら、私?……ええ、喜んでご一緒しますわ」
にっこり笑ってうなずく鷹野だった。
そう、そもそも鷹野を部活に引き入れることに同意したのは彼女との接点を多くするためだ。こういう機会を積極的に活用しなくてどうする。
「く……! さりげなく俺が一番悔しいシチュエーションをチョイス! まったくこいつぁドS過ぎるぜぇえ!」
「ボ、ボートの上で鷹野さんと……火山が、地球のエネルギーが炸裂だよ! 考えるのをやめてしまいそうだ!」
「……ええ。思わず今まで自分が築いてきた屍の山に、加わりたくなってきましたよ」
ビニールシートに突っ伏しておぅおぅとむせび泣く圭一と悟史と葛西をほっぽらかして立ち上がる。
「沙都子、あんたのメイドちょっと借りるわよ」
「ええ、たまには梨花も甘えてらっしゃいませ」
……いや、別に甘えるつもりは。
「それもいいわね。うふふ、ちょっと得した気分かしら」
なんでそこで嬉しそうについてくるのかな、鷹野め。
「あぅあぅ、梨花を抱きしめるのは姉の僕なのに! ジェラシぃのですよ~!」
「はぅ~☆ 梨花ちゃんを抱きしめるのも、お召し上がるのもレナなのに~!」
うちの姉どもは姉どもでアホだった。
で、詩音の指示で用意されていたボートに乗り込み、私の向かいに座った鷹野がオールを巧みに操って岸を離れる。
ゆっくりと水面を進みながら、私は岸のほうを見た。
みんなはみんなで思い思いの午後を過ごすことに決めたらしく、沙都子と羽入はクラスの女子たちの遊びに加わっているようだし、悟史はまだカレーを食べ続けている知恵の給仕、レナと詩音は葛西に見守られながらまったりと二人で談笑しているらしかった。
ちなみにおあずけ状態の圭一は、木につながれて体育座りでこちらを恨めしそうに見つめていた。
……ちょっぴり、かわいそうだったかも。
でもそのかわいそかわいそっぷりにゾクゾクしてくる私はいけないコでしょ~かッ!?
んふふ、圭一。あとでなでりなでりしてあげるからいい子で待ってるのよ~。たりらりら~ん♪
「……ちょっと、梨花ちゃん!」
「ふわ!?」
ボートの上だということを忘れていて小躍りしそうになった私の身体を、鷹野が慌てて抱き留めてくれる。
「楽しそうなのはいいけど、あんまり無茶なことしちゃだめよ、もう」
バランスをとりながら座り込んで、ほっと息をつく鷹野。
……でも私はそれよりも、この!
この私の眼前にあるとんでもない双丘、いやいやこれはもはや丘などではない山脈だ!と言いたくなってしまうくらいの驚異のボリュームに膝をつくしかなかった。
この感触、圧倒的迫力、目測だけでもあの詩音や魅音を優に2~3カップは上回っているのに、年齢的にもそろそろ曲がり角じゃないかと思うのに、恐るべき張りと弾力……これは! これはぁあ~ッ!
☆ ぴんぽんぱんぽーん ☆
ただいま鹿骨市全域に、巨乳警報が発令されました。
深度は、最低でもG以上と推定されます。
なお、この巨乳により男性陣が津波のごとく押し寄せる危険がありますので、貧乳の方は道をあけてください。
☆ ぴんぽんぱんぽーん ☆
……ってレナの声で(何故)妄想が駆け抜けていくような錯覚、そして泣きたくなるようなこの柔らかさ!
くぉぉぉぉ、いますぐ脱がせて白日のもとに曝してやりたいようなけしからん乳! 名付けて乳曝し編ッ!?
許せない……やっぱり鷹野、あんたは私の敵だッ!
絶対に、絶対にくびり殺してやるから覚えとけ!?
うわぁあ~~~んッ!?
「……ど、どうしたの? そんなに頬ずりして」
ハッ!?
……しまった、あまりのふかふかっぷりに思わず涎をなすりつけてしまっていた。まさに人を惑わす魔性の乳ッ!
「ふふ、……沙都子ちゃんもときどき、そうやって甘えてくれるのよ」
鷹野は苦笑しながらも不安定なボートの上で姿勢を整え、私が楽なように気を遣いながら抱きなおしてくれる。
……あれ、こいつ実はいい奴?
あまりの心地よさで脱力した猫のようになった私はもはや全体重をその胸に預けて目を閉じていたのだけれど、鷹野は私の髪を優しい手つきで撫でながら話し始めた。
「……私もね、あなたたちくらいの頃にはもう、お母さんがいなかったの。だから、こんなふうに誰かに抱きしめられたら、泣きたくなっちゃったかもしれない」
すこしだけ、心の警戒が戻ってくる。
お母さん、という言葉で……鷹野が、私の両親を殺した犯人だったことを思い出したのだ。
「事故で両親をいっぺんになくしたのは、もっと小さな頃……身寄りもなくてね、施設に入れられた。その施設が、またちょっと考えられないような酷いところで……」
「……え」
両親を亡くしても、村のみんなから慕われ、喜一郎の後見を受けてひとりで暮らすことを許された私は施設というものをよく知らなかった。鷹野は、施設育ちだったのか。
「わかりやすく言うなら……、そうね。沙都子ちゃんの叔父さんみたいな職員が何人もいて、子供を好きなだけいたぶってる、牢獄みたいな場所だった」
なに……、それ……?
そんなの施設って言えるだろうか。親を亡くした子供を育てるための場所で、そんなこと許されていいのだろうか。
「まだ当時は終戦からそんなに経っていなかったし、日本も貧しさから抜け出せていなかったもの。親のいない子供なんて、そんなに珍しくなかったのよ。だから国や県の補助金目当てに運営してる民間の施設には、そんな酷い場所もあったのね。子供にそのことをバラされるわけにはいかないから、逃げようとすると捕まえて、みせしめとばかりに拷問みたいな罰を与えて……死んでしまう子もいたわ」
かちり、と鍵の開くような音が私の胸の奥で疼く。
……そうか。
鷹野の悪趣味の原点はおそらくそこにある。
友達だった子が目の前で無惨な姿に変わり果てるのを幼い頃に目にしたがため、その恐怖が心に焼き付けられた。
その強烈な震えを求めて、猟奇的なイメージを追いかけるように心を作り替えられてしまったといってもいい。それで腸流しされるこっちの身にもなってほしいが。
「その地獄から逃げようとした私の助けを求める声に気づいてくれて、私を危ういところで救い出してくれたのがお祖父ちゃんだった……父の恩師だったお祖父ちゃんに引き取られて、私はようやく人並みの、当たり前の生活を取り戻したの。だから、なのかしらね……沙都子ちゃんが、昔の私みたいに見えて、放っておけなくなったのよ」
ぎゅっと胸に押しつけられる。
「こんなのって、自己満足だって自分でもよくわかってる……でも、あの子のために必死で、命懸けで奔走するあなたたちを見たときから、黙って見ていられなくなった……最初はちょっと嫌な気持ちもあったのよ。あなたたちに大切にされる沙都子ちゃんと、昔の私にそんなに差があったのかって……でも泣き疲れて運ばれてきたあの子を見て、目が覚めても一歩も外に出たくないと泣く沙都子ちゃんを見て……同じなんだとわかったの」
届かないかもしれない助けを求める声をあげながら、必死で地獄から逃げ出そうともがいていた沙都子。壊れてしまった沙都子のために誰かが、いや一人でも多くの信頼できる人が手を差し伸べなければ沙都子は救えないのだと……鷹野もまた、気づいたということだろう。
その意味で鷹野は……もうあのときから、沙都子を救おうとする私たちの“仲間”だったのだ。
「だからね、あの子がいまのあなたみたいに甘えてくれて幸せそうに笑ってくれるのが本当に嬉しいの。梨花ちゃんも……明るく振る舞っているけれど、やっぱり寂しいわよね。気づいてあげられなくて……ごめんなさい」
じっと鷹野を見つめていた私には、その瞳にわずかに罪悪感が宿るのを見逃さなかった。
こいつは、やはり私の両親を殺している。
この世界では、羽入を研究材料にするために。
だからその妹で、巻き込まれたに過ぎない私への、年端もいかないうちに両親を奪ったという罪悪感が顔を覗かせるのも当然のことだ。
だから私は彼女を許さなくていい。
沙都子を救うために力を貸してくれた、いや最大の助けとなってくれたからといって、恨むのをやめなくていい。
だが……、それは彼女だけの罪ではない。
そう、両親を見捨てたという歴史を作りだしたのは、研究の継続を望んだ私の意志であり、両親が私を想う気持ちを凌ぐほどの強い言葉で彼らを説得できなかった、私の無力でもあるのだから。
「鷹野……」
私はその豊満な胸に顔を押しつけると、意外に細い鷹野の身体を抱き返しながら、呟くようにその名前を呼んだ。
「……なに?」
鷹野はとても優しい声を出す。
「沙都子を……裏切らないであげて。それだけ約束して」
しばしの沈黙。
そこにどんな表情がよぎったのか、私には見えなかった。
見るのが恐ろしかったから、顔をあげなかった。
「……えぇ、もちろんよ。沙都子ちゃんは私の大切な家族ですもの」
そこでようやく顔をあげると、鷹野は柔らかい笑顔の中に堅い意志をこめて私を見つめていた。
……信じない。
こいつはきっと、絶対に、どうしようもなく裏切る。
その時がくればこちらもいつかの誓いどおりに、容赦なく祟り殺してやるだけだ。だから全く問題ない。
この女の裏切りに備えろ。
決して油断するな、古手梨花。
ただし。
それを絶対に気取られるな。この約束を信じたふりをして無垢な子供のように、こいつを仲間として扱えばいい。
いつか訪れるその瞬間までは、鷹野は沙都子にとっても、私たち仲間にとっても必要な人間なのだから。
「私の親友を……よろしくね、鷹野」
いまのはきっと、とてもうまく笑えたと思う。大好きな仲間の一人に向ける笑顔としては上出来の部類だ。
「ええ、お任せよ☆」
その日、あなたが……狼でも、そうでなくても。
この約束が嘘でも、真実であっても。
私は心のどこかに祈祷師を潜ませておこう。
あなたに殺された両親と沙都子たちを、決して忘れない。
牙を剥けば……、返り討ちにするだけだ。
「にぱ~☆」
私たちは互いに笑顔を向け合い、満ち足りた時を過ごして……桟橋へと戻った。
そろそろ遊び疲れて帰り支度をはじめている皆のところへ戻り、鎖の範囲に入ったとたん圭一が飛びかかってきた。
「ちょっ、いきなり何よ!?」
「ずっとおあずけされてたんだ、耐えられるかぁあッ!」
押し倒されて、とんでもない勢いで首筋にキスをされる。
「みぃぃぃぃぃッ!?」
じたばた暴れるが、圭一を押しのけられる腕力が私にあるわけがなかった。
「ま、待って待って! 低学年の教育に悪いッ!」
「そうだよ、そんな羨ましいことレナがするよ!」
「とんでもないケダモノがここにいますわぁ!?」
詩音の蹴りやレナぱん、沙都子のタライなどが降り注ぎ、羽入があぅあぅと慌てて、悟史は「むぅ……いいなぁ」と指をくわえてて、鷹野と葛西は大人の余裕で笑って流す。
「前原くん、それ以上はおやめなさいッ!」
知恵の放ったチョークが頭に突き刺さってようやく圭一は身を起こすとへろへろの私を抱き上げ、
「わぅん♪」
などと言いながら無防備な唇を奪ってくれた。
しゅ、衆人環視の中で……なんてことッ!?
部活メンバーと葛西が一瞬の早業で知恵や低学年の子たちの目を覆ってくれたからまだしも、舌でたっぷりと私を味わってから圭一は満足げな笑顔とともに囁いた。
「言ったろ、梨花? 泣きたいなら抱いてやるって」
わぉ。
……こいつは、もう。
どこまでわかってて言ってるのかさっぱりだけど、要するにこいつは私があんなに笑顔だったのに泣きそうな気持ちなのを看破して、こんなとんでもない暴挙に出たのだ。
まったく、呆れるくらいに無茶苦茶な慰め方で……。
「あは……あはははっ、あっはははは!」
私は、思いきり声高く笑った。
涙を流してバカ笑いする私を、その場の誰もがぽかんとして眺めていた。圭一ひとりを除いて。
「圭一のくせにッ!」
ぱっとその首を引き寄せ、今度は私から奪ってやった。
今度は不意打ちすぎて、目隠しが間に合わなかったらしく小さな子たちから歓声とも悲鳴ともつかない声が漏れる。
唇を離した私と圭一の間に引かれた銀の糸は、痛快なくらいに卑猥だった。
「ふふふ、古手さん! 前原くんッ!」
怒りかほかの何かで顔を紅潮させた知恵が吠える。
そう、まぁ、こんなもんでしょ。
アホの子としては、とんでもないイタズラをぶちかまして叱られるくらいでちょうどいいのだ。
「明日から一ヶ月、カレー当番の刑ですからねッ!?」
……知恵。
初耳だけどそれ、なんて拷問?