ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第66話 ヤツは噂の不沈艦

「魅音、これしてけ」

 

鬼婆様が渡してくれたのは手編みの手袋だった。

 

「……うん。あったかそ~、ありがと!」

 

やっぱりこりゃ夜なべをして編んだのかね、と思いながらそれをはめてみる。……うん、サイズはぴったり。

 

白一色のシンプルさも私の好みに合っている。

 

「そんくらい、自分で編めるようにならんね」

 

まるで叱責のように聞こえる言葉だけれど、この物言いに慣れてしまえば『今度教えてやろうか』と言ってることは理解できる。

 

「あっはは、そのうちね!」

 

手袋をはめながら笑ってそう言うと、玄関へ向かう。

 

確かに、そろそろ朝の空気が尋常じゃない冷たさになってきたなと思いながら、いつもの制服の上にルチーアの通学用のコートを重ね着した私は「いってきまーす!」と声をあげて門を出た。

 

雛見沢で『魅音』を名乗って暮らすようになってそろそろ半年。あの日の気まぐれな入れ替わりさえなければあの子に押しつけることなく私が背負っていたはずの生活。

 

それをいま、魅音の不在を隠すために本来魅音だったはずの私がこなしているというのはどういう皮肉だろう。

 

「ったくお姉の奴ときたら、どこで油売ってんだか」

 

思わずぼやいてしまうけど、そろそろ私も魅音が自由に動ける状態にないことは理解している。再三再四、魅音が使える人脈への探りは入れているし、実際に組員を派遣して監視体制はとったがいまだアタリはなし。

 

すくなくとも魅音が、味方のいる場所でのうのうとしてる可能性は潰えたと言っていい。そしてこれだけ寒くなってくると、もっとも可能性が低かった一人でサバイバル生活の線も消えただろう。

 

残るは、拉致監禁か……、どこにもいないか。

 

双子の超能力なんて信じるわけではないけど、さすがに死んでいれば私にも何らかの虫の知らせがあってもいい。

 

魅音は詩音で、詩音は魅音。

 

普通の一卵性双生児にも増して強い絆をもつと自負する私たちが、片割れの死さえ察知できないとは思いたくない。

 

だからそれも信じない。

 

最後の可能性が拉致監禁だ。

 

すでに葛西はそれに絞った調査を主軸としており、魅音の居場所としていまのところ有力とみなしているのは二つ。

 

小此木造園の社屋と、入江診療所だ。

 

用もないのに、まして夜中に雛見沢に出入りする小此木造園の不審な社用車の足取りを追うため、何度かに渡って組員たちを村内の各所に潜ませてその動きを記録した。

 

相手がこちらと同等以上に訓練されているなら、迂闊な尾行はまずいからと『追う』のではなく『待ち伏せる』ことによって相手の目的地を割り出したのだ。

 

村内で彼らの車が消えた先は二つ、谷河内のあまりひと気のない場所と入江診療所。

 

谷河内のほうは目標物がなにもない場所だから、なにか偽装がされている可能性もある。葛西は迂闊にそこに踏み込めばなんらかの罠や監視体制があることを警戒し、慎重な調査を厳命している。

 

もうひとつが診療所だ。深夜に造園業者が診療所に?

 

言うまでもなく、これは不審な動きだといっていい。

 

ランダムな日数を置いての遠巻きな監視、昼夜を問わず異常な電力消費量、設計時の図面との差異……それらを精査していく中で浮かび上がってくるのは、おそらくあの診療所には地下区画が存在し、小此木造園はその地下の施設と何らかの関係があるということ。

 

もちろん小此木造園そのものの調査も進めている。

 

わざわざ園崎家系列での造園会社設立の動きを起こし、そのライバルを調べているというポーズをもとに複数の興信所や私立探偵を動かしてその経営状態、構成人員、設立からの経緯を調べさせている。

 

造園会社にしてはやけに低めの年齢構成、たびたび出入りする社員以外の人間。24時間にわたり当直があるのもおかしいし、何より不自然なのは、社員の大半が地元の人間ではないということだった。

 

小此木造園は普通の造園会社などではありえず、その彼らとつながりのある入江診療所も怪しい。

 

いまさら言うまでもなく、私たちは診療所に沙都子のお見舞いでしょっちゅう通っていたし、監督や鷹野さんを始めとするスタッフとも親交が厚いだけに信じ難いが……。

 

その裏に何があるのか。

 

お姉の捜索のためだけに東京に設立した事務所では極秘に小此木造園や入江診療所のスタッフの経歴を洗わせているので、もう半年、いや数ヶ月もすれば結論は出るはずだ。

 

それでも元来短気な私には長すぎる時間だが、忠臣葛西の言うことには、情報戦の極意は忍耐。焦ったほうが尻尾を掴まれて命取りとなる。

 

そしてこの場合の命取りとは、お姉が永久に失われるということを意味するのだから迂闊な真似はできない。

 

かたや謎の組織と情報戦、かたや双子の姉を名乗って正体を隠しての日常生活。まったく14歳の乙女にゃちょいと過酷に過ぎる日々を送っていると我ながら思うのだけど。

 

「おーっす、魅音!」

 

「おっはよ~ぅ、魅ぃちゃん!」

 

「あぅ、おはようございますです」

 

「……おはよ」

 

こいつらの能天気過ぎる笑顔を見てると、結構どうでもよくなってしまうあたりが自分でも不思議というほかない。

 

「おっはよ! 今日も仲のよろしいことで!」

 

むしろ納得いかないのは、私がこんな苦労してるってのに前原屋敷に4人で生活しはじめて、ますますその親密さを増しているアホアホハーレム軍団のほうだ。

 

特に遠足のときのアレ! アレはなんなのさ~!

 

年上の私だってまだ圭ちゃんとは何回か普通のキスしただけなのに、一番ちびっちゃい梨花ちゃんがどーして人前であんな濃厚な大人のキスを敢行するわけ!?

 

ひょっとしてレナとか羽入も家ではあんな感じ?

 

大人の目が届かない前原屋敷で思春期の入り口に入ったばかりの若いリビドーが大・炸裂中だったりするの!?

 

あぁあ、許せん! むしろ羨ましすぎる!

 

そのハーレム、私もまぜろッ!

 

……とは言えないのが純情可憐な詩音さんというもので。

 

ボケてはツッコみ、ボケてはボケ返しとコントを続けている古手姉妹with圭ちゃんをよそに、私はレナに並ぶ。

 

ちょっと心配ごとがあるからだ。

 

「ねーレナ、最近、家に帰ってるの?」

 

「うん、回覧板がまわってきそうな日は一応帰ってるよ。冬物の着替えなんかも必要だもん」

 

それはあんまり帰ってるとは言わないんじゃ……とは思うけど、レナのお父さんがあんまり家に帰らない生活をしているらしい、という報告は受けている。

 

どうにもお金の遣い方が荒くて、フラワーロードなどでずいぶん園崎にお金を落としてくれるものだから、上客としてリストアップされているのを葛西が気づいてくれた。

 

「あのさ、圭ちゃんほどはたよりにならないかもしれないけどさ、困ったことがあるならなんでも言ってよね。園崎の力ならできる、なんてこともあるかもしれないでしょ」

 

レナは私の言葉に笑顔で頷いた。

 

「ありがとう魅ぃちゃん。お父さんのことで、困ってるといえば困ってるんだけど……そうだね、今度お願いするかもしれない」

 

「うん、遠慮しなくていいからね」

 

詳しい状況はわからないけど、無職のお父さんが豪遊して家にあまり帰らない……というのはレナにとっていい家庭環境にはみえない。だからこそ前原屋敷に『お泊まり』を続けているのだろう。

 

今度、葛西にもうすこし詳しく調べさせてみようかな。

 

はぁ~あ、恋する乙女ともあろうものが、ほんと、恋以外の悩みに振り回されてるよね。

 

「……魅ぃちゃんも、悩みがあったら言ってね。レナ、誰にも言わないよ?」

 

……顔に出ちゃったか。

 

鋭いレナの前でちょっと迂闊だったかもしれない。

 

「ん。……信じてもらえるかどうかわかんないような話でもよければ、今度聞いてよ。たまにはうちにもお泊まりにきてくれればいいからさ!」

 

なるべく明るくそう言ったら、レナはくすくす笑って、

 

「ほんとに信じられないようなことばっかりだよね、レナたちの毎日って」

 

……全くだ。半年近く前のオヤシロ様の祟りからこっち、私たちはとんでもない毎日を過ごしている気がする。

 

いや……、それはもしかすると祟りよりも前、

 

「圭一くんがきてから、なのかな」

 

レナが言い当てた。……たぶん、そうだろう。

 

梨花ちゃんが、圭ちゃんをこの村に連れてきたという5月……そのときから、雛見沢のなにもかもがめまぐるしく動いているのだ。人が変わり、村が変わる。

 

決して全てが良い変化ばかりではないけれど、それは劇的に全てを塗り替えていく、まるで津波のように。

 

前原圭一という名の嵐が吹き荒れて、いらないものをなぎ倒し、新しい何かを運んでくるのだ。

 

「まったく、とんでもない男に惚れちゃったよね」

 

「あはは、そうだね。そうだね!」

 

さてともかく、だ。

 

出遅れのせいもあるし、あれこれと忙しいせいもあるけれど私はいまひとつレナたちと比べて圭ちゃんと親密になれていない気がする。ここはひとつ、手を打つべきだろう。

 

でも、家族がいないかそれに等しい古手姉妹、レナたちと比べて私は鬼婆様の目があるから前原家にお泊まりしちゃうってのも、ね……いや、別にダメってんじゃなくて言ったら即座に結納とかって話になっちゃいそうで怖いのよ。

 

圭ちゃんやレナたちにあんまり迷惑かけるのもなんだし。

 

とりあえずは、……もうすこし、デートとかしたいかな。

 

というわけで。

 

「はい、あがりぃ!」

 

「は、早ッ!?」

 

「今日の魅音さんは気合いが入りすぎですわ!?」

 

今日のために用意したイカサマトランプだけど、まだみんなに気づいた様子はなかった。

 

「く、くそう……」

 

早くも机に突っ伏してるのは圭ちゃん。

 

私が集中砲火したから、もはやトップがとれないとビリ確定という状態だったのだ。

 

「ふふふふ、どうしたのかなぁ~?」

 

「ギギギ……」

 

悔しげにのたうち回る圭ちゃんが可愛く思えてしまうあたりは、私も梨花ちゃんのことドSとか言えないなぁ……。

 

くっくっく!

 

今日の罰ゲームは、勝者の言うことをなんでもきくって、天井無しのやつに設定してある。

 

「レナもあ~がりっ」

 

レナは圭ちゃんに気の毒そうな視線を向けながらも容赦なく上がる。

 

「僕もあがりだよ」

 

「私もです」

 

悟史くん、鷹野さん、……続いて梨花ちゃん、沙都子、あぅあぅと次々に手持ちのカードを捨てていく。

 

「あがりね」

 

「あがりですわー!」

 

「あぅあぅ、あがりです……って、なんで僕だけ名前で呼ばないのですか!?」

 

いや、なんとなく。……語りにツッコむのはやめようよ。

 

「メタ発言が僕の生きる道だと電波を受信したのです」

 

そのアンテナ壊れてるから。

 

……ま、それはともかく。

 

「さぁて~、それじゃビリの圭ちゃんには、とびっきりの罰ゲームと行こうか……!?」

 

わざとおどろおどろしく言ったら、圭ちゃんは私の期待どおりに震え上がった。身をすくめながら涙目で、

 

「や……、やさしくしてね?」

 

「だあぁぁあめぇぇぇえぇえッ!」

 

くけけ笑いをしつつ圭ちゃんの手首を掴まえ、大きくふりかぶって手にしたものを叩きつける。

 

ぱぁん!というなかなかいい音が響き渡った。

 

「ひぃぃッ!?……って、なんだこりゃ?」

 

手の中のものを見て目を丸くする。

 

「うん。先月、穀倉のほうに出来た遊園地のペアチケットがおじさんのコネで手に入ったからね。今度の日曜、付き合ってもらおうと思ってね~!」

 

おぉお~!と羨望の声があがる。

 

こんな田舎の雛見沢に住む私たちにとって、遊園地なんてのはかなりスペシャルなおでかけスポットだったりする。

 

しかも圭ちゃんと一日ふたりでのんびり回れるデート権となれば、羨ましく思わない部活メンバーなど存在しない!

 

なにかと不遇な私だけど、今度こそ……この状況を打破してみせるッ!

 

「園崎アズナンバーワンッ!」

 

……というわけで、デート当日。

 

さぁ、今日は気合いを入れて参りました園崎詩音。

 

品の良さを基準に選んだ白いツーピースにベージュのハーフコート、マフラーと手袋も白。我ながら完璧なるお嬢様スタイルにて、普段の『魅音』スタイルとも『詩音』スタイルとも異なるギャップ萌えを狙い、宿敵前原圭一の悩殺を狙う、必殺の構えだッ……!

 

おっと、どうやら今回は防備も完璧だという情報が入っています。例のお邪魔な小悪魔の動きを封じるべく、かぁいいぬいぐるみセットとデザートフェスタのチケットで同居人二人を買収しています。この金品を積んで人心を惑わすえげつない手練手管、これが園崎のやり方だぁーッ!

 

『は、離せぇーッ! 私も遊園地いく、遊園地いくのー、遊園地にいかせてぇーッ、うわぁあーんっ!』

 

『あぅあぅ、ごめんなさいです梨花。今日は我慢してくれないと僕のデザートフェスタ極楽ツアーが台無しです』

 

『ごめんねごめんね梨花ちゃん。今度レナといっしょに、遊園地行こうね、行こうね! は、はぅ……☆ だだっ子梨花ちゃん、かぁいいよぅ~!(ぷしっ)』

 

うーん、ヤツの泣き叫ぶ様が目に浮かぶようだよ。

 

……と、駐輪場のほうから圭ちゃんがやってくるのが見える。よしよし、誰も連れてきていないな。

 

「圭ちゃ~ん☆」

 

手を振ったら、圭ちゃんはこっちに気づいてやってくる。

 

うーん、レナとかと暮らしてるせいか、最近の圭ちゃんは以前よりも服装に気を遣ってる感じがあるなぁ。私とのデートだから……ってわけじゃないよね。きっと!

 

でも嬉しいなぁ。

 

「おっす、詩音。ごめんな、待ったか?」

 

こ、これは、デートの待ち合わせの定番会話!?

 

圭ちゃんめぇ、乙女心を揺らすこんな小技を見につけておったか!?……こ、ここは慎重に!

 

「ううん、いま来たとこでづっ!」

 

噛んだァァァアッ!?

 

「うん?」

 

圭ちゃんは気づかなかったらしく、私は口元を押さえながら涙目で首を横に振ってみせた。

 

く、園崎詩音の基本スペックを忘れていたようだね。

 

……完璧なようで詰めが甘い。

 

あと思いこみが激しくて暴走しがちとか、肝心なところでクールになれないとかいろいろあるけど!

 

「んじゃ行こうぜ。遊園地なんて久しぶりだぜ!」

 

促して歩き出す圭ちゃんについて改札を抜けたところで、獲物を狙う鷹の目になる私。

 

その視線の先にあるのはもちろん、圭ちゃんの腕だ。

 

……あれを素早く、さりげなく、両腕で抱きしめてぴったりくっつく恋人モードを実現させる。

 

『お、おい、よせよ……』

 

『いいじゃないですか、今日くらい♪』

 

『しょうがねぇな……ったく』

 

なんて甘い会話と圭ちゃんのぬくもりをゲットするッ!

 

と、突撃せよ園崎詩音ッ!

 

「あ、ジュース買うか?」

 

踏み込んだ瞬間にひょいと圭ちゃんが振り返ったものだから慌てて急ブレーキをかけようとしたものの、急には止まれないほどの素敵な加速がついていた。

 

ごっちん☆

 

という壮絶な音とともに、脳天直撃、突き抜ける衝撃。

 

「ぐは……、い、いきなり頭突きか……!?」

 

思い切り顔面に私の頭を喰らってよろめきながらも私を抱き留めてくれる健気な圭ちゃんだった。

 

「そっ、そそそ、そーですよ! この園崎詩音、油断してたらいつでもお命頂戴ですからッ!」

 

あぁあ、自分が何言ってるかよくわかりません!?

 

「どこの刺客だお前は……ッ!」

 

そう言いながら私をしっかり立たせて、圭ちゃんの片手が一閃する。

 

「え……、ぁぶッ!?」

 

ばちんっとなかなかに強烈なでこぴんが炸裂した。

 

「い、いったぁ~い……うぅう、圭ちゃんひどい!」

 

両手でおでこを押さえて叫ぶと、ぽむと私の頭に手が乗せられた。そのままわしゃっと撫でられて、

 

「らしくねぇな。なにガチガチになってんだ、詩音」

 

けらけらと笑顔で言うものだから、心外だとばかりむくれて口を尖らせてしまう私だった。

 

「……あのな、いいこと教えてやる」

 

そっと耳元に口を寄せる。

 

なんだろう。緊張しないおまじないでも教えてくれるとでもいうのだろうか。

 

「今日の詩音な、すっげー可愛いから安心しとけ」

 

……は、ぃ?

 

「えぇえ、け、圭ちゃん、いま、いまなんて!?」

 

いまなにか、左の耳から右の耳へガンダムのビームライフルの発射音が突き抜けていって、圭ちゃんの言葉がよく聞こえなかったんですけど……ッ!?

 

「くっくっく。二度は言わん! まさに男に二言はない、というやつだな!」

 

かんらかんらと笑うこの男の意地悪さと来たらもう!

 

舞い上がってしまって時が見えそうになってるこの私を、いったいどうするつもりなのさっ!?

 

こ、ここは……困ったときの脳内お姉召喚!

 

『え、おじさん!?……こ、こんな急場に呼ばれても困るけど……どっちかっつーとさ、圭ちゃんは実弾系のほうが好きそうだし、ハイパーバズーカのほうがよくない?』

 

死ぬほどどうでもいいです、お姉!

 

その空気の読めなさがもう最高ですって!

 

世界獲れますよッ!?

 

『そ、そっかな~。そんなに褒められると、照れちゃ』

 

褒めてなぁーいッ!

 

『あるぇ~!?』

 

……ありがとお姉。

 

心のままにツッコミ入れると、人ってこんなにすっきりして気持ちが落ち着くんだね。

 

大好きな魅音をいじめたりツッコミ入れるのは、小さい頃からの私の精神安定剤のようなものなのだ。

 

『酷いリラックス方法もあったものですわー!?』

 

脳内沙都子に逆にツッコミを入れられてしまうけど、気にしないだけの心の余裕を私はもう手に入れていた。

 

「おーい、詩音。もう電車きたぞ」

 

「ふぇっ?」

 

いきなり圭ちゃんに手を掴まれたと思ったら、電車の中へと引っ張り込まれる。圭ちゃんはずいぶん鍛えてきたせいか、その手はとても力強い。

 

思わずきゅんきゅん☆してしまっていたら、圭ちゃんは握っていた私の手をまじまじと見つめていた。

 

「……な、何です?」

 

「いや……すげー小さい手だなって。普段のイメージで誤魔化されてるけど、お前って女の子してるよな、実際」

 

……ひぃ……!

 

当然ながらいくらローカルな路線でも、日曜日のこの時間なら乗客も多少はいるわけで、衆人環視の中で面と向かってしかも真顔でそんなことを言われて、平静でいられるわけがなかった。

 

足の力ががくん、と抜けそうになってしまって、慌てて目の前の圭ちゃんの腕にすがりつく。

 

「ご、ごめんなさい」

 

とっさにそう謝ったら圭ちゃんはなにげない笑みで、

 

「いいって、詩音は軽いからな」

 

な……ッ、なにこの人!?

 

さっきから何度私を悩殺してるわけ!?

 

「詩音、さっきから真っ赤だぞ?」

 

しかもたぶん自覚ないし!

 

圭ちゃんを悩殺できるかどうかよりも、今日一日、私のかよわい心臓がもつかどうかが不安になってきた……。

 

『ところでビームってなんでピンク色なんだろうね?』

 

お姉は黙っててッ!?

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