ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第72話 最後まで笑ってる

カーテンを引く音と歓声で目が覚めた。

 

「うぉおおおおッ!?」

 

窓のそばに立つ圭一が叫び、あろうことか窓を開ける。

 

寒風が吹き込むのも構わず身を乗り出した。全裸で。

 

「すっげええええええ!?」

 

その嬉しげな叫びは、窓の外でしんしんと降り積もる雪に吸い込まれてゆく。

 

「圭一……、さ、寒いのです。窓を閉めてください」

 

お布団を引き寄せて、全身をガードするのだけれど圭一は容赦というものを知らなかった。

 

「でも見ろよ羽入、すっげー積もってるんだぜ!」

 

「あぅあぅ、だから寒いと言ってるのですよー!」

 

というか、見ているだけで寒い。

 

冬の朝っぱらから窓を全開にしてなぜ全裸なのでしょう、この人は。……はッ!?

 

「あぅ……ななな、何故僕も全裸なのですか!?」

 

お布団の下で何も着ていない自分を認識しつつ視線を左右に走らせると、二人分の脱ぎ散らかされたパジャマや肌着が畳の上に散らかっていた。

 

「そんなことはこの際どうでもいい!」

 

「よくないです!?」

 

「ええい、やかましいやつだな。この俺の興奮をすこしはわかりやがれ地元産の雛見沢っ子めぇぇぇ!?」

 

言うなり圭一は、鮮やかなステップを踏みながら肌着やシャツを蹴り上げ、何をどうしたのかよくわからない早業で着込んでいく。そしてワイシャツを着込みさっと指を滑らせただけでボタンが全てはまり、さらにトレーナーを身につけると壁にかかっていた学生服を2秒で着込み振り向いた。ばっと投げ上げられ、天井近くで広がった通学用のコートに万歳をするみたいにして腕を通す。

 

全裸からここまで、わずか15秒フラット。

 

世界には無駄な特技もあったものだと認識せざるを得ないけれど、よく特撮物に出てくるヒーローたちもきっとこういう変態的な早着替えを突き詰めていった結果あんなことができるようになったに違いないと確信してしまう。

 

つまり圭一は、ヒーロー候補生!?

 

……実にイヤな正義の味方がここに誕生なのです。

 

「いいからほら、見てみろって。全裸で!」

 

「全裸はイヤなのです!」

 

「朝から我が儘羽入で俺を萌え殺そうったって、そうはいかねぇぜ! 昨夜の二人の桃源郷の記憶が、俺をどこまでも強くするぜぇぇぇッ!」

 

「あぅあぅあぅ、なにかいま聞き捨てならないことを言われてしまった気がするのですよ!」

 

お布団で防備を固めるのだけれど、圭一はハイテンションのままでお布団の間から手を差し入れて、じたばたともがく僕に30秒ほどで肌着やパジャマを全て身につけさせて安息の地から引きずり出してしまう。

 

「さ~む~い~の~に~ぃ……あぅぅぅ」

 

圭一に抱きしめられながら窓際に連れてこられる。

 

「すげーぞ、おい。これって膝くらいまであるだろ!」

 

「この時期ならこのくらいは普通なのですよ……今年はすこし遅いくらいなのです」

 

はーはーと息を両手にふきかけてこすり合わせる。

 

「今年もお散歩の季節は終わりなのですね……あぅあぅ」

 

圭一と二人で歩く時間が数ヶ月先までもてなくなることをすこし寂しいと思ってしまう。

 

「……というか、雪が降らなくてもそろそろやめる時期だったと思うぞ。昨日は死ぬかと思ったし」

 

言われてみればそのとおりだ。

 

身も凍るような寒さのあまり最後の十分ほどは無言で足早に帰宅し、互いに順番を譲ろうなどという気持ちは全くないままにお風呂場に直行して、並んで湯船に入って始めて生き返ったみたいにやれやれと息をつくことができた。

 

実際去年は11月の半ばくらいには寒くて夜出歩くのはやめていたのだし、一ヶ月近くそれを言い出せなかったのは圭一を独占できる口実を失うのが嫌だっただけだ。

 

「とにかく、登校前に家の前だけでも雪かきをしておかないといけませんのです」

 

ぴしゃりと窓を閉めたら、圭一がきょとんとした。

 

「登校って……なに言ってんだ。この雪で学校があるわけないだろ。常識的に考えて」

 

「あぅ、営林署の建物がこのくらいの雪で潰れるわけないのですよ」

 

互いの言い分がよくわからなくて、じっと見つめ合う。

 

「……いや、臨時休校にならないのか?」

 

「? 別にお風邪ははやってなかったと思いますが」

 

この時期だから一人か二人はさすがに体調を崩しているが学級閉鎖になるほどではまったくない。

 

「じゃなくてさ、こんな降ったら学校に行けないだろ?」

 

それでようやく、圭一の勘違いがわかった。

 

「圭一、さっき僕がなんと言ったか覚えてますか?」

 

「……へ?」

 

ぽかんとする圭一だった。

 

「この時期ならこのくらいは普通なのです。この程度雪が降っただけで学校がお休みになったら、三学期なんてなくなってしまうのですよ」

 

「……マジ?」

 

「マジなのです」

 

僕は頭を抱えている圭一を残していったんお部屋に戻り、まだ寝こけていた梨花の枕を蹴飛ばして起こす。

 

「梨花、起きるのです。雪かきにいくのですよ」

 

「みー……羽入と圭一におまかせです」

 

お布団をかぶってごろんと丸くなってしまう梨花。

 

「では、次に降ったときは梨花一人でお願いしますです」

 

にこやかにそう言ってみたら、むっくり起きあがった。

 

「……ごめんなさいお姉さま、私も手伝わせてください」

 

僕と梨花は防寒用の服装に着替えて耳当てや手袋も完全武装した状態で部屋を出た。途中で軽く顔だけ洗っておいた。キッチンでは当番のレナがすでに朝ご飯の支度とお弁当の準備を始めている。

 

「レナ、雪かきをしてきますのです!」

 

「うん、さっき玄関の出口だけはかいておいたよ。ちょっと大変だけど、別荘地の出口までの道だけは作らないといけないよね。頑張ってね!」

 

「めんどくさいわねー……ふぁあ」

 

毛糸の帽子をかぶった梨花が大きく伸びをする背中を押して玄関に向かうと、すでに登校装備の圭一が待っていた。

 

「おはよ、圭一」

 

「おう、おはよ。……なんだ、二人とも。スキーにでも行くみたいな格好だな」

 

「今日程度の降りじゃここまではいらないかもしれないけどね……やだやだ、めんどくさい」

 

ぶちぶちと文句を言いながら長靴に履き替える。

 

玄関は早起きのレナがなんとかしておいてくれたらしくてあっさりと開いた。

 

「……道ってどこだっけ」

 

開口一番、圭一がそう呟くのも無理はない。

 

なにしろこの別荘地区画にあるのはこの前原屋敷ただ一軒のみで、そこかしこに点在するまだ買い手のみつからない敷地だけ。道端にはいくつか雑木林があるものの、基本的には道もそれ以外も雪に埋まってしまえば見分けがつかない状態だった。

 

「さぁ、学校に遅れるわけにはいきませんのです。始めるのですよ。梨花、圭一」

 

いつ積もっても大丈夫なように防災倉庫から運び込んであったスノーカートやスコップなどをガレージから出す。

 

「うお……本格的にやるんだな」

 

「圭一、積もった雪ははやめにかいておかないと、また埋まってしまって余計に苦労するはめになるのです。普段生活のために使う道は徹底的にかいておくのがコツです」

 

「な、なるほど……言われてみればそうだな」

 

梨花はちらりと前原屋敷を見上げて、

 

「こないだ来た伊知郎の話じゃ耐雪設計はしっかりしてるっていうから、屋根の雪下ろしは先でもよさそうね。どうせなら融雪もやってくれるといいのに」

 

「梨花、そこまでは贅沢なのですよ」

 

それからは圭一に雪を扱うためのアドバイスをしながら、三人でせっせと雪かきをすすめていく。厚着の下で身体が汗ばむけれど、これは毎年の冬のことなので仕方がない。

 

夏の間避暑生活をするために存在する別荘地だから仕方ないけれど、家の前から道に出るのに、だいぶ時間がかかってしまった。

 

基本的に雛見沢の家が道路に面するように建てられているのは、そのあたりの都合があるのだといまさら思い知る。

 

「おぉ~、やっとるねぇ!」

 

と、声をかけられてみれば別荘地の入り口に数人の村人が雪かきの道具をもって集まっていた。

 

「羽入様、梨花ちゃん、圭一さん! 子供ばっかりで大変じゃったろう、遅れてすまんねぇ!」

 

「その場所まではワシらがやるからの、はやく学校に行く支度をしておいで!」

 

大きく声を張り上げてそう言ってくれる皆に、大きく手を振り返す。

 

「ありがとうございますです!」

 

「お言葉に甘えましょ、圭一」

 

「お、おう……。ありがとう、みんなー!」

 

圭一も手を振って叫ぶ。

 

「お礼なら、魅音ちゃんに言ってぇな。公民館の雪かきに集まった皆に、ここも頼むゆぅてなぁ」

 

なるほど。前原家の敷地の中はともかく、別荘地区画の道路は園崎家の私有地にあたる。村の発展のためにと園崎家が私財を投じて別荘地を整備したのだから、みんなに協力を仰ぐ理由が立ったというわけか。

 

「わかった! でもありがとなぁー!」

 

元気な圭一もさすがに慣れない作業で疲れたのだろう、そう言ってもう一度手を振ると、素直に道具を抱えて僕たちと一緒に前原屋敷に戻った。

 

明日の朝引っ張り出さなくてもいいように、玄関前のポーチに雪かき用具は集めて置いておくことにする。

 

雪を払い落として家の中に戻ると、温かくていい匂いが漂ってくる。

 

「みんな、ごくろうさま☆ 着替え出しておいたよ~!」

 

エプロン姿のレナがキッチンから顔を出してそう言った。

 

こういうとき、家族の存在というのはありがたいものだと実感する。去年なら梨花とふたりで戻るのは、寒々とした誰もいない部屋だったのだから。

 

「ひー、そういや汗だくだぜ!」

 

甘く見ていたのだろう、圭一はせっかく着た学生服を全部脱いで肌着を変えなくてはいけなかった。

 

僕たちも学校へいくための支度を整えて食卓につく。

 

「いただきまーす!」

 

みんなで食卓につき登校時間を気にしながら箸を動かす。

 

「小さい頃はレナもこっちにいたけど、こんなに降ったんだね~。びっくりしちゃった」

 

そういえばレナが村を離れたのは小学校にあがる前だ。

 

その頃ではさすがに戦力にならなかっただろうし、レナもこの冬が雛見沢での雪かき初体験になるのかもしれない。

 

「ああ、なんかみんなが雪が降ると大変だって言ってた意味がわかった気がするぜ。東京じゃたまに降れば学校は休みになるし、この半分でも積もれば雪合戦に雪だるま、楽しいことだらけだったもんなぁ!」

 

「ま、雛見沢でだって雪合戦とかの遊びはするけどね。冬の雛見沢では雪かきや雪下ろしは生活の一部だもの」

 

梨花がため息でもつきそうな顔で言うので、僕もお味噌汁をすすりながらうんうんとうなずく。

 

「東京の雪なんて滑って転ぶ程度の話でさ、一日もすれば融けちまうから平気だったけど、ここは違うんだよなぁ」

 

なるほど、めったに降らない東京では、翌日以降のことを考えなくていいからそんなに毎日雪かきをする必要がないというわけか。生まれたときからこの村で生活してきた僕や梨花にとっては、そちらのほうが実感の沸かない話だ。

 

「ほんとだね。レナたち、羽入ちゃんと梨花ちゃんが一緒に暮らしててくれてよかったよ!」

 

確かに、作業の最初の頃の圭一のへっぴり腰を見ていると伊知郎たちとここに暮らしていたら圭一の最初の冬はきっと苦労していただろうな、と感慨深く思う。

 

「お役に立てて嬉しいのですよ、あぅ☆」

 

「ふふふ……圭一にはいっぺんこの冬の雛見沢を味わわせたいとずぅっと前から思ってたのよね。こんな形でそれが叶うなんて、喜ばしい限りだわ」

 

くすくすと笑う梨花は、例によって謎の発言をしていた。

 

朝食を終えて、僕たちは全員で家を出る。

 

比較的積もった量が少なかったので大人が数人がかりならすぐ終わったらしく、前原屋敷の敷地前から別荘地の出口まではもう完全に踏み固められた道ができていた。雪の上に残る轍を見ると、農作業用の機械を改造した除雪車もきてくれたらしいことがわかった。あれはかいた雪を左右に無遠慮に吹き飛ばす仕組みなので、使ってるときに近くにいると大変なことになる。

 

その仕業でもあるのだろう、ほかに人家がないのを良いことに、道の両側に雪が積み上げられていた。

 

「この短時間でこんなにしちまうんだな、すっげーな!」

 

今朝から圭一はことあるごとに感動しっぱなしだ。

 

「うん、びっくりだね。だね!」

 

レナもこれだけの量の雪を見るのは久しぶりだからなのかやけに上機嫌な気がする。雪の量が生活に直結することを実感している僕と梨花は見れば見るほど憂鬱になるのだけれど、これは育った場所の違いというものだ。

 

「おっはよ! どうよ、圭ちゃん。雪かき初体験はさ!」

 

ほうぼうで雪かきをしている大人たちに挨拶しながら待ち合わせ場所に向かうと、立っていた魅音は明るく笑って圭一の腰をばしんとどついた。

 

「って、よせよ! ったく……あ、そうだ。みんなが家の前の道かいてくれてさ。魅音に言われたって。サンキュ」

 

圭一に撫でられてほわんとなりかかる魅音だったけど、すぐに気を持ち直し腰に手を当てた。

 

「ま、この園崎魅音さんにしてみれば、村のみんなを指先ひとつで動かすなんて朝飯前だからねぇー!」

 

あっはっはと笑ってみせた。

 

「羽入や圭ちゃんのいる家だってのも大きいけどね」

 

僕は相変わらず村の皆に崇められているし、圭一も別の意味でみんなの尊敬を集めているから、それは確かにあるのかもしれない。

 

「それで魅音、当然今日の部活は雪合戦だよなあ!?」

 

拳を握りしめてわくわくした表情で言う圭一を見ているとどこにでもいる普通の中学生にしか見えないのだけれど、この村にとってはそうじゃないんだな、と息をつく。

 

「くっくっく……朝から待ちきれないって顔だね? でも放課後になったらその顔がどんな泣きっ面になるか、私ゃ今から楽しみでしょうがないよ~!?」

 

今だって本音だけを見るなら圭一は普通の子供に過ぎなくて、その余計な責任や期待を投げ出してしまいたくなるときはあるに違いない。

 

「ちぃ、相変わらずドSな奴だぜ……だがこの俺がそんな脅しでビビると思ったら大間違いだぜぇ、おい!」

 

彼がそうしないのは、僕たちがいるからだ。

 

本当の圭一を多かれ少なかれ理解していながら、それでも圭一を慕い、そばを離れようとしない僕たちがいる限り、彼は英雄であることをやめないに違いない。

 

それがどんなに心強く……同時に心配であることか。

 

「おはよう、みんな!」

 

「おはようございますわ! よく積もりましたわね~!」

 

学校の前で沙都子や悟史と合流する。さすがにメイド服では歩きにくいからだろうか、悟史も学生服の上からコートを着ていた。

 

「おっはよぅ! 沙都子ちゃん、雪かき大丈夫だった?」

 

「そうね。悟史はたよりないし、鷹野だって女手だもの、結構たいへんだったんじゃない?」

 

レナと梨花が沙都子を心配して声をかける。

 

悟史は不服そうに、

 

「むぅ……僕ってそんなにたよりないかな」

 

とぼやいているけど魅音がその肩をぽんと叩いて、

 

「悟史さ、自覚ないんだとしたら凄いことだよ?」

 

などと言うものだからショックを受けている様子だ。

 

「ほっほほほ、大丈夫ですわ! ありがたいことに、同じように心配した近所の皆さんが総出でやってきてくださいまして……去年の冬が嘘のようですわよ!」

 

あの叔父や叔母がそんな面倒ごとを悟史と沙都子に押しつけないわけがなく、当然ながら村の者たちとて手伝ってくれるどころか道からどかせた雪をわざわざ北条家の前に積み上げるくらいの意地の悪いことはしていたらしい。

 

去年の冬の悟史はいつも1時間も2時間も遅刻してくるのが常で、沙都子は沙都子で心身の疲労がたたって診療所でお休みという日が多かった。

 

そんな悪夢のような冬に比べれば、どんなに寒くても……沙都子にとって、いまの雛見沢の冬は暖かくて過ごしやすい場所になっているのだろうと思えて嬉しくなる。

 

この雛見沢の好ましい変化をもたらしてくれた張本人が、僕たちの圭一だということはとても誇らしい。

 

だからこそ……彼が潰れてしまわないように、そばで支えてあげることは僕たちに託された大切な仕事なのだ。

 

「……というわけで、先生のところは街だったので雪かきもそんなに大変じゃありませんでしたけど、ほどよく運動したあとのカレーは美味しかったですね」

 

朝の会で教壇に立つのは、ほんのりと頬を染めて言う知恵だった。興宮からの山道がとんでもないことになっているのは予想ずみだったので、普段は車で通勤しているというのに2時間以上もはやく家を出て歩いてここまで歩いてきたのだという。朝ご飯は着いてからすませたらしい。

 

あぅ……今朝職員室から漂ってきた忌まわしき香りは、そのせいだったのですか。

 

「皆さんは、ちゃんと雪かきのお手伝いはしましたか?」

 

「はーい!」

 

「お手伝いのあとのカレーは美味しかったですか?」

 

「…………」

 

さすがに朝からカレーを食べようという発想のあった家はないらしい。

 

「あぁそれから、前原くんに梨花さん。あなたたちは一ヶ月の間とてもよく頑張りました。カレーの作り方も上手になりましたし、美味しく食べてくれるのがよくわかりました。先生ハナマルあげちゃいます。……ということで今日からはみんなと一緒にお弁当にして構いませんから、もうあんなこと人前でしちゃダメですよ!」

 

そういえばいま僕の隣でにこにこしているレナは、今日は圭一と梨花のお弁当もちゃんと用意していた。僕と同じでふたりの精神が擦り切れてしまわないうちにカレー当番の刑が終わるように祈り、刑期満了予定日を指折り数えていたのだろう。

 

「はい、これからは家で思うさますることにします!」

 

「さすがに人前じゃあれ以上はなかなかできないし!」

 

圭一と梨花がガッツある発言をすると一瞬知恵の目が険しくなったけど、彼女の中でなんらかの計算が働いたらしくすぐに笑顔に戻る。

 

「いいですか、絶対に! バレないようにしてください」

 

……見つからなくて問題にならなければ、自分がカレーを食べられなくなることはないから、あえて黙認することに決めたらしい。

 

できることなら教育者として、あの二人の暴走は止めてほしいのですが……カレーな生活が危機に陥らないとダメということでしょうか。あぅあぅ……。

 

「脳がカレーで満たされることなく耐えきったわ兄者!」

 

「鋼の精神力の賜物ってわけだな。さすがだよな俺ら!」

 

正直、二人ともとっくにカレー中毒にかかっているように思うのですが……いつかはこちら側の世界に戻ってきて欲しいと願う僕なのです。

 

ランチタイムは平和だった。

 

……素晴らしいのはレナの気遣いで、二人のために味の強いカレーコロッケを多めに用意してくれていた。

 

もちろん僕は手を出さなかったし、二人は笑顔で「いやー、弁当はいいなぁ!」「ほんと、お弁当は最高よね!」とか言いながら無意識にそれをいくつも頬張っていた。

 

そう、これはリハビリだ。

 

すぐに断ってしまえば中毒症状が出てカレーを求めてしまうとわかっているから、すこしずつカレーの毒を体内から抜いていこうとする作戦に出たのだ。

 

……レナ。あなたの優しさこそが、僕の希望なのです!

 

そして訪れた放課後。

 

僕たちは登下校用の防寒装備で校舎の外に出ていた。

 

「さぁて、それじゃ……早速始めようか。圭ちゃんやレナがお待ちかねの、両手には降り注ぐかけらを握りしめる感じの……雛見沢流の熱い雪上バトルをね!」

 

もちろん、レナや圭一以外の、雛見沢育ちの僕たちだって楽しみにしていなかったわけじゃない。

 

魅音が拳を突き上げて宣言すると、みんなが口々に歓声をあげていた。

 

「うぉぉおお、絶対に負けねぇぜー!」

 

「レナもね、ちょっぴり本気出すよ!」

 

「ふふん。遊んであげるわ……雪女!」

 

「あぅ、梨花。それは妖怪なのです!」

 

「雪上トラップをお目にかけますわ!」

 

「たよりになるとこを見せてやるよ!」

 

「年甲斐もなくはしゃいじゃうわ……」

 

「……これが、童心ってやつなんだな」

 

「雪と言えばメイドさんですよね!?」

 

「作品を知らずに名前ネタですか~?」

 

……えぇと、どうしてここに富竹、入江、大石まで。

 

「いえ、幻となったとある話で意外と評判のよかった登場シーンを本編でも披露すべく待機していたのですが、場所が校庭だったので、やむなくそのまま合流しました」

 

なんだか恥ずかしげに笑う入江だった。

 

「仕事はいいわけ、ほんとに……?」

 

梨花が呆れきった顔で言う。

 

「あっはっは、今回はちゃんと毎年雛見沢に来ている時期だからね……左遷とか言われる心配はないってわけさ!」

 

それ、気にしてはいたのですね……。

 

「はっはっは、校医としては皆さんが元気にはしゃぎすぎてお風邪を引いてしまわないように気をつけませんとね」

 

あぅ、屁理屈もいいとこなのですよ……。

 

「んっふっふ、警察官としては雪玉に石や針や鉈といった凶器が混入されて傷害事件になる可能性を見逃せません」

 

……いま、沙都子と魅音とレナがぎくりとしたのです。

 

「委員長、そういうことなら担任としてこの私も……日頃危険行為の多い皆さんの指導にあたりたいと思います!」

 

……で、どうして知恵が修道服っぽいものを着て屋根の上に立っているかは聞いてもいいのでしょうか。

 

「ま、まぁ、人数が多い方が楽しいかもね」

 

魅音がしょうがないなぁという顔をしてメンバー外の大人四人の飛び入りを認めることにする。

 

「えーと、そうすると12人か。両チーム6人ずつに分ければちょうどいいな、魅音」

 

圭一がそう言ったら、魅音はにやりと笑った。

 

「逆だよ、逆。……勝負はタッグ戦、二人ずつ六組に分かれてのバトルロイヤル形式ッ!」

 

魅音、それは……、

 

「名付けて……雛見沢雪上デスマッチ部活スペシャル!」

 

……略し方によってはアレなのです!?

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