組み合わせは、くじ引きで決まった。
まず戦力のバランスをとるために、飛び入りの大人四人、圭一&悟史の男子二人と、鷹野を含めた女子六人の二組に分かれる。
それから僕たちがくじを引いて、パートナーが決まる。
「これぞまさしく天の配剤。勝利は我らにありッ!」
「ひゃあ!? な、なんでいきなりメイド服に!?」
入江・魅音のご主人様とメイドコンビ。
「わたくしの華麗なトラップをごらんあそばせッ!」
「沙都子さん、危険な物は全部没収ですからねっ!」
沙都子・知恵の辛口女王様コンビ。
「いやいや、たまにはご主人様ってのもいいなぁ~」
「うふふ、期間限定のメイドですけどお願いします」
大石・鷹野の疑心暗鬼誘発コンビ。
「たよりになるところ、見せてもらおうじゃない!」
「むぅ……いまさら言われても困るけど頑張るよ!」
梨花・悟史のネコミミ属性コンビ。
「あははは、圭一くんとだったら優勝を狙えるね!」
「おうよ、レナとはベストコンビって気がするぜ!」
レナ・圭一の転校生コンビ。
そして……、
「あっはっは。君の勇姿をシャッターチャンスさ!」
「呑気に写真を撮ってる暇はないのですよ富竹!?」
僕は富竹と組むことになった。
できれば圭一とがよかったけど、確立は六分の一なのだから贅沢は言えない。
「いい、戦場は学校の敷地内。ただしあくまでも雪合戦だから、建物の中に隠れたりするのはなしね。それから、道具の利用はアリだけど、人に怪我させるようなのはダメ。当然、武器素手を問わず、直接相手を攻撃したら失格!」
魅音の宣言したルールはごくあたりまえのことで、誰にも異存があるわけはなかった。
「鉈と、殴って気絶させるのはダメなんだね」
……レナ。雪合戦をちゃんと知っているのですか?
「勝利条件は、もちろん自分たち以外のチームの全滅。脱落するのは、パートナー双方が雪玉に当たったとき。片方だけなら二人とも自由に動けるからね!」
なるほど、どちらかが生き残っていれば脱落ではない、というところにこのルールの要がありそうだ。
「羽入ちゃん、僕が君の盾になるよ。絶対に僕のそばを離れないこと。いいね?」
富竹が小声でそう言った。
確かに富竹の体格なら、盾となって僕を守りきるというのがこのルール上は最高の戦術だろう。富竹がどれだけ攻撃を受けても、僕さえ当たらなければいいのだから。
「君は周囲を警戒しながら、なるべく多くの雪玉を作って僕に補給してくれればいい」
僕の運動神経の悪さは部活メンバーのなかでは天下一品なので、へたに動き回って自滅するよりはそのほうがいいかもしれない。適切な作戦だ。
「わかったのです、富竹。僕におまかせなのです」
見れば、それぞれのタッグがパートナー同士で作戦を話し合っている。部活メンバーはもちろん、飛び入りの大人たちもなかなかに油断ならない目の輝きだった。
……唯一、ろくに作戦を打ち合わせる様子もないのは場当たり的なのが流儀の転校生コンビ、レナと圭一だった。
二人とも雪に喜んでいたくらいだから、経験値は低いだろうに余裕の笑顔で「楽しみだな!」「楽しみだね!」などとゲームが始まるのをいまや遅しと待ちかまえている。
「……というわけで!」
入江との相談を終えた魅音が声を上げる。
「真っ先に脱落したタッグの罰ゲームは、職員室で全員のカレーを作ってもらうよ! その上、メイド姿でみんなの給仕のおまけつきッ!」
「まあ☆ 最高です、委員長!」
学校の職員室で勝手に料理を作ると宣言しているのに知恵が大喜びしていいんでしょうか……。
それに僕としては、カレーは嬉しくないのですが……。
「ただし、自分たちの分は福神漬けに塩にぎりだけ。みんながカレーを食べてるのを指くわえて見てるってわけ!」
「なんて地獄! これは負けられなくなりました……!」
「悟史、根性いれて私を守らないと承知しないからね!」
「よーし、レナぁ! 言うまでもないが勝ちにいくぜ!」
カレージャンキー三人組は俄然気合いが入る。
今回は罰ゲームでもいいかもしれませんのです……。
「あ、羽入は逆ね。罰ゲームになったら一皿完食させる。罰ゲームじゃない場合は、塩にぎりを食べてよし!」
「あぅ!? ぜ、絶対に負けられないのですよ!」
慌てた僕の答えを聞いて、魅音は満足そうに笑う。
「それじゃ、合図から30秒後にこの笛を鳴らすから、それがゲーム開始ね! はい、スタート!」
魅音が手を振り下ろすと同時に、僕たちはわっとばらばらに散っていく。
「わ、わ!? 歩けるところが少ないよ!?」
「大丈夫かレナ……って、うわ! 足が埋まったぁー!」
転校生コンビが、早くもスタートダッシュで遅れている。
何年も雛見沢に勤めていた入江や鷹野、知恵もそれなりに雪上の足運びを知っているし、大石も問題はない。
でも東京や茨城で暮らしていた二人に、足首が完全に埋まるほどの深さの雪の中を歩き回るスキルはまだ身体に染み付いていないはずだ。
ちらりと横を見れば、富竹も危なげない足取りだった。
「ははは、僕は雪山も登るし、この時期には毎年野鳥を追ってこのあたりを歩いているからね。慣れたものさ!」
地元の人間ではないとはいえ、山歩きの経験を積んでいる富竹はこの雪になんの苦もなく行動できる逸材らしい。
これは、案外とくじ運がよかったのかもしれない。
僕と富竹は校舎の正面、昇降口の柱の脇に陣取った。
冬の間は風雪よけのトタン板が張られているから、これが逆方向からの壁になってくれる。一方向からの敵に気をつけながら、最初の雪玉を作っておこうという作戦だ。
一つ、二つ……と、作ったところで魅音の笛が鳴った。
「ひぇ!? つべて、つべてーっ!」
校舎の向こうから圭一の悲鳴。まだうまく歩けないところを早速魅音たちに襲いかかられたのかもしれない。
「ほっほほほ、無防備にもほどがありますわね!」
と、沙都子の高笑いがその場に響き渡り、僕と富竹ははっとして顔をあげる。見れば、校舎の壁の一角から、沙都子が顔を覗かせていた。
「そんな場所ではまったく隠れたことにならないということを教えてあげますわよ!」
とん、と沙都子が地面を真新しいスノトレの先で叩くなり薄く積もった雪の間から何本もプラスチック製のパイプが顔を出す。
「一斉砲撃ですわー!」
ぼんぼんぼんぼん、と連続してそのパイプから雪玉が射出されて僕たちのいる一角へと降り注ぐ。
沙都子、いったいいつの間にこんな仕掛けを!?
「羽入ちゃん、伏せて!」
立ち上がった富竹が両手を広げて無数の雪玉を全身に浴びる。一発は顔に命中して、眼鏡が濡れてしまう。
それを拭う隙を、沙都子たちは見逃さなかった。
「貰ったッ!」
白い雪の上に黒い影が走る。
思わず見上げると、そこに修道服の知恵が雪玉を両手の指の間に挟んだ姿勢で宙を跳んでいた。
「上からだとッ!?」
知恵、生徒に危ないことはするなと注意するくせに自分は雪の積もった屋根の上を移動するというのは教育者として考えものだと思うのですよ!
知恵が雪玉を放った瞬間、富竹が着ていた上着をまるで闘牛のマントのように振るって僕を覆い隠す。
「なッ!?……なかなかやりますね!」
空中で身体をくるりとひねって着地する知恵めがけ、富竹はさっき作っておいた雪玉を素早く投げつける。
「無駄です!」
鮮やかなステップでそれをかわした知恵は、空中でさかさまになりながら手を振るって雪をひとすくい、そして着地と同時にそれをぎゅっと固めて僕めがけて低い軌道で放ってくる。
「おっと!」
富竹は僕を抱えて跳び、足にその雪玉を受けながらも窮地を脱する。その場を離れるついでとばかり、僕の手渡した雪玉を沙都子へとバックハンドで投げつけていた。
「きゃ!?」
予想外の鋭い一撃に、一歩も動けない沙都子。
でもそれは知恵の投げた雪玉が横から撃墜していた。
「ひとまず態勢を立て直そう、羽入ちゃん!」
残念そうにするわけでもなく、富竹は校舎裏へと逃げ込み僕を地面に下ろす。
「知恵先生があれほどの体術の持ち主だとは思わなかったな……これは、油断ならない相手がいたものだ」
「前から常識の通じない先生だとは思っていましたが、あれほどとは知らなかったのですよ!」
せっせと雪玉を作りながら文句を言う僕たちだ。
「おぉ~っと、こりゃあ飛んで火に入るなんとやらだ」
その声とともに、強い雪玉が僕たちのいる場所へと叩きつけられる。
「真ん中に逃げ込んでくるなんて、ツイてない奴らね!」
逆サイドからも雪玉が飛んでくる。
「くっ、これはまずいところに来てしまったか!?」
体育倉庫の陰に、大石と鷹野。
そしてグラウンド側の校舎の陰には、梨花と悟史。
二チームが睨み合いをしていたところへうかうかと足を踏み入れてしまったらしい。
「さすがに二方向では防げない……羽入ちゃん、ここは逃げるしかない!」
僕は富竹の陰に入るように気をつけながら壁を離れ、両者の中間という最悪のエリアから脱出しようとする。
「あぅ!?」
でもここで僕の天性の運動神経のなさが物を言った。
地元生まれのくせに雪に足をとられて、積もった雪の中に頭から突っ込んでしまう。
「……あぅう」
「!……羽入ちゃん、そのまま!」
富竹の声がして、僕は起きあがろうとするのを止めた。
その間に何度か雪玉が風を切る音が頭上を飛び交い、
「うわっ!」
「なんと!?」
悟史と大石の悲鳴が聞こえた。
おそるおそる顔を上げて左右を見れば、攻撃していた両チームがアタッカーに命中されていったん物陰に隠れようとしているところだ。
「あぅ……凄いのです富竹、百発百中なのです!」
「止まってる的にあてるなんて、そう難しくはないよ。なにしろ僕は……あーその、シャッターチャンスを常に狙うカメラマンだからねぇ!」
富竹が入江機関の関係者であることは知っているけどその職務は監査役で、富竹自身が本来何をする人なのかはよく知らなかった。
……なにか、そういう特技をもっているのかもしれない。
「羽入ちゃん、ここは攻めるよ。ちょっと可哀想だけど、梨花ちゃんに当てれば、片方が空く!」
「わかったのです! 梨花はちょっと頭を冷やすがよいのですよ!」
僕はすこしだけ身体を浮かせて、濡れてしまった身体の全面から雪を払い落とすと、手早く雪玉を作っていく。
富竹もすくった雪で作った雪玉で体育倉庫へと断続的に雪玉をぶつけていた。
「制圧射撃ってやつさ。大石さんと鷹野さんをあの場所に張り付けて、本命の向こう側を突破する。羽入ちゃん、雪玉ができたら僕に。それから、背中に乗って!」
「はいです!」
作った雪玉は5つ、富竹は十分だといって抱えると、自分で持っていた雪玉を体育倉庫に強く投げつけて壁を高く鳴らし、その場にしゃがみこんだ。
僕は急いでその背中に登り、首に腕をまわす。富竹はそれで十分とばかりに立ち上がり、背中に僕を張り付けたまま雪を蹴散らしながら機関車のごとく、校舎の陰に向かって突進する!
「うおおおおおおお!」
「うぇ!?」
その場に隠れていた悟史と梨花が慌てふためいて立ち上がりつつ、悟史は持っていた雪玉を投げてくる、が。
真正面から当たったところで、僕にさえ当たらなければその雪玉は全くの無力! 富竹は微塵も意に介さず突っ込みながら、片手で悟史の顔面に雪玉を狂いなく命中させた。
そして悟史を見捨てて校庭のほうへ逃げようとした梨花の背中に次の一弾を放つ。
「なんの!」
と、至近距離にいた悟史が顔の雪をぬぐいもせずにその雪玉を、片手で振り回した金属バットで打ち砕いていた。
怪我をさせるような道具は禁止、だったはずだけど……直接攻撃せずに防御に遣うならアリでいいんだろうか。
「やるな、サニー!」
「トミーこそ!」
笑顔を交わしつつも、互いに梨花のもとへと走る。
富竹は撃墜するために、悟史はその身を盾とするために。
「はぅー!」
そこへ降ってきたのは、……雪玉?
いや、雪だるま!?
そうとしか表現できないものが、悟史の顔面、続いて富竹の顔面に叩きつけられて二人が走る勢いを失う。
僕は慌てて富竹の背中から飛び降りた。
悟史は頭部を雪だるまに包まれたまま雪の中に倒れ伏し、富竹はよろめきながらもそれを払い落とした。
「くっ、なんだいまのは……!?」
「レナです、富竹! レナは……雪だるまを大量に!」
敷地の隅、土管がいくつも置いてある場所を陣取った圭一とレナのペア、そのまわりには誰も踏みこんでいないために大量に余っていた雪を利用して無数の雪だるまが積み上げられていた。
「くっ……相変わらず常識じゃ考えられないやつね!」
梨花が文句を言いながら、はぅはぅ言いながら次の雪だるまに手を伸ばそうとしたレナの顔めがけて雪玉を投げつけた。我が妹ながら、なかなかのコントロール……!
でもレナは、
「圭一くんバリヤー!」
隣に倒れていた圭一の首根っこをつかんで盾にし、その攻撃を未然にくい止める。
……な、なにか僕の技をとられてしまった気がする!?
校庭の状況から推理するに……どうやら最初に校庭で圭一が魅音たちのタッグあたりに当てられノックアウトされながらも、レナはあの圭一バリヤーで攻撃を受け止めつつあの場まで撤退、恐るべき速度で雪だるまを量産して爆撃したために、入江と魅音は撤退せざるをえなかったらしい。
「はぅ~☆ レナと圭一くんの愛の城は、誰にも突破できないんだよ~! ね、圭一くん」
呼びかけるけど、明らかに圭一は全身に雪玉を浴びた寒さで朦朧としていて応えられないようだ。
「『おうレナ、お前と俺は絶対無敵カップルだぜー!』」
いま明らかに腹話術だったー!?
「はぅ~☆ 圭一くん、カップルだなんてそんなぁ~☆」
自分で言って萌えまくってかぁいいモードになってる!?
これは……まさに無敵のレナトーチカ!?
「馬鹿な、こんなの……ありえないッ!」
富竹が素早く2発を時間差で投げる。
「圭一くんバリヤー! はぅー!」
一発を圭一で受け止め、もう片方の手で普通の雪玉とかわらない勢いで雪だるまを投げて、空中で残りの一発を迎撃してしまう。そのまま飛んできた雪だるまを、僕と富竹は悲鳴をあげてよけるしかなかった。
……言っておくが、レナの雪だるまは大小の雪玉をつなげたようなものじゃなく、そのひとつひとつが僕の背の半分ほどもある、あとはデコレーションすれば完璧というレベルの代物だ。
あんなものを軽々と投げるレナのお召し上がりパワーの恐ろしさ、改めて実感するしかない。
「くっ……ならこれでどうだ、富竹フラッシュ!」
富竹がどこに隠し持っていたのかカメラのフラッシュを焚いてレナの目をくらました。
「はぅ!?」
網膜に光が焼き付いてレナが目を細める、その隙に富竹は鋭い一撃を放つ。
「圭一くんボンバー!」
目が見えないままのレナがとった選択は、圭一という盾を富竹のほうに投げつけて、防御面積を大きくすることだった。その狙いどおりに、レナを狙った富竹の雪玉は投げつけられた圭一の胸に阻まれてしまう。
……でも。
ばしゃ、とレナの顔を雪玉が襲い、打ち倒す。
「悪いわね、レナ。漁夫の利ってやつよ」
そう、富竹からの攻撃は防げても、方向違いの梨花からの攻撃は防げない。
「はぅ~……☆」
レナは圭一の上に折り重なるように倒れて、幸せそうにノックアウトしていた。
「……それじゃ、私も身を隠」
「えい」
ばし、と梨花の顔面を僕の数十センチ先から投げた雪玉が直撃する。僕と富竹という敵が目の前にいるのに、呑気に構えているなど不用心に過ぎる。というか、アホだ。
「……羽入、やってくれるじゃないの!」
ぎろりと睨まれて、思わず身がすくんでしまう。
「あぅ、あぅあぅ……その、これは部活なのです梨花。非情の掟の前には、姉妹の絆も脆いものなのですよ!」
「……ふぇ、ぐす、うぇぇぇぇ!」
いきなり泣き出す梨花に僕が慌てる。
「あぅあぅ、ど、どうしたのですか梨花!?」
「お姉ちゃんがいじめたぁぁぁぁ!」
そんな泣き方しないです梨花はッ!?
と思っていたら、いきなり雨霰とばかり(雪だけど)雪玉がその場に降り注ぎ、そのうちのひとつが僕の背中に命中する。その途端、梨花が泣き真似をやめてにぱ~☆と笑顔を見せた。
「……非情の掟よね☆」
「あっはっは、こりゃどうやら私たちの勝ちみたいね!」
メイド服の魅音が校舎の軒下の雪の中から顔を出す。
魅音め、沙都子の落とし穴を利用して姿を隠していたのか……それでルールを言い出すときに『建物の中に』隠れるのはなしだと言ったらしい。
そしていま雨霰と雪玉を投げつけてきたのは、その隣でぐるぐると目を回している入江らしかった。
「こ、こここ、この入江京介の、だだだ大回転あっさーしーんの前に、ひざまづいてメイドとなりなさい~!」
……回転しながら雪玉を投げつけるのは、とんでもなく無駄なアクションだと思うのですが、そのあっさーしーんというのはなんなのでしょう。
「さぁて、残敵掃討といきますか監督」
落とし穴から魅音が出てきて、敗残者たる僕たちに不敵な笑みを残してその場から立ち去ろうとした瞬間、
「ぶわぷっ!?」
「うわぉっ!?」
どさどさと屋根に積もっていた雪が二人の頭上から滑落してきて、その場に打ち倒す。
見れば……というか、僕も梨花も富竹もさっきから気づいていたが、屋根の上には知恵がいて、雪を落とすタイミングを計っていたのだ。
そこへ悠々とやってきた沙都子が、ぺちぺちと一発ずつ魅音と入江に雪玉をぶつけて片手を突き上げる。
「びくとりぃ☆なのですわー!」
「まさにカレークィーンの名に相応しき勝利です!」
言いながら知恵が飛び降りてくる。
……ホントにとんでもない教師がいたものなのです。
「やれやれ、参りましたねぇ……」
「びしょびしょですわ……皆さん、風邪をひかないように着替えをしませんと」
校舎裏から頭を抱えた大石と鷹野もやってくる。
どうやらこの二人は僕と富竹を追ってあの場に現れた知恵と沙都子のコンビにやられたらしい。
優勝者は結局知恵と沙都子に決まり、僕たちは校舎の中で男女分かれて着替えをすませてからストーブの効いた教室で歓談し、メイド姿のレナと圭一が運んできたあたたかい食事にありつくことになった。
「く、くっそ~、俺もカレー喰いたいぜ……!」
「圭一くん、レナとおにぎり食べよ、ね☆」
カレー中毒のリハビリという意味では、この結果は圭一には良かったのかも知れないと思う僕だった。
「んふ☆ おいし」
……僕の妹も、はやめに取り戻してあげたいところだ。
僕以外の皆はみんな楽しげにカレーを頬張っている。
「知恵先生のカレー熱を煽ったのが敗因かねぇ……」
「レナの戦力を過小評価しすぎたんだよ、魅音は」
「な、なんでカボチャが具に入ってるんですの!?」
大人組も、顔を綻ばせて手作りカレーにありついている。
「はぁ~、僕も結構、活躍したんですけどね……」
「語り手のいないところじゃダメですよぅ、先生」
「あはは、その点僕は今回いいところを見せたよ!」
「本当ね、ジロウさん。さすが……いえなんでも」
こんなにみんなが楽しそうに美味しそうに食べているとなんだか僕のおにぎりが味気なく思えてくるから不思議だ。
「羽入ちゃん」
レナの声に顔をあげる。
「あのね、実は甘口もひとりぶんだけ作ってみたの。せっかく勝ったのに、罰ゲームのレナたちと同じじゃ可哀想かなって思ったから」
そこにはとても優しいメイドさんのレナが笑っていた。
「……あぅ。お願いしますです」
レナが頷いて、僕の前にカレーのお皿を用意してくれる。
「いただきますです」
そのカレーはこの冬の寒さなんか噴き飛ばすくらいにとても優しくて暖かい、……レナの笑顔みたいな味がした。
「ほ~ら、羽入。俺からもプレゼ……ひッ!?」
唐辛子をもって僕の皿に放り込もうとしていた圭一の目の数ミリ先に、カレースプーンを突きつける。
圭一は硬直しながら震え、その場にへたりこんだ。
「そろそろ悪戯してくるころだと思ったのです、あぅ!」
余裕の笑みでそう言って、べーと舌を出してやった。
そこへ知恵が静かな笑みを投げて言った。
「……羽入さん。なかなか筋がいいようです。もしあなたさえよければ、次代のカレークィーンとして鍛えて……」
「力の限り遠慮しますのですッ!?」
前に「ここまでで半分」とあとがきで書いた気がするのですが……実は今回の話がちょうど折り返し地点になります!
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
ここまでの感想や、「ここが好きだった」「ここは気になった」などのご意見・ご感想をいただけると、助かります!
物語はまだまだ続きますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!