ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第7話 メイドが村にやってきた

「そんなの俺が知るか」

 

……はぅ。言われた。

 

放課後、ぐずりながら悟史くんに手を引かれて出ていく沙都子ちゃんを見送ったあとで、帰り支度をしていた前原くんに相談するだけしてみたけど、まさに即答だった。

 

魅ぃちゃんが隣でほーらーみーろー、という顔をしている。

 

「それはそうだけど……せっかくクラスメイトになったんだから、ちょっとくらい一緒に考えてくれてもいいんじゃないかな。かな……」

 

私が食い下がると、前原くんの横で聞いていた梨花ちゃんもうなずいて、

 

「そうです、圭一は頭がいいので、なにかいい考えが浮かぶと思うのです」

 

「学校の勉強とそういうのは関係ないと思うがなぁ……まぁいいや」

 

梨花ちゃんを横目でみてから、ため息まじりに腕組みをして、一応は考える態勢を作ってくれる。……やっぱり、根っから冷たい人というわけではないのかも。

 

……単に梨花ちゃんに弱いだけかもしれないけど。

 

「つっても、俺の考えるようなことはあんたたちだって考えてるんじゃないか?……たとえば、先生や児童相談所には話したんだろ」

 

「まぁね……でも、一応衣食住は与えられてるし、躾だって言われればなかなか強引にはいけないよ。それに、沙都子は……」

 

沙都子ちゃんが今の叔父さんたちに引き取られる前、偽の虐待話をでっちあげて通報してから相談所ではあまりまともにとりあってくれないのだと魅ぃちゃんが事情を明かす。

 

「ふーん……兄妹を家出させるってわけにもいかないだろうし、厄介な話だな」

 

前原くんはまたすこし考えて、

 

「……じゃ、村長さんとかがその叔父夫婦にかけ合えばいいんじゃないか? 立場のある人間がきつく言えば、すこしは自重するだろ」

 

「あぅ……喜一郎は北条家の問題には口を出してくれないと思います」

 

羽入ちゃんが無念そうに口添えする。

 

「え、喜一郎って……昨日の爺さんか?」

 

すこし驚いたように梨花ちゃんのほうを振り向く。

 

「はい。公由喜一郎。正確には雛見沢町会の長ですが、みんなは村長と呼んでるのです」

 

「ひえ~、村長さんのお出迎えだったのかよ。今度ちゃんと挨拶しておかなきゃな」

 

恐縮した様子で首をすくめた前原くんだけど、すぐに不思議そうな顔をする。

 

「でもどうして村長さんが村の中のことに口出しできないんだ?」

 

「それはですね……」

 

羽入ちゃんが、いまの雛見沢における北条家の微妙な立場と、それに関連してダム戦争についての簡単なあらましを説明する。確かに、このあたりを説明しないことにはこの問題の難しさがまったく見えてこない。

 

「それを最初から言ってくれよ……ったく、典型的な悪循環だな」

 

と彼がぼやくのも無理はなかった。

 

ダム戦争を原因に北条家が孤立して、その苛々を募らせた叔父さん夫婦が悟史くんと沙都子ちゃんをストレスのはけ口にしている。そこから二人を助け出そうとすると、北条家が孤立しているから手が届かない。……まさに悪循環。

 

「……いきなり解決ってほうにもっていくのが無理があるのかもな」

 

「そりゃそうだけど、沙都子の精神状態はどんどん悪いほうにいっちゃってるんだよ。悠長に時間をかけていられるなら、あんたなんかに相談してないよ!」

 

苛立った様子で魅ぃちゃんが言うと、前原くんは深々と息をついた。

 

「だから知るかって言ったんだけどな。……逆に考えてみろよ」

 

「はぁ?」

 

かけ算の話を思い出したのか、嫌そうに眉をしかめる。

 

「『時間を作る』んだよ。その沙都子ってのと叔母さんが顔を合わせる時間を減らせれば、その分こっちも考える時間ができるだろ」

 

「でもでも、早く帰らないと叱られるんだよ?」

 

「なら……学校で、部活に入ったってことにすればいいだろ。先生も事情を知ってるんだから、話を合わせてくれるはずだ」

 

「圭一!」

 

目を丸くした梨花ちゃんが前原くんを見る。

 

「な、何だよ……?」

 

「……いえ、なんでもないのです。その、圭一。部活といっても、沙都子はお洋服を汚して帰ると、叔母に叱られてしまってみゃーみゃーなのですよ?」

 

なにか祈るようなまなざしを前原くんに向けてそう言った。

 

「別に汚れるようなことはしなければいいだろ。実際には部活なんてしなくてもいいし、教室で……そうだな、トランプかなにかで遊んでたって、頭を使うゲームなら言い訳にはなるさ」

 

「お、インドア系のゲームだったらおじさんが持ってるよ!」

 

今度は魅ぃちゃんが目を輝かせた。

 

「そっかぁ、悪くないね。ふむふむ、放課後ゲームをして帰る時間を遅らせると同時に、盛り上がって楽しい思いをさせてあげれば沙都子もすこしは元気になるかもしれない。悟史にとっても、息抜きになりそうだね! 悪くないよ、うん!」

 

「そうだね。それで二人がすこしでも楽になれば、次の打つ手を考える時間だってできそうだよ、だよ!」

 

私も同調して、その楽しそうなアイディアに賛同する。

 

これはどちらかといえば消極的な延命策だけど、事態の切迫を肌で感じていた魅ぃちゃんたちは一発逆転の解決策ばかりを模索するあまり行き詰まってしまって、この結論に至れなかった。

 

これは確かに新しい発想の勝利かもしれない。

 

「そうと決まれば、ちょいと煮詰める必要があるね。……やるじゃん、転校生!」

 

魅ぃちゃんがお礼がわりに背中をどんとどついたら、前原くんは不機嫌そうに身をよじって、鞄をつかむと立ち上がった。

 

「まぁ、役に立てたならよかったよ。せいぜい頑張ってくれ」

 

「んん?……あんたは、参加しないの? 部活」

 

不思議そうに尋ねたら、前原くんは心底鬱陶しいという目をして率直に言った。

 

「俺はレナと梨花ちゃんが言うから考えただけだ。部活に付き合うとまでは言ってない」

 

「えっ……、い、今、レナって」

 

唐突に意外な呼び方をされて、関係のないところに反応してしまう。

 

「は?……そう呼べって言ってなかったか?」

 

あ。

 

……最初の自己紹介のときに、言ったような。でも素直に呼んでくれるとは思ってなかった。

 

「あ、えと……じゃあ、レナも、圭一くんって呼んでもいい?」

 

「別にいいけど……それとこれとは話が別だぜ。部活には参加しない」

 

話が別だというところで梨花ちゃんを見たから、私と梨花ちゃんの両方に釘をさしたのかもしれない。はぅ……。

 

「ちょっと、沙都子や悟史が心配じゃないわけ?」

 

魅ぃちゃんが強い調子で言ったら、深々とため息をついた。

 

「そんなの俺が知るか、だ」

 

二度も言わせるな、とぼやきながら鞄を肩にかけて教室から出ていく。

 

「あぅ、圭一! 待ってください!」

 

ぱたぱたと羽入ちゃんがその後を追いかける。

 

「……みぃ。本当は、圭一も一緒がいいのですが」

 

梨花ちゃんはすこし寂しそうにそう漏らすけど、魅ぃちゃんは笑ってみせた。

 

「いないほうがいいって、あんな奴。ま、アイディア出してくれた借りに免じて、本人が入りたいっていってくれば入れてやるけどさ。あの態度じゃ沙都子を変に刺激するかもしれないし、乗り気じゃない奴を誘っても盛り上がらないからね!」

 

私も圭一くんも一緒のほうがいいと思ったけど、魅ぃちゃんの言う理屈もわかる。

 

「しょうがないよ、梨花ちゃん。圭一くんも村に慣れてきたら、また誘ってみよう?」

 

「……わかったのです。でも、羽入は強制参加させるのです。羽入はあぅあぅでネギしょったカモさんなのです」

 

……そういわれてみると、羽入ちゃんはなにかと要領が悪いから、ゲームとかすると弱そうかも。最初からお姉さんをカモにすることを考えてるなんて、恐ろしい子……!

 

それにしても、圭一くん……。

 

私をレナって呼んだとき、すこし照れたような表情だったな……やっぱり、ホントのところは優しい人のような気がする。梨花ちゃんや羽入ちゃんとも仲良くしてるみたいだし……。

 

「……いいかもしれないね。ありがとう、魅音。おばさんには今日帰ったら話をしてみるよ」

 

翌日には悟史くんに話を通して、私たちの部活は発足した。

 

「なになに、おじさんは我が雛見沢分校の誇る美人委員長として当然のことをだな……」

 

自慢げに胸を張る魅ぃちゃん。

 

「圭一くんが考えてくれたんだよ。だよ!」

 

「へえ……圭一が。今度、お礼を言わないといけないかな」

 

悟史くんがにっこりと微笑む。

 

「……あ、あるぇ~?」

 

最初の活動は土曜日の午後、教室に机を寄せ合ってそれを囲む。

 

「なんだかどきどきしますです、あぅあぅ……」

 

「羽入がどんな負け方をするか楽しみなのです、にぱー☆」

 

楽しげな羽入ちゃんと梨花ちゃん。

 

「にーにー、本当に帰らなくても大丈夫なんですの……?」

 

「大丈夫だよ。昨夜、叔母さんにちゃんと話してあるから」

 

不安そうな沙都子ちゃんを宥める悟史くん。

 

圭一くんは、案の定というか、さっさと帰ってしまった。

 

もちろん初代部長は、クラス委員長でゲームの提供者の魅ぃちゃん。

 

「ま、最初っから難しいゲームもなんだね。ここはわかりやすくジジ抜きで行こうか!」

 

そう言ってトランプを配りながら、にやりとする。

 

「でも、ただ勝った負けたじゃ面白くないよねぇ……ここはひとつ、負けたら罰ゲームっていうのはどう!?」

 

「ば、罰ゲームですの?」

 

ますます不安そうになる沙都子ちゃん。

 

「魅音、あんまりひどい罰ゲームは……」

 

「あっはは、もちろんそんなひどいのや痛いのはなしだよ。まぁ、ビリになってもちょっと恥ずかしいくらいで、みんなで笑えるのがいいね」

 

そう言ってロッカーから引っ張り出してきたのは……エプロンドレス?

 

「じゃーん! 監督が泣いて喜ぶ、メイド服の登場だ☆」

 

なるほど、それは確かに……ほどよく恥ずかしいけど、泣くほどではない。

 

極端なことを言い出しがちな魅ぃちゃんにしては、ナイスな選択かもしれない。

 

「メイドさん、かぁいい~☆ で、でも、負けたらレナが着るのかな……」

 

「にぱ~☆ 沙都子のメイドさんもきっと可愛いのです。見てみたいのですよ」

 

「な、なにか身の危険を感じますわ。これは、負けられませんわね」

 

「むぅ……、魅音。それ、僕が負けた場合はどうなるの?」

 

若干頬を染めながら悟史くんが言う。

 

やっぱり女の子ばかりの中に一人ということもあって、すこし緊張気味だ。

 

「そりゃもちろん、悟史が着るんだよ。安心して、サイズ別に揃えてきたから!」

 

「……それはちっとも安心できないところなのです、あぅあぅ」

 

「さすがに着て帰れとまでは言わないけど、ご主人様って言ってもらったり、ふわりと回ってもらうくらいはするから、覚悟しなよ~、くっくっく!」

 

これも、沙都子ちゃんや悟史くんへの配慮だろう。

 

メイド服なんか着てあの家に帰ったら、どんなに叱られるかわからないし、すぐさま部活をやめさせられるかもしれない。

 

「さぁさぁ、負けられない理由に納得がいったところで始めようか、部活を! 10回やって、負けた回数が一番多かった奴が罰ゲームね!」

 

「ま、負けませんわ~!」

 

「沙都子、その意気なのです☆」

 

……なんていうか、その後のジジ抜きは壮絶の一言だった。

 

メイド服がかかっているだけに、みんな真剣にカードを読み、相手の手の内にジジがありそうなときはまさに心理戦。食うか食われるか、スリリングな攻防が繰り広げられる。

 

大胆不敵な態度でなぜか自滅する魅ぃちゃん。

 

策を張り巡らせて罠で相手を絡め取る美学にこだわる沙都子ちゃん。

 

あくまでもナチュラルに指運だけでカードを引いている様子の悟史くん。

 

抜け目無く人にジジを押しつけてにぱ~☆と笑う梨花ちゃん。

 

あぅあぅと表情に出てしまう要領の悪さを読みの正確さで補う羽入ちゃん。

 

私?

 

……私は、とりあえずポーカーフェイスを見破るのは得意だから、あまりジジは引かなくてすむんだけど、いまひとつ引きが悪くて早上がりできない。ぐずぐずしているうちに一回は負けてしまった。

 

そして最終ゲーム……。

 

「あぅあぅあぅ……ちーん☆ こっちなのです!」

 

ここまで3敗の羽入ちゃんが、同じく3敗の魅ぃちゃんのかざした手札から意を決してカードを引く。手元で裏返したカードを見て、その表情が安堵に輝く。

 

「これであがりなのです!」

 

「あ、あっるぇ~!?」

 

手札にジジを残された魅ぃちゃんが、ぐるぐるときりもみしつつがっくりとカードの山に突っ伏す。

 

「あはは、4敗で魅音が罰ゲームだね」

 

「お~っほほほ、さすが魅音さん、負けっぷりも豪快ですわね!」

 

「はぅ~、魅ぃちゃんのメイドさん☆」

 

「ぐぐぐぐ、こんな馬鹿な……ね、ねぇ、メイドはやっぱり……」

 

青くなって引きつり笑いをするけど、みんなにんまりと笑うだけ。

 

「往生際が悪いのです。ボクたちがお着替えを手伝ってあげますですよ」

 

「なのですなのです。神妙にお縄を頂戴するがよいのです!」

 

「う、うわぁぁあぁぁん! わかったよぅ、自分で着替えるから、やぁめぇてぇ!」

 

記念すべき初罰ゲームの魅ぃちゃんは……なんていうか、凄く……かぁいかった。

 

「ぐすん……く、屈辱です。ご主人様ぁ」

 

お、お、お、お持ち帰りしたいぃい~!

 

ぶちんと頭の中でなにかが切れる音がしたような気がする。

 

「レ、ご主人様、お待ち下さい、落ち着いて、ひゃあぁあ~!?」

 

「はぅ~、メイドさん逃がさないよぅ~!」

 

泣きながら逃げるメイドさんを教室狭しとばかりに追いかけ回す私を見て、梨花ちゃんも羽入ちゃんも悟史くんも、……それに沙都子ちゃんも、笑っていた。

 

見たことがないくらい、子供らしく楽しそうに。

 

こうして賑やかに、笑い合える時間がもっともてたなら……きっと沙都子ちゃんも、少しずつでもいい方向に向かっていけるんじゃないか、って。

 

そう信じられた。

 

……でも。

 

「あ、魅音。実は……頼みがあるんだけどさ」

 

みんなが帰り支度をしている中で、悟史くんが魅ぃちゃんにそう声をかけていた。

 

「ん、何?」

 

「……今度でいいんだけど、アルバイトを紹介してくれないかな」

 

彼はいつものように、穏やかな笑顔で言ったのに。

 

なんでだろう、いやな予感がする。

 

「なに、悟史。お金に困ってるの?」

 

「ちょっと……買いたいものがあるんだよ」

 

みんなで紡ぐかけがえのない日常が、ゆっくりと綻びて、朽ちてゆく……。

 

そんな未来の最初の足音を、聞いたような気がした。

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