ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第81話 アホでもいいと言ってくれ

誤解のないように言っておこう。

 

いくら惨劇の昭和58年6月があと数ヶ月先まで迫っているからと言っても、なにも深刻なことだけ考えて過ごしているわけじゃない。

 

そんなことは思ってもみなかった?

 

……それはそれでムカつくわ。

 

とにかく2月だ。……2月といえば、アレだ。

 

あるでしょ、心ときめく年中行事が!

 

え、節分?

 

……やったわよ。雛見沢式で。

 

鬼の棲む里であるところの雛見沢で『鬼は外』なんてやるわけがなく、当然かけ声は、『鬼は内』になる。もちろん『福も内』ともやるわよ。順番が普通のところと逆な気もするけど気にするな。

 

だったら豆をばらまくだけの平和な行事なのかっていうとそれも違う。雛見沢式だと、鬼かどうかは関係なく(というかまわりがみんな鬼だ)ひたすら人にぶつけるのだ。

 

その場の勢いで集中攻撃が始まり、全身に豆を浴びた者が「参った」と言ったり、転んだりしたらアウト。

 

そうやってどんどん蹴落としていって、その場の半分が脱落したら終わり。

 

脱落者が豆を拾ってきて、脱落してない人間が食べるというわけだ。鬼の世界ってのも厳しいわね。

 

真面目な話、昔の雛見沢は雪に閉ざされていたわけで、豆も大事な食糧だから、みんな目の色変えて他人を脱落させようと必死だったって羽入に聞いたことがあるわ。

 

……ちなみに脱落者はおおかたの予想どおりだと思うけど羽入と圭一と悟史と鷹野。なにかと甘い人間が食い物にされるのは世の常というわけだ。

 

……そういや、鷹野がセーターを払ったら、服の内側からえらく大量に豆がこぼれてきて、圭一と悟史が先を争って拾いにいって激突、親友同士涙で殴り合ったなんてこともあったっけ……。

 

いや、そんな腐った行事はどうでもいい。

 

もっと重要なのがあるでしょうが!

 

2月14日……そう、明日はバレンタインだッ!

 

ここ百年ばかり私にとっては死ぬほどどうでもいいイベントだったが、今年ばかりはわけが違う。

 

なにしろ今年は本命がいる。大本命だ。

 

圭一にチョコを用意せずに、明日が迎えられるものかッ!

 

「……梨花、それでどうして僕のところへ」

 

「あのね、……お姉ちゃん」

 

「お金ならあげませんのです」

 

さくっと言葉の刃が私の額へと突き刺さった。

 

「いつ私が、お金が欲しいと言ったのよ!?」

 

それでもめげない私だったが、

 

「あぅ、顔に書いてありますのですよ。それに梨花が僕をお姉ちゃんなんて呼ぶのは、天変地異で世界の終わりか、それともお金の無心かのどちらかなのです」

 

読まれてる……ッ!

 

羽入のくせに私の行動パターンを読むとは、生意気な。

 

「どうせお小遣いを使い果たして圭一にチョコを買うぶんも手元に残らなかったのですよ。わかりますのです」

 

エスパーがいる!……というかこいつ神様だっけ。

 

それにしても羽入の得意げな顔というのは、なんでこんなにも首を締めたくなる衝動に駆られるのだろう。

 

そもそも、いつもの世界では私は両親が亡くなってからは基本的に自分で財産を管理していた。

 

もちろん大金の入った通帳は公由に預けていたわけだが、それでも沙都子との生活費を捻出している通帳は私の手元にあって、ある程度自由がきく生活だった。

 

なのにこの世界ときたらその役割は羽入に振られており、私はお姉さんの羽入からお小遣いをもらって生活する身である。それも月五百円。一回エンジェルモートに行ってケーキセットを頼んだら足りるかどうか微妙。

 

「だいいちお年玉はどうしたのですか、梨花」

 

羽入がじっとこちらを見つめてくる。

 

「……使っちゃいました」

 

公由とかお魎とか鷹野とか入江とか結構貰ったような気もするんだけど……不思議ね、雪に閉ざされた雛見沢でも、気づかないうちにお金を遣うことはできるらしいわ。

 

「はぁ……梨花。すこしは先のことを考えてお金を遣うということを覚えてほしい姉心なのですよ」

 

深々とため息をつく姉・羽入だった。

 

「……ごめんなさい」

 

さすがに返す言葉もなかった。

 

「でも、羽入! 諦めたくないの、私も圭一にチョコを贈りたい! 私は、お金がないという運命を打ち破る!」

 

立ち上がって叫ぶ私を呆れたまなざしで見る羽入。

 

「……今度は気合いの無駄遣いなのです、あぅあぅ」

 

「羽入、あなたは見たくないの? 私からの本命チョコを貰って狂喜乱舞する圭一を!」

 

「……いえ、特には」

 

真顔で言ったよ、この姉……。

 

「そんな冷たい姉に育てた覚えはないわよ羽入!」

 

「手塩にかけて育てた妹にその台詞を言われるなんてイヤな世の中になったものです……」

 

何故泣く。

 

「ということで羽入、そこになおって一緒に考えなさい。私が圭一にチョコを贈る最善の方法を」

 

「天国の父様母様、梨花はアホだけが取り柄ですけど元気に生きてますのです、あぅあぅあぅ……」

 

だから何故泣く。

 

……というか元気だけが取り柄ならまだしも、アホだけが取り柄って救いようがないんじゃないかしら。

 

「……それで梨花、いくらあるのですか?」

 

お財布を振ってみたら、私のキュートな掌に転がり落ちてきたのは五円玉が1枚と一円玉が二枚、あと埃が少々。

 

「えへ」

 

「……えへ、じゃないのです梨花。末期です」

 

最愛の姉の視線が白かった。

 

「だから無いって言ってるでしょおおお!?」

 

がっくんがっくんと揺さぶってやると羽入はあぅあぅ言いいながら目を回す。

 

「お金が無くても私には圭一へのあふれる愛があるわ!」

 

「あぅあぅあぅ……チョコを買うだけのお金を残しておく程度の愛があったならと思わずにはいられない僕が間違っているのでしょうか……」

 

「それはそれ、これはこれよッ!」

 

腕組みをして断言すればたいていの無理は通せる。

 

世の中ってそんなものだ。

 

「……なにやら説得力を感じてしまいましたが、根拠なくえらそうなのはいつものことなので流すのです」

 

乱れた髪を撫でつけながらスルーしやがった。

 

今日の羽入はなんだか手強くていぢりがいがあるわね。

 

「それで……梨花はお金のかからないどんなプランを用意しているのです?」

 

そりゃあ私だってまったく考え無しというわけじゃない。

 

それなりの計画を練っておくのができる女というものだ。

 

「奪い取る、騙し取る、掠め取る……あたりね」

 

ひっ、と羽入が息を呑む。

 

「犯罪の匂いが……というかその匂いしかしないのです」

 

「ちなみにレナや魅音にこれを仕掛けると私のほうが殺されてしまいかねないので対象は羽入ね、間違いなく」

 

「是非この姉に協力させてくださいです……」

 

物凄く釈然としない表情で協力を申し出てくれるこの姉が私は心の底から大好きだ。絶対調子に乗るから、本人にはとても言えないが。

 

「でも、ここで僕が資金援助をしますと、梨花の気持ちがこもらないチョコになってしまうのですよ」

 

「ふむ……、それはわからなくもないわね」

 

前借りという手もなくはないが、羽入に借りをつくるのは私のプライドが許さない。

 

「……なにか妹が失礼なことを考えているのです」

 

となれば、アレだ。

 

圭一は私と羽入をセットでお持ち帰り対象として見ているらしいので、チョコもセットというのはどうだろう。

 

「流されたのです……。つまり梨花、僕と一緒にチョコを作ろうということなのですね?」

 

「Exactly(そのとおりでございます)」

 

かしこまって頭を下げる私に、羽入はおーまいがっ!と、巫女として以前に神様としてどうなのそれとツッコみたくてもツッコめない微妙なボケをかましながら首を振る。

 

「断言しますが、梨花」

 

放ったのは滅びの言葉だった。

 

「梨花は絶対僕に全部作業をさせるので、僕の気持ちしかこもっていないチョコになってしまうのです、あぅ」

 

思わず息を呑み、次の瞬間その場にくずおれる私。

 

「……盲点だったわ!」

 

羽入のチョコ作りを手伝うと称して同じキッチンにいれば楽でいいやと考えなかったと言ったら嘘になる。

 

間違いなく……羽入の手しか入らず、しかも費用は羽入持ちという、羽入のチョコ一号になってしまう……!

 

「否定するどころかナチュラルにそう考えていたあたりが梨花の恐ろしいところだと思うのです」

 

羽入の指摘もいちいちもっともだった。

 

「そ、そうね。さすがに私も恋する乙女的にアウトぎみな気がしてきたから、反省するわ……」

 

「まだ明確にアウトじゃないと思えるその感性と図々しさを見習うべきかどうか悩んでしまう僕なのです」

 

自分の非を素直に認める私の大人っぽさに惜しみない憧れの視線を向けるお子様な羽入を無視して私は顔を上げる。

 

「なら……もうひとりの姉に相談してみましょう!」

 

「レナなら……レナならなんとかしてくれるのです……」

 

どうしてそんな悲壮な呟きが出るのか理解できないけど、私たちはレナを捜しに部屋を出た。

 

ここにいないとすれば……お、キッチンから甘い香りが!

 

「あぅあぅ、チョコの匂いなのです☆」

 

ほわぁ……と幸せそうな顔になり、スリッパをぱたぱた鳴らしながらキッチンに向かう羽入に私もついていく。

 

ちなみにこんなこともあろうかと圭一は朝方に三人がかりで家から叩き出し、悟史のところへでも行けと申しつけてあるあたり、万事ぬかりない私たち前原家三姉妹だ。

 

「あれれ、どうしたのかな?」

 

「はろろ~ん、お邪魔してるよ」

 

キッチンには詩音もやって来ていた。

 

二人ともエプロン姿がよく似合う。

 

「いらっしゃいませです、魅音。どうしたのですか?」

 

「あっはは、うちの台所はあんまりチョコ作る雰囲気でもないからね。レナにお呼ばれしたから渡りに船ってさ!」

 

ああ、たしかに……だいいち私にとってはあの台所は詩音と何度も渡り合った戦場だったりするので、その場所でお菓子を作るという想像そのものを脳が拒絶する。

 

「お裾分けの醤油入りチョコ? いや血の味がする拷問狂チョコか……五寸釘が入ってるのも捨てがたい」

 

「ちょ、なに物騒なこと言ってんの~?」

 

困ったように口を尖らせる表情は魅音そっくりだ。

 

魅音のヤツほんとどこにいるのかしらね。

 

あの必死で非常識なふりをする常識人に、いまのカオスな雛見沢を見せて『あるぇ~!?』と言わせたくてしょうがない私は仲間思いのいいヤツだと自負している。

 

羽入が進み出て事情を説明した。

 

「実はですね、魅音にレナ。僕のアホな妹に知恵を貸してあげてほしいのです。かくかくしかじかで……」

 

それで通じちゃうのが二次元の便利なところだ。

 

「う~ん、さすがアホ梨花ってとこだね!」

 

「アホアホな梨花ちゃん、かぁいいよぅ☆」

 

あれ、あれ、あれ……?

 

悲しくないのに泣きそう。いつの間にか、私がアホキャラってのは定着してしまっているのね……。

 

「とりあえず、二人の意見を聞いてあげなくもないわ」

 

腕組みをしながら見下ろす。……いや、二人のほうが背が高いので、ひたすらのけぞってるだけだけど。

 

「なんでこの子はこう無駄にえらそうなんだろね」

 

「それも梨花ちゃんのかぁいいところなんだよ☆」

 

笑顔で協力を申し出てくれる素敵な恋敵たちだった。

 

「う~ん……お金がないなら作ればいいんじゃないかな」

 

唇に指をあてて考え込んだレナがぱっと花の咲いたような笑顔でアイディアを提供してくれる。

 

……なるほど、逆転の発想というやつか!

 

「レナ、偽札は結構高度な技術と機材が必要だよ?」

 

「し、魅ぃちゃん、そういう意味じゃないよ!?」

 

「ま、レナがどうしてもって言うんなら園崎組としても協力しないわけじゃないんだけどねぇ~☆」

 

余裕の笑顔でくるくると指を回してみせる詩音。

 

「ち、違うってば! レナが言いたいのは、いまからお金を稼げばいいんじゃないかってことだよ。だよぅ!」

 

「あっはは、わかってるわかってる。冗談だってば!」

 

「もー!」

 

そーか、そーいう意味じゃなかったのか……。

 

そうよね、まじめっ娘のレナが、まさか、ねぇ?

 

「梨花……顔に出てるのです。偽札作りをグッドアイデアだと思ってしまった自分の罪深さを誤魔化そうとしているのが透けて見えるのですよ、あぅあぅあぅ」

 

余計なことを言うんじゃない。泣くぞ。

 

「にしてもさ、梨花ちゃんってなにかお金になるような芸とかもってたっけ。さすがにいまからすぐ、それも小学生に紹介できるバイトってのは私も心当たりないよ?」

 

詩音が当然のことを言う。

 

私はさらりと自慢の黒髪を流して、自信の笑みを投げる。

 

「強いて言うなら……、この美貌かしら」

 

これが少女漫画なら花が咲き乱れているところだ。

 

「梨花はこのとおりお脳がかわいそうな上に無芸大食ですので、てっとりばやくお金を稼ぐとなると身売りをするしかなくなってしまうのです。ほかの方法を考えてあげてほしいのです。あぅあぅあぅ……」

 

なにやら涙目で人の美貌にけちをつける羽入だった。

 

「そうだねぇ……じゃ、今度は発想の転換で!」

 

ぽん、と詩音が手を打った。

 

「バレンタインってさ、もちろん日本じゃチョコ贈るのが定番だけど、別にそれに限った話じゃないんだよ。だからお金のかからないものをプレゼントするってのはどう?」

 

「あ、それいいね。手作りのプレゼントなんか貰ったら、レナならすっごく嬉しいよ!」

 

むむむ。意外に詩音がグッドなアイディアを。

 

「それでいい、それがベスト!」

 

私は即座に新聞にはさまっていた広告の裏を広げてサインペンで私の可憐な文字を連ねていく。

 

「相変わらず梨花は悪筆なのです」

 

お習字の得意な羽入が眉をしかめていた。

 

「……できたわ。これなら圭一もノックアウトね!」

 

「どれどれ……えぇぇぇ?」

 

「『梨花の宿題を手伝い券』『梨花の髪梳かし券』『梨花に膝枕券』『梨花の背中流し券』各10枚綴り……?」

 

な、何故。みんなの目が憐れみに満ちているような……。

 

「こ、ここまで症状が進行していたなんて……くっ!」

 

「一緒に暮らしていたのに、気づけなかった……!」

 

「梨花……僕は梨花がどれほど絶望的なアホになろうと、決して見放したりはなしないのです、あぅあぅ!」

 

え……私、そんなに……!?

 

なにかを間違えてしまったらしいので、このナイスなプレゼントは泣く泣く却下することになった。

 

「ま……アレだね。目のつけどころは良かったけど、いまから何か作るってのも時間的に難しいかもね」

 

「あぅ……かといって、持ち物の少ない梨花が圭一の喜ぶものを持っているとも思えないのです」

 

「こういうのはどうかしら? こう、リボンをつけて……『私をプレゼント』とか!」

 

「梨花ちゃん、それはベタな上に不健全な方向に話が進みそうだからダメだよ。だよ」

 

このお話の健全さなんて、もう机の中や鞄の中を捜しても見つからないのにまだまだ捜す気なのかなレナは。

 

「なんで梨花がそこで踊り出すのかわかりませんが、理解できたらそれはそれで感染拡大なので深くは考えないことにしまして……もうこうなったら、最後の手段なのです」

 

「うん……そうだね」

 

「それしかないか……」

 

あ、あれ?

 

なんだかみんなの目が怖いんだけど……!?

 

「みぃぃぃぃぃぃッ!?」

 

……そして、翌朝。

 

私の手には、小さな小さなチョコレートがひとつ。

 

なんのことはない。

 

あれからみんなは納得行くまで自分のチョコやらケーキやらを作っていたのだが、私は奴隷のようにそれを手伝わされるはめになったのだ。

 

そのお駄賃に、型に入りきらなかった余りぶんのチョコをお裾分けしてもらって、ようやくこれだけ作れたと。

 

う~ん……コレって結局、結果的に『身体で払った』ことになるんじゃないかしら……?

 

まぁいい。

 

私は私なりの覚悟を持って学校の下駄箱の前で悟史や沙都子と一緒に登校してくるはずの圭一を待っていた。

 

「梨花、寒いのです……教室で渡せばいいと思うのです」

 

付き合いのいい羽入はがたがたと震えながら、溶かしてしまいそうな勢いで自分のチョコを胸に抱きしめていた。

 

「ダメ。……あ、来た! けいいちーっ!」

 

ざくざくと雪を踏みしめて、やってくる圭一に手を振る。

 

「おー、梨花、おはよ……」

 

悟史の隣で寒そうに手をあげて挨拶を返してくる圭一めがけて、一目散に走る。

 

鷹野や沙都子が朝っぱらから渡している可能性もある。

 

だからこれを渡すだけでは一番になれない。

 

私は一番が好き、圭一の一番じゃなきゃイヤ!

 

走る速度を緩めずに、そのまま圭一の胸めがけてタックルをかまし押し倒す。

 

「うお、梨花、いきなり何すんだ……ぐっ!?」

 

そしてときめき☆マウントポジションの態勢から、圭一の胸ぐらを掴んで引き起こし、走ってる間に口に含んでおいたちっぽけなチョコを口移しで圭一の口の中へ押し込んでやった。

 

「ぐ、が……っ!」

 

これで……一番だ。

 

圭一が一番最初に食べたのは私のチョコだ!

 

私は、とびっきりの笑顔で圭一に言ってやった。

 

「圭一っ、だいすき!……ってあら?」

 

私の身体の下で圭一は、真っ青になってばたばたともがいていた。

 

「……の、ど、が……っ!」

 

ああ、舌でおもいっきり喉の奥に押し込んだからなぁ。

 

「あぅあぅあぅ、惨劇発生なのです!」

 

ようやく追いついてきた羽入が、泣きながら圭一を抱き起こす。沙都子も慌てた様子で、悟史を引っ張った。

 

「にーにー、圭一さんの背中を叩くのですわ!」

 

「圭一、しっかりするんだ圭一!」

 

悟史の行動は迅速だった。

 

「ぐぇっ!?」

 

背中からどつかれた圭一が吹き飛ぶ。

 

「え、ちょ、悟史!? なんで金属バットで、圭ちゃんの背中をブッ叩いてるのー!?」

 

教室の窓から見ていたらしい詩音が、窓を開けて叫ぶ。

 

「そ、それより魅ぃちゃん、圭一くんが雪の壁に埋まって大変なことにー!?」

 

レナも窓から悲鳴をあげていた。

 

そして、聞こえるのは『恐怖』の足音。

 

その恐ろしさときたら、やわな祟りなんてものじゃない。

 

でも、やるだけのことはやったんだ。

 

だから私に、後悔はない……!

 

「梨花さんっ!」

 

足音ともにやってきた悪夢の使者、知恵に首をひっつかまれて持ち上げられる。

 

「……みー」

 

自分の逃れられぬ運命は知っている。

 

「あなたはあれほど言ったのに、また人前でッ!」

 

そう、覚悟はしていたから……後悔はない。

 

「もう一ヶ月……カレー当番の刑です!」

 

遊んであげる。

 

永遠に終わらないこのカレー色の迷宮を、好きなだけね。

 

 

 

 

 

……やっぱりちょっと後悔。

 

カレーは、カレーはいやぁぁぁぁッ……!

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