ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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昨日の分、投稿忘れてました...なので、今日は三話分投稿します...


第89話 研究終了のお知らせ

「諸君、いよいよ新学期である。厳しい冬を乗り越え、諸君はまたひとつ大きくなった。新学年となったこの機会に大きな志を抱いてほしい!」

 

海江田は、生徒ひとりひとりの顔を見渡す。

 

と、圭一が勢いよく席を蹴って立ち上がった。

 

「校長先生、俺はこの学年のうちに、最低でもレナと羽入と梨花を匂いで区別できるようになりたいと思います!」

 

敢然たる決意表明だった。

 

け、圭一……、そんな意味で違いのわかる男になられても正直困るのですが。

 

「うむ!」

 

海江田も快く頷くのはやめてください。

 

「校長先生、僕は究極生物(アルティメット・シィング)たる至高のメイドを目指して更なる研鑽を重ねます!」

 

これは悟史。

 

「うむ!」

 

続いて新学年の目標を表明する生徒たちに、力強く頷いていく海江田だった。そして、

 

「諸君の熱い志は受け取った!」

 

腕組みして、大音声を教室に響かせる。

 

びりびりと窓が震えていた。

 

「いずれ諸君 が壁にぶつかったなら、初志貫徹、という言葉を思い出してほしい。ぶつかって砕けぬ壁ならば、砕けるまでぶつかり続けよ。抱いた志が強く堅いなら、壁ごときに負けるわけがない。なにものにも屈しないということは、この世のなによりも強いのである。最後に、この言葉を贈ろう……、“漢(をとこ)であれ ”ッ!」

 

「応ぉうッ!」

 

圭一、悟史、梨花らが力強く応えると、海江田は満足そうに教室を去っていった。

 

……相変わらず僕の可愛い妹は漢空間の住人のようです。

 

「いやぁ、今日も熱かったね圭一!」

 

「おう、悟史。漢が目指す場所は遥かに遠く、目指す高みは遥かに高い……初志貫徹か、熱い言葉だぜ!」

 

ぐっと拳を握りしめて瞳に炎を宿し、天井を透かし見るかのように天を仰ぐ圭一が眩しい。

 

「いつの日か、法の壁をブチ貫いてやるぜぇッ!」

 

……いったいどの法ですか、圭一ッ!?

 

梨花も力強く親指を立てると、

 

「悟史も、血という名の壁を砕くといいわ!」

 

「だから実妹ルートは狙ってないよ梨花ちゃん!?」

 

悟史……珍しく昭和58年にたどりついたのに、なにやら不遇な気がするので幸せになってほしいのです。

 

「はぁ……わたくしは新トラップの開発でも目標にすればよろしいのかしら」

 

沙都子がため息混じりに首をかしげる。

 

「沙都子のトラップは現状でもじゅうぶんに強力無比ですので、別の方向に強くあってほしいのですが……」

 

あぅ、そういえば。

 

「例の魅音とのトラップ勝負はどうなったのですか?」

 

なにげなく思いついた疑問を口にしたら、燃えまくっていた圭一と悟史がさっと青ざめた。

 

「くっくっく……沙都子もさらにできるようにはなったけど、あの勝負は誰がみたって私の勝ちだよね……?」

 

魅音が勝ち誇った笑みを浮かべるけれど、沙都子は振り向きざまに鋭い視線を投げ、口元に手を添えると笑った。

 

「を~っほっほ! 根拠のない強がりはそのくらいになさいませ。あの日、弟子は師を超えるものという事実を嫌というほど思い知ったのではございませんこと!?」

 

……ふたりの放つ闘気がにわかに高まるのに呼応して、圭一と悟史が教室の隅のほうで手を取り合ってがくぶるにゃーにゃーとしているので、よほどひどい目に遭わされたのであろうとは予想がつく。

 

「はぅ~☆ なんだかよくわかんないけど、涙目の圭一くんと悟史くんがかわいいよ? かわいいよ!?」

 

レナはレナで、自分なりの娯楽を満喫しているらしい。

 

そしてダブルにーにーの恐れる一言が出るのに、時間はかからなかった。

 

「ならば沙都子……!」

 

「ええ魅音さん……!」

 

ばちばちと火花を散らすかつての師弟。

 

「もう一度、勝負ッ!!」

 

異口同音に叫ぶのが魅音と沙都子なら、

 

「らめぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

涙まじりの悲鳴を重ねるのは圭一と悟史だ。

 

結局、放課後はたっぷりとトラップ勝負という名の部活が行われることになったのだった。

 

 

夕刻、解散したあとに僕は入江診療所に立ち寄った。

 

「ははは、入江京介です」

 

……なぜ開口一番、名乗るのでしょうかこの人は。

 

「なにかこのお話では、影が薄いような気がしてならないんですよ。私の専門分野たるメイド談義でもKに敗退していますし……」

 

すこしうなだれるものの、すぐに勢いよく顔を上げる。

 

「ですが! 沙都子ちゃん関連や研究関連で苦悩する大人というポジションを得ている私が、この物語の重要なキャラクタであることは疑いようもない。そうでしょう!?」

 

「あぅ……言いたいことはわかりますのですが、メタ発言は僕の特殊能力ですので自重しないとビームで殲滅しますのです、入江」

 

「……冗談はこのくらいにしておきましょう」

 

さりげなく青ざめながら咳払いをする入江。

 

わかってくれてなによりです。

 

「それで、研究のほうはどうなのです?」

 

入江は取り繕った表情でうなずくと、

 

「まず沙都子ちゃんの経過ですが、これはもう順調というほかありません。L3マイナス……いえ、ほぼL2レベルの数字で安定しているといっていいですね」

 

沙都子は二年目と去年、二度にわたってL5の際までいってしまった重度の雛見沢症候群発症者だ。

 

基礎となる研究はあったと聞いているものの、この雛見沢に入江機関が設立され本格的な研究が始まったのはほんの数年前のことだ。臨床例となればあまりにも少ない。

 

なにしろ沙都子自身が最高にして最良の研究材料になっているくらいなのだから、沙都子の治療のために必要なデータなど揃っているはずもなかった。

 

そのあまりにも絶望的な状況下で入江や鷹野たち研究スタッフたちの費やした労苦と、圭一を始めとする仲間たちと村の皆が築いてきた信頼は、沙都子をここまで引き戻してくれた。

 

「先月開発したC117も良い数字を出しています。これは鷹野さんのお手柄ですね」

 

横で聞いていた鷹野が微笑む。

 

「……ありがとうです、鷹野」

 

「わたしの家族のためでもあるのですから、研究に協力してくれてお礼を言いたいのはこちらです」

 

穏やかな様子でそう言いながらも、鷹野の顔にはわずかな疲れの色が見えた。

 

研究詰めで無理をしているのではないか、とすこし心配になったところで……入江がすこし声を沈ませて言った。

 

「……ですが、いい報せばかりではありません」

 

「あぅ……?」

 

すこし怯む。

 

聞くべきでないことを聞かされるという予感があった。

 

「実は……、」

 

言いよどみ、言葉を選ぶ入江の表情にも苦渋が浮かぶ。

 

「……入江機関は、今年度より三カ年をもって研究を終了することが通達されました。東京の決定です」

 

抑揚のない声で告げられた言葉の意味が、すぐには理解できなかった。

 

「……ど、どういうことですか?」

 

初期の研究が難航していたころならともかく、これ以上なく順調に進んでいる今、いったいどこからそんな話が出てくるのかさっぱりわからない。

 

「単純な話、予算を切られてしまいまして……。リサさんもずいぶん頑張ってくれたんですが……三年の猶予を引き出すのが精一杯だったようです」

 

「では……、その、入江たちは、三年後にはこの村を去るということなのですか……?」

 

歯噛みする入江にかわって、鷹野が暗い声で答える。

 

「……すくなくとも、入江機関として、組織としての研究はできなくなりますね」

 

これだけの施設と優秀なスタッフ、詳細までは聞かされていないものの莫大な資金を投入しているであろう雛見沢症候群の研究を、入江や鷹野の好意で個人で続けるなど無理に等しいことは子供の僕にでもわかる。

 

「三年の間に我々は出来る限りの手を尽くすつもりです。理想は研究終了までにこの村から雛見沢症候群を撲滅することですが……最悪でも、沙都子ちゃんが注射無しで過ごせるところまでは治療するつもりです!」

 

それは本当に最低限の条件だ。

 

毎日定期的に沙都子が打っている注射、入江診療所がなくなってそれを入手できなくなるのが一番困る。そうなればもはや、沙都子の症状は悪化する一方になるのだから。

 

そしてそれがかなったとしても、研究者を失った雛見沢は元通り、鬼の棲む村に戻るのだろう。太古の昔に比べれば毒性はずいぶん弱くなっているとはいえ、些細なすれ違いで疑心暗鬼が芽吹き、惨劇が花開くことに怯えながらの暮らしがずっと続いていくのだ。

 

……もう誰も祟りの影に怯えなくて済むのならと入江たちの研究に協力してきたというのに、こんな結末が待っていたと知れば……父様や母様の御霊も浮かばれない。

 

「……ごめんなさい、羽入ちゃん」

 

まるで神に祈りを捧げるように、それとも懺悔のように。鷹野は口元で手を組み、目を伏せて……涙を流した。

 

「あ、ぅ……」

 

自らの無力を嘆く鷹野や入江を責める言葉など、オヤシロさまの巫女たる僕にあるはずもない。

 

しばし、その場には鷹野のすすり泣く声だけが響く。

 

僕たちは、本当に脆い。

 

この一年間積み重ねてきた日常が、薄氷の上を歩くようなものだったことを思い知らされる。

 

絶望はいつだって、すぐそこにあったのだ。

 

「医者として、できるとは言えませんが……出来る限りのことはさせて貰うつもりです。我々にとっても、雛見沢はもう故郷のようなものですからね」

 

言葉もない僕と鷹野を励ますかのように、入江が無理して作ったような明るい声でそう言った。

 

「三年を決して長いとは言いませんが、研究はいままさに軌道に乗ったところです。どうか我々を信じてください」

 

是非もない。

 

僕には、入江たちを信じることしかできないのだから。

 

「どうか、雛見沢を……よろしくお願いしますです」

 

立ち上がって深々と頭を下げた僕を、……鷹野が抱きしめてくれた。

 

「……ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい……!」

 

この身を濡らす氷雨のように……鷹野の繰り返す謝罪が、ただ……、痛かった。

 

 

「こんにゃくは……こんにゃくはもうらめぇ……」

 

帰宅すると、玄関に圭一が倒れていてなにやらうわごとを言っていた。

 

「圭一、こんなところで寝ていると風邪をひくのです」

 

ゆさぶっているところへ梨花がやってくる。

 

「あら羽入、おかえり」

 

「ただいまです。圭一を運ぶのを手伝ってください」

 

「えー? 嫌よ、めんどくさい」

 

本当にどこで育て方を間違えてしまったのだろう。

 

「それにこんにゃく臭がうつっちゃうわよ」

 

「……聞き慣れない言葉に思わず衝撃を受けてしまいましたが、意味はわかるのでスルーしますのです」

 

「強くなったわね、羽入……」

 

何故そこで梨花は優しい目をして僕を見つめるのですか。

 

「とにかく、私はごはんの支度で忙しいの」

 

アホな妹に協力を断られてしまったので、僕は圭一の腕を両手でつかんで引っ張ることにした。

 

背後で、ごつんごつんとまるで頭蓋骨をあちこちに強打するような不吉な音が聞こえる事実はあえて無視しながらも圭一を引きずって居間へ向かうと、いまだに出しっぱなしのこたつでレナが宿題を広げていた。

 

「おかえりなさい、羽入ちゃん。遅かったね」

 

「ちょっと入江に相談事があったのです」

 

「……心配だよね。梨花ちゃん」

 

レナは真剣な顔をして言った。

 

「そうそう、梨花のおつむがあぅあぅ過ぎて将来が心配に……って違うのです!?」

 

「ち、違うよ違うよ、そういう意味でも心配だけど、それよりカレー中毒のほうだよ!」

 

慌てて言い直すレナは善良で素直なのだと思う。たぶん。

 

「……いやな中毒もあったものです」

 

「今日だって梨花ちゃんが当番だから……ほら」

 

促されて鼻をひくつかせると……キッチンから刺激臭。

 

「あぅう……今日もカレーなのですか……」

 

僕の夕食は今日も試練のひとときになりそうです。

 

それを察してくれているのかレナも沈痛そうな表情で、

 

「うん、張り切ってたよ。『宇宙人風カレーおでん』ってなんだろ、だろ☆……本当に何?」

 

最後のところだけ素になって眉をひそめているから、レナ的にも今夜のメニューは謎の物体にカテゴライズされるようだ。

 

カレーうどんなら聞いたことがあるけど、カレーおでん……。

 

「こんにゃくは……こんにゃくだけはぁ……」

 

たたみに転がる圭一がうわごとを呟き、僕たちは来るべき前途を思ってため息をつくしかなかった。

 

「羽入~、お皿並べるの手伝いなさい!」

 

キッチンからの梨花の弾んだ声に、なぜかさる王子様の言葉が脳内で再生される。

 

「これからが……ほんとうの地獄なのです」

 

 

春とはいえ、夜風はまだ冷たい。

 

つないだ圭一の手に引かれるまま、僕はとぼとぼと歩く。

 

梨花やレナの前ではどうにかいつもどおりに振る舞ったつもりだけど、二人とも妙なところで鋭いから気づかれているかもしれない。

 

そして圭一とふたりきりでは、隠せるわけもない。

 

「……羽入が落ち込んでる理由、俺は知らないけどさ」

 

散歩に出てすぐに圭一はそう言ってくれた。

 

「俺にできることがあったらなんでも言ってくれていい。なにも説明しなくていいぜ、羽入の願うことならなんでも叶えてやるからさ」

 

そう言って笑った顔は、……本当に無敵だった。

 

「大嘘つきの圭一が言うと、嘘でも本当みたいに聞こえるのです」

 

そう言ったら、圭一はむしろ得意げな表情をみせる。

 

「ああそうさ。どんな嘘だって本当に変えるのが、一流の嘘つきってやつだからな」

 

そこまで開き直られては、こちらも笑うしかない。

 

空元気であっても笑えるなら、そこにはまだ希望がある。

 

まさしく彼は、口先の魔術師。

 

大好きな彼の笑顔が僕にとっての特効薬であるように、沙都子や雛見沢にとってもその大きな嘘が本当の希望になってくれればいいと願わずにはいられない。

 

「……圭一」

 

だから僕は、顔を上げた。

 

「ん?」

 

まっすぐ前を見て歩く圭一の顔に翳りはない。

 

「圭一は、どんなときでも希望を捨てずにいられますか」

 

「おう、まかせろ」

 

即答だった。

 

そう……当然、『前原圭一』ならそう答えるだろう。

 

彼が望み、彼が演じる前原圭一は不屈の男なのだから。

 

「圭一は、どんな大きな敵にも立ち向かえますか」

 

「ああ、当然だろ」

 

無理をするな、なんて言葉はもう彼に必要ない。

 

彼が目指しているのは理屈では届かない場所だから。

 

過酷な現実なんて意味がない。

 

その口から出る嘘の前には、脆くも崩れ去るものだから。

 

「圭一は、……最後まで笑っていてくれますか」

 

その問いに、圭一は初めて僕のほうを向いてくれた。

 

なにも言わず、不敵な笑みをみせる。

 

それでじゅうぶんだった。

 

「……それなら僕も、前原圭一に賭けるのです」

 

梨花が、レナが、魅音が賭けたように。

 

分のない賭けを笑い飛ばせる、嘘で塗り固められた英雄に僕の、雛見沢の未来を賭けてみよう。

 

彼に研究のお手伝いができるわけじゃない。

 

それでも、きっと彼は今年の祟りに抗うだろう。

 

雛見沢症候群という見えない糸に操られた誰かが演じるであろう悲劇の脚本を、空気も読まず、段取りも蹴飛ばし、めちゃくちゃな喜劇に変えてしまうに違いない。

 

それが彼の役割なのだから。

 

……あの、四年目の嵐の日。

 

誰もが打ちのめされたあの夜にも、圭一は偽りの炎をその瞳に宿していた。

 

『はいあがろう』

 

みんなの肩を押して、圭一は低く押し殺した声で言った。

 

『負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる』

 

それはみんなに、立ち上がる力を……、 

 

「そんなこと言ってねぇぞ!?」

 

「些細な記憶違いなのです」

 

「覚えてないからって適当言うな!」

 

「だいたいあってるのでいいのです」

 

すましてそう言ったら、呆れながらも笑ってくれた。

 

「……ったく」

 

遠く星を見つめて、圭一はあいている手を伸ばす。

 

まるで、天をも掴もうとするかのように。

 

「途中でおりるなよ、羽入」

 

圭一の顔は見えないけど、たぶん笑ってはいないだろう。

 

誰にも見せない素顔。

 

もう賭けてしまったから、僕にも聞かせられない弱音。

 

そんなものを全部押し隠して、

 

「……絶対に、勝つからさ」

 

 

圭一は、背負った。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

実は最近まで公開していた時明かし編(圭レナ)の続き(残り約10話分以上)があったのですが、こちらのほうのデータは残っておらずブログも閉鎖していたため、現在は魚拓なども含めて確認しましたが見つからず……残念ながら続きを投稿できない状態です。

本当に申し訳ないです。

その代わりではありませんが、現在は別シリーズのカップリングやらを定期的に投稿しようと思うので、

今後ともよろしくお願いいたします。
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