ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第93話 そこはかとなく最悪です

「ふ~ん……それはちょっと、意外な結論ですね」

 

私の仮説では、三四さんと小此木造園のこれまでの仕事はそれほど際だったものではない。

 

連続怪死事件のほとんどになんらかの形で関わってはいるけれど、主体的な動きをしているのはせいぜい三年目の、梨花ちゃんのご両親を消してみせたときだけだ。

 

第一の事件で関わっているとすれば、事件そのものの発端がなんらかの薬物や暗示によって引き起こされたという可能性と、主犯の失踪くらいのもの。

 

ただし、忘れてはいけないのは“偶然”の存在だ。

 

理屈だてて物事を考えようとするとき、陥りやすい間違いは全ての出来事に“必然”があると誤認すること。

 

陰謀でなにもかもを説明できれば、そんなにわかりやすい世の中はないのだけれど、現実はそうシンプルじゃない。

 

理由のない偶然の作用が、常に事態を複雑にする。

 

つまり……私は、事件そのものは偶発的に、そして雛見沢という土地の特殊性故に起きたものだと考える。

 

仮にこの雛見沢という土地に特異の寄生虫がいて、雛見沢である程度過ごした者が寄生されるという結論が是である場合、偶然は起きやすくなる。

 

ダム監督や犯人たちの粗暴ともいえる行動が、寄生虫の影響や土地に馴染んでいない彼らの拒絶反応だったとは考えられないだろうか。

 

「寄生虫が錯乱したような行動をとらせた……と?」

 

「うん。狂犬病みたいなものかな。もちろんその影響さえ関係なくて、本当に単なる殺人事件の可能性もある」

 

とにかく、この一件を陰謀や祟りの一環として決めつけるのは乱暴過ぎる。なにしろ犯人たちの行動は、あまりにも研究の目的にとって都合が悪いからだ。

 

死体を切断、解体するという行為は単純な怨恨によるものを除けば、“隠す”ためか“運ぶ”ために限られる。

 

人の形をしたものは隠すにも運ぶにも向かないのは明らかだから、そのために分割するのが普通だ。

 

でも、せっかくバラバラにしたその死体をバラバラに隠すなんて愚の骨頂としか思えない。

 

そのうちひとつでも発見されれば、殺人の存在が露見することになるのだからデメリットしかないわけだ。

 

実際、犯人の一人が自首するような形でこの事件は発覚してしまっている。

 

結局、事件はその陰惨さから週刊誌で大きく取り上げられて、雛見沢の名は一躍有名になった。

 

このことは、入江機関の目的に合致していない。

 

いまもって秘密裏に研究を進めている彼らにとって、この土地が目立つことは避けたい事態のはずなんだ。

 

「事件を隠蔽できなかったことが、この事件が彼らの意図するものではなかったことの傍証……というわけですか」

 

葛西さんにうなずいてみせる。

 

最終的には、彼らがこの事件で動いたとすれば主犯の失踪だけという結論にたどりつく。

 

「第二の事件は……たとえば沙都子ちゃんのご両親がやっぱり寄生虫に侵されていた、ということでもない限りは、彼らが関与する必然性はないと思う」

 

「圭ちゃんもそう言ってましたね。陰謀にしてはやり方が不確実過ぎるって」

 

「うん。だからこれは単なる事故か、その場にいた三人、ご両親のどちらかか沙都子ちゃんが起こした事件で間違いないと思う」

 

詩ぃちゃんがぎょっとした表情になるけど、可能性として沙都子ちゃんが犯人であることは否定できない。

 

当時の沙都子ちゃんの様子を聞く限り去年の彼女と同じくらいまで追い詰められていたようだし、事件後は速やかに入江診療所に収容されている。

 

沙都子ちゃんが寄生虫の影響でご両親を突き落とした、と考えれば辻褄は合ってしまう。

 

「第三の事件だけは、例外になる」

 

神主さんの突然の死、加えて羽入ちゃんたちのお母さんの唐突かつ理不尽な失踪。その意味するところは、たやすく想像できてしまう。

 

「でもどうしてこの二人を消す必要があるんです? 入江機関は目立つことを嫌うのに、この事件があるからこそ、オヤシロさまの祟りは有名になってますよ」

 

「……これはレナの想像でしかないけど、羽入ちゃんたちのご両親は、研究に協力していたんじゃないかな」

 

「え!?」

 

「いまでも羽入ちゃんが診療所に通ってること、神主さんがダム戦争のときに消極的だったことを考え合わせると、彼は入江機関が動いてるのを知ってたと思う」

 

入江機関からダム計画は中止させるという確証を得ていたからこそ村人が過激な抗議活動に走るのを諫めていた。

 

そしてこの村の歴史や伝承にもっとも詳しいのは、たぶん古手家だから……そういう面で協力を求めるのもおかしなことではないはず。

 

「つまり……神主夫妻が消されたのは機密保持のためってわけですね?」

 

「うん。協力が必要なくなったか……羽入ちゃんがいまも協力しているとすれば、ご両親はそれ以上の協力を断ったから邪魔になったか、かな?」

 

「……レナって、あっさりと怖いこと言いますよね」

 

ばつの悪そうな顔をする詩ぃちゃんだった。

 

そう言われても困るけど、とにかく第三の事件についてはこの考え方で合っていると思う。

 

「で、去年の事件はどうです?」

 

私や詩ぃちゃんが直接知っている唯一の事件。

 

沙都子ちゃんの叔母さんが殺され、魅ぃちゃんが失踪した四年目の祟り。

 

「……一番単純な図式は、こうかな。沙都子ちゃんを救うために魅ぃちゃんが叔母さんを殺した。入江機関は、その魅ぃちゃんを捕まえて隠してしまった」

 

あまり嬉しくない推論だけど、詩ぃちゃんは眉ひとつ動かさなかった。

 

入江診療所と小此木造園が怪しいとわかってから、それはひとつの仮説として念頭にあったことだ。

 

わからないのは彼らがなぜ祟りを演出するか、だ。

 

でも、雛見沢の寄生虫というのが人間を錯乱させるという想像が正しいなら理由は生まれる。

 

錯乱して殺人を犯した魅ぃちゃんを、監視していた小此木造園が捕まえて診療所の地下に閉じこめたというのは妥当な措置だといえる。

 

……問題は、それが本当なら研究材料として魅ぃちゃんが解剖されてしまっている可能性もあるということだけど。

 

「……それもある程度は覚悟してます。生きた研究材料が必要な理由が連中にあることを祈るのみです」

 

詩ぃちゃんは苦しげにそう言った。

 

私たちの考えが合っているなら、詩ぃちゃんが園崎魅音としてここにいることは彼らにとっても都合がいい。

 

現状、行方不明になっているのは雛見沢との関連性が薄い園崎詩音のほうであり、警察もそれを四年目の祟りとして認識していないらしいからだ。

 

「その考えでいくと、五年目は起きない……ということにならないでしょうか?」

 

葛西さんの意見はもっともだ。

 

三年目では積極的に祟りの噂を利用した入江機関だけど、去年は祟りが成立しなかったのだから、このまま五年目は何事もなく過ぎ去って、風化してしまうのが一番いい。

 

「……そうはならないと思います」

 

私には確信がある。

 

「詩ぃちゃんが園崎魅音の代役をしている以上、すくなくとも園崎家は四年目が成立したことを知っている。彼らがそれを放置するでしょうか?」

 

私が三四さんの立場なら放置できない。

 

雛見沢の背後で動く者があると知っているのが、よりにもよって園崎家というのはまずい。

 

園崎家の力は、雛見沢周辺に限ればある意味では国家権力をも凌駕する存在だ。

 

その情報網は実際に国家という後ろ盾をもつ彼らの素顔を暴いてしまったし、実力も侮れない。

 

手段を選ばないなら、園崎組を動員して入江診療所に突入するだけで彼らを壊滅させることも容易だろう。

 

そんな存在に自分たちの秘密の一端を握られたままで放置できるなら、機密保持など最初から用をなさい。

 

動くとすれば、交渉か、あるいは抹殺……。

 

魅ぃちゃんや 雛見沢を取引の材料にすれば、園崎家と交渉することは可能だと思う。それをしてこない理由としては考えたくもないけれど、魅ぃちゃんは人質として使えない 状態にあるのかもしれない。雛見沢を人質にしない理由はまだ生物兵器が完成していないか、完成していても使う権限がないかのどちらかだ。

 

とにかく、彼らはいまのところ交渉を選んではいない。

 

そうなれば、抹殺か。

 

園崎家を潰すのは彼らにしても容易なことではないから、私なら狙うのは詩ぃちゃんだ。

 

「最後に残った後継者を人質にとれば交渉どころか脅迫、園崎を屈服させるのもわけはない……ってことですか」

 

そう。

 

今年の綿流しで詩ぃちゃんを消すのが手っ取り早い。

 

魅ぃちゃんに続いて詩ぃちゃんまでが彼らの手に落ちれば診療所突入なんて無茶もできない。

 

「……そう簡単に消されてたまりますかっての」

 

詩ぃちゃんは不敵といっていい笑みを浮かべて呟いた。

 

これはもはや、戦争だ。

 

不吉な予感でしかなかった五年目の祟りは、明確な害意をまとって私たちに襲いかかろうとしていた。

 

「……と、そろそろ時間ですね。なにか特に調べておいたほうがいいことはありますか?」

 

時計を見ながら詩ぃちゃんが水を向けてくる。

 

不自然な時間にならないよう気を遣っているのだ。

 

私はすこし考えて、

 

「……ん。三四さんを引き取った、高野一二三っていう人についてもうすこし詳しく調べられないかな?」

 

「へ? そんなに重要な人ですかね?」

 

「うーん……なんとなく、かな。三四さんの偽名、その人の名前から来てるような気がするから。なにかこだわりがあるんじゃないかと思って」

 

単に引き取ってくれた養父として名前があがっただけの人。

 

でも三四さんの本心を知る上で、重要な人物なのではないかと直感で思っただけ。

 

「なるほど、敵を知るってのは大事ですよね。葛西」

 

「わかりました。すぐに調べさせます」

 

対決の日は近い。

 

私たちのアドバンテージも失われつつある以上、情報収集は急いだ方がいい。

 

「それじゃ、気をつけて」

 

「うん。詩ぃちゃんも!」

 

園崎家を出ると、もう日は傾き始めていた。

 

のどかな田園風景の中、前原家への道を歩く。

 

この優しい村に戻ってきてから、もう一年。

 

茨城にいたときの私は、本当に酷い状態だった。

 

……いや、今だって胸を張れる状態ではないと思う。

 

私の精神的安定に限っていえば、一緒に暮らしてくれてる圭一くんや羽入ちゃん、梨花ちゃんのおかげで随分ましにはなっている。

 

でも、私自身の問題はなにも解決しないままだ。

 

お医者さんの勧めとはいえ、私のためにわざわざこの雛見沢に戻ってくれたお父さんと向き合うことから逃げ出して居心地のいい場所に引きこもっているだけ。

 

いらない、なんて言われたのは今だって思い出すだけでも胸が痛むけれど、そう言われてもしょうがない状態だったのは確かなのだから。

 

「お夕飯まで時間あるし……お掃除してこようかな」

 

私が竜宮の家に帰る回数は、ずいぶん減っていた。

 

最初はまわりが心配しないように回覧板やゴミ出しのために結構帰るようにしていた。

 

さすがに半年以上ともなれば実質的に私が前原家で暮らしていること、お父さんもほとんど家に帰っていないことは周知の事実となっていた。

 

回覧板も、竜宮家は飛ばして前原家に回すのがいつのまにやら暗黙の了解だ。

 

気のいい雛見沢の人たちは私を心配して声をかけてくれるけど、私はそれをいつも笑顔で誤魔化してきた。

 

でも……そろそろ、私も強くなっていい頃だ。

 

勝手をしていることをお父さんに謝ろう。

 

その上で、お父さんに仕事をしてほしいとお願いしよう。

 

お父さんが働いてくれるなら、私はちゃんと家に戻るし、あの人との仲も認めると伝えよう。

 

いまの家族である圭一くんたちと離れてしまうのは寂しいけれど、本来の家族であるお父さんを蔑ろにしたまま甘えてばかりでは、圭一くんたちにも失礼だ。

 

うん、今度会えたら勇気を出して話し合ってみよう……。

 

私の行く手に戦場が待っていることを予感しているから、だろうか。そんな決意を固めながら前原家の前を素通りして自宅へと歩を進めた。

 

お父さんの車が停まっていて、玄関が開いている。

 

決意したその日にうまくタイミングが合うなんて、幸先がいいかもしれないと思いながら我が家に足を踏み入れる。

 

「ただい……」

 

ま、と言いかけて思わず口をつぐんでしまう。

 

私の目にとびこんできたのは女物の靴。

 

このどぎつい色合いはたぶん、リナさんのものだろう。

 

お父さんにとって必要な人だというなら、交際を認めるのは構わない。が、私にとって好ましい人間かどうかはまったく別の話だ。

 

さすがにあの人がいるところで大事な話をするのは躊躇われるし、今日のところは夏物の着替えだけ持って帰ろうかとさきほどまでの意気がくじける。

 

私はやっぱり弱いな、と軽い自己嫌悪を覚えながら自室に向かう途中、お父さんが書斎として使っている部屋に気配を感じた。

 

……それでも、挨拶くらいはしておこうか。

 

私はすこし気が重くなるのを感じながら襖を開け、お父さんに声をかけようとして……見てしまった。

 

部屋の中にいたのは、お父さんではなかった。

 

リナさんが、開いた手提げ金庫の前で通帳を開いている。

 

瞬時に、脳内に認めたくない事実が叩き込まれる。

 

ひとつ、彼女は我が家の財産に興味がある。

 

ひとつ、手提げ金庫の開錠方法を聞き出せるほどに、お父さんは彼女に気を許してしまっている。

 

ひとつ、お父さんのいない場所で金庫を開いているこの女には常識というものが欠落している。

 

「何してるんですかッ!」

 

瞬間的に沸騰した怒りが私を叫ばせていた。

 

「ヒッ!?」

 

弾かれたように振り向く。

 

口に出さずとも、その顔には『しまった、見つかった』と書いてあった。

 

即座に脳内の認識を書き換える。

 

この女は、泥棒だ。

 

「ち、違うのよ、これは……!」

 

「だったらいつまでも触ってるんじゃないッ!」

 

鋭く叫び、一瞬で間合いを詰めるとリナの手から通帳を奪い取る。

 

「痛ッ!……あんたっ」

 

弾かれた手を押さえて剣呑な顔を見せるけど、私は冷然とその目を見返した。

 

「……出ていってください。お父さんのそばに、泥棒は必要ありませんから」

 

「あァん?……ガキィ、誰に向かって口聞いて……」

 

いまさら凄みをきかせながら胸ぐらをつかもうと伸ばしてきた。

 

その手を裏拳で弾き飛ばす。

 

「汚い手で触るな」

 

睨み据えて命令し、戸口を指さした。

 

「一分以内にこの家を出ていきなさい。次に顔を見せたら命の保証はしません」

 

リナは怒りで蒼白になっていたが、もう一度手を出してくる勇気はないようだった。

 

私は構わずリナを肩でおしのけるようにしながら手提げ金庫を取り戻そうとしたが、意外なほど素早い動きでリナの手が金庫を奪っていった。

 

「!……手癖の悪いッ!」

 

本気で殴り飛ばしてやろうと振り返った瞬間、頭部に重い衝撃が走って目の前に火花が散った。

 

「……!?」

 

フラッシュを焚かれたみたいな視界に映るのは、頑丈な手提げ金庫を両手でもう一度振り上げるリナの姿。

 

防御しなきゃ。

 

いや、殴り返すほうが速い……!

 

そう考えたけれど、突然の痛撃で身体がうまく動かない。

 

どうにもできずにいるうちに第二撃が頭頂部を遅い、目の前に暗幕が降りたみたいに暗くなった。

 

直後、後頭部にも痛みがあったけれど、平衡感覚が曖昧になっていて、どちらの方向に落ちているのかわからない。

 

身体に動けと命じているのに、痺れたような感覚があるばかりで指先ひとつさえ言うことを聞いてくれない。

 

なに、これ……?

 

「はぁっ、はぁっ、思い知ったかメスガキッ!」

 

吐き捨てるような叫びがでたらめな方向から聞こえてきて頭がずきずきと痛む。

 

そこへ、慌てたような足音が近づいてきた。

 

「どうした、何かあったのかい!?」

 

お父さんの狼狽した声。

 

「……礼奈!? いったいなにがどうして……?」

 

私に気づいて驚きの声をあげる。

 

「そ、それが……その」

 

リナの声が切り替わっていた。

 

さきほどまでの威嚇の色はなくなり、まるで善良な女性が突発事態に巻き込まれたようなたよりない声に。

 

「れ……礼奈ちゃんが、これを持ち出そうとしてて……、止めようとしたら、掴みかかってきたから」

 

怯えた声で、流れるように嘘をまくしたてる。

 

「あたし、怖くて……夢中で突き飛ばしたら頭でも打ったみたいで、こんな、こんなことに……!」

 

「そんな、なんで礼奈が……礼奈、礼奈! 聞こえるか、しっかりしなさい、礼奈っ!」

 

切迫したお父さんの声にも、反応を返せない。

 

「リナさん、きゅ、救急車をッ!」

 

「い、嫌よ! わざとじゃないのに、このままじゃあたしが殺したことになるじゃない!」

 

慌てたお父さんの声に、リナは即座に拒絶を示した。

 

それはそうだろう。

 

見る人が見れば、二度にわたって殴られた傷ははっきりとわかるはずだ。

 

「殺した、って……」

 

お父さんの呆然とした声。

 

……あれ?

 

私、生きてるよ……?

 

「お願い、見捨てないで! あたし、ああいう店で働いてるから警察にも目をつけられてるし……あたしの言うことなんか、きっと信じてもらえないわ!」

 

「そ、それは……えぇ?」

 

必死で取りすがるリナに、お父さんが戸惑っているのがわかる。叫びたいけど、喉の奥でなにかが詰まっているみたいで呻くことさえできそうにない。

 

「そう……そうよ! 礼奈ちゃん、よくあのゴミ山に宝探しだかなんだかに行ってたじゃない。……事故よ」

 

「事……故?」

 

何を言い出すのだろう、この女は。

 

「これは事故なのよ。礼奈ちゃんはひとりでゴミ山で遊んでいて、足を滑らせて……ゴミの下敷きになった」

 

自分の庭であるあの場所で、私が足を滑らせる?

 

三流のシナリオだ。

 

「あなたは何もしらなかった。だって、礼奈ちゃんは家出同然の状態で、ほとんど帰っていなかったんだもの。そうでしょう?」

 

「……それは、そう、だが」

 

言いくるめられちゃ駄目、お父さん。

 

その女の、狙いは……。

 

「家のお金を盗もうとしてこんなことになったなんて世間に知れたら、家を空けていたあなただって責められるし、礼奈ちゃんにもいいことじゃないでしょう……?」

 

「…………」

 

最悪の方向に話が流れてしまっているのを感じる。

 

「事故なら、きっと保険も下りるわ。この子があの場所で遊んでることは、村の連中なら知ってるはずだし……」

 

それなのにどうにもできない自分の無力を呪う。

 

「いまならきっと大丈夫。こういうことに慣れた人もいるから、呼んでおくわ。車で礼奈ちゃんを運びましょ」

 

そう言って、リナが急ぎ足で部屋を出ていくのを感じた。

 

「……礼、奈」

 

お父さんが小さく、そして力無く呟く。

 

そっと頬に触れた、あたたかなものが……お父さんの手だったのか、それともなにかの雫だったのか。

 

「どうして……、こんな、ことに」

 

わからないまま、私は意識が遠くなるのを他人事のように感じていた。

 

 

……もう、会えないのかな。

 

みんな……、それに。

 

けいいちくん……。

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