ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

97 / 97
本当の大嘘つきって、実はひとつも嘘をつかない。



その口から出る嘘は、全部が全部本当になるから。



だけどあなたは、ひとつだけ嘘をついた。





Frederika Bernkastel.

ひぐらしのなく頃に~神楽舞



第3部 復讐の神楽舞 編


第3部:復讐の神楽舞編
第96話 なまえのないかいぶつ


扉を閉めると、ゆっくりと境内へと歩みでる。

 

手の甲で涙を拭ってから、ぎり、と奥歯を軋ませた。

 

胸の奥から、沸き上がる感情。

 

予想もしていなかった。

 

いまの私に、こんな衝動が残っているとは思わなかった。

 

「ク……ッ」

 

意識せず、唇が歪む。

 

たったいま、深く深くえぐられた傷が疼くのに。

 

ああ、どうして。

 

「……ククク」

 

どうしてこんなにも、この身が軽く感じるのだろう。

 

私はあとからあとから沸いてくる衝動に背中を押されて、境内から駆け出していた。

 

横目でちらりと、社殿を一瞥する。

 

オヤシロさま、あんたは羽入がいつも言っているとおり、とてもやさしい神さまかもしれない。

 

でも、そのかわりに無力すぎる。

 

この雛見沢の守り神でありながら、雛見沢に起こる災厄をただ見つめることしかできない。

 

雛見沢の民が間違っていても、その元凶を祟ることさえもできはしなかった。

 

とてもやさしくて、とても無力な、役立たずの祟り神。

 

昨日までの……いや、つい先ほどまでの私と全く同じだ。

 

羽のように軽い私の身体は足の赴くままに森の中を抜け、罠だらけの悪路を易々と飛ぶように過ぎる。

 

全身の感覚が研ぎ澄まされている。

 

沙都子の自慢のトラップたちも、もともとその技を彼女に仕込んだ私の前では、種を知っている手品に等しい。

 

全身を駆けめぐるのは、解放感と充実感。

 

「……あっはははははは!」

 

これが笑わずにいられるだろうか。

 

雛見沢は、彼らは、“私”を否定した。

 

この舞台に私など必要ないと、余計者を放り出した。

 

 

なにもかも、すべてが、この私の予定通り!

 

 

公由のお爺ちゃんたちには感謝しなければいけない。

 

なにしろこの私を全ての戒めから解き放ってくれたのだ。

 

園崎魅音だったときは、私には立場があった。

 

園崎家の次期頭首であり、現在と未来の雛見沢、その全体の利益を常に考えなければいけない立場が。

 

その不自由な立場は、大きな力を持ちながらもなにひとつ自分の意志では動かせないものに過ぎなかった。

 

大切な友人を、思い人を、救うことさえ許されない力!

 

だからこの敗北は必然。

 

ただ、必要なステップだっただけ。

 

最初から、望みの薄い博打だったのだ。

 

こんな正攻法で、悟史と沙都子を救えるはずがないと……私は、とうの昔に知っていた。

 

そして今、私の肩から長年負っていた荷は下ろされた。

 

背中の鬼など、もう何の意味もない。

 

だって雛見沢が、私を否定したのだから。

 

私の大切な仲間を守ってくれない、救ってくれないような団結などに、もはや興味も価値もありはしない。

 

あとのことは詩音に、いや本物の魅音に任せよう。

 

私はたったいま、名前を奪われた。

 

雛見沢の守護者だった“園崎魅音”ではなくなった。

 

だからこそ、自由。

 

名前さえないたったひとりの小娘だからこそ、その小娘の身につけた力の全てを自在に使うことができる。

 

どんな逆風もこの翼で強引にねじ伏せ、不穏の雲も突き抜けてその向こうにある大空へと羽ばたいてみせよう。

 

名前も姿もない私ならば、呪わしい運命にさえ気づかれることなく世界を駆け抜けることができるはずだ。

 

そう、これは復讐だ。

 

見ていることしかできないと己の無力を嘆くばかりだったオヤシロさまと私の、祟りへの復讐劇。

 

「……くっくっく。さぁて、本気でとりかかろうかね」

 

足が止まる。

 

見下ろすのは、私を否定した雛見沢の全景。

 

そして、私の愛する仲間たちの住む大切な場所だ。

 

この山頂に至るまで……沙都子の張ったトラップはただのひとつも私の身を傷つけることはなかった。

 

私が感覚を眠らせたままだったら、こんなことはない。

 

あの子は、追い詰められた精神のままにトラップの技術を向上させ、いまでは私よりもその扱いに熟達している。

 

でも、それは悲しい技術だった。

 

だって、トラップは人を見分けない。

 

ただの防衛機構だ。

 

誰も近づけない、そういう意志の発露に過ぎない。

 

あの子をそこまで追い詰めてしまったのは私たちだ。

 

どんなに謝っても謝りきれない。

 

……だから、謝らない。

 

沙都子を傷つけてしまったのはもう変えられない事実だ。

 

その残酷な事実を受け止めて、今これから沙都子のためにできることを全力でしよう。

 

悔やんでいる暇など、ないのだから。

 

「始めようか……私たちの、復讐を」

 

それから日没を待って、私は行動を起こした。

 

当面の隠れ家は、雛見沢の村はずれにある空き家だった。

 

雛見沢は過疎の村だ、ダム戦争に前後して村を出ていった家庭はひとつやふたつではない。

 

そういう家の一軒を、私はいざというときのための隠れ家として確保していた。

 

バイト仲間に頼んで作ってもらった通帳に溜め込んだへそくりから光熱費を払い、たまに掃除をしにきてるから綿流しまでの滞在には十分だ。

 

いざというときというのは家出も想定しているから、家族もここは知らないし、外に光が漏れないように窓には細工をしてある。

 

人目につかないように隠れ家に逃げ込んだ私はとりあえずこれからとるべき行動を再確認する。

 

「まず最大の難関は、叔父と叔母の排除……か」

 

言うまでもないが、悟史と沙都子の精神の安定にとって、あの二人の存在はどうにも都合が悪い。

 

レナが叔父に殴られたことを考えれば、沙都子たちを心配する私の仲間にとっても危険な要素になり得る。

 

園崎魅音の力をフルに使えるのなら、彼らの排除はそうは難しくない。

 

興宮界隈のごろつきで園崎の息がかかっていない者などはいないのだから、叔父の北条鉄平も当然ながら園崎傘下の一人ではあるのだ。

 

が、今回の件で園崎の力はこと北条家に関しては不自由な枷でしかないことがよくわかった。

 

葛西さんや組のコネクションは離反した私には使えないし仮に使えても、鉄平を排除するときは沙都子たちも一緒にどこか遠くへ放り出されるだろう。

 

ますます手の届かない場所にいってしまうのでは、悟史や沙都子を救うどころの話ではない。

 

とんとんとペンの先でノートを叩く。

 

「やっぱり……殺すしかないのかな」

 

それもひとつの手段だ。

 

私にとって北条夫妻が、死んだところで心が痛むような相手でないのは確かだ。

 

だが、二人の死という事実そのものはあまりうまくない。

 

何故なら、悟史と沙都子の親権はあいつらが持っている。

 

養父母であるあいつらが死んだ場合、村の人間に引き取り手があるわけもない悟史と沙都子は施設に入ることになり確実に村を離れるだろう。

 

それでは、私にとって最上の結果とは言い難い。

 

つまり、どちらか一人は生きているか、最低でも死亡が確認できない状態でなければ困るのだ。

 

はっきりと親権者がいなくなった状態でなければ、悟史と沙都子を村に留まらせる方策はいくらでもある。

 

私に手出しできなくても、お姉がどうにかしてくれる。

 

「……となると、やっぱり“祟り”しかない、か」

 

一人が死んで、一人が消える。

 

それがオヤシロさまの祟りの特徴であり、過去三年続いた雛見沢連続怪死事件の共通点でもある。

 

そして四年目の祟りは、北条家に下るのが望ましいと村の誰もが思っていることだろう。

 

問題は、そこだ。

 

当然大石を始めとする警察の捜査陣も、北条一家が今年の祟りのターゲットであると考え監視の網を張ってくる。

 

幸いにして北条家は林の奥にあって、隣近所はやや離れているから、林側から近づけば侵入や事前工作をすることはおそらく可能だろう。

 

悟史と沙都子が巻き込まれないようにするのも簡単だ。

 

綿流しのお祭りの夜だから、おそらくはお姉やレナたちが沙都子たちを連れ出してくれるはずだ。

 

お姉とはそういう計画も話し合っていた。

 

もちろんその段階では、お祭りに連れて行くのは私の役割だったのだけれど。

 

「……叔父と叔母、両方は相手にできない」

 

なにしろ現在、私の使える戦力はあまりにも少ない。

 

文字通り私自身の手足だけがたよりなのだ。

 

一対一であれば叔父のほうが相手でも負けるつもりは全くないが、その間に叔母に逃げられては元も子もない。

 

となれば、一人ずつ始末する必要があった。

 

「叔母には……行方不明になってもらおう」

 

まずひとつ、固めた方針はそれだ。

 

理由はしがらみの少なさ。

 

北条鉄平は興宮に愛人や、それ以外のコネクションもあるから、姿を消したときの影響がより大きい、それだけだ。

 

まずはどうにかして叔母だけを家からおびき出して、とりあえずどこかに監禁、あとで『説得』する。

 

説得に応じてくれればそれなりの金を渡してどこか遠い町に行ってもらおう。そうでなければ……誰にも見つからない場所で死体になってもらうだけだ。

 

そして叔父、北条鉄平は?

 

「……この手でくびり殺してやりたいくらいだけど、それは駄目かな。やっぱり」

 

素手でも八割方勝てるし、武器を用意すればそれこそ容易に殺すことは可能。

 

私服のときによく持ち歩いている護身用の改造銃だって、使い方しだいであの忌々しい男を射殺できる。

 

が、その方法はおよそ冷静とは言い難い。

 

直接的な殺害は、死体の傷や状況から多くの証拠をその場に残してしまう。

 

そんなリスクを負ってまで殺す価値がある男ではないし、殺人事件として警察が追う限りほとぼりがさめにくくなるからやはり私の目的には合致しない。

 

「なら……事故、か」

 

そう、事故死に見えるような細工をするのが一番だろう。

 

すぐに思いついたのは、あいつの所有するスクーターだ。

 

園崎家の頭首修行とやらでどうでもいいような技能や資格を山ほど身につけた私には、工具と時間さえあればスクーターを分解してまた組み立てる程度の技術はある。

 

そこまでしなくともブレーキ関連をちょいといじってやるだけでいいだろう。

 

北条家からあの林道に出る道はT字路になっていて、止まれなければそのまま沢に落ちてしまうはずだ。

 

事前にヘルメットを盗んでおけば、それだけでもあの男が死んでくれる確率は相当に高いのだが、念には念を入れてバッテリー関連にも手を入れておこう。

 

スクーターもろとも水中に没したなら、放電が確実に叔父の心臓を止めてくれるように。

 

ブレーキにせよバッテリーにせよ、うまく細工しておけば事故のときに破損したのかその前に壊されていたのかを確かめるすべはない。

 

あとは連中を逃がさないためにいくつかの策を用意して、全てが終わった後に雲隠れする準備も必要だ。

 

「……よし。方針は決まった」

 

それからの数日は、興宮まで歩いて往復しての必要な道具の買い入れや現場の下見と罠の配置、逃走ルートの綿密なチェックに費やされた。

 

そう、逃走するのだ。私は。

 

事が終われば(叔母を“消して”からの話になるが)私は一時雛見沢から消えなければならない。

 

幸いにして、私の背負っていた一切の立場や責任は双子の姉に任せることができる。

 

それに、仲間のためとはいえ手を汚した人間がなにごともなかったかのように日常に戻れるわけがない。

 

私自身そこまで図太くはないことを知っているから、お姉や悟史、レナたちの前でもう一度笑える自信ができるまでは、この村に戻らない覚悟をしていた。

 

それが一番いい形なのだ。

 

“魅音”がその場に残るのだから、ここにいる私は存在しない人間。北条夫妻は“祟り”によって排除され、後には平和な雛見沢だけが残る……。

 

私よりも優秀な姉と、塞ぎこんでいた悟史を立ち直らせた圭ちゃんにかかれば、時間はかかるとしても悟史と沙都子を村の因習から救い出すことはできるだろう。

 

全部終わってほとぼりのさめた頃に、私は戻ってくる。

 

『はじめまして! 魅音の双子の妹です』……ってね。

 

誰も傷つかない、誰もいなくならない。

 

この雛見沢にそんなハッピーエンドを作り出すのが、この村に存在を否定された私の、とびっきりの復讐なんだ。

 

それだけの能力が、私にはある。

 

“園崎魅音”にはできないことが私にはできるんだ。

 

 

さぁ……運命を、変えてみせよう。

 

 

そして。

 

全ての準備が終わった、綿流しのお祭りの日。

 

私は、沙都子の裏山からもう一度だけ雛見沢を眺めた。

 

それは心に焼き付ける、黄金の風景。

 

この村を守れ、と言われて必死で生きてきた。

 

村は私を守ってくれなかったけど、それでも私はいつか、雛見沢に絶対に帰ってくるだろう。

 

そのとき雛見沢はどんな顔を見せているだろう……?

 

「お姉は、悟史か圭ちゃんと結婚してたりするのかな」

 

ちょっと悔しいけど、どっちかといえば悟史のほうがお姉にはしっくりくる気がする。ちぇ~だ。

 

「あぶれた圭ちゃんは、転校生同士でレナにあげよう……いや、古手姉妹のどっちかでもいいかな」

 

どの組み合わせが一番いいだろうと考えるけど、どうにも結論が出ない。でも去年から空席になってる古手神社の神主におさまった圭ちゃんを想像すると笑える。

 

「沙都子は……う~ん、いい女にはなりそうなんだけど、相手が想像つかないや。監督じゃ離れすぎだしね……」

 

この先の未来には……私の姿は、ないんだ。

 

いつか帰ってくるのだとしても……、みんなと一緒にその輝かしい時を過ごせない。

 

そう思ったら、掌に熱い雫がこぼれてきた。

 

……おかしいな、私、笑ってるのに。

 

天気雨みたいな涙をぬぐって、空を仰いで笑う。

 

「……いよいよ決行か」

 

ここからはもう、後戻りはできない。

 

園崎魅音を演じていた女の、最後の舞台の幕が上がる。

 

「ん……」

 

下山するうちに、天気が崩れ始めた。

 

木々は風にあおられて歌うように軋みをあげ、空は刻一刻と暗くなっていく。

 

隠れ家にはテレビがなかったから確認できなかったけど、季節はずれの台風でも近付いているのかもしれない。

 

「雨は、嫌だな……」

 

足跡が残りやすくなるし、叔母をおびきだすのも面倒な手順が必要になってしまう。

 

それに、事が終わったあとの逃走も重労働になるだろう。

 

最悪の場合、祭りが途中で中止されて沙都子たちが予定より早く帰ってきてしまう可能性もある。

 

この悪天候は、決して歓迎できるものではないのだ。

 

「さっさと片付けよう……」

 

林を抜け、用意していたポイントに身を潜める。

 

北条家を監視できる位置だ。

 

スクーターなどへの必要な細工は昼間のうちにすでに済ませている。あとは、予定通り叔母一人をおびき出すだけ、というところで……計画外の出来事があった。

 

「なに……!?」

 

いきなり目の前で、ぶつんと北条家の明かりが消えた。

 

停電……?

 

さきほどからの強風が枝を揺らしているから、その影響でどこかの電線が切れでもしたのだろうか。

 

あまり不測の出来事は勘弁してほしいんだけどな……。

 

北条家からは、叔父と叔母らしい声が怒鳴り合っている様子が聞き取れた。おおかた、どっちがブレーカーの様子を見に行くかで揉めているんだろう。

 

「くだらない連中」

 

しばらくして、叔母ががたがたと音を立てて立て付けの悪い裏口の戸を開けてでてきた。ブレーカーに異常がないからと直接電線を見るつもりなのだろうか。

 

ぶつぶつと文句を言っている様子がこの場所からでもわかるのだが、足取りがどこかおぼつかない。

 

この時間から酔っぱらってるのか……?

 

叔母は電線の様子を見上げたりしていたが、そこへいきなり繁みから飛び出した人影が、ふたつ飛び出していった。

 

「ひッ!? な、なんね!?」

 

自分以外の誰かがこの場に潜んでいたことに驚く間もなくふたつの人影は叔母に迫る。

 

「……チッ」

 

思わず舌打ちした。

 

その二つの人影が、前触れもなく地面に倒れたからだ。

 

叔母を逃がさないために私が用意していたトラップ、草の間に仕掛けたワイヤーで足をとられて転がったらしい。

 

「そ、園崎ッ……!?」

 

作業着姿で地面に転がった男たちを見て脅えた叔母は、慌てて立ち上がるとその男たちと反対側、林の中の小径へと駆け出していく。

 

「く……、了解!」

 

男たちはどうにか足に絡まったワイヤーを外して回収しながら立ち上がると、イヤホンのついた片耳を押さえたまま繁みの中へとまた飛び込んでいく。

 

一時撤退したらしい。

 

叔母は園崎の手の者だと判断したらしいが、確かにそれもあり得るところだ。

 

私は知らなくとも、婆っちゃやお母さんのルートであんな祟りの実行部隊がいてもおかしくはない。

 

叔母だって馬鹿ではない、自分たちが“祟り”に遭うかもしれないというくらいの認識はあったのだろう。

 

一目散に逃げていく叔母に追いつくべく、私はその場を離れて身を隠しながら直線ルートで林道へと向かった。

 

さっきの連中がいれば、たとえ園崎の手の者だとしても、私が見つかるのはまずい。

 

……が。

 

ばらばらと小雨のあたりはじめた林道の脇に顔を出して、すぐにそれどころではない事態に遭遇してしまった。

 

「あれはあんたの差し金かぃね、沙都子ぉ!」

 

「し、知らない知らない! なにを言って……!」

 

やはり祭りが中止になったのかもしれない。

 

予定よりも、ずいぶん早く沙都子がそこにいた。

 

「あんたぁ、どこまで大人を舐めてッ……!」

 

激昂した様子の叔母の両手が沙都子の細い首にかかる。

 

「ひっ、ぎ……!」

 

叔母は酒とさきほどの体験でパニック状態に陥っているのが一目瞭然で、わけのわからない叫びをあげながら両手に力をこめていた。

 

みるみる沙都子の顔色が悪くなる。

 

「……沙都子!」

 

なりふりを構ってはいられない。

 

目の前で危機に際している仲間を見捨てるようでは、仲間のために立てたどんな計画だって無意味になってしまう。

 

「その手を放しな!」

 

「っ……!?」

 

背後から叔母の首の付け根めがけて手刀を落とし、力の抜けた瞬間に朦朧としている沙都子から引き剥がす。

 

「あ、あんたはっ……!?」

 

園崎の人間である私の顔を目にして、叔母の顔には恐怖の色が浮かんでいた。

 

そう、もっと恐れるがいい。

 

あんたは私を怒らせた。

 

立場があったならここまで怒ることは許されなかったが、いまの私は祟りの執行者でしかない。

 

「あ、あああ……!」

 

がくがくと震えながら、それでも後じさり逃げようとするのだが、その反応はあまりにも鈍すぎる。

 

「よくも私の仲間に……!」

 

窒息しかけた沙都子は恐怖と苦痛のためか意識を失って、樹にもたれたまま力無くうなだれている。

 

……当然、こいつを許せるわけがなかった。

 

素早く腕をとって背後にまわり、肩と肘をひねりあげる。

 

「あ、ぎゃあああ!?」

 

腕が折れる寸前まで軋ませながら背後の茂みへ誘導しようとするが、叔母は予想以上に暴れたのでその腕を解放しなければならなかった。

 

「はあッ、はッ、ひ、ひぃぃぃ……!」

 

脅えた視線を私に向けてくる。

 

これではもはや、失踪させるための説得は無理か。

 

ここに至れば、叔母のほうを殺すしかないかもしれない。

 

その場合、ここから死体を運び去る余裕がなければ、死体に腕を折られた痕跡が残るのはまずいのだ。

 

となると……どうにか叔母を拘束したうえで、この場から連れ出して別の場所で殺すのが正解だろうか。

 

最善のプランからは外れるが、仕方ない。

 

「っ……!」

 

逃げようとする叔母との間合いを再び詰めようとしたときだった。

 

茂みから、数人の男が飛び出してくる。

 

叔母のほうに二人、そして私のほうにも二人!

 

「!」

 

いまの私の感覚だからこそ、寸前で気づけた。

 

素早く体をかわしてその腕をかいくぐり、もうひとりの懐へ入り込むと足を払うと同時に背中で浮かせてやった。

 

「うわ……っ!?」

 

男が受身をとって地面を転がり、すぐに立ち上がる。

 

頭の中に警戒信号のランプが灯った。

 

いまの動作は、この男たちが何らかの格闘術の訓練を受けていることを示している。

 

少なくともただの組員ではない。

 

そして、こいつらの動きには何の躊躇いもなく、私を手荒に取り押さえようとする意志があった。

 

それが意味するところはひとつだ。

 

 

……園崎の人間じゃ、ない?




<雑談>

あるぇ~、魅音さんまだ昭和57年6月っすか?
というわけで、すこし間は空きましたが第3部開始です。
でもね魅音さん、単独行動はよくないよ……。
会話がないから書きにくいじゃないかッ!?(ぁ
次回は現在の時間軸に戻りますので、
このお話の続きは何話か先になります。
第1部でルールX、第2部でルールZを打ち破った
圭一と部活メンバーたちですが第3部ではルールYに加えて
破ったはずの錠前にも反撃されるかもしれません。
はてさて、どうなることでしょうか……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ひぐらしのなく頃に─後祭─(作者:通行人A')(原作:ひぐらしのなく頃に)

▼昭和五十八年六月。雛見沢村が消えた。▼村民約千二百名が一夜にして失われたその災害の中で、ただ一人生き残った少年「前原圭一」。自分が皆を祟り殺した——その確信を胸に、病室の天井を見つめながら、音もなく朽ちていく日々を送っていた。▼そんな彼の前に、一人の少女が現れる。▼翠の髪を揺らして、迷いなく病室に踏み込んできた園崎詩音は、廃人寸前の圭一を一瞥してこう言った…


総合評価:664/評価:9.14/連載:51話/更新日時:2026年07月20日(月) 12:50 小説情報

ひぐらしのなく頃に 時明し編 (圭一×レナ)(作者:晃晃)(原作:ひぐらしのなく頃に)

レナ主人公・圭レナ寄りです。▼原作を尊重しつつ、「もし罪滅ぼし編のレナが最初からやり直せたら」を描いていきます。▼以下の「ひぐらしのなく頃に~神楽舞」もぜひご一読を。▼https://syosetu.org/novel/414398/▼(本作品は2000年代に公開されていた『ひぐらしのなく頃に』二次創作作品です。▼現在は公開元サイトが閉鎖されており、保存して…


総合評価:13/評価:-.--/連載:8話/更新日時:2026年07月05日(日) 20:56 小説情報

共生〜罪滅ぼし零れ話〜(作者:たかお)(原作:ひぐらしのなく頃に)

学校籠城事件で逮捕されたために、大災害を免れた大人レナが過去に逆行する話。▼※2017/8/13「逆行」「独自設定」タグ追加。あらすじの一部表記を削除。感想受付設定を変更。▼※2017/12/31 完結しました。


総合評価:1775/評価:8.33/完結:21話/更新日時:2018年01月06日(土) 14:10 小説情報

E.V.A.~Eternal Victoried Angel~(作者:ジェニシア珀里)(原作:新世紀エヴァンゲリオン)

始まりと、終わりの、物語。     ▼  それは、希望か、絶望か。     ▼     written by ''Jenissia HAKURI''


総合評価:7763/評価:8.32/連載:27話/更新日時:2026年07月15日(水) 00:00 小説情報

【転スラ】 〜双星の智慧と新たなる理想郷~(作者:Hyades)(原作:転生したらスライムだった件)

【過去を救い、未来を護れ。次元を超えた「双星(ふたり)のリムル」が、仕組まれた運命に立ち向かう。】▼終末宣言から5年後。最強の存在となったリムル=テンペストは、突如として過去の世界へと送り込まれる。▼意識の底で鳴り響くアラームと共に目覚めた彼に提示された帰還条件は、二つ。▼「歴史をより良い結末へ改変すること」▼そして──「歴史の果てに待ち受ける強敵に、再び勝…


総合評価:646/評価:9/連載:60話/更新日時:2026年07月18日(土) 17:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>