MCU転生チート主人公の思考実験   作:鳥ささみ

8 / 9
第8話

 

1:二〇一六年・夏

 

二〇一六年。ソコヴィアの一件から一年が経過した世界は、急速に「超人という不確定要素」への恐怖を募らせていた。

ワシントンでのシールド崩壊、ソウルでの電脳テロ、そしてソコヴィアの浮上。アベンジャーズが世界を救うたびに、その破壊の爪痕は国家の許容量を超えていく。

 

ラゴスで起きたワンダ・マキシモフの失態――爆発の巻き添えによる多数の一般市民の死傷――は、ついに世界の理性を限界へと到達させた。国際社会はアベンジャーズを国連の管理下に置くための法的な檻、『ソコヴィア協定』のドラフトを完成させ、彼らに署名を突きつけた。

 

ニューヨーク郊外、レイメイ・メディカル本社のCEO執務室。

二十五歳になったカケル・レイメイは、高級な白衣のポケットに手を突っ込み、ガラス窓の向こうに広がるマンハッタンの景色を静かに見つめていた。彼のデスクの上には、国連から送られてきた『ソコヴィア協定』の最高機密ファイルがホログラムで浮かび上がっている。

 

カケルには未来のシナリオを知る「原作知識」など存在しない。だが、彼の脳内に宿る神の権能『ソロモンの知恵』は、アベンジャーズ内部の精神的・思想的ログから、彼らが今まさに修復不可能なレベルで分断されつつあることを、冷徹な因果律の計算によって弾き出していた。

 

「――スタークは賛成、ロジャースは反対。論理の方向性が完全に真逆だな」

 

カケルが小さく呟いたその時、オフィスのアラートが滑らかな音を立てて解除された。

自動ドアが開き、部屋に入ってきたのは、一台のアイアンマンスーツ――ではなく、スリーピースの高級スーツを身にまとったトニー・スターク本人だった。

その顔には、かつての傲慢なプレイボーイの面影はなく、命を削って地球の防衛線を構築しようとする、狂気的なまでの義務感と疲弊が刻み込まれていた。

 

「……相変わらず、君のセキュリティは僕のハッキングすら受け付けないな、サイトウ。お陰で正面玄関から受付を通る羽目になった」

 

トニーは自嘲気味に笑いながら、カケルのデスクの前に立ち、ホログラムの協定書を指差した。

 

「国連はアベンジャーズだけじゃない、君の『イージス・ディフェンス・システムズ』も管理下に置きたがっている。……署名しろ、サイトウ。これ以上、僕たちが法を無視して『正しいと思うこと』をやり続ければ、世界は僕たちをただの危険生物とみなす。公的な枠組み(システム)に入ることだけが、今、人間を、そして僕たちの知性を守る唯一のロジックだ」

 

トニーの言葉には、私怨も、エゴもなかった。彼は自分が生み出してしまったウルトロンという罪の重さを背負い、どれほど泥をすすり、自由を奪われようとも、地球に迫る「宇宙の脅威」に対抗するための公的な防衛線を維持しようと必死だった。

 

カケルは、トニーの目の奥にある、狂気じみた防衛への執念(覚悟)を『ソロモンの知恵』で正しく読み取った。

カケルは、トニー・スタークという男を絶対に侮らない。一個人の脆い精神を抱えながら、それでも地球の全資産を賭けて戦おうとするその知性と執念には、システム構築のプロフェッショナルとして、深い敬意(リスペクト)を抱いていた。

 

「スターク。お前が世界を守るために、その国連という濁った泥水を飲むというなら、私はその知性と覚悟に敬意を表そう」

 

カケルは冷淡に、しかし対等な天才に対する声音で言葉を返した。

 

「……だが、私は署名しない」

 

「なぜだ! 君のイージスが持つ『組織の物量』と、あの戦術重機(タイタン)の出力は世界に必要だ。国連の法的な盾(バックアップ)がなければ、君たちだっていつか犯罪者に――」

 

「前時代の遺物である『国家の集合体(国連)』に、イージスの防衛インフラを委ねるのは非合理的だからだ」

カケルは遮った。

「政治家どもの保身と承認プロセス(手続き)を挟まなければ動けない防衛システムなど、次の『致命的なバグ(外敵)』が訪れた瞬間に瓦解する。スターク、お前が法律という表の『盾』として世界を繋ぎ止めるというなら、私は法を超えた裏の『楔(ハードウェア)』として、お前の背後の防衛線を維持する。……お前は、お前の信じるロジックでアベンジャーズを統率しろ」

 

トニーはカケルの青い瞳を見つめ、彼がただの傲慢さで拒絶しているのではないことを理解した。カケルは、トニーとは全く異なるアプローチで、しかしトニーと同じ「地球の絶対防衛」というゴールを見据えている。

 

「……勝手な男だ。相変わらず、僕のハルクバスターより分の悪い賭けを好むらしい」

トニーは小さく首を振ると、少しだけ安堵したような影を瞳に宿し、オフィスを後にした。二人の天才は、決裂したのではない。お互いの役割を論理的に定義し直したのだ。

 

2:ウィーンの惨劇と、逆算された「バグ」

 

事態が動いたのは、その数日後だった。

ウィーンの国連ウィキでの協定署名式の最中、凄まじい爆発テロが発生。ワカンダのティ・チャカ国王を含む多数の要人が死亡し、防犯カメラの映像から、キャプテン・アメリカの親友であり、かつてヒドラに洗脳されていた暗殺者「バッキー・バーンズ(ウィンター・ソルジャー)」が容疑者として全世界に指名手配された。

 

世界は憎悪と混沌に包まれ、アベンジャーズの決裂(トニー派によるバッキー捕縛と、キャップ派によるバッキー擁護)は決定的なものとなった。

 

レイメイ・メディカルのオフィスで、カケルはテロ現場の衛星ログと、ネットに流れる残留エネルギーの波形データを『ソロモンの知恵』で処理していた。彼の脳内は、わずかコンマ数秒で、事件の「不自然さ」を完全に可視化する。

 

「……合わない。計算が合わないな」

 

カケルはホログラム画面に指を滑らせ、爆発の熱量ベクトルの中心点を拡大した。

 

「バッキー・バーンズという暗殺者の行動ロジックは、徹底的な隠密と非探知(ステルス)だ。国連の正面から、自分の顔をカメラに晒して爆弾を仕掛けるような無駄な真似はしない。……なるほど。これはアベンジャーズを内側から崩壊させるために、何者かが周到に設計した『感情的な罠(プログラム)』か」

 

カケルは黒幕(ヘルムート・ジモ)の存在とその意図を、原作知識なしに、純粋な状況証拠の逆算だけで看破した。

 

彼は即座に、トニー・スタークへの秘匿ホットラインを開いた。

 

『スターク、踊らされるな。ウィーンのテロはウィンター・ソルジャーの犯行ではない。お前たちの「親友への情」と「義務感」の衝突を狙った、極めて高度な分断工作だ』

 

通信の向こう、統合タスクフォースの司令部にいるトニーは、カケルの警告を静かに聞いた。トニーの知性もまた、その可能性に薄々気づいていた。だが、彼の周囲にはロス長官をはじめとする国連の監視の目が光り、法的なタイムリミットが彼の手足を縛り付けていた。

 

『……分かっている、サイトウ。僕だって馬鹿じゃない。だが、僕にはもう、時間も選択肢もないんだ。ロス長官はキャップごとバッキーを射殺する許可を出した。僕が、僕の手で彼らを法的に「保護(捕縛)」しなければ、キャップは本当に犯罪者として殺される……!』

 

トニーの声には、友を想う悲痛な響きがあった。彼は罠だと知りつつも、システム(協定)を維持するために、その破滅的なゲームに乗るしかなかったのだ。

 

カケルは、組織の縛りによって身動きが取れなくなっているトニーの限界を冷徹に見つめ、静かに通信を切った。

 

「システムが法によって麻痺しているなら、現場のロジックでトリアージ(被害抑制)を行うまでだ。ジョン、全部隊に告げろ。ドイツの空港へ、イージスの万能輸送艦『アーク・シェル』を先行展開させる」

 

3:空港の決戦――システムのトリアージ

 

ドイツ、ライプツィヒ・ハレ空港。

曇天の下、広大な滑走路を挟んで、トニー・スターク率いる「協定賛成派」と、スティーブ・ロジャース率いる「協定反対派」が、ついに正面から対峙していた。

 

「スティーブ、頼むから大人しく投降してくれ!」

トニーのアイアンマン・マークXLVI(フォーティシックス)が飛行スラスターを鳴らす。

 

「断る、トニー。バッキーは嵌められているんだ。真犯人を止めなければ世界が危ない!」

キャプテン・アメリカが盾を構える。

 

互いの正義と情が激突し、かつて世界を救った仲間同士による、血の通った、しかしあまりにも不毛な死闘が始まった。アントマンが巨大化し、ブラックパンサーが爪を研ぎ、空中を電光と衝撃波が駆け抜ける。

 

だが、彼らが空港のインフラを破壊しながら激戦を繰り広げるその周囲、半径五キロメートルの空間は、すでにカケルの手によって完全に「外科手術」を施されていた。

 

空港職員や一般市民は、アベンジャーズが拳を交える一時間前に、イージスの医療救助部隊によって「空港内の一時的なガス漏れ検知」という大義名分のもと、一人残らず安全圏へとシステマチックに避難を完了していた。

 

滑走路の周囲の空気が光学迷彩を解いて歪み、ジョンが駆る戦術汎用重機『ブレイク・スルー(タイタン)』を筆頭とする重機連隊が、結界のように戦闘エリアを取り囲む。

 

「ボスからの命令だ!」

ジョンのタイタンが、戦闘の衝撃で崩落しかけた管制塔の支柱をその剛腕でガッチリと受け止め、構造物の崩壊を防いだ。

「ヒーローどもの喧嘩に付き合って、一般のインフラを死なせるわけにいかねえんだよ! マークII部隊、周囲の衝撃波を減衰フィールドで相殺しろ!」

 

アベンジャーズが互いに傷つけ合う裏で、イージスの組織力は、戦闘の被害を完璧にその「局所(滑走路)」だけに抑え込むトリアージを遂行していた。

 

そして、悲劇の瞬間が訪れる。

キャップとバッキーを乗せたクインジェットが飛び立つのを阻止するため、空中で激しいドッグファイトが展開された。ヴィジョンが放った高出力の光線が、トニーの親友であるジェームズ・ローズ(ウォーマシン)のリアクターを誤って直撃。

動力を完全に喪失したウォーマシンの重量装甲が、高度数百メートルから、真っ逆さまに地上へと落下していく。

 

「ローディーーーッ!!!」

トニーがスラスターを最大にして下降するが、速度が足りない。間に合わない。

原作であれば、そのまま地面に激突し、下半身不随の重傷を負うはずの絶望の軌道。

 

その落下の軌道上、大気中に、イージスの万能輸送艦『アーク・シェル』が放った高密度量子プラズマの「減速・捕縛フィールド(ゼウスの神雷出力を応用した斥力クッション)」が、カケルのオフィスからの超高速演算によって、一瞬で、完璧な座標へと展開された。

 

**――ズゥゥゥゥゥゥンッ!!!**

 

ウォーマシンの巨体は、地面に激突する寸前、青白い量子光のクッションに包み込まれ、その凄まじい落下の慣性エネルギーを完全に相殺されて、滑走路の草地へと柔らかく着地した。

 

装甲はひどく大破していたが、内部のローディの脊髄へのダメージは、カケルの論理的な介入によって「ゼロ」に抑え込まれていた。

 

「ローディ! おい、ローディ!!」

着地したトニーが狂ったように装甲を剥ぎ取る。

 

「……ハハ、大丈夫だ、トニー。少し腰を強打したみたいだが……骨は折れてない。……あそこの『巨大ロボット』の旦那に、命を救われたな」

ローディが掠れた声で笑う。

 

トニーは、管制塔を支えながら自分たちを守るように立っているジョンの『ブレイク・スルー』を見上げ、通信を開いた。

「……サイトウ。君は、ここまで計算して……」

 

『言ったはずだ、スターク。お前の背後の防衛線(命)は、私が維持すると』

カケルの冷徹な、しかし絶対的な安定感を持つ声が、トニーのインカムに響いた。

『お前は壊れてはならない防衛資産だ。……お前の「目」は死んでいないはずだ。クインジェットの向かった先を追え。真犯人のロジックを、お前の手でデリートしてこい』

 

「……ああ。行ってくる」

トニーはマスクを閉じ、親友の無事を確認した絶対の安堵と共に、シベリアの地へと向かって、音速を超えて飛び去った。

 

4:シベリアの決別――「最高資産」の守護

 

シベリアの極寒の地下基地。

すべては黒幕、ヘルムート・ジモの計算通りだった。彼はアベンジャーズを戦わせるために、五人のウィンター・ソルジャーを殺害し、トニーに「一九九一年の記録映像」を突きつけた。

 

画面の中で、洗練されていない、洗脳された状態のバッキー・バーンズが、トニーの両親を無慈悲に殺害し、首の骨を折る光景が流れる。

 

「……トニー」

スティーブが必死に声をかけるが、トニーの精神は、そのあまりにも残酷な真実の前に、完全に崩壊の臨界点を迎えていた。

 

「知っていたのか……?」

トニーの声は、血を吐くような怒りに震えていた。「僕に黙っていたのか、スティーブ!!」

 

激昂したアイアンマンが、バッキーに向かってリパルサーレイを放つ。スティーブがそれを盾で防ぐ。理性を失ったトニーと、親友を守ろうとするキャップ。三人の超人による、生々しい、骨の砕け合うような泥沼の死闘が始まった。

 

ジモは、コントロールルームの強化ガラスの向こうから、その光景を満足そうに見つめていた。アベンジャーズは今、自らの「感情」という最大の脆弱性によって、完全に内側から自滅しようとしている。自らの家族をソコヴィアで失ったジモの復讐は、完璧に達成されたはずだった。

 

だが、その死闘の最中、地下基地の分厚い天井が、凄まじい質量によって強引に踏み抜かれた。

 

**――バリバリバリバリ、ドゴォォォォォォォンッ!!!**

 

轟音と共に中央に降臨したのは、カケル・レイメイ自身のフラッグシップ重機、眩い白銀の量子結晶装甲を纏った『ブレイク・スルー・エグゼクティブ』だった。

全高五メートルの巨神は、着地の衝撃でトニーとキャップの間に物理的な巨大な「壁」として割って入り、その超サーボモーターの剛腕で、トニーのアイアンマンの腕と、キャップの盾を、同時に完全に掴んで固定した。

 

「双方、戦闘を停止しろ。これ以上の戦闘は、防衛資産の無駄遣いだ」

 

重機の外部スピーカーから響いたのは、ニューヨークのオフィスから遠隔同調(精神リンク)している、カケル本人の冷徹な音声だった。

 

「サイトウ、どけッ!! こいつは僕の両親を殺したんだ!!」

トニーがリパルサーを噴射して暴れるが、カケルの重機は『ヘラクレスの剛力』の出力を工業的に最大充填されており、アイアンマンの出力をもってしても、指一本動かすことすらできない。

 

「スターク、お前の怒りのロジックは理解できる。だが、洗脳コードというプログラムによって動かされていたハードウェア(バッキー)を破壊したところで、お前の両親は蘇らない。それは科学者の犯す、最も愚かな計算ミス(エラー)だ」

 

カケルの重機は、二人を静かに引き離し、そのままコントロールルームの壁を強引に破壊した。

奥で、自らの計画を狂わされ、拳銃を自らの頭に突きつけて自殺しようとしていたヘルムート・ジモの腕を、重機から射出されたナノマシンのワイヤーが瞬時に物理拘束した。

 

「な……なぜ邪魔をする! スタークは自分の罪に溺れて死ぬべきだったんだ! 私の計画は完璧だった、アベンジャーズは死んだはずだ!!」

ジモが狂ったように叫ぶ。

 

重機の頭部カメラが、静かにジモを見下ろした。

 

「ヘルムート・ジモ。お前の復讐のアルゴリズムは、実に見事だった。アベンジャーズという不安定なシステムが持つ『感情』という最大の脆弱性を、完璧に突いてみせた。……だからこそ、お前をここで死なせるのは非合理的だ」

 

カケルの冷徹な声が、凍りついた地下基地に響き渡る。

 

「お前はアベンジャーズの『罪の証人』として、国際法廷でそのすべてを語ってもらう。スタークは地球に必要な最高資産(知性)だ。お前ごときの私怨で、彼の未来(キャパシティ)を損失させるわけにはいかない。――立て、スターク。お前の知性は、こんな雪深い地下で、過去の幽霊と心中していいものではないはずだ」

 

トニーは、息を荒くしながら、大破したマスクの奥でカケルの言葉を聞いていた。

両親を失った絶望は消えない。だが、カケルの圧倒的な理性の介入が、トニーを「一線を越える(暗殺者になる)」一歩手前で、完全に踏みとどまらせていた。

 

スティーブ・ロジャースもまた、ボロボロになった盾を降ろし、カケルの重機を見つめていた。カケルはアベンジャーズの誰も救おうとはしていない。ただ、地球の防衛システムとして、トニー・スタークという天才を壊さないために、その身代わりとして「冷徹な現実」をその場に叩きつけたのだ。

 

5:エピローグ

 

数日後。アベンジャーズは表面上、形を失っていた。

スティーブ・ロジャースは盾を置いて姿を消し、協定に反対したメンバーは潜伏を余儀なくされた。アベンジャーズ・タワーは静まり返り、世界の人々は「超人は万能の神ではなく、互いに牙を剥く危険性を持った人間だ」という現実を突きつけられていた。

 

しかし、トニー・スタークの精神は、原作ほど破滅していなかった。

ローディは五体満足でリハビリを終え、アベンジャーズ・タワーのラボでトニーを支えている。ジモの身柄はイージスの手によって国際法廷へ送られ、ウィーンテロの真実が公表されたことで、アベンジャーズの分断は「防衛思想の違い」という政治的な枠組みに落ち着いていた。

 

ニューヨークのCEO執務室。カケルがデスクで静かに書類に目を通していると、トニー・スタークからの秘匿通信が繋がった。

 

画面の中のトニーは、シベリアの時とは違い、その目に天才としての鋭い光を取り戻していた。

 

『……また、大きな借りができたな、サイトウ。ローディのことも、シベリアでのことも。君のあの無茶苦茶な説教がなければ、僕は今頃、ただの復讐鬼として檻の中にいたかもしれない』

 

「フン、お前が正気を取り戻したならそれでいい、スターク。お前の壊れた玩具(スーツ)の修理は終わったのか?」

 

『ああ、アップデートの真っ最中さ』

トニーは不敵に笑い、画面の向こうでレンチを回してみせた。

『アベンジャーズは一度バラバラになった。だが、僕はまだ諦めていない。世界が僕たちを拒絶しようとも、僕は僕のやり方で、来るべき“何か”に備える』

 

「いい心がけだ」

カケルは冷たく、しかし確かにトニーの知性を認める笑みを浮かべた。

「お前が表で法律の泥水をすすりながら防衛線を張るというなら、私は裏で、全ての脅威を論理的に弾き返す。精々私の合理性に置いていかれないよう、そのブリキ缶を磨いておくんだな」

 

『言われなくても、次は君のタイタンを驚かせるようなスーツを造ってやるさ』

 

通信が切れる。

カケルは静かに息を吐き、椅子にもたれかかった。彼には原作知識はない。だが、彼の『ソロモンの知恵』は、地球のネットワークの遥か外側――大気圏を超えた宇宙の深淵から届く、不気味な量子空間の歪みを、すでに観測システムを通じて微かに感知していた。

 

それは、トニー・スタークが数年間、病的なまでに恐れ続けていた「宇宙からの恐怖」の正体に他ならない。

 

カケルの瞳が、青い量子光をギラリと放ち、鋭く細められる。

 

「……来るな。スタークが恐れ、アベンジャーズが怯えていた『宇宙のバグ(外敵)』が、いよいよこの盤面に現れるか」

 

カケルはデスクのキーボードに指を置き、次なる宇宙規模の絶対防衛プロトコル――『神殺しの計算式』の構築に向けて、静かに、そして圧倒的な速度でタイピングを開始するのだった。

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