MCU転生チート主人公の思考実験   作:鳥ささみ

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第9話

 

1:二〇一六年・冬

 

アベンジャーズがシベリアの雪原で内側から崩壊し、世界のパワーバランスが完全に変革を迎えてから数ヶ月。世界は表向き、国連が主報する『ソコヴィア協定』によって超人たちを管理下に置いたという偽りの安堵に浸っていた。

 

だが、ニューヨーク郊外に位置するイージス・ディフェンス・システムズの最高機密オフィスに座るカケル・レイメイにとって、そんな政治劇はどうでもいいノイズに過ぎなかった。

 

カケルは、高級な白衣のポケットに手を突っ込み、ホログラムディスプレイに並ぶ「地球全域の空間歪みログ」を冷徹な瞳で見つめていた。

彼には未来のシナリオを知る「原作知識」など存在しない。だが、彼の魂に宿る神の権能『ソロモンの知恵』は、地球の磁場や大気圏の外縁に、既存の物理法則では到底説明のつかない「奇妙な幾何学模様のエネルギー障壁」が展開されている事実を、純粋な状況証拠のログから逆算して突き止めていた。

 

カケルはそれをオカルトとも魔術とも呼ばない。彼の冷徹な頭脳において、それは『現在の地球科学が未だ数式化できていない、高次元の物理現象(プログラム)』だった。

 

「――不可解だな。このニューヨークの一角、あるいは世界の数箇所から発生している高次元シールドは、地球の空間構造そのものを外側から保護している。……だが、その負荷が限界に達しつつある」

 

カケルがキーボードに指を滑らせ、外宇宙の観測ログを重ね合わせたその時、画面の計算式が真っ赤なアラートを弾き出した。

 

『警告。高次元シールドの外側――遥か彼方の星系から、既存の質量(マテリアル)の定義を遥かに超越した、極大のエネルギー反応の接近を検知。……この波形は、かつてロキがニューヨークに持ち込んだ“テッセラクト(四次元キューブ)”や、ウルトロンの核となったストーンのエネルギーと同質です』

 

「なるほど」

カケルは動かない。オフィスに座ったまま、冷たい瞳でその破滅的なシミュレーションの推移を見つめる。

「ウルトロンというバグの根源。あれと同等、あるいはそれ以上の『宇宙の基本法則を書き換える特異点(バグアイテム)』が、この地球に複数存在する。そして、それを根こそぎ回収しようとする“星間規模の巨大な意思”が、二年以内にこの地球へ直接降臨する」

 

カケルは原作知識を持たない。サノスという名も、インフィニティ・ストーンという総称も知らない。だが、彼の絶対の知性は、地球が近い将来、宇宙規模のシステムエラー(侵略)によって物理的に消滅するリスクを、完璧な確率論として弾き出していた。

 

地球が滅べば、レイメイ・メディカルも、イージスのシステムも、彼の日常もすべて消える。それはカケルの『生存のロジック』において、絶対に排除されるべき脆弱性だった。

 

「――スタークを呼べ。彼が数年間、病的なまでに怯え続けていた『宇宙の恐怖』の正体を、論理的に教えてやる」

 

2:二つの知性の激突と、理不尽の解析

 

数時間後、アベンジャーズ・タワーの最奥にあるプライベートラボ。

かつての仲間を失い、孤独な防衛線の構築に心身をすり減らしていたトニー・スタークの前に、カケルが持ち込んだホログラムデータが展開された。

 

「……何だこれは、サイトウ。僕の新しいAI(フライデー)の演算でも、この数式の半分も解読できないぞ」

トニーはコーヒーカップを握ったまま、血走った目で画面を見つめた。画面には、地球を取り囲む見えない障壁と、それを突き破ろうとする「外宇宙の極大エネルギーベクトル」が立体的に描写されていた。

 

「お前の人工知能では無理もない、スターク。これは既存の三次元科学ではなく、宇宙の因果律そのものを書き換える特異点の集積(バグ)だ」

カケルは白衣の袖を軽く捲り、トニーのデスクのコントロールパネルを力尽くで上書き(ハッキング)した。

 

「二年後、お前が恐れていた『宇宙の嵐』がこの地球に降臨する。そいつは、宇宙の法則(現実・空間・時間)を完全に掌握・改変する、理不尽なチート能力を複数携えてやってくる。……どれほど強固な装甲を造ろうが、どれほど洗練されたナノテクノロジーでお前が身を包もうが、相手が『お前のスーツの分子結合をシャボン玉に変える』というコマンドを一行実行しただけで、お前は鉄屑に変わる。これが、お前たちが挑もうとしている戦いの冷酷な現実(仕様)だ」

 

トニーの顔から血の気が引いていく。

宇宙から迫る脅威の全貌。それは、どれほどアイアンマンスーツをアップデートしたところで、物理的なアプローチをすべて無効化されるという、絶対的な「理不尽の降臨」だった。

 

「……ハハ、冗談だろ。宇宙の法則を書き換える? そんなバカげた相手に、僕たちはどうやって戦えばいいんだ? アベンジャーズはバラバラだ。僕の手元には、このナノテクのプロトタイプしか残いない。……打つ手がない(チェックメイト)じゃないか」

 

トニーの精神が、かつてない絶望の深淵へと堕ちかけ、その拳が小刻みに震え始める。

 

だが、その孤独な天才の肩を、カケルの冷たい、しかし絶対的に揺るぎないロジックを孕んだ声が打った。

 

「怯えるな、トニー・スターク。お前のその貧弱な脳が絶望に至るプロセスなど、私の知性の前では想定内だ」

 

カケルは不敵に、最高に傲慢な笑みをその端正な顔に浮かべた。

 

「敵がどんな未知の化け物だろうが、神を自称する存在だろうが、私には関係のないことだ。相手が法則の改変エネルギーを放射してくるというなら、その『放射プログラムそのものを強制終了(キル)させるファイアウォール』を、物理的に戦場へ展開すればいいだけの話だ」

 

「ファイアウォール……? 宇宙の法則を書き換えるエネルギーを、どうやって相殺するって言うんだ?」

 

「お前のナノテクノロジーによる『超高密度電気回路の可変性』。そして、我が社イージス重工が誇る『戦術重機(タイタン)の超巨大フレームの物量』。これらを融合させ、宇宙の理不尽を力尽くで中和する『概念遮断要塞』を今から建造する。――お前のアイアンマンのナンバーを一つ、私との共同開発のために空けろ」

 

トニーは目を見開いた。カケルの青い瞳の奥にあるのは、神への恐怖ではなく、どんな未知のバグが来ようとも「仕様(システム)」の段階で封殺しようとする、圧倒的な知性の暴威だった。

 

トニーの脳裏に、かつて父親ハワード・スタークが遺した、新要素のエネルギー理論と、それを遥かに凌駕するカケルの数式が火花を散らして結合していく。トニーの唇が、絶望から一転して、狂気じみた天才の笑みへと歪んだ。

 

「……いいだろう、サイトウ。いや、カケル・レイメイ。僕の最高のナンバリングを君にやる。**『アイアンマン・マーク63』**。……神のチートを無効化する、最高の檻(システム)を造ろう」

 

3:『ゴッドキラー計画』――理不尽をへし折る檻の建造

 

そこからの十八ヶ月間、地球の裏側で、人類の知性の最高峰が完全に融合した。

 

建造の舞台となったのは、イージス・ディフェンス・システムズが太平洋の海底深くに秘匿していた、巨大な自動鋳造潜水ドック。

アベンジャーズの他の誰も知らず、国連の監視の目すらも完全に遮断されたその空間で、全長数十メートルに及ぶ、人類史上最大の「アイアンマン」の建造が開始された。

 

その計画の名は――**『ゴッドキラー(Godkiller)』**。

 

カケルとトニーの論理的な役割分担は、既存の兵器開発の概念を遥かに超越していた。

 

まず、**トニー・スターク**は「脳」と「制御システム」を担当した。

マーク63の全身の装甲および内部構造は、数十億基の次世代ナノマシンによって構成されている。これにより、どれほど外部から物理的な破壊を受けようとも、コンマ数秒で自動修復し、戦況に応じて無限の武装や、エネルギー偏向ミラーへとその形状を瞬時に変形(プログラミング)させる、流動的な防衛ハードウェアを完成させた。

 

次に、**イージス重工業**は「骨格」と「物量」を担当した。

戦術汎用重機『ブレイク・スルー(タイタン)』で培われた、超高圧サーボモーターとチタウリの残骸から逆算した歪曲チタン合金の複合骨格。それは、未知の物理的な一撃にすら耐えうる、文字通りの「不壊の檻」としての外殻を形成していく。

 

最大のブラックボックスである「心臓(動力炉)」を担当したのは、**カケル・レイメイ**本人だった。

 

どれほどトニーのアーク・リアクターを大型化し、出力を高めたところで、宇宙の基本法則を書き換えるような特異点エネルギーを正面からジャミングするための「出力」には到底足りない。

 

カケルは、海底ドックの制御台(ポディウム)の上に立ち、自身の魂のOSへとダイブした。

彼の中に眠る『シャザムの六つの神権』――**『ゼウスの神雷(絶対のエネルギー出力)』『ヘラクレスの剛力(物理的な不変性)』『アキレスの勇気(概念的耐性)』**。カケルはこれらの魔術的・神話的な概念構造を、イージスの量子力学コンバーターを介して、純粋な「高次元の物理波動」へと強制的に翻訳・変換。

 

マーク63の胸部に設置された、直径五メートルにおよぶ極大のオプティカル・リアクターへ、カケル自身の魂の出力をダイレクトに同期(直結)させたのだ。

 

「――システム同期率、一〇〇%。神の権能を符号化した『プロトコル・シャザム』、マーク63の炉心(コア)へ完全定着」

 

カケルが冷徹にキーボードを叩くと、暗闇の海底ドックの奥で、その超巨大な鉄の巨神の瞳が、青白く禍々しい量子光を放って覚醒した。

 

**『アイアンマン・マーク63:ゴッドキラー、全システム起動(オンライン)』**

 

フライデーの代替AIであるジャキの滑らかな音声が、ドック内に響き渡る。

このマーク63の真の機能は、巨大ロボットとして肉弾戦をすることではない。

カケルの神権エネルギーとトニーのナノテクノロジーを最大出力で解放することにより、「半径五キロメートル以内の空間において、あらゆる超常の現実改変エネルギーを完全に遮断・無効化する『絶対論理フィールド(アンチ・ファイアウォール)』」を展開することにある。

 

このフィールドの内部に引きずり込まれた瞬間、敵がどれほど理不尽な法則改変を試みようが、その命令(コマンド)は空間に届かず不発に終わる。

 

未知の超常(チート)を強制終了させ、どんな相手だろうが単なる「物理的な肉体(質量)」へとダウングレードさせるための、超巨大な移動式デバッガ。それこそが、二人の天才が導き出した絶対の攻略ロジックだった。

 

4:エピローグ

 

数か月後。太平洋の海底深くに秘匿された、イージス重工の自動鋳造潜水ドック。

完成したアイアンマン・マーク63『ゴッドキラー』の、見上げるような巨体の前で、トニー・スタークは手元のコーヒーを一口すすり、隣に立つカケルを見上げた。

 

その漆黒と真紅、そして白銀のラインが混ざり合って明滅する美しい装甲は、カケルの神権エネルギーと同期し、静かに深呼吸をするように量子光を放っている。

 

「……完璧なシステムだ、サイトウ。君の言う通りだ」

トニーは不敵に笑い、マーク63を見上げた。

「相手が宇宙のどんな化け物だろうが、神を自称するサイコパスだろうが関係ない。このマーク63が展開する『中和フィールド』の内部じゃ、あらゆる超常のチート能力は不発に終わり、ただの“物理的な肉体”に引きずり下ろされる。これなら、どんな奴が来ても僕たちの科学と、君のイージスの物量で殴り倒せる」

 

「当然だ、スターク」

カケルは白衣のポケットに手を突っ込んだまま、冷淡に巨神を見つめ返した。

「敵が誰であるか、どんな目的を持っているかなど、私のロジックの前では重要ではない。どんなバグ(未知の脅威)が来ようとも、そのシステム(仕様)の段階で特異点エネルギーを強制終了(デリート)すればいいだけの話だ。神の座から引きずり下ろしてしまえば、あとは単なる肉の塊。我が社の戦術重機(タイタン)連隊の圧倒的な物理質量で、その首を論理的にへし折る」

 

「ああ。地球の最高資産(僕たち二人)を怒らせた代償を、宇宙の果てまで教えてやろう」

トニーはナノテクアーマー(マーク50)のデバイスを起動させ、自身の戦場へと向かって不敵に飛び去っていった。

 

一人残されたドックで、カケルはメインモニターに映し出される「外宇宙からの極大質量接近まで」のカウントダウンタイマーを見つめていた。

 

カケルには原作知識などない。襲いくる敵の顔も、名前も、その恐るべき力も知らない。だが、彼の『ソロモンの知恵』は静かに答えを出している。人類の知性は、すでに最悪の『その時』に向けて、完璧なカウンターを用意し終えたのだと。

 

カケルは、青い量子光を放つ瞳を少しだけ細め、チェス盤の最後の駒を静かに進めるように、キーボードのエンターキーを叩いた。

 

「――来るなら来い、未知の不具合(バグ)め。私のシステム(地球)に触れた瞬間に、お前の構造(存在)ごと消去してやる」

 

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