直視の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ 作:夜月詠
名無の少女と白紙の英霊
目が覚めると其処は、醜い世界だった。
青い空と、それを抱く様に広がる大きな
それだけなら、きっと、美しい世界だと、そう想うのだろう。
けれど、違う。
この世界は、悍ましい。
視界、あらゆる
それを直視する度に死を幻視し、ゾクリと脳漿の奥が痛む。
「──此処、は──」
ふと、思う。
私は誰だ。此処は何処だ、と。
視線を落とし、両の掌を然と視る。当然の様に走る赤黒い線。その向こう側に在る、白く
爪の先には土が詰まり、無数の傷跡の遺る、自分の掌。薄汚れた、自分の掌。
ぱらりと、視界の端に何かが落ちる。
黒い長髪。恐らくは、自分のそれ。やはりと云うべきか、それにもまた赤黒い線は然と存在して。
「う──、ぇ──!」
嘔吐する。
意識を向ける度に頭痛を起こし、果てには拒絶感で嘔吐さえした。この線は一体何なのか。分からない。
あぁ、そうだ。分からない事だらけだ。
自分の事も。この線の事も。何もかも。
私は何で、此処は何処なのか。
分からない、本当に。
「 、 は、 ぁ……私は、どうすれば……?」
カタリと、何処かで音が聞こえた。
意識は急速にそちらへ向けられる。砂漠帯。太陽が痛い程に照り付ける、私が独り目覚めた、名も知れぬ何処か。
「誰、か──ぐ、っ、ぁ──!?」
衝撃。
立ち昇る砂煙、その闇の彼方に、一つの蛇が視える。鋼によって為る、鋼鉄の蛇、或いは竜か。
その
其処に、死を視る。
赤黒い線等とは程遠い、正真正銘死の
「──、死にたく、ない……?」
ふと零れた言葉に、困惑する。
何故、そんな事を思ったのだろう。何故、そんな心境に辿り着いたのだろう。
──極光が、収束を終える。刹那の後、この身はその光に焼かれ永遠に消え失せる。
「──────ッ!」
跳ね飛ばされる様に、身体が動く。自分の身体を、まるで自分以外の誰かが操作しているかのような感覚。
直感或いは本能による、全身全霊の身体駆動。後の反動の事さえ考えない、ただ生命を紡ぐ為の火事場の馬鹿力。
砂丘を踏み付け、滑るように砂海を行く。直ぐ
自分自身でも信じられない程の速度。けれど。やはり。機械には勝てないのか、彼我の距離は徐々に失われて行く。
極光に呑まれる。肌が焼かれ、肉が炭化し、血が蒸発する。その直前、極光が霧散して攻撃は終了した。
「なん、──! 第二射ッ!!」
振り返れば、其処には再び口腔に光を束ねる鋼の蛇。
無数の赤黒い線が走る、死の具現。もう、逃げ切れない。近過ぎる。そも、この砂海で何処に逃げると云うのだろう。
「──死にたく、ない……! 何か、どうにか……!」
死にたくない。
無意識の内に溢れるそんな言葉。あの赤黒い線の中に死を視るからなのか。どうも、
──けれど、どうしろと云うのか。
もう逃げられない。かと言って、あの蛇を破壊する手立ては無い。私に有るのは、ただ線を映すこの瞳と、痩せ細った肉体だけ。
手段は無い。万策尽き、この身は熱量に耐え切れず永遠に消失する。
背を向けて、再び走り出す。少しでも長く、この生命活動を維持する為に。少しでも長く、生きる為に。
──何の、為に?
分からない。分かるものか、そんな事が。
死にたくない。死にたくないから、足掻いて足掻いて足掻き抜くんだ。
私は、死にたくない──!
『────そう、望むのなら』
極光。鋼の蛇が放つそれとは異なる、ただ温かく、ただ眩く、何処か物悲しい光の奔流。
「──我は、常世総ての善を為すもの──」
知らずの内に、知らない言葉が溢れ出す。
「──我は、常世総ての悪を敷くもの──」
天を突く光の塔、砂海いっぱいに広がる大きな
「──天秤の、護り手よ──!」
極光。それは、魔法陣より立ち昇る光とは異なる、私を殺す死の予兆。鋼の蛇が撃ち放つ、死の先触れ。
それを拒む様に、魔法陣から顕れた誰かが、言葉を紡ぐ。
白い衣服を身に纏った、黒い髪の男の人。蒼い眼を鋼の蛇に向けて、言葉を編む。
「ランサー:▓▓▓▓▓、ライダー:▓▓▓▓▓、ライダー:▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓!! 宝具、展開!」
槍と盾を持った男の人が顕れて、その盾を掲げ。
戦車に乗った女の人がその剣を掲げ。
紅い鎧を纏った男の人が地面に剣を突き立てる。
途端に溢れ出す、力の奔流。
顕現する幾つもの盾、転輪する幾つもの車輪、築城される荘厳な城。それが、私を──魔法陣から出てきた彼を護る様にして、顕現する。
赤黒い線は、まだ其処にある。彼等が呼び出したモノにも、然りと奔っている。けれど、不思議と恐怖は無い。
その護りの先に死の予兆が有ると云うのに。まだこの世界には、
この護りは──この尊い幻想は、決して膝を屈さないと確信できる。
「セイバー:▓▓▓▓▓! 宝具を!」
続いて顕れる、鎧を纏った人の姿。金の御髪を束ねた年若い、少年にも、少女にも視える騎士のカタチ。
「▓▓▓──……」
彼或いは彼女は、手にした剣を然りと掲げ、その刀身より光を放つ。それは、蛇の極光とも、魔法陣の光ともまた異なる、黄金の奔流。胸を打つ光の波濤、何処か物悲しさを憶える断罪の極光。
その剣が、今、振り降ろされる。
「……▓▓▓▓────!!」
極光を切り裂く黄金の光。
鋼の蛇の、その頭を打ち砕いて、極光は遥か彼方まで走り抜ける。ぐしゃりと、崩れ落ちる鋼の威容。
それを見届けて、先程呼び出された人達は光の粒子に変わって消滅した。
「────よし、取り敢えず、あのエネミーは倒せたし……。うわ、▓▓▓の気持ち分かるな。確かにやってみたくなる……」
鋼の蛇の沈黙を確かめて、彼は此方へ振り返る。
所々跳ねた癖のある黒い髪、空を写した様な蒼い瞳。白い衣服を身に纏った彼。死ぬ筈だった私を救ってくれたヒト。
「──問おう。キミがオレの、マスターかな?」
はにかむ様に、優しい笑みを浮かべる彼の姿。
一面の蒼穹と、地平線の彼方まで広がる砂の海。視界一杯、あらゆるモノに走り、あらゆる風景を台無しにする赤黒い線。直ぐにでと眼球を潰して目を背けたくなる、悍ましい風景。
けれど、彼の姿だけは、決して忘れる事は無いだろう。
私を救ってくれた、英雄の姿は。決して
多分続かない。勢いで書いたから