直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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帰るべきは何処・その13

 アビドス砂漠。カスみたいな立地のアビドス砂漠、その傍らに在る荒れ地だ。かつてはオアシスがあったり、アビドスの中枢だったりしたらしいがそれも昔の話。

 現在は最早何も無いただの砂漠だ。いや、ただの砂漠の筈だ。だが、その筈なのに。

 

「思いっきり、工業プラントか何かが作られてる。どう云う事?」

 

 もう、思いっきり大規模な施設が建築されている。あの意匠からして、カイザーグループによる建築だ。好き勝手されているにも程があるだろう。

 

「有刺鉄線に、武装した兵士……穏やかじゃないな」

 

 施設全域をぐるりと取り囲む有刺鉄線と、施設の各所を巡回する物々しい重武装の兵士共の姿が見てとれる。

 少なくとも、石油開発プラントや工業施設の警備員等にはとても見えない。極端に死の線を視にくいあたり、中身は生徒なのだろうが、真っ当な学生には思えない。

 

「──ん、気付かれた」

 

 砂狼シロコのその言葉と共に、懐から銃とナイフを取り出して構える。右手に握りしめた無銘と、左手に持つ第17号ヴァルキューレ正式拳銃 - 魔術礼装改良型。死を断つナイフと、牽制兼制圧用の銃。相反するその二つを以て、遍く敵を制圧する。

 

「侵入者だ!」

 

「遅い」

 

 警戒の声を張り上げる兵士共。その小隊の指揮官らしき奴の背後に滑り込むように移動して強襲する。頭部を覆い隠すヘルメットを閃断し、覗いた地肌に弾丸をたたたんと連射する。

 

「な、コイツは──!」

 

 気絶した指揮官を盾に、他の兵士共の銃撃を防ぎつつ更に踏み込んで接近する。

 

「目的を果たせ!」

 

 装備に奔る死の線を断ち切りながら手中でナイフを廻し、刃の向きを切り替える。縦横無尽に奔る死の線、数多の敵が宿すソレを次々と斬り裂いて行き、兵士共の注意を引き付ける。

 

 私たちが此処にきた目的は、空崎ヒナによる『アビドス砂漠でのカイザーグループの暗躍』という情報提供を受けてのもの。

 であるのなら、此処で私たちが兵士共の注意を引き付けておく方が合理的だ。

 

 アビドス生が先生の護衛を代行しつつ、現地調査を行う。その間、私たちは此処で足止め&陽動、と云う訳だ。

 

「アヴェンジャー!」

 

「──霊基主権編制──『対獣魔術:獣性付与』!」

 

 それは、叛骨の魔術師が抱く獣狩りの終。身体能力で圧倒的に劣る人間が、野生の獣に打ち克つ為に編み出されたもの。

 その一種、『獣性付与』が司るは対象に対する獣性の付与、或いは覚醒。生まれながらの闘争本能を励起させ、対象が持つ技術(スキル)を機能不全に陥らせる魔術だ。

 

「な、これは、ァ────!?」

 

「あ、ぁ、ああああ──!!」

 

「ぐ、ぅ、暑い、カラダが、暑──!!」

 

 一つの魔術で、兵士共は一斉に銃器や兵器を取り落とし、高ぶる闘争本能のまま、素手で此方に襲い掛かってくる。無線による連絡すら行わず、ただ目の前の(わたし)を倒す為に。

 当然だ。興奮状態でまともに技を振るえる程の人間は、後ろ暗い企業で雇われ兵士なぞやる訳がないのだから。

 

「は──ぁ────!」

 

 暴走状態にある兵士共を悉く蹴飛ばし、殴り、撃ち、次々に意識を刈り取って行く。気分は英霊、雑魚相手に無双する一騎当千の気分だ。

 

「アヴェンジャー、火を! 煙と焰を以て、破壊工作と陽動を同時に為す!」

 

「いよいよテロリストみたいになってきたな……」

 

 何だかんだ言いながら、アヴェンジャーは適当な魔術で施設のそこかしこに火を放って行く。

 

「これはッ……! 貴様、バロールか!」

 

 黒いスーツに機体()を包む大仰なロボットがのこのこ出てきた。護衛なのか、更に兵士を引き連れた機械(ガラクタ)

 此処で破壊してしまえば、話はおしまいだ。証拠一つ残さず、全て無かった事にしよう。

 

「連邦捜査部S.C.H.A.L.E、アビドス高等学校の名の下に」

 

 地面を蹴る。指先で地面を蹴り、我が身を跳ね飛ばす様にして地面を滑る。右手に握ったナイフを身体の前方へ持って行き、理事の首めがけて刃を振り抜く。

 

「──シキ!」

 

「チッ──!」

 

 死の線を断つその直前、割り込む様にして放たれたその言葉に、身体駆動を一気に停止させる。身体を捻る様にして振り抜いていた刃を逆方向へ回し、その勢いと共に後方へ大きく飛び抜く。

 己が頸の繋がりを確かめる理事を横目に振り向くと、そこには険しい表情をした先生と、アビドス生共が立っていた。

 

「……先生。やっぱり、止めるんだね」

 

 アヴェンジャーが、何処か嬉しそうな/哀しそうな。そんな、不明の表情を浮かべている。

 

「アヴェンジャー、なんで止めなかったんだ? シキは、カイザーPMC理事を殺そうと──」

 

「妙な事を。先生、奴は所詮機械。パーツを交換すれば良いだけの、生命(いのち)では無い物質(もの)。機体を破壊し、プログラムのバックアップを取って永劫封じておく。それでおわり」

 

 生命と物質の違い。その境界にあるのは、『一度破壊されれ(死ね)ばそれきりであるかどうか』。PMC理事は機械。鋼の器を魂無きプログラムが動かす機械の人形。

 生命では無い。例えあらゆる死を視るこの瞳が、そこに死の線を視たとしても。それは、物質の終焉を捉えたものだ。命の終を視たものでは無い。

 

「シキ、PMC理事も、生きているんだ。例えロボットなのだとしても。キヴォトス(ここ)では、それでも生きているんだよ」

 

 理解不能の感情の機序。私とは相容れない思考回路。けれど、雇い主(せんせい)がそう云うのなら。

 

「分かった。雇い主は貴方。望むとおりに、刃を収めよう」

 

 理解できぬとも。それでも、雇い主がそう云うのなら飲み込もう。契約の前に、私個人の感情等塵に等しいのだから。

 

「……先生、貴様、その様な狂犬をけしかけるとは……!」

 

「黙れガラクタ。此方に仇なす様なら、先生のオーダーを無視して破壊する」

 

 首元にナイフを突き付け黙らせる。私は護衛。故に、先生の安全を最優先する義務がある。例え先生のオーダーを一つ無視する事になったとしても。

 

「その様子なら、何も見つからなかった。と、云うこと」

 

 先生達の方へ目を向ければ、ぎくりとした様子であった。黒見セリカに至っては明日の方向を向いている始末だ。表情(かお)に出るにも程があるだろう。

 

「素直に吐け。何故、アビドスの土地を狙った?」

 

 土地を担保とした大金の貸与。違法な金利。それらは偏に、アビドスが持つ土地を狙ったものだろう。

 そうでなければ、踏み倒されるかも知れないのにこんな辺鄙な土地の、寂れた学校に金を貸す筈が無い。

 

「土地? は、この土地にそんな価値があるとでも? 我々はな、この土地の下に眠る宝物を探しているのだよ」

 

「……宝物……?」

 

 アビドス、砂漠、宝物──その暗示が射示すは、副葬品、か?

 アヴェンジャーの記憶の中、異世界の情報が齎すはこの世界の異なる見方。神秘、恐怖、土地、崇高、色彩──異なる側面を異なる知恵を以て暴く。

 

 だが、副葬品如きにそこまでの大金を、そこまでの時間を使うか? 埋まっていたとしても、それ程の消費をペイできるだけの価値があるかは分からないと云うのに……?

 

「……そんなでまかせ、信じる訳ないでしょ!!」

 

「それはそう。もしそうだとすると、この兵力について説明がつかない。これは、アビドス自治区を占領する為。違う?」

 

「……これほどの戦力を、これほどの資材を、たった5人しか居ない学校の為に用意する必要があるとでも? 冗談じゃない。あくまでこれは、何処かの集団に宝探しを妨害された時のもの。

 君たちの為に用意したものでは無い」

 

 首元の刃を忘れているのか、カイザーPMC理事は朗々と言葉を紡いで行く。

 

「君たち程度、いつでも、どうとでもできるのだよ。……例えば、そう、こんな風に、なッ!」

 

 調子良く言葉を編んでいた理事は唐突に身体を捩り、私の身体を振り払った。

 

「抵抗は無意味。その装甲を一つ破壊して──」

 

 何処からか通信機を取り出し、

 

「私だ……そうだ、進めろ」

 

 何か、致命的な策を口にした。

 

 不味い、とそう直感する。もうこの機体を破壊しても、どうにもならない策に嵌められた、と。暴力一つで終わらせるのは難しい、それ程の規模の策に。

 

『せ、先生!』

 

 奥空書記の語りでは、信用スコアが落ちたやらで来月の返済額が9000万に届いたのだとか。

 先ほどの通信はこの指示だったのだろう。違法な金利の吊り上げは、もう明らかに真っ当な商売では無い。

 

「くく、はは、ははは! これで分かっただろう? アビドスに、もう先は無いと! さぁ、分かったのならお帰り頂こうか。おい、君、伸びていないで彼らを出口までご案内さしあげろ」

 

 嘲笑する理事を前に、ぎりりと歯を噛みしめる音が聞こえた。




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