直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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帰るべきは何処・その14

 借金、と云うのは大変なものだ。借りる側も、返す側も互いに煩雑な手続きと法に則った処理を行わなければならないもの。

 だって、金と云うものはあらゆるモノと交換できる万能のカードだ。命、尊厳、衣食住。あらゆるモノと引き換えにする事のできる、この世で最も優れた交渉札。

 

 そんな便利なモノを簡単に取り扱える筈が無い。金を貸す、と云う事は生命を引き渡すに等しいのだから。煩雑な手続きと、複雑な法で縛り上げる事で生命のやり取りを簡単に行えない様にする。

 何かを担保に、大切なモノと引き換えに金を貸す。それは道理だ。返ってくると云う確実な保障も無いのに貸せる訳が無い。

 

「利息だけで9000万。元金の返済は最早不可能。バースト。諦めて夜逃げか、法廷に持ち込んで戦うか、それともカイザーを叩き潰すか」

 

 だから、アビドスは土地を失った。地権を質とした借金。返済出来なかったから土地を失う。それは道理だ。

 だが、この金利の吊り上げは違法にして不法だ。こんな事が許される訳が無い。

 

「勿論戦うわよ! こんな無茶苦茶な理屈通る訳が無いじゃない!」

 

「その通りです! 堂々と、こんな暴利を記した書類を送ってきたんですから、訴えてやりましょう!」

 

「ん。カイザーグループを襲撃する」

 

「そうですね。流石に、これはおかしいです!」

 

 概ね『戦う』と云う事で方針は定まったと言っても良いだろう。小鳥遊ホシノが黙り込んでいるのが気になるが、他のアビドス生の支持のある此方の選択肢を否定はしないだろう。

 彼女はそう云う人間性だ。否定しないまま、自分だけでカタを付けようとする。責任者として、務めを果たそうとする。

 

 ──それでこそ。砂漠の王(ホルス)に相応しい。

 

「小鳥遊さんは、何か無いのか?」

 

「特には思いつかないね〜。アヴェンジャー君こそ、何かないの?」

 

「オレもさっぱりだ。……いつだって、資金繰りには苦労するものだね」

 

  一瞬だけ表に出てきた"彼"が云うと、説得力が違う。流石は環境が良かったとは云え、大金を手にしただけでとんでもないやらかしたをしたアニムスフィア(いちぞく)の魔術師だ。

 

「……ここは、連邦生徒会に訴えて強制捜査するしかない、かな」

 

「連邦生徒会は本当に動いてくれるの? これまで、何にもしてこなかったのに」

 

「そうよ! 連邦生徒会なんて宛にならない……! 私たちがやるべきよ!」

 

 連邦生徒会に対する不信感。それは尤もな感情だろう。第一、部外者の私から見てもこんなになるまで放っておくなんて連邦生徒会は何をしているんだ、と思う位なのだから。

 当事者は私が比では無い程にそういった感情を募らせているだろう。

 

「うへ〜、止め止め。休憩にしようよ〜、私、疲れちゃったからさ。ちょーっと、寝てくるね〜」

 

 立ち上がるなり、小鳥遊ホシノはガラガラと扉を引き上げて廊下の向こう側に歩いて行った。

 さて、本当に眠るだけなのか。はたまた──。

 

「あ、ホシノ先輩! もう!」

 

「あはは……けど、今日ももう遅いですし。後は明日にしましょうか。明日までに、各自、何か策を考えてくる、という事で」

 

 

 

 ◇

 

 

 アビドスの生徒達も皆帰り、先生も割り当てられた教室で眠りに付き、私たちを止めるものは皆消えた。

 アビドス高等学校、その校庭。冴えた月光のみが照らすグラウンドに背丈の低い桃色の少女の姿があった。

 

「小鳥遊さん、止めた方が良いよ」

 

 気付いたのはアヴェンジャーだった。力無き人間の身でありながら、多くの英霊と共に世界を救った魔術師は、なる程、確かな洞察力だった。

 

「身売りとは、感心しない」

 

「うへ、見つかっちゃったか。……けど、止めても無駄だよ、シキちゃん、アヴェンジャー君」

 

 かちゃり、とショットガンの銃口が私たちの方を向く。

 互いに信頼し合う事の無い、冷たい関係。私たちからすれば彼女は依頼主(せんせい)の依頼主であり、彼女からすれば単なる部外者。

 互いに、情の一つも無く。

 

 故に。

 

「私は止めない。所詮は他人。貴方一人の生き死に等どうでも良い。だが──」

 

 がちゃりと、銃口を突き付ける。接近戦用の、拳銃(ハンドガン)と無銘のナイフ。

 

「アヴェンジャーが、見ている」

 

 彼は優しい人だから、無用な感情(にもつ)を背負うのだろう。例えそれが、多少話しただけの他人であっても。

 私にとってはどうでも良い存在(もの)に過ぎないが、それでも彼は手を差し伸べるだろう。あの日の私に、そうした様に。

 

「制圧する。言い訳は、先生とアビドスの前でしろ」

 

「怪我はさせないよ」

 

 魔力を廻す。生命を糧に、神秘を贄に、異界の奇跡を此処に熾す。貧弱な我が身を強化し、アヴェンジャーへの魔力供給量を向上させる。

 

「押し通らせて貰うよ、二人とも」

 

 二対一。直死の魔眼のホルダーとそのサーヴァント、対するはアビドス最強の生徒会副会長。

 勝敗なぞ目に見えている。私たちが負ける筈がない。けれど、彼女はそれでも押し通ろうとするのだろう。

 強情で、人間不審。大切なものを何が何でも守り通そうと足掻くもの。

 

「『幻想強化』『加速航路』『断絶防壁』『イグジスト』『星は誘わず』『瞬間強化』──」

 

 次々と飛ばされてくる支援魔術と、続け様に付与されて行く妨害魔術。数多の霊を一にして成立した多重複合英霊たるアヴェンジャーの、その霊基が内包する数多の人格、数多の技能。

 成立する筈のない無茶苦茶な英霊が、縁一つ無い異世界でその神秘を示す。

 

「チッ──!」

 

「ん──!」

 

 概念的に強化された弾丸が小鳥遊ホシノが構える盾によって逸らされる。拳銃(ハンドガン)サイズで戦車砲にも相当する破壊力を叩き出す程の強化を得て尚、逸らされるとは。

 けれど、その反動は凄まじいもの。小鳥遊ホシノは大きく仰け反り、隙を晒す。

 

「──『魔力放出』『反応強化』『魔力強化』『決戦強化』──」

 

 その隙を見逃す我らでは無く。数多の支援魔術を受けた私の蹴撃と、アヴェンジャーの呪詛(ガンド)が小鳥遊ホシノを捉える。

 ──通った──!

 

「ま、だ──ッ!」

 

 馬鹿な。私の渾身の一撃と、アヴェンジャーの呪詛を受けて尚、私たちを纏めて吹き飛ばすだけの余力があるとは。

 その上、ショットガンの連射と、その反動に耐えられるだけの体感が、まだ──!

 

「アヴェンジャー!」

 

 サーヴァントは霊核さえ護っていればそうそう死ぬ事は無い。心臓と脳。霊核に深く直結する、その二つの部位さえ無事なら、あらゆる損傷は誤差に値する。

 故に、

 

「ッ、当然、だけど! 攻撃が、通る……!」

 

 その身を盾に、小鳥遊ホシノの銃撃を突破する。

 

「ッ、アヴェンジャー君、血が──!」

 

「大丈夫、オレは、頑丈になってるから、ね──!」

 

 肉を穿たれ、骨は砕け、皮膚は破れ、血が零れ落ちる。満身創痍、怪我の無い部位の見当たらない状態となって尚、英霊(サーヴァント)は死ぬ事は無い。

 彼らは英霊。人類史に名を刻み付けたかつて在りし人の影。

 

 この程度の損傷(けが)で、彼らが膝を屈する訳が無い──!

 

「──ガンド!!」

 

 アヴェンジャーが伸ばした人差し指、その先から放たれる魔力の弾丸。非才故に物理的な破壊力を持つ事は無く、付け焼き刃故に生前は終ぞ自力での行使の叶わなかった魔術が一つ。

 身を縛り上げるその呪詛が、小鳥遊ホシノを真正面から撃ち貫いた。

 

「これ、は──!」

 

 硬直する小鳥遊ホシノ。我彼の距離は僅か、間合いは刹那、僅か1秒にも満たない一方通行の超絶加速。魔力を激烈に吐き出し、その反動を以て疾走する。

 地面を這い、滑るように走り抜け、腰を捻って足先に全ての力と遠心力を乗せ、

 

「眠れ、小鳥遊ホシノ──!」

 

 渾身の一撃(けり)を叩き込む──!

 

「ッ──!!! ……し、き、ちゃん……!」

 

 横腹に直撃させた私の一撃。確実に意識を刈り取るべく放たれた蹴撃は、確かに小鳥遊ホシノを打ち貫いてその意識を簒奪した。

 崩れ落ちたその矮躯をアヴェンジャーが支え、ぜぇぜぇと肩で息をし始めた。

 

「は、……はぁ……ひ、久しぶりに怪我したなぁ……!」

 

 傷だらけのアヴェンジャーに更に魔力を受け渡して傷の補修を行う。魔力を流すだけで治る辺り、サーヴァントの身体はこう云う時に便利だと思う。

 

「お疲れ様。……それで、何時まで見ているつもり?」

 

 アヴェンジャーの腕のなかで眠っている小鳥遊ホシノの首根っこを掴み、観戦に徹していた彼へ向かって投げ付ける。

 

「わ、ちょ!?」

 

 いつから見ていたのか、グラウンドの隅っこでタブレットを片手に此方を見つめていた先生へ、この阿呆の後始末を押し付ける。

 助力一つせずに観戦だけしていたのだ。後始末の一つや二つ、やってもらう。

 

「ほら、河原で殴り合い──って、あるでしょ? それで仲良くなってくれれば嬉しいと思ってね」

 

 そんなもので仲良くなってたまるか。

 

「生憎、言葉を交わす事も無かった。所詮、私たちは赤の他人。入れ込むつもりは無い」

 

 軽く片手を降って、傷の修復されたアヴェンジャーと共に校舎へ戻る。流石に疲れた。後始末は全て押し付けて、今は眠りたい。

 

 

 ◇

 

 

 校庭で繰り広げられていた、二人(傭兵バロール)とホシノの激しい戦闘。弾丸とナイフ、盾と体術の交錯する恐ろしいまでの近接戦闘。それは、シキの蹴りが止めとなって終着した。

 彼女たちは気絶したホシノを私に投げ渡し、眠いから、と手を振って校舎の中へと姿を消して行った。

 

「……シキ、君の世界にはまだ彼しか居ないんだね」

 

 その冷たい横顔を追憶する。孤独、という言葉が相応しいのだと思う。アヴェンジャー以外に心を砕く事の無い、何処までも冷たい孤独な有り様。

 

 触れる事すら憚れる、冷たく痛々しく、暗いその闇夜の様な在り方。手を差し伸べたい、と、そう思う事は傲慢なのだろうか。 

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