直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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帰るべきは何処・その17

 ビナー。カバラ思想はセフィロトの樹に由来すると思われる設計思想の元作成されたであろう、機械の蛇。或いは竜。細長い胴体に、鯨を組み合わせたかの様な機体はアビドス砂漠の砂岩を砕き、簡易的な砂嵐すら巻き起こしながら大地を征く。

 

 かつてはそうだった。

 

「偶然発見した、デカグラマトンが一つ、頭部を完全に破壊されたビナー……! それをカイザーグループの技術を以て修復、改造し、制御した! 実戦投入は始めてだが、これなら、幾ら貴様とて……!」

 

 あの日。私がアビドス砂漠で目覚めた日。

 ビナーなる蛇は最優たるセイバー、極光たる斬撃を撃ち放つ騎士王によって打ち倒された。その頭部を宝具『▓▓▓▓▓▓▓▓▓(エクスカリバー)』によって、完全焼滅させられて。

 

「アヴェンジャー、今一度、あの蛇竜、或いは鯨竜を打ち倒す」

 

 今度は、その全身を消し飛ばす。塵一つ残さず、この地から完全に。故に、秘匿していた手札を切る事も厭わない。

 令呪一角、『人理装填』一度。実に令呪二角分に相当する大魔力。宝具の大展開には十分過ぎるリソースだ。

 

「勿論。大型の機械の蛇の相手は慣れてるんだ」

 

「私たちも一緒に戦う。腕が鳴る」

 

「うへ、シロコちゃんもシキちゃんも、戦う気満々だね〜」

 

「本当にやるの!? あんな大きいのを相手に!?」

 

「やるしかない、ですよセリカちゃん。どのみち、自治区であんなものを暴れさせる理由には行いきませんし」

 

『援護は任せてください!』

 

 魔力を廻す。全身、その隅々にまで行き渡る様に。髪の一筋、血の一滴、細胞の一片にまで。全身き魔力を流し、概念強化を施して行く。身体能力の向上。魔術の基本。全身の生命活動を、魔力を以て掌握し制御し後押しする。

 

 呼吸を整え、拍動を調整し、筋肉の緊張と弛緩を掌握する。

 右手には無銘のナイフを、左手にはライフルを。全霊の魔力強化を施した上なら、ライフル銃の反動すら片手で受け止められる。

 

「行け、ビナー・アポクリファ! バロールを、アビドスを、先生を、始末しろ!!」

 

 きぃん、と継ぎ接ぎに再造された頭部の、その橙色の眼に光が灯る。その口腔をがぱりと空けて、口内に光を収束させて行く。

 竜種のブレスにも似た熱量の収束。一筋に撃ち放たれる、破滅の極光。

 

『こ、この熱量は!? "アツィルトの光"、避けてください!』

 

「皆、退避を! アレを受けちゃ駄目だ!」

 

 そんなもの見れば分かる。アレはまともに受け止める事のできないものだ。圧倒的な熱量、圧倒的な破壊力。人体がまともに食らえば火傷では済まないだろう。

 

「なんでよ──!?」

 

「ちょ──!?」

 

「助けに来たのに……!?」

 

「あ、アル様は私がお守りします──!」

 

 今通り過ぎた熱線は、人間どころかビルのコンクリートすら容易に誘拐させ灼き尽くす破壊の顕れ。人間が相手する事を想定していない破壊兵器そのものだ。

 ビルの倒壊に巻き込まれた便利屋共がどうなったのか心配……では無いな。まぁ、良い。どうせ生きてる。連中はそういう奴だ。

 

「小鳥遊副会長、60秒稼げ。後は、私たちが始末する」

 

「ま、君たちには迷惑掛けたしね」

 

 おっけー、とでも言いたげに親指を立てて手にした盾と共に前線へ踏み出す小鳥遊ホシノ。アビドス生共がそれを止める中、先生が此方を視る。

 

「勝算はあるんだよね?」

 

「無論」

 

 手袋を外し、右の手を白日に晒す。

 

「それは、入れ墨……?」

 

「違う。これは令呪。マスターと、サーヴァント。その契約の(あかし)

 

 蒼白い蒼白の手。その甲に刻まれた、赤い刻印。召喚術式を通した魔術契約。マスターが持つ、己がサーヴァントに対する三度だけの絶対命令権。莫大な魔力と、召喚時の魔術契約を以て魔術の限界を越えた神秘を齎す魔力の塊。

 

「『人理装填』──我が身に令呪を以て命ずる」

 

 アヴェンジャーが持つスキルの一つ『人理装填:C』。限界時に与えられる計三角の令呪。ルーラーが持つ『神明裁決』の令呪にも似たそれは、使用する事で即座に宝具の大規模展開に相当する魔力・運命力を獲得できる。

 

「我がサーヴァント、アヴェンジャー」

 

 此処に在りし英霊の真名()こそは。

 

「──真名カルデアに」

 

 100年先の人理(みらい)を保障せんと走り続けた、者達の名。例えその理想が異なれど。その尊命は変わりなく。

 人理保障の為に、手を伸ばした者達。幻霊にすら届かぬ雑霊。数多無数の『カルデア』を以て成立した、ただ一つの霊基。

 世界を救った魔術師(マスター)を中核とした多重複合英霊。

 

 その旅の奇跡を、今一度此処に。

 

「令呪を以て命ずる」

 

 手の甲に刻まれた、深紅の証。眼の様な意匠のそれから、深紅の光と共に一部の意匠が失われる。

 全身から魔力の抜け落ちる様な虚脱感。令呪そのものの魔力と共に、令呪発令の為に膨大な魔力が失われた。身体強化は辛うじて維持できる。が、これ以上の追加召喚は不可能だろう。

 

「「第一宝具を解放せよ……!」」

 

 その消耗も、最早意味は無いのだけど。

 

「それはかつて在りし時の果。それは此処に在りし人理の終。

 七つの歴史、七つの異聞。はじまりの極点、おわりの異空。

 ────此処に、人理保障を成し遂げよう」

 

 立ち昇る蒼白の光。貴く美しき幻想の結晶。

 逸話型宝具。金色の英雄王すら持ち得ない、宝具の一つ。

 

「何をしようと、無駄だ! デカグラマトンを我らカイザーグループが改造したビナー・アポクリファ! 自律機能こそ失われたが、主砲たるアツィルトの光、その出力は元の数倍……!!

 焼き尽くされろ、何もかも!!」

 

 アヴェンジャーの姿が変わる。普段の魔術礼装カルデア(白い服)から、極地用カルデア制服(黒い衣装)へ。

 霊基再臨。一段階、出力を向上させる強化術式。

 

「シキちゃん、アヴェンジャーくん、まだ、かな……!」

 

 迫り来る破壊の奔流。それと拮抗する少女の横顔が苦痛に歪む。盾を隔てて尚肌を焼く熱量と破壊力。円環(ヘイロー)による護りがあれど、肉体に受けるダメージは甚大。

 やはり、受け止めきれないのか。

 

「ん、私も、手伝う……!」

 

「私も! 防いでいれば、アイツらがぶっ飛ばしてくれるんでしょ!?」

 

「皆で協力すれば、この光だって! 受け止められます!」

 

『あと、10秒だけ! 9、8、7──』

 

 極光を塞ぐ盾を支える、桃色の少女の、その小さな立ち姿を支える様にして、少女たちが光と向き合う。

 一人では届かなくとも。独りでは耐えきれなくとも。

 

 仲間が居れば、耐えられる。仲間が居れば、乗り越えられる。

 どんな脅威も、どんな苦難も。だってこれまでそうやって、借金を返しつづけていたのだから。

 

 だから、まだ、やれる。

 

 此処には、大切な仲間が、大事な友達が居るのだから。

 

「行くよ、皆──!!」

 

 付きかけていた膝が、折れかけていた心が再起する。盾を支える身体が、限界を越えて奮起する。

 宝具による支援すら無いと云うのに、彼らは人体の限界を越えて世界を隔てる。その心、ただ一つを礎として。

 

「防いだ所でッ!! さぁ、全て焼き尽くせ、ビナー!!」

 

 共に支え合うその姿。決して手の届かない日向の風景。その彼方に、目を向けて。マスターとして、サーヴァントの織り成す偉業を見届ける。

 

「アヴェンジャー!! マスターとして、貴方に命じる! 今こそ、その宝具を! その真名を!!」

 

 大気を鳴動させる魔力の奔流。轟音として耳に聞こえる程の魔力のうねり。それは、宝具の大展開、その証明。

 アビドスの生徒達が、限界を越えて耐えている。それに応えない訳には行かない。

 

 私たちこそが、最強の傭兵なのだから。

 

「──『終着の刻来たれり、其は世界を救うもの(アルス・ノトリア)』……!」

 

 令呪の刻まれた右手を前方に突き出すアヴェンジャー。その足元を中心に、瓦礫の足場と無尽の星空が広がって行く。

 亜種固有結界。心象風景そのものを現実と置き換える魔術の秘奥、その亜種。アヴェンジャー:カルデアの第一宝具たる対界宝具。

 

「これは……シキ、アヴェンジャー、何をしたの!?」

 

『何ですかこれは!? 物理法則が歪んでます! 何もかもが滅茶苦茶ですよ!』

 

 英霊カルデアの主人格たる『▓▓▓▓(星見のマスター)』。

 彼が生前到達した、二度の奇跡。それを再演する宝具。

 

「流星雨……?」

 

 その効果こそは。

 

「この剣に未来を」

 

 顕現する数多の英霊。多重起動する召喚式。

 かつて時の果で、かつて人理の果で起きた二度の奇跡。か細い縁を伝って英霊達が自発的に召喚された、その流星雨。

 

 完全に成立する、黒い瓦礫の大地と彼方まで広がる満天の星空。

 いつか彼方の決戦風景。いつか誰かの心の形。世界を救う為に戦った、決戦の再演。救う為の戦いにこそ相応しい、第一宝具。

 

「何だ、何なんだ、これは!! ビナー、焼け、奴を、バロールを……アヴェンジャーを焼き尽くせ!!!」

 

 亜種固有結界として終着の場所(とき)を作り出し、召喚術式を多重展開する大宝具『終着の刻来たれり、其は世界を救うもの(アルス・ノトリア)』。

 その奇跡を、此処に謳う。

 

「皆、手を貸して。マスターの……今を生きる人達の為に」

 

 その言葉を皮切りに、亜種固有結界に飲み込まれた兵士共が薙ぎ倒されて行く。皆加減はしている様で死人は出していないが意識は確実に刈り取っている。流石は英霊、不殺など当然の様にできるのだろう。

 

「セイバー、ロード・ログレス。偉大なる騎士王よ、此処に宝具を。その真名を」

 

 この時、この場で滅ぼすべきはビナーただ一つ。あの鋼だけは、確実に討ち滅ぼす。カイザーグループによって改造された破壊兵器。かつての様な自律性は失われ、連中の良いように使われるだけの移動砲台。そんなもの、在ってはならない。

 

 故に告げる。今を生きる人類たる私が、此処に告げる。

 奴は純然たる人類の脅威だ。我らの敵だ。

 

「災厄を払いましょう」

 

 大聖剣を手にした騎士王が、その聖剣を高々に構える。

 その刃こそは、星の聖剣。戦場に果て逝く者達が今際に見る夢の名残。哀しく美しき星の残響。

 

 その刃は人類の脅威を討つべく抜き放たれる。

 視線の先、その切先を振り降ろすべきはただ一つ。極光放つ鋼の蛇。ただ一つ。

 

「アビドス、時間だ! 散開しろ!」

 

 かつての聖剣とは異なる、大聖剣。星が産み落した神造兵装。人々の幻想を胸に鍛造された幻想の刃。

 宝具──尊き幻想(ノウブル・ファンタズム)、その中でも至高を誇る最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。その原初の形。

 

「大聖剣、構えよ!」

 

 終局の刻に達した真の出力(すがた)

 相手が星にとっての脅威では無いが故に、不完全解放なれど、『約束された勝利の剣』をも上回る、ランク:A+++の対城宝具。

 

「ッ、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な──馬鹿な!! ビナーの光を、上回るだと!? 何だ、何なんだ、ソレは!!!」

 

 今、星の刃は顕現する。

 

「之なるは星の聖剣。人々の理想を胸に鍛造された、尊き幻想(ノウブル・ファンタズム)。理想を示す、光の刃」

 

 今を生きる者達の、その明日を拓く為に。

 

「行くよ、セイバー! 『瞬間強化』、『幻想強化』、『決戦強化』、『魔力強化』──!」

 

 騎士王が頭上に掲げた聖剣に、眩いばかりの極光が収束して行く。ビナーのソレとは異なり、肌を焼く程の熱量を感じさせない、黄金の奔流。

 

「ビナーぁああああ!! アツィルトの光を、最大出力だ!!!」

 

 けれどソレは、確かな志向性を以て放たれる熱量の砲撃。光の斬撃、神域の魔術行使。

 

「──『かくて、約束された勝利の剣(エクスカリバー・エクセルスス)』」

 

 

 

 極光。

 

 

 

 世界が白く闇に染まる。死の線すら奔る事の無い、刹那の極光。

 魔力を光に変換して撃ち放つ、ただそれだけの行為が文字通りに万物を灼き尽くして世界を覆う。

 

 光が晴れた時、その剣閃の先にはもう、ビナーの姿は塵一つ残っていなかった。




マテリアルが更新されました

クラス:アヴェンジャー
真名:▓▓▓▓/カルデア

プロフィール:1
人理保障を尊命とし護り続けたカルデア天文台。そこに集った数多の魔術師、数多の技術者の幻霊にすら満たない霊基を一つに束ねて成立した多重複合英霊。
世界を救った人類最後のマスターを霊基の中核とし、ハイサーヴァント、或いはアルターエゴの要領で霊基数値を引き上げる事で英霊の域に手を掛けたもの。
霊基の主導権や主人格は星見のマスターのものだが、内面的にはカルデア天文台の構成員すべての自我と意識が存在する。
『分割思考(偽)』で行使する事の出来るスキルは、内面に存在する人員が生前収めていた技能である。
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