直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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アビドス編:完


帰るべきは何処・終

 ビナーを完全焼滅させられたPMC理事は、そのまま膝から崩れ落ちて完全に戦意を喪失した。当然だろう。

 

 カイザーグループの威信を掛けて改造したデカグラマトンが、ただ一度の極光(ビーム)で塵一つ残さず焼き払われ、兵士共はサーヴァント達によって一人残らず刈り取られ、持ち出したゴリアテは私の直死によって頸を断たれた。

 牙の悉くを折られ、成すすべて一つ無くなったのだ。それで尚立ち上がれる者はそういない。そして立ち上がったとしても、彼我の戦力差は明らか。

 

 理事一人では、私とアヴェンジャーどころか、アビドス生一人にさえ敵わないのだから。

 

「──先生、ヴァルキューレへの引き渡し、完了した」

 

 カイザーPMCによるアビドス自治区襲撃より、一週間後。

 私たちはPMC理事をヴァルキューレへ引き渡していた。茫然自失として言葉一つ無いPMC理事の姿に、ヴァルキューレの生徒は幾らか怯えの表情を見せていた。彼女らも酷い目に遭わされていたのだろうか。

 

「ありがとう、シキ、アヴェンジャー。君たちのお陰で、色々と楽ができたよ」

 

「当然。そうでなければ、最強(わたしたち)を雇った意味が無い」

 

 護衛として雇われた身だが、私たちは偵察や戦闘など色々やっていた。先生がその都度その都度で追加報酬を出してくれていたのだ。中々良い雇い主である。次の依頼主の様に、事前に仕事内容を全て提示してくれているタイプも良いが、この手の雇い主も中々優良な仕事先だ。

 

「シキちゃん、アヴェンジャーくん。私からも言わせて貰うよ。

 ありがとうね、色々と」

 

 桃色チビの小鳥遊ホシノが、アビドスを代表してか礼の一つを寄越してきた。ビナー・アポクリファの"アツィルトの光"を、盾を挟んでいたとは云え真正面から受け止めているのに軽い火傷と筋疲労で済んでいる辺り、コイツは何かおかしい。

 他の奴はまだ寝込んでいるんだぞ。

 

「感謝は不要。全て仕事」

 

「ツンツンしちゃって〜。分かってるんだよ〜? 時々、私たちを羨ましそうに見てたの」

 

 居場所がある、帰るべき場所がある、と云う事は、まぁ、羨ましくはあるのだと、思う。私には無いもの。手に入らないもの。

 人の形をした死神。この地(キヴォトス)の生徒達と決して交わる事のできない、昏い夜の影こそが私。

 どれだけ望んでも、手に入らないものはある。

 

「……ふん」

 

 よく笑うものだと、思っていた。どんなに苦しくても、辛くても、笑顔で踏み出す彼女らの姿。手の届かない、伸ばしてはいけない日向の風景。

 

 万象を殺し万物を滅ぼすこの身が、入り混じってはならない温かいもの。

 

「手を伸ばしてはならないものがある」

 

 こんなにも、壊れそうな世界で。こんなにも、モノを殺しやすいこの身が。触れ合う事ができる筈が無い。

 所詮、長くは無い身の上だ。この魔眼を保有しているのに、長生なんて望める訳が無いのだから。

 

「故に、不要。私には、アヴェンジャーだけで良い」

 

 故に、必要は無い。帰る場所も、友人も。

 私の死を見届けるのは、アヴェンジャー一人で十分だ。

 哀しみを残す事は無く。私の存在を残す事は無く。

 

 この身は孤独に産まれ、孤独に消える。

 万物万象の終わりそのものたる、『死』こそ私の起源なれば。

 殺すもの、奪うもの、滅ぼすもの。哀しみ、絶望、隔絶、終焉、孤独。それが私。

 

「帰るべきは何処にか。歩むべきは如何なる道か」

 

 私含めたあらゆる存在が持つ、ハジマリに与えられた方向性、或いは絶対命令。予め定められた物事の本質。

 私の起源(ソレ)が『死』であるのならば、やはり、人と深く関わるべきでは無いのだ。不幸しか齎さないこの身は、何処に受け入れられると云うのか。誰が求めると云うのか。

 

 英霊ならざる者が、誇り高き英雄ならざる者が。私のような厄介者を、受け入れる訳が無い。

 拒まれるぐらいなら、始めから期待などしないほうが良い。

 

「行こう、アヴェンジャー。これで仕事納め。次の雇い主の所へ向かう」

 

 次なる仕事は長期になる。そして『死』であるこの身が最も役に立つ依頼だ。だから、もう、行かなくてはならない。

 

「シキちゃん。君が望むなら、アビドスに居場所(学籍)を用意するよ」

 

「──何故?」

 

 何故。

 

「寂しそうに見えたからね。帰る場所が、居場所が、欲しいんでしょ?」

 

 分かると云うのか。

 

「……は。アビドスなんてド田舎の辺境、誰が」

 

 私では無いと云うのに。

 何故、私の事が分かるのか。理解できない。

 

「全く……照れ隠しとはいえ本当に口が悪いんだからさ」

 

 照れ隠し等では断じて無い。アビドスなんてド田舎の辺境、本当に求めている訳では無い。交通の便が悪く、砂漠と不良共と柴関ラーメン以外には何も無い場所を、何故求めると云うのか。

 

「じゃあ、書類だけ貰っておくよ。いつか、マスターがアビドスに入った時はよろしくね」

 

 私の意思を無視して決めないで欲しいものだ。その『いつか』は永遠に訪れない。私が傭兵である限り、戦い続ける限り、居場所なんて求めない。死と終焉を運ぶこの身が、居着いて良い場所など無いのだから。

 

 ……ブラックマーケットは例外だ。あんな場所不幸になろうがどうでも良い。どうせ碌な奴が居ないのだ。無くなった方がマシである。

 

「アヴェンジャーくんの分も用意しようか〜?」

 

「……オレは良いよ。もう、高校生なんて歳じゃないしね」

 

 ふと、何処か哀しそうな笑みを浮かべるその横顔。もう手の届かない故郷を、懐かしい場所を想う様な、その情動。

 ──アヴェンジャーにも、こんな場所(かこ)があるんだろうか。

 

「んと……これで良いかな。先生のサインもあるし、これを連邦生徒会に出せば、晴れてアビドス高等学校の新入生だよ」

 

 絶対に提出させる訳には行かない書類だ。アレを出されたが最後、私はド田舎にある借金だらけの学校に通う事になる。

 利子は以前通りどころか、以前にも増して少額となったが、それでも9億もの借金がある事には代わりない。

 

「はぁ……次の仕事がある。アヴェンジャー、行こう」

 

「シキ、アヴェンジャー。また今度、仕事を頼むよ。じゃあ、またね」

 

 軽く手を振って別れる。機会があれば、アビドスとはいずれまた出会う事もあるだろう。完璧に断るのは、その時で良い。

 だから、今は、まだ。この縁は手放さなくとも良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「最強の傭兵、バロール。……お願いするわ。名もなき神々の花嫁、AL - 1Sを──して」

 

 相対する少女の名は、調月リオ。ミレニアムサイエンススクールの生徒会──セミナーの会長。ミレニアムのすべてを管理する者。

 そんな彼女は、一つの行政区の長として、一つの土地(くに)を管理する者として、私たちに仕事を依頼してきた。

 

「了解した。調月生徒会長。私たちが、その脅威を──」

 

「それが、キミたちの選択であるのなら」

 

 返答はイエスの一言。このキヴォトスにとっての脅威──私たちを脅かすもの、いつかの縁を脅かすものであるのならば。

 敵は兵器。キヴォトスを脅かすもの。世界を滅ぼす、人類の脅威。

 

AL - 1S(その兵器)を、破壊する」

 

 直死の眼。死を視るこの瞳が世界を救えるのなら。殺す事で、世を救えるのならば。

 

 その脅威を、滅ぼそう。

 

 それが、私の存在証明となる様に。




次回:ミレニアムサイエンススクール編

 ──死を以て、世を救おう。
 ──犠牲と決断こそが、オレの人生だ。

 ──先生、邪魔をしないで。その兵器は、キヴォトスの脅威でしかない……!
 ──例えその決断が罪なのだとしても。オレは、応えよう。かつて、皆がそうしてくれた様に。
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