直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ 作:夜月詠
境界・その1
ミレニアムサイエンススクール。その生徒会たるセミナー。黄昏に暮れなずむその部室で、調月リオと相対する。
「お願いするわ。この、キヴォトスの為に」
声色は冷たく、何処までも冷徹に合理を帯びる。なる程、確かに彼女の以来は合理的だ。ミレニアムが有する自治区、その何処かに眠る破壊兵器の完全破壊。
「部屋は自由に使って。何かあれば、トキに伝えて。……では」
調月リオの方でも幾つか策を用意しているらしいが、本命は私たちらしい。
万物を破壊せしめる直死の魔眼、その噂を何処からか聞き付けて大枚はたいて依頼を寄越してきたのだ。提示された報酬は破格も破格、依頼されている此方の方が恐ろしくなる程の額だ。恐らく、危ない橋を幾つも渡っているだろう。
この選択を、
「アヴェンジャー、貴方はどう思う?」
彼はどう思うのだろう。
数多の選択、数多の決断、数多の犠牲、数多の決意。その象徴たる英霊は、我らの選択を何とする。
「キミたちと同じ様に、犠牲を避けられなかったものとして。オレが言うべき事は無いよ。だけど……相手を知ることは、大切な事だとオレは思う」
かつて世界を救ったもの。かつて世界を滅ぼしたもの。
正統なる人類史の為に、異聞なりし世界の悉くを伐採した者達。自己の白紙化すら飲み下し、ただ、己が誇りと誓いの為に全てを手放したもの。
私とは、まるで異なる善なる貴方。
「けど、ここにあるオレはアヴェンジャーだ」
クラス:アヴェンジャー。復讐を果たした後の、行き場のない憎悪と復讐心より成るエクストラクラス。
それは、此処に在る英霊カルデアにとっても例外では無く。彼にとっては無茶な召喚により歪んだクラス、本来召喚に応える筈のない側面。生前、確かに抱いた憎悪を以て成立した、英霊としての
此処には確かに、昏い恩讐の炎が在る。
「救う為に戦った者としての記憶。それと相反する、憎悪によって走り出す幻想。理不尽な全て……人類を脅かす全てに対する敵意と憎悪。それが、確かに、ここにある」
復讐者は呪いを招き寄せる。クラススキルたる『復讐者』、その効果。招き寄せた呪いと憎悪を力に変える英霊としての異能。
何故、私が。何故、俺が。何故、彼が。何故、彼女が。
死にたくない。痛い。苦しい。許せない。どうして。
この理不尽に復讐して欲しい。そうでなければ、私たちが報われない。世界最後にして最大の復讐者たる君よ、どうか、この復讐を果たして欲しい。
その願いは、間違いなく。その信仰は間違いなく。人類最後であるが故に、人類全てを背負ったのだ。
英霊とは、人類史より生み出された人理の守護者。きっと、人々の憎悪を体現し恩讐の炎を振りまくのも英霊の役割なのだろう。
「終わった後から続いた、もう何処にもない星見のマスターとしてのオレ。後に続くものに託す事のできない、
例え異なる世界であろうとも。そこに、アヴェンジャーが背負うべき人類が居る限り。誰でもない誰か、何でもない少年は、復讐者として世界を背負う。
「人類の脅威。滅びの獣。その全てを、燃やし尽くせと、声が聞こえる。理不尽だけでなく、何もかもを燃やし尽くし、果てには自分自身すら消え去れという憎悪の声が」
普通の人間として、『自分に出来る事なら』と多くの願いに応える誰でも良い誰か。それが、英霊カルデア──否、そのマスターたる彼の本質。其処にこそ、
幸福にあった者が裏切りに終わる。
唐突に未来を奪われ、何もかも白紙と異聞に消え去った。
だからこその、アヴェンジャークラスのクラス適性。
彼個人にとっては、
その
縁も縁もない異世界で、魔力だけはある素人の召喚に応える為だけに霊基を歪めなければ顕現する筈が無いのだ。
「だけど、マスター。オレは君の決断を信じるよ。
憎悪も何もかもを飲み込んで、今を生きるキミが何を選び何を望むのか。その未来を保障する。それがキミのサーヴァントとしての、オレの在り方だ」
◇
調月会長の依頼を受け、ミレニアム各所を探索する事はや数ヶ月。漸く発見したAL-1Sはミレニアムが部活動の一つ、ゲーム開発部にあった。どうやらゲーム開発部が回収し、生徒名簿に対してハッキングを仕掛けて生徒として登録、保護していたらしい。
故に、時は来た。調月会長の依頼、及び、私自身の意思に依り。
かの兵器を、抹消すべく動き出す、その時が。
「ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部は此処だな?」
万が一の逃亡も許さぬ為に、ゲーム開発部の部室をアサシンクラス三騎で取り囲う。更に、飛鳥馬トキをも潜伏させてある。
戦闘に優れるとは言い難いミレニアムの生徒相手には十分な戦力だ。
「シキとアヴェンジャーがどうしてミレニアムに?」
なるほど。何の故あってゲーム開発部等という弱小がAL-1Sを確保出来たのかと思えば、先生の支援があったのか。
未来視にも似た──おそらくはあのアロナとか云うAIの未来予測──用兵技術があれば技術者集団であれど、廃墟を蠢くオートマタやらの類は退けられるか。
「仕事。……それで、花岡部長は何処に」
「えっと、先生、この人、知り合い……?」
機械らしい猫耳を付けた桃色眼の少女の誰何。確か、名は、才羽モモイだったか。
「紹介するよ。連邦捜査部に所属している
呑気に人の事を紹介する先生だが、彼が此処にいては少し面倒だ。此方の仕事に介入するのが目に見えている。
──アヴェンジャー。……駄目か。
「先生、花岡部長は何処に? 私たちは今、調月会長の使いとして此処を訪ねている」
何故かゲーム開発部の部室にいた早瀬ユウカ。何の縁か知らないが、セミナーに席を持つ身でありながら一体全体何をしているのか。……それとも、あの会長が他の生徒には一切の情報を秘匿しているのか。
どちらでも良い。前者なら離反として処理し、後者なら依頼主の情報統制に舌を巻くだけだ。とても私好みの性格、と云う事でもある。少なくとも、先生よりかは私に近い性格だろう。
「会長の? それはまたどうして……って、あなた……!!」
時間が惜しい。無駄な誰何と討論に使う猶予は無い。1秒でも早くAL-1Sを確保し、ネットワークから孤立させねば大変な事になる。
故に、懐から取り出した銃器を突き付ける。
早瀬ユウカの──調月リオの在り方は、どちらでも構わない。
多少強引であろうと、かの兵器は抹消しなければならない劇物だ。如何にミレニアムの部活動が確保していようとも、何の弾みに暴走するか、何の弾みに叛逆を起こすか知れたものでは無い故に。
「此方は調月会長直属、傭兵バロール。
単刀直入に云う。そちらに在る、AL-1Sの
「シキ、なんで、そんな事を」
両手を上げた先生がじりじりと後退しながらそんな事を問うて来る。だが、私も仕事。
「先生であろうと、情報を与える許可は出ていない。
そして、早瀬ユウカ。花岡部長の代行として、AL-1S──天童アリスを引き渡せ。これは、調月会長による正式な命令だ」
無もなき神々の花嫁。或いは魔王。このキヴォトスを破壊する兵器。
「……そんな命令を受け入れると、思っているんですか?」
「そうだよ! アリスは、ウチの部員なんだから渡す訳無いじゃん!! 横暴だよ、横暴!」
「……どちらでも構わない。無血か流血。ただそれだけ。そのどちらにせよ、
「私も、そのセミナーの一人です。第一、そんな命令は──」
「調月会長が署名した命令書だ。迅速に受理し、執行しろ」
懐から取り出して見せつけるのは、一つの命令書。セミナー会長たる調月リオの名と印が記された、ミレニアムサイエンススクールの正式な書類。
そこに書かれた内容は端的。ただ二つの決定だけが、冷徹に、合理的に飾り気のない文章で記されている。
即ち──
「……ミレニアムサイエンススクールの学籍より、天童アリスの名を抹消する。そして、身柄をゲーム開発部よりセミナー会長調月リオ、若しくは傭兵バロールに引き渡す事……! そんな、無茶苦茶な!!」
「天童アリスの在籍に道理は無い。その籍を用意した悉くが不法行為。ハッキングなんて何の言い訳もできない犯罪。
学籍の抹消に道理は存在する。どうしても、と云うなら戸籍を用意し入学試験を受けるが良い」
そこに居る先生がいれば戸籍なぞ正統な手段で用意できるだろう。シャーレを身元保証人に、正式な手続きの下戸籍の用意ができる筈だ。後はきちんと入学試験を受けて入学すれば良かったのだ。
正統な手段では無いから、こうやって理不尽に取り消される事になる。正式に入学していれば、幾ら調月リオであろうと此処までの強硬手段は取れなかった。
「それは……!」
度し難い愚かさ。或いは短絡さ。目先の問題を解決する為に、
先生が居たと云うに、何故こんな状態になっている。
──先生を買い被っていたか?
「先生、悪いけど、その子の身柄は預からせて貰う。……こっちも、ちょっと不味い状況でね。詳しい事は調月会長に聞いて欲しい」
一歩、足を引き戦闘に備えるアヴェンジャー。右手、その人差し指に魔力を集めいつでも
「──これで最後だ。
凍結する空気と、張り詰めた戦意の最中。がたり、がたがたと藻掻くようにして一つのロッカーが倒れ込んだ。
僅かな埃と共にその扉が軋みを奏でながら開く。
ぎぃ、と云う金属音と共に、ロッカーの中から赤い髪色をした一人の女生徒が姿を現した。
ゲーム開発部部長、花岡ユズである。
「居たのか、花岡部長。……話は聞いている筈。
「そ、それは、駄目……! アリスは、わたしたちの仲間だから……!」
交渉決裂。故に、これよりはキヴォトスらしく強硬手段を取る事にしよう。