直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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境界・その3

 白く清潔なミレニアムの校舎を必死に走って行く。私がユズとモモイを抱え、ミドリがユウカを抱え、ネルがアリスを抱えたまま。

 流石の生徒と云うべきか、人一人を抱えているのに私よりも足が早い。……ちょっと負けた気がする。

 

「アロナ、今どうなってる?」

 

 なんて、楽観的な事を考えている場合では無い。こうして逃げられてはいるが、多分、追跡はされている。

 此処はミレニアムサイエンススクール。キヴォトス有数の技術者の集まる学園だ。私や、生徒(こども)達の持つスマホのGPSを追跡する、なんて朝飯前の事だろう。

 

『相手側からのハッキングやGPSの検出は妨害できていますが、何か、熱源に追跡されています。多分、シキさんかアヴェンジャーさん……あるいは、そのサーヴァント? です。先生、どうしますか?』

 

 サーヴァント。アヴェンジャーが使役する、正体不明の人間達。老若男女、色々な姿形をした正体不明の実力者達。

 どうやって呼び出しているのか、そもそもサーヴァントとは何なのか。シキに深く聞けていないことをこれ程後悔する事になるとは。

 

「ネル、撃退できない?」

 

 ネルはミレニアム最強のエージェント集団、C&Cのリーダーだ。約束された勝利の象徴とも誉れ高い、サーヴァントにも通用する少女だ。この場面では、彼女に撃退してもらうのが最善だろう。

 

 応援要請に応えてくれて、本当に助かった。けれど、シキの言う通りに待機命令が出ていたなら、それはセミナーに対する叛逆に認定されてしまうだろう。連邦捜査部(わたし)の要請と、生徒会長の命令。どちらの優先順位が高いかなど分かりきった事だ。

 

「あぁ!? できなくはねぇけど、このチビどうやって運ぶんだよ。てめえが背負えるのか?」

 

 言葉遣いは乱暴だが、その実気遣いに満ちた情の厚い少女だと思う。彼女なりに、アリスを可愛がっていたからか、生徒会長の命令を無視して救援にやってきてくれたのか。

 

「今更だけど、良かったのかい? 待機命令が出ていたんでしょ?」

 

「あー、まぁ一応な。今日一日は大人しく待機してろつって言われてた。ま、問題はねーよ。シャーレの要請だし、学内で傭兵(ふりょう)が暴れてんのは問題だしな。緊急事態、っていう奴だ」

 

 ……その口ぶりからすると、もしかして何故待機命令が出されたのか教えられていない……?

 生徒会長の特命を受けた傭兵が、アリスの破壊を依頼されている、という事を知らないのか……?

 

「ねぇ、ネル、もしかして、詳しい事は何も──!」

 

「チッ、追いつかれた──! 先生、指示を寄越せ! ここで撃退するぞ!」

 

「わ、私も一緒に戦います!」

 

「私も、傭兵バロール撃退クエストに参加します!」

 

 シッテムの箱を起動する。起動するや否や、そこには何故か鉢巻を巻いたアロナの姿が映し出されていた。何故鉢巻を巻いているのだろう。

 

『先生! 私も本気でやりますよ! 前々から、シキさんたちとは一度本気でやりあおうと思ってたんです!』

 

 気合が入っているのは良い事だと思うけど、何だか妙な事になっている。鉢巻を絞めて気合をいれる、というのは何だか少し面白い。こんな状況だけど、ふと笑みが浮かんだ。

 

『──! 仮称:EXスキル"星の光・爆発"、来ます!』

 

 いつかシキやアヴェンジャーと一緒に戦った時のデータから、あの子たちの戦闘方法は予測できる。アヴェンジャーがメインとする攻撃(スキル)は広範囲に爆発を起こす『EXスキル:星の光・爆発』、『ノーマルスキル:ガンド』、『サブスキル:強化支援』の三つだ。

 

 今回、発生が予測されるのは『EX:星の光・爆発』だ。シッテムの箱から空中に投影される各種データや、予測映像がその攻撃を示している。この範囲なら──

 

「ネルは3メートル、ミドリは1メートル下がって! アリスはそのまま! 爆発系の範囲攻撃が来る!」

 

 言うや否や、彼女達は指示の通りにバックステップで距離を取った。アリスやユウカを抱えたまま、その挙動を取るのは流石生徒といった所か。……まぁ、銃器を気軽に持ち歩ける位だし、女の子の一人位は余裕で担げるのだろう。

 

「……なるほど。シキの言う通り、未来予測みたいな先読みだね、先生」

 

 廊下の向こう側から走ってきたのは、黒衣を纏ったアヴェンジャーだけだった。黒い髪に蒼い瞳をした、少年とも、青年とも言い難い年頃の彼一人。

 

「……アヴェンジャー、君だけなのかい?」

 

 一対二。数の有利は此方にある。アヴェンジャーは強力だが、これなら幾らか有利に戦える。

 

「……いや、サーヴァントの皆も一緒だよ。此処を囲んでる。それに、もう直ぐシキが調月会長を連れてやって来る」

 

 アヴェンジャーの背後に、幾人かの人影が立ち上がる。黒い鎧を纏った金色の瞳をした少年、或いは少女の騎士と、黒い外套に身を包んだ髑髏面、赤いフードを被った男、何処か拷問器具にも似た衣装の女──計5名。数の有利は、即座に覆った。

 その上、想定される戦力もあちらが上だ。一人一人がアヴェンジャーと同じかそれ以上──つまりそれは、ネルにも近い戦力が6人分という事。

 

「何で、アリスを狙うんだ。この子は何もやってない。君たちに狙われる様な謂れは──」

 

 アリスは何もやってない。例え、ミレニアムに不正な方法で在籍しているのだとしても、こんな、シキや生徒会長が本気で狙う程の罪でも無いだろう。

 

「そう、だね。その子はまだ何もやってない。けど、何れはこの世界を滅ぼすだろう」

 

 アヴェンジャーが言葉を編む。

 

「それは、一体、どういう──」

 

 世界を滅ぼす? アリスがそんな事をやる訳が無い。この子は、皆と同じ様に笑って、泣いて、夢を語る、ただの、どこにでも居る普通の少女だ。世界を滅ぼすなんて、そんな訳無い。

 

「……人類の脅威を打倒する者として……今を生きる人類(マスター)を護る者として──……」

 

 自分の手の甲を確かめながら、アヴェンジャーは声色を硬く冷たいものに変えて行く。重苦しい、悲壮と決意の入り交じった、そんな声。こんな年頃の彼が抱えるには、余りにも酷な、そんな重苦しさ。

 

「……キミたちの敵として、真実を伝えよう」

 

 いつの間にか、彼の背後にまでやって来ていたシキと、二人の少女。方やミレニアムの制服を着こなした黒髪の少女。方やメイド服を纏った亜麻色の髪の少女。何やらロボットと、それに捕縛されたC&Cの面々を引き連れた彼女達。

 

「……調月会長、許可を願う」

 

「……えぇ。許可します。こうなってしまった以上、本人の意思で此方に来てもらう方が効率的だもの」

 

 シキと会話する彼女が、調月リオなのだろう。このミレニアムサイエンススクールの生徒会、セミナーの会長。アリスを捕まえる様に傭兵バロールを雇った人物。

 

「アヴェンジャー、情報の開示を始めて」

 

「……君たちが天童アリスと名付けた彼女──それは、不可知な軍隊(Divi:Sion)の指揮官であり、無もなき神を信仰する無名の司祭が遺したオーパーツ。──その名は、無もなき神々の王女AL-1S」

 

「アリスは……アリスには……理解できません……」

 

「そうですよ! 何を言ってるんですか!? 一方的に、脳内の独自設定を話さないでください! よく、お姉ちゃんが──」

 

 アヴェンジャーが再び口を開く。今度は分かりやすい様に。端的に、分かりやすく。ゲーム開発部が、理解できる表現で。

 

「……キミたちに分かりやすい様に言えば、世界を滅ぼす為に産まれた"魔王"、という事だ」

 

 そう口にするアヴェンジャーの表情は……あぁ、よく、分からない。同情、同意、憎悪、悲壮、決意、憐憫──幾つもの感情の綯い交ぜになった、表現しようのない表情。

 だから、真実味が増してくる。

 

「アリスが、魔王……?」

 

「またそんな設定を……! どうしてそんな事を言うんですか!? 一体、何を企んでいるんですか!」

 

「では、証明しましょう。……トキ、例のものを」

 

 ミドリの言葉に対し、リオは冷静に傍らに控えていたメイド服の少女に指示を出す。

 

「此方に」

 

 トキと呼ばれた少女が差し出したのは、蜘蛛のようなカタチをした機械の、その残骸だ。脚を破壊され落とされたその骸を、少女はリオに差し出して恭しくお辞儀をして後退する。

 

 その機械を目にした途端。アリスの様子が豹変した。

 

「それは──そ、れ──────プロトコルATRAHASIS、有機生命の排除を実行しま──抑止力の発動を確認。優先順位を変更します。対象英霊、霊基構成検索──クラス:アヴェンジャー。

 対英霊戦闘機能解除。機体負荷計算開始──許容範囲と認定。

 守護者の排除を実行します」

 

 眼の、そこに灯る蒼が消えて。意識の薄い紫色の光が灯る。

 普段のアリスとは全く異なるその気配に、ぞくりと怖気立つ。

 ──本当に、そこにいるのはアリスなの?

 

「っ、先に言って欲しかったな……! セイバーはロボットを倒して、アサシン達はAL-1Sを! 先生達も此方へ来るんだ、今のその子は見境が無い!!」

 

「おい、どうなってやがる、あのチビ、あたしたちまでやる気だぞ!」

 

「アリス!? 何が起こってるんですか! 何をした──!」

 

 轟、と私たちのすぐ横の壁が吹き飛んだ。熱で溶解した痕跡と、パチパチと弾ける電気の(オト)。鼻につく電離した大気の臭いが、声高にその攻撃を証明する。

 ──これは、アリスが持つ光の剣:スーパーノヴァによるものだ。

 

 だから、あぁ。

 

 目の前で、私たちにその銃口を向けるアリスの姿は、決して、夢なんかじゃ無いんだ。

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