直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ 作:夜月詠
余りにも僅かな防衛設備しか存在しなかった列車から、エリドゥ内部へ進入する。このキヴォトスを走る為の最低限の武装しか施されていない事を、やはり訝しみながらも息を殺してエリドゥへ降り立つ。
C&Cのクリアリングに従いながら列車から抜け出すと、其処には一人の少女が立っていた。メイド服を身に纏った、表情のない冷たい雰囲気の少女だ。
「いらっしゃいませ、皆様。ですが、此処はお引きとりを。現在、要塞都市エリドゥは一切の訪問を歓迎しておりません」
恭しくお辞儀しながらも、その手にはアサルトライフルが構えられている。彼女の名は、確か、飛鳥馬トキ。C&Cの4人目のコールサイン持ち。
「思ったより早く現れてくれましたね」
「私達が此処に来ることは、お見通しだったわけだ」
此方もまた同様に武器を構える。話し合いで通してくれる雰囲気では無い。此処は彼女を打ち倒さないと先へ進めないらしい。
「ならば、これ以上の抵抗は無用。大人しく投降をお願いします」
アサルトライフルの銃口が此方を向く。
「う〜ん、それはちょっと難しいかな?」
爆炎、トキが踏み込んだ瞬間に爆炎が立ち上って視界を閉ざす。
どうやらアカネが、何かしらの爆発物を爆発させたらしい。
「あら、この程度では傷一つ……いえ、妙ね。確かに爆発に飲み込まれた筈なのに……」
「
爆炎の向こう側に、傷一つ、煤一つ無いトキの姿。確かに爆発に飲み込まれた筈だというのに、彼女には煤汚れ一つ無い。
「しかし、不用心ですね。魔術師の居処に、何の備えも無しに乗り込むなんて」
魔術──まさか、シキが何か細工をしているのか?
「魔術師? 何を言って──」
「魔術工房、防衛機構起動。
召喚式、並列起動。全トラップ開門──
その宣言と共に、周囲一体に浮かび上がる無数の
「何だ、あの化け物は──!」
「魔獣ソウルイーター、ゲイザー、ゴースト、その他にも無数の使い魔達。これでも、投降しませんか?」
触手の様な鬣を生やした四本脚の怪物に、大きな眼球の化け物。他にも、幽霊や骨で出来たヒトガタや、両手が翼となったドラゴン。他にも、無数の化け物たちがトキの周りで佇んでいる。
その化け物達が放つプレッシャーは相当なものだ。遠く離れているというのに、心臓を鷲掴みにされている様な、そんな本能的な怖気が奔ってくる。
『……飛鳥馬トキ、私は、貴方に工房の防衛機構の使い方を教えた?』
「いえ、バロール様の様子を見て覚えました。中々難しいですね、これ」
「先生、何か来たよ!!??」
その声に慌ててみれば、向こう側に大きな人型の何かが見えた。子供の工作の様な頭部、その上半身にはデカデカと描かれたミレニアムの校章。下半身は戦車そのもので、四本ある腕はそれぞれシールドにバズーカ砲、ガトリングガンにアサルトライフルを構えている。
「うわぁっ!? ダサ……」
「確かに、あんまり可愛いデザインじゃないけど……」
それは、ロボットだった。人型ロボットと云うロマンの塊だけど──どうしようも無くダサいデザインで、こう、心が揺れ動かない。ダサい。この上なく。それはもう、ダサい。
『先生、貴方達はただでさえミレニアムに対する背信の咎を背負っていると云うのに──ミレニアムの兵器類まで横領するなんて』
どうやら自律式では無いらしく、操縦を担当しているのかシキの声が聞こえてきた。覇気の無い、ともすれば棒読みにも聞こえる平坦な声色が、爆音の響く戦場にあってもはっきりと聞こえてくる。
「横領はそっちもでしょ! ここ作るのに、セミナーの予算を横領してるの知ってるんだから!!」
『……決議を通していないだけ』
モモイに論破されたシキは、その敗北を隠す為なのかロボットが持つ三つの武器の、その銃口を私達に向けてきた。
「論破されたからって、暴力で解決しようとするなんて!」
「横暴だー!! 横暴!!」
『
「「ちょっ……!」」
『言い訳は、死の淵で宜しく』
雨の様に降り注ぐ弾丸とロケット弾。その攻撃の雨霰、それらをC&Cの皆が片っ端から叩き落として行く。
弾丸を弾丸に充てて撃墜し、或いは爆弾の爆発で逸らし、私達に向かってくる攻撃の一切を無効化する。
流石はミレニアム最強のエージェント集団だ。
「これは、厳しいな……! 先生、私達はこのロボットの相手をする! その間に、あの化け物達を──!」
『舐めるな、C&C。飛鳥馬トキでもなく、美甘ネルでもないお前たちに私を抑えられるものかよ』
ロボット──シキは左腕にマウントされた武器から弾丸を放ちつつ、右腕のシールドを叩き付ける。単なる
「くっ、流石はビッグシスター、素晴らしい性能だ……!」
「言ってる場合か!? C&C、エンジニア部もロボットの相手を手伝う!! 先生、悪いけど、ゲーム開発部と一緒に化け物の相手を!!」
そう言いながら各々武器を構えて前線に向かうエンジニア部の面々を横目に、ゲーム開発部──ユズ、モモイ、ミドリを引きいて化け物に立ち向かう。この世のものとは思えない化け物達だが、弾丸が通用するなら恐らく倒せる──筈だ。
「先生! これ効いてるんですか!?」
「あの幽霊以外には通用してるんじゃない!? なんか、怯んでるし!」
「ぶ、物理無効とか……? 見るからにゴーストタイプだし……」
トキが従えた化け物達の内、何種類かには弾丸が通用している様だが幽霊には何の効果も無いらしい。まぁ、見るからに幽霊だ。物理攻撃が効かないのも自然ではある。
だが、一体どうしたものか。
「バロール様、ご助力感謝します」
『問題無い。我らが主は、迅速な撃滅をお望みだ。……エデン条約締結前に、内憂の一切を解決する』
無数の化け物達の影に隠れながら、トキはその弾丸を乱れ撃ち、ロボットを操るシキはその武装を乱射する。
まさか、これだけの人数が居てたった2人に足止めされるなんて。
──手の中の、カードに目を落とす。
「あの幽霊っぽいの、私たちじゃ倒せません! 何か通用しそうな武器とか持ってる人いませんか!?」
「そちらに構ってる暇が、無い! せめて、傭兵が操るこのロボットさえ無ければ……!」
高鳴る心臓の鼓動。このカードが、何を犠牲にするのかは分かる。寿命、存在、概念──そう言ったものを使い潰して一次的な超常現象を引き起こす。
──さぁ、使おう。生徒たちの望みの為に。
ふわりと、舞い散る花弁のような少女が一人。その身を包むメイド服と、ジャンパーのあちこちが破れ、その奥から血の滲む彼女がビルの壁を蹴って、私のすぐ前に着地した。
「──すまん、先生……アヴェンジャーの野郎に、見つかった……!」
彼女が愛用するツイン・ドラゴン。その片方は半ばで斬り飛ばされて最早役に立たたなくなっており、残った片割れは内部が何処かおかしくなったのか金属同士の擦れ合う異音が聞こえてくる。
「なるほど。ミレニアム最強戦力であるネル先輩の潜入による斬首作戦……先生すら陽動として使い、最高戦力単騎でリオ様を狙う……合理的ですが、甘いですね」
「襲撃者はこれだけだ、マスター。ミサイルはまだ撃ち込まれてるけど、調月会長に叛逆する生徒は他にいない。増援はありえない」
ビルの上。太陽を背にその黒衣を風に揺らすアヴェンジャーの立ち姿。その振る舞いに、外見とは似ても似つかない経験の差と濃度を垣間見る。
まだ子供と呼べる外見だと言うのに、彼が潜ってきた修羅場も戦場も、私より数段上なのだろう。一体何故、何処にでも居そうな、平凡な彼がそうなったのか。
「先生。そのカードは、多分、使わない方が良い。寿命とか、存在とか、そういうものを消費する類の礼装だろ?」
蒼い瞳と視線が合う。決意に満ちた、何処か物哀しい彼の眼差し。あぁ、きっと、彼はその意志を変える事は無いんだろう。
アリスを破壊する、その意志はきっと変わらない。譲歩して、それと同じ結果だけだ。
「はは、忠告ありがとう、アヴェンジャー。
でも、私は──生徒の為なら、私自身すら惜しくは無いんだよ」
──大人のカードを、起動する。