直視の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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死と白紙・その3

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E。

 失踪した連邦生徒会長が設置した、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関。キヴォトスの勢力図に於ける特異点。"先生"の名の下に、キヴォトス内のあらゆる学園に干渉する権利を持った組織。私と同じ、キヴォトスに於けるイレギュラー。

 ただ一つ、違う点があるとすれば。それは、誰かに望まれたかどうかと云う一点。私は誰に望まれる事なく此処にあり、S.C.H.A.L.Eは連邦生徒会長に望まれて其処にある。

 

 連邦生徒会の御膝元、D.U.地区の一角に存在する六角柱を複数束ねた様な、妙ちきりんなカタチのビルが、その特異点のオフィスだ。

 

「……"先生"って、かなりの重要人物なんだよね? 護衛の一人も居ないのは、ちょっと不用心じゃないかな」

 

 先程此処で戦闘があった事は確認している。

 道路の節々に遺る弾痕や、スリップ跡、燃え滓や薬莢等がそれを事実として物語り、保障している。

 しかし、何故此処で戦闘が起きたのか。連邦生徒会の御膝元で、無法を働くほどに気合の入った──懸賞金を掛けられる様な不良は、片っ端から私たちが捕まえたと云うのに。

 

「……アサシンクラスの、報告は?」

 

 クラス:アサシン。暗殺者の名を冠する霊基。

 けれど、そのクラスが司るのは"暗殺"だけで無く、"諜報"や"密偵"等、所謂暗部としての特徴を併せ持つ。

 アヴェンジャーが召喚した、赤毛の忍者(アサシン)。諜報のスペシャリストたる彼は、キヴォトス各所で情報収集を行なっている。『気配遮断:A+』と『忍術:A+++』。超一流と云って差し支えない、寧ろそんな言葉の方が不足になる程の諜報技術。

 当然の様に、連邦生徒会や格学園の生徒会、情報室からですら、情報を集めてくれる。

 

「まだだよ。……いや、たった今、報告が来た。どうやら、厄災の狐──狐坂ワカモが脱獄してたらしい。他にも六人の厄介な囚人や、色んな不良と一緒に」

 

「……また、その首に値が付くのなら。食い扶持が、増えた事になる、ね」

 

 正直な事を言えば、有難い。

 此処最近は、賞金首を狩人すぎてそろそろ宛が無くなる所だったのだ。首に値を付けられる程の不良はほぼ全てを刈り取り、残るは木っ端、一握幾らの有象無象。

 そんなのでも捕らまえて、ヴァルキューレに突き出せば多少の謝礼──大抵は感謝の言葉か、駄菓子程度──は貰えるが、生活の宛にするにはとても足りない。

 ……いや、足りるなんてものじゃない。一食の宛にもならない。

 

 そろそろ、賞金狩りでは無く、傭兵としの活動をメインにしようかと思っていた頃合いだ。

 

「アサシン:▓▓▓▓、周りを警戒していてくれる? 何かあれば、捕まえちゃって」

 

 彼が召喚したのは、艶やかな黒髪を一つに束ねた女の人。忍者らしい格好をした彼女は、コクリと頷くと直ぐ様飛び上がって何処かに姿を消してしまった。『気配遮断』か、或いは霊体化か。

 兎も角、人間の目には視えない状態となって、このビルを警戒してくれるらしい。

 

「……行こう、アヴェンジャー」

 

 

 ◇

 

 

 所属不明。何処の学校に所属していて、何の部活に入っているのか。名前、種族、出身、その一切が不明。

 突如としてブラックマーケットに現れ、相方の男性──"復讐者(アヴェンジャー)"を名乗る彼と、行動を共にする傭兵。

 "賞金狩り"や"死神(バロール)"、"召喚師"など、複数の通り名で呼ばれる。

 

 私が──アロナや連邦生徒会が集められた、彼女についての情報はそれだけ。何しろ、キヴォトス各所の監視カメラにすら殆ど映っていない──いや、映像が消去されているのだ。

 彼女にそういう技術があるのか、はたまたそういう事を得意とする仲間が居るのか。当然ながら、一切不明。

 

「ふわぁ……今日はもう、休もうかな……」

 

 キヴォトスに着いて、生徒達の戦闘指揮をして、そしてこのオフィスに辿り着いて。今日は本当に色々あった。

 まだオフィスには資料や、空けてないダンボールの類が山積みになっているけれど、今日はもう休むとしよう。

 明日やれば良い。……それはそれとして、私はこのビルで寝泊まりするのだろうか。

 

『先生、どなたかいらしたようですよ? 今、照会を──え? で、データがありません! どこにも! だ、誰ぇ!? 誰なんですか!?』

 

 タブレット──シッテムの箱の画面に映る少女(アロナ)が、ころころと変わる愛らしい表情と共に、ハテナマークやビックリマークを幾つも浮かべていた。

 

 部屋の入り口に目をやると、其処には二人組の姿があった。

 黒い長髪に眼鏡を掛けた、蒼い眼の少女。何処かの制服の様な、白い衣服を纏った子。

 その傍らに立つ、人間の男性(・・・・・)。このキヴォトスでは、私の他に一人しか居ないらしい、大人の、人間の男性だ。

 すると、彼女達が──

 

「……その、AI、煩い。人工知能(どうぐ)に、こんな反応(プログラム)は不要だと思う、のだけど」

 

「あはは……」

 

 賞金狩りと、復讐者(アヴェンジャー)のコンビなのだろう。

 このキヴォトスでは、人間の男性はこれまで一人しか存在しなかったらしい。他にも居たのであれば、もっと噂になっているだろう。確定だと、考えて良い筈だ。

 

「召喚に応じて、参上した。……私は、傭兵。通り名はバロール。と、彼は、アヴェンジャー。私の、サーヴァント」

 

「始めまして、シャーレの"先生"。オレはサーヴァント、クラス・アヴェンジャー。よろしくお願いします」

 

 従者(サーヴァント)

 すると、彼女は良い所のお嬢様、というものなのか。

 

「はじめまして。私は、S.C.H.L.A.Eの先生だ。よろしくね」

 

「それで、要件は。仕事なら、内容を聞いてから、考える」

 

 取り付くすべもなく、彼女は冷淡に言葉を口にする。

 感情の冷え切った冷たい視線、表情筋一つ動く事の無いポーカーフェイス。あるいは、無表情。

 

「いいや。そういう訳では無いんだ。私は、ただ、君たちに興味があっただけでね」

 

 所属不明の少女と、唯一だった男性。

 "先生"として、キヴォトスに来たばかりの一人の人間として。そんな人達を気にしない訳が無い。

 

「……そう。……疑問は、ない。教職者として、所属不明の子供を、見過ごせない。一人の人間として、唯一の同類を不思議に思う。理解できる、感情の機序」

 

 私を見透かす様な、冷たい瞳。腹の奥底まで見透そうとする、そんな知性の発露。驚く事に、私が思っていた事を言い当てられてしまった。

 

 

 ◇

 

 

 

「事実、私はどの学園にも属していない」

 

 あの砂漠で、このキヴォトスで目覚めてから。

 私は彼と共に、この世界を1年ほど彷徨ってきた。氏名不詳、年齢不詳。戸籍も何も持っていない。

 学校に通える訳が無く、まともな職に就ける筈もなく。流れるように、当然の帰結として、私はブラックマーケットで傭兵稼業を立ち上げた。

 

 幸運だったのは、戦闘能力という一点だ。一騎のサーヴァントとしては弱くとも、召喚術師としては強力無比なアヴェンジャー。

 この世に存在するモノであれば、万物を切り殺せる直死の魔眼(わたし)。不良の捕縛、破壊工作、護衛、襲撃。

 最強の破壊装置たる私と、万能手のアヴェンジャー。私たちは最強で、私たちは、この世界で生きていける。

 

「名前も無い」

 

 無名。喪失。忘却。

 過去と共に、あの砂漠以前で消え去った私の過去(きろく)

 名乗る名は無く、表すべき記号しか無い私の在り方。

 曰く、直死の魔眼はバロールと云う神を原典とするらしい。視た者を殺す(かみ)と、滅ぼし殺すべき線を視る(わたし)。故に、私はその名を騙る。

 

「私は、バロール。無名(ななし)の傭兵。()を視て、()を断つ魔眼の保有者(ホルダー)

 

 故に、私を表す名前(きごう)は、

 

無名(ななしの)シキ」

 

 (アヴェンジャー)に名を問われた時に、何も知らなくて。彼と一緒に考えた、私の()

 過去を知らぬ無名にして、死期を定める凶ツの落し仔。

 

 ……彼は、直死の魔眼を持つ"シキ"と云う人を複数知っていたから、と言っていた。だから、と云う事もあるが、それ以上に、この銘こそが相応しいと、そう思った。

 

「呼ぶのなら、そう呼ぶと良い」

 

「分かった。じゃあ、君をシキと呼ぶよ。それで、そちらのアヴェンジャーさんはどう呼べば良いかな?」

 

「アヴェンジャーで良いよ、先生。オレも、貴方を先生と呼ぶからね。同じ様な意味合いでしょ、お互いに」

 

 役職、役割、配役。

 "アヴェンジャー"も"先生"も、そう云った同じ意味合いの言葉だ。互いに役職で呼び合う、と云うのも不思議な事では無い。

 

 そも、サーヴァントの真名(しんめい)とはそう簡単に教えるものでは無い。この世界では、他に知るものがいないとしても。

 彼の本当(なまえ)に、最早意味が無いとしても。

 知っているのは、私一人で十分だ。

 

 ──そうでしょ? ▓▓▓▓(アヴェンジャー)

 

「分かった。よろしくね、アヴェンジャー」

 

 先生と彼が軽く握手を交わすのを横目に、さてこれからどうするかと思案する。このまま部屋に直帰するか、外でご飯を食べて帰るか。

 

「……ねぇ、シキ。君は……君たちは、無所属なんだろう?」

 

 ふと、先生がそんな事を言い始めた。

 

「それなら、S.C.H.A.L.Eに所属するつもりは無いかな。学校に所属しているのと同じ扱いで、学籍なんかも発行できるんだけど」

 

 ……驚いた。まさかS.C.H.A.L.Eにも、戸籍(学籍)を発行する権限があったとは。一体、連邦生徒会長は何を考えてこんな特権機関を設立したのか。こんなもの、各所で火種になる事は目に見えていると云うのに。

 

「……私は、指図を受けるつもりは無い。アヴェンジャーと一緒に、自分の意思で生きる」

 

「オレとしては、危ない事にはできるだけ近付かないでほしいんだけどね。学生っていうのは、もっと勉強や、アルバイト、友達とか家族……恋愛について、悩むべきだと思うんだ」

 

 ……本当に、時折溢すこう云うの(・・・・・)は辞めて欲しい。死後に自分の人生を振り返って、見つけ出した後悔や未練。

 それを、私に味わって欲しくは無いからと。偶にこう云う事を口にするのだ、彼は。

 

「……アヴェンジャー。これは、私が選んだ(こと)、だから」

 

 ……いや、サーヴァントとは須くこう云う存在なのかも知れない。

 

 かつて生きた、人の影。

 生者の呼び掛けに応える過去の英雄。

 在りし日の影法師。

 

 話に聞く聖杯戦争ならば兎も角、見返り等期待できない召喚に応えてくれる人物は。須く、こう云う存在なのだろう。

 今を生きる人類(こうはい)の為に。その一心で。

 

「けど、その忠言には、感謝する。ありがとう」

 

「君たちは、良いコンビみたいだね」

 

 S.C.H.A.L.Eに籍を置く。すると私は自由の制限を受けるのか。

 けれど、公的な身分が手に入るというメリットがある。

 キャスタークラスの暗示に頼る必要も、もう無くなる。あの頃の様に、その場限りの小細工で苦労する必要も無い。

 

「アヴェンジャー、貴方は、公式な身分が必要だと思う?」

 

「そうだね。マスターが生きていくのには、有った方が良いと思う」

 

「……先生、S.C.H.A.L.Eに所属した上で、何かデメリットは存在する?」

 

 考えられるのは、先生への追従あたり。

 何かしらの仕事の度に、同行する、等か。このキヴォトスでは、戦闘能力が無ければ、気軽に街を歩く事すら叶わない。

 特に先生は尚更だろう。この世界に生きる存在が持つ円環(ヘイロー)。サーヴァントの『神秘を持たない物理攻撃の無効化』にも似通った特性を与えるあれがなければ、軽い銃撃戦(いざこざ)に巻き込まれる度に、死を覚悟する事になる。

 

「いや、特には。……あぁ、けど。君たちに仕事を頼む時に、ちょっと割引して欲しいかな」

 

 ……驚いた。心の底から、善意で言っていたのか。

 何の見返りも求める事なく、ただ、善意で。どうやら先生には、アヴェンジャーと似通った所があるらしい。

 

「……了承した。傭兵バロール、無名(ななしの)シキは連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに、籍を置く。アヴェンジャーも、同様に。……良い、よね?」

 

「勿論。それが、マスターの望みとあらば」

 

「分かった。これから宜しくね、シキ、アヴェンジャー」

 

 割引きとしては、三割引き程で良いだろうか。




『境界を越えるもの:A』
▓▓▓▓。▓▓▓と▓▓▓、世界と世界を駆け抜ける▓▓▓▓▓▓▓その証明。
単独行動の特殊派生スキル。
擬似的な単独顕現であり、マスターを持たずとも自発的な現界、及び単独での行動を可能とする。

『人理装填:C』
莫大な魔力・運命力を即座に充填する特殊技能。
英霊・▓▓▓▓/▓▓▓▓の場合は、現界時に与えられる計三角の令呪を一角消費する事で、宝具の大規模展開に相当する魔力・運命力を獲得する。

『忘却補正:D+』
人は多くを忘れる生き物だが、▓▓▓▓▓▓▓は忘れない。忘れたくない。それが例え、▓▓に過ぎずとも。
多くの人の顔を、声を、言葉を。多くの世界を、多くの在り方を。大切なものを、辛いものを、苦しいものを、楽しいものを。
その旅で得た全てを抱き、路を行く。
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