直視の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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帰るべきは何処/アビドス高等学校
帰るべきは何処・その1


 人には変えるべき場所が必要だと、誰かが言った。

 自己を産んだ起源、己が変える根源。自分自信を指し示す、因果のはじまり。心の在り方、懐かしむべき何処か。

 私にとってそれは、何処なのだろう。

 

『──手を握っていて、くれますか?』

 

 記憶の彼方。彼が懐かしいと、そう思っているであろう人の声が悠く残響として響く。

 多くの人の声が、顔が。確かな記憶となって、流れて行く。

 

『頼もしいマスターに、育ったなぁ』

 

 溢れだしそうになる涙。胸を突く郷愁。

 私のものでは無い筈なのに、私自信のものの様な。確かな感覚を伴って、数々の記憶が、思いが、過ぎ去って行く。

 

 それは、世界を救った旅の結末。

 それは、世界を救った旅の帰結。

 人理保障(グランドオーダー)の、その終着。

 

 異聞に消え去った、白紙の末路。

 なんの見返りも無く、自分自信の──此処に在った、自分の現在を、その罪を無為に消し去る、その選択。

 自分の白紙化()すら厭わず、彼は何の為にその選択肢を選んだのか。

 

 私には理解できない、彼の在り方。

 けれど、きっと、彼は正しいのだろう。復讐の為で無く、救う為にこそ道を選んだ、彼の在り方は。

 

 きっと、そう云う人を英雄と云うのだろう。

 

 

 ◇

 

 

 

「……アビドス高等学校。辺鄙な場所にある、廃校のなり損ね。そんな所に、何の用がある?」

 

 突然シャーレのオフィスに呼び出されたかと思えば、内容は仕事の以来だった。アビドスとか云う廃校擬きに行くのに追従して欲しい、という護衛の仕事。

 仕事自体に文句は無いが、行き先が気にかかる。

 

 ──アビドス高等学校。

 かつてはキヴォトスでも有数の権勢を誇った名門だが、それも今は昔。砂漠の拡大に伴い、自治区から人気は無くなって行き、つい数年前に、生徒会長を喪って、副会長のみが遺されたという、もう何で潰れてないか不思議な所だ。

 

「……シキって、結構口悪いよね?」

 

「この口の悪さはどうにかしようと思ってるんだけど……どうにも治らなくて」

 

 好き勝手言ってくれる大人たちだ。

 第一、私の口が悪い訳では無い。歯に絹着せぬだけだ。大体、多少表現が拙くても、私の発言はその殆どが事実だ。

 

「煩い。……それで、何でそんな辺境に行くの?」

 

「アビドスの生徒から、救援要請が届いてね。それで行く事にしたんだ」

 

「……そう。酔狂。或いは、仕事熱心。……払うものを、払ってくれる。それなら、文句は無いけれど」

 

 随分と仕事熱心な人だと思う。

 生真面目というか、職務に忠実と云うか。こう云う所が、教職の聖職たる所以なのだろうか。

 

「いつ出発する? 此方は、いつでも良い。傭兵バロールは、24時間365日、営業中」

 

「そっか。それならありがたいな。じゃあ、出発しようか」

 

 いつでも良い、とは言ったけれど。

 これから直ぐ出発、なんてちょっとどうかしてると思う。そも、アビドス自治区は砂漠地帯。先生みたいな、通勤鞄にスーツ、馬鹿っぽいAIがインストールされたタブレット一つで向かう様な場所じゃない。

 

 せめて水や食料、コンパスなどは持っていくべきだ。

 最悪、先生の方から連邦生徒会に連絡すればヘリコプターなどで物資を運ばせられるのだろうが、それでもこんな軽装であんなカスみたいに辺鄙な場所に行くべきでは無い。

 

「……少し時間を貰う。アヴェンジャー、必要な物資を。貴方の判断で良い。シャーレ宛に領収書を」

 

「分かったよ、マスター」

 

 私のアヴェンジャーは、旅慣れしている。砂漠地帯での行軍経験が幾度もある歴戦の旅人だ。こう云う時に必要な物資や装備を把握している筈だ。故に、暫く待機する。

 

「……先生、代金はシャーレ持ち。構わない、ね?」

 

「あ、はは……お手柔らかに頼むよ……あんまりお金使いすぎるとリンちゃんに怒られるから……」

 

 シャーレのバックが連邦生徒会長──引いては、連邦生徒会であるのなら、その活動資金もまた、連邦生徒会から出ているのだろう。権限や立場としては独立しているが、資金面は何とも言い難い。シャーレがこの調子で活躍していれば、寄付や資金援助も行われるのだろうが。

 

「遠慮はしない。完璧、完全、完勝。それが私たちの存在証明(レゾンデートル)。仕事の遂行の為なら、リソースは幾らでも費やすと決めている」

 

 過去の無い私たちにとって、完璧こそが唯一の存在証明だ。

 決して失敗しない最強にして最高の傭兵。そうでなければ、完璧で無ければ──一度舐められてしまえば、私たちの仕事は終わる。

 失敗する傭兵には、何の存在価値も無いのだから。

 

 いざとなれば、この直死(まなこ)すらも、手札として切ってみせる。私の為に、死と破滅を齎す事を厭わない。

 

「シキ、君は……そうだね、過去に何かあったのかな? 完璧である事に……弱点を見せない事に拘っている気がするよ」

 

「誰であれ、生きる者ならそうする。弱みなんて、見せないに越した事は無い」

 

 過去が無いと云う事は、後ろ盾や逃げ帰る場所が無いと云う事。

 一度の失敗で全てを失う可能性があるという事。あらゆる責務を、あらゆる失敗を、あらゆる行為の責任を自分自身で取るという事。

 

 その痛みは、一体どれほどのものなのだろう。

 

「完璧主義者。それが私」

 

 

 

 ◇

 

 

「ゼヒュー……ごは、ッッ……げホッ、ぐ、ご、ぐ……あ、ゔぇん、ジャー……!」

 

「マスター……体弱いのに見栄を張って歩こうとするから……」

 

 アビドスの昼は辛い。燦々と照り付ける日の熱さと、カラッと乾いた砂漠の熱気。それは、殺意にも似た破滅と終焉の暗示の様。

 

 最初からアヴェンジャーに背負って貰えば良かったものを、ついうっかり見栄を張って徒歩で追従しようとしたからか。

 この身は砂漠に耐え切れず、道半ばで息絶えようとしていた。

 

「あはは……何処か、日陰で休憩をとろうか」

 

「あそこの廃墟が良いのかな。マスター、抱えるよ」

 

 アヴェンジャーが徐に、私の貧弱な肉体を担ぎ上げて道の傍らに経っていた廃墟にまで移動する。砂漠の侵食に飲み込まれ荒廃しきったこのアビドス自治区、道を歩けばそこかしこにこんな風に廃墟が点在しているのだ。

 

「ヒュー、ヒュー……ぐ、直ぐ、復帰する……!」

 

 アヴェンジャーが差し出したペットボトル、その中身を飲みながら、そう口にする。口内に広がる清涼感と、後を引く事の無いスッキリとした甘みのスポーツドリンク。

 疲労感を甘みに溶かし、私は再び立ち上がる。

 

「私は、最強の傭兵バロール……! この程度、問題にもならない……!」

 

 きゅう。

 哀れ、私の意思と気力に肉体が付いてこられなかったらしい。

 魔力はもう、履いて捨てるほどあるというのに、体力と元気は滓の様。命の危機に陥れば、限界を越えた運動性能を発揮できるが、こう云う日常生活では私は貧弱な小娘に過ぎないのだ。

 火事場の馬鹿力と云う奴の出力が、私は他の人間に比べて酷く高いらしかった。

 

「ぐ、ぐぶ、ぶぶ……」

 

「ごめん、先生。オレのマスターが回復するまで、もう少し休んでも良いかな」

 

「勿論。私も、丁度もう少し休みたい気分だったんだ」

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