直視の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ   作:夜月詠

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帰るべきは何処・その2

 それは、きっと。アヴェンジャーの記憶の中のそれと似通った、よくある普通の校舎だった。

 砂漠に飲み込まれてしまった、薄汚れた汚い校舎。多分、砂と汚れを除けば普通の学舎なのだろう。

 アヴェンジャーの生まれ故郷──私のしらない、懐かしい何処か。最早二度と帰ることのできない、彼方の夢想。

 

「目的地はここで合ってるのかな。……うわぁ、懐かしいな、この感じ。故郷の学校に似てるよ」

 

「へぇ、アヴェンジャーはこんな感じの学校に通ってたんだ。復讐者、って言う割には結構普通だね」

 

「……きっちり3年間過ごしたわけじゃないんだけどね。夏休みに献血で──って、オレの過去(はなし)は良いよ」

 

 目的地に辿り着いて、アヴェンジャーも気が緩んでいるのか、滅多に喋る事の無い過去を口にする。

 ……こうして、一歩引いて見てみると、先生とアヴェンジャーは割と似ている。中身は……置いておいて、外観は結構はかなり。

 互いに、所々跳ねた癖のある黒髪。気持ちキリッとした表情をした方がアヴェンジャーで、緩い表情を浮かべた方が先生だ。

 違いと云えば、瞳の色と声色位なもの。並んでいると、外側(がわ)だけじゃ違いが分かりにくい。

 

 ……そう云えば、髪の分け目も違う。向かって左側で分けたのが先生で、右分けなのがアヴェンジャーだ。

 まぁ、私は魔力の経路(パス)で両者の識別を簡単にこなせるのだけど。

 

「……此処の生徒(ガキ)共はどうなってる、の? 態々、連邦捜査部がやってきてあげたのに、茶の一つどころか、出迎えすら無い、なんて」

 

「口悪いね、本当に……」

 

「こういう子なんだよね……悪い子じゃない……ない筈……だから許してあげて欲しい。……それは、そうとして。駄目だよ、シキ。なんでそんなに偉そうになのさ」

 

 嫌味の一つや二つ、三つ四つ程度言われても仕方ないだろう。

 此方は連邦捜査部S.C.H.A.L.E、アビドスとかいうクソ田舎のカスみたいな学校を態々助けに来てやったのだ。

 盛大に歓待しろ、とは言わないが出迎え位はするものだろう。

 学校の名を背負う生徒会が──副会長が健在だと云うのなら、学校の名の為に、一つの失敗も許されない。

 それが道理で、上に立つ責任と云うものだ。

 そんなものすら背負えないと云うのなら、人の上に立つべきでは無い。

 

「すぅ────アビドス高等学校、生徒会並びに在校生に告げる! 当方は連邦捜査部S.C.H.A.L.E! S.C.H.A.L.Eの名の下に、貴校の救援要請を受諾し、現時刻を以て現着した! 返答や如何に!」

 

「は、はい!! こちら、アビドス高等学校、アビドス廃校対策委員会、書記の奥空アヤネです! シャーレの皆さん、お待ちしておりました、どうぞ、お入りください!」

 

 窓から乗り出した少女が、大きな声で此方(わたし)の誰何に返答する。制服を纏った黒髪に、赤縁眼鏡を掛けた少女だ。黒髪と眼鏡で、ちょっと私とキャラが被っているのが気に食わない。

 それと、副会長はどうしたと云うのか。現アビドス生徒会はかの副会長ただ一人。シャーレの"先生"とのやりとりは、最高責任者たる副会長──小鳥遊ホシノが熟すべき役割だろうに。

 

「行こう、アヴェンジャー、先生。無作法な生徒(ガキ)共だけど、仕事なら仕方ない。我慢する、ので、先生の仕事を、速く済ませる」

 

「シキも大分無作法……いや、言うのは辞めとこう……」

 

 私の覇気に恐れをなしたのか、先生は成立させかけていた言葉を崩した。不都合な事は黙らせるに限る。

 

「駄目だよ、シキ」

 

 アヴェンジャーがてし、と私の頭にチョップを食らわせて来た。

 こうやって、私を叱るのがここ最近のアヴェンジャーの日課だった。

 

「……うす汚れてる。やはり、生徒数が、足りてない。自分の学舎の手入れすらできない、なんて。無理がある。シャーレは、どうする?」

 

 学校がこの様子では、自治区の方にも期待できない。

 学園都市キヴォトス、その行政区の一つを預かる組織として、アビドス高等学校は最早成り立っていない。

 いや、かろうじて、と形容詞が付くがまだ成立している。しかし、それも時間の問題。このままでは、そう遠くない内にアビドスは行政区諸共共倒れするだろう。

 

「私は、生徒達を手伝うだけだよ。私は救うんじゃなくて、皆に立ち上がるための手段を渡しに来たんだ」

 

「申し訳ありません、お迎え一つできず……」

 

 黒髪に赤縁眼鏡の少女が、トコトコと廊下を駆け抜けてやって来た。窓から身を乗り出していた奥空アヤネと云う生徒だった。

 

「奥空書記、出迎え御苦労」

 

「だからなんでマスターは、そう偉そうにするのかな……」

 

 こう云う所で格の違いを見せていくのが一流の傭兵と云うものだ。人間性や立場と云うものは、こう云う細やかな所作から零れ出るもの。細かく点を獲得していくのが、高得点の秘訣である。

 

「ご、御苦労……その、こちらの方は……と云うか、"先生"は、その……」

 

「私がシャーレの先生だ。宜しくね、アヤネ」

 

 生徒(ひと)を気軽に下の名前で呼ぶのもどうかと思う。

 この人、案外馴れ馴れしいタイプだ。だと云うのに、あまり嫌な気持ちにならないあたり、天性だろう。

 

「オレはアヴェンジャー。この、偉そうな子(シキ)と先生の護衛をしている傭兵──痛て、シキ、なんで蹴るのさ」

 

 なんとなく。別にアヴェンジャーの言葉に含みを感じたとか、そう云うのでは無い。最強の傭兵バロールはそんな事で一々腹を立てない。

 

「私は、無名(ななしの)シキ。先生の護衛。雇われ。腕利き。ので、高くつく。雇う時は気を付けてほしい」

 

 具体的には三桁万円程。

 私たちは最強の傭兵バロールなので、とても高い。依頼成功率100%、失敗する事の無い最強。そのネームバリューは偉大なのだ。

 

「そ、そうですか……えー、シャーレの先生と、護衛のシキさん、アヴェンジャーさんですね? 遅れ馳せながら……お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ。早速ではありますが、私たち、アビドス廃校対策委員会の部室へご案内します」

 

 しかし、アビドス廃校対策委員会なんて部活、正式に登録されていただろうか。アサシンクラスに集めて貰った情報には無かった気がする。

 

「奥空書記、他の生徒──特に、小鳥遊ホシノは?」

 

 アビドス高等学校、生徒会副会長。3年生、小鳥遊ホシノ。

 2年ほど前から一人で生徒会を担う少女。凄まじく腕が立つ、と云う噂を聞いた事がある。

 

「皆、教室で待機しています。ホシノ先輩は……多分、起きてる筈です。さっき、セリカちゃんが凄い勢いで先輩を揺さぶってたので」

 

 確か、アビドスの現生徒は合計五名だったか。

 小鳥遊ホシノ、砂狼シロコ、十六夜ノノミ、黒見セリカ、そして目の前の奥空アヤネ。かつての名残で土地だけは大きいアビドスを、たった六人で切り盛りするのは物理的に不可能だと思う。

 それに、来年は小鳥遊ホシノも卒業する筈。そうすれば、いよいよだ。……留年する、と云う手段もあるが。

 

「……ここです。どうぞ、中へ。アビドス高等学校は、シャーレの皆様を歓迎します!」

 

 クリアリングは護衛の基本。引き戸が開かれると共に、室内を確認する。奥のソファに寝転がるピンク髪と、それを揺さぶる黒髪猫耳、席に座った亜麻色髪。計3名。武器を手にしている様子は無い。そも、この至近距離なら私が最強だ。

 如何に身体が貧弱であろうと、流石にこの距離であれば私でも撃たれる前に、刃を届かせられる。

 

「アヴェンジャー、貴方の方でも?」

 

 こくり、と首を振って彼は同意の意を示す。

 私だけでなく、英霊(サーヴァント)たる彼も危険は無いと判断したのなら安全確認は十分だろう。

 

「ふわぁ〜、よく寝た……ん、アヤネちゃん、そっちの人達が例の?」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら身を起こすピンク髪。事前情報がなければ、とても高校3年生──その上、アビドス最強だとはとても思えない程に小さな身体。

 

「はい。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生と、その護衛のシキさん、アヴェンジャーさんです」

 

「そっか〜、やーっと要請が受諾されたんだね〜。良かった良かった。あ、おじさんは3年の、小鳥遊ホシノだよ〜、よろしく〜」

 

「十六夜ノノミです! よろしくお願いしますねっ☆」

 

「……黒見セリカ」

 

 むす、と無愛想な猫耳である。その上じろりと、睨む様な視線を向けてくる。初対面の相手にこんなに偉そうに、且つ威嚇してくる、なんて。一体全体何を考えているのだろうか。

 

「……マスターが言えた事じゃないと思う」

 

 煩い。ので一発ローキックをプレゼントしてあげた。

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