それは作り上げた選手のみが許されるマット上の必殺技である。
プロレスには多数の素晴らしい技が幾つもある。
だがしかし、見栄え、音、説得力、全てが整った
観客の心をとらえて離さない素晴らしい技はいくつあるのか?
今回はあの至宝のオリジナルホールドの話である。
エッダ・ミッターマイヤー軍曹は工兵である。肩の長さでパツンと切りそろえた綺麗な茶色の髪が特徴的なダークエルフだ。
工兵とは戦時に必要な工作を施す部隊であるが、彼女は特に爆破を主とする小隊の小隊長だった。通常、小隊の長は少尉以上の尉官があたる場合が多いが、彼女の一族は爆破の技術がダークエルフに伝わった頃から鉱山の爆破などを仕事にしており、彼女も爆破仕事を行っていたため、エルフィンドとの戦争直前に専門家として、実務のスペシャリストとして小隊長に抜擢されていた。ダークエルフの工兵たちは皆が彼女の才を知っていたので小隊長就任を素直に祝った。
だが、戦争は早期に終戦した。彼女の技術、彼女が鍛えた部下の技術を発揮する機会はこなかった。事前の想定では大きな橋の爆破予定もあり、それにそなえて細やかな爆破計画とそれを実行する訓練をびっしりと行っていたのに。他の隊で行われた爆破はあったが、その大きな橋に備えていた彼女たちはその優れた技を披露するコトもなく終戦を伝えられたのだ。橋が落ちていれば彼女は尉官へ推薦されていたであろうに。
体格にも恵まれており、元々の明るい性格も工兵中隊で評判が良かった彼女はすぐにプロレスラーに抜擢された。本人も戦争後はしばらくその技を発揮する場がないので、隊の為に必要ならばなんでもやりたいとふたつ返事で武道館に来た。
驚くことに彼女は腕立て、腹筋、スクワットの全てでディネルースに次ぐ成績を叩き出した。工兵として重い荷物を担ぐのも仕事ではあったのだが、推薦した工兵中隊の幹部もここまでとは思っていなかった。格闘技の経験は軍の基本的な格闘訓練でしかなく、それで『アンファングリアーアインス』には抜擢されず、出場していなかった(入場券のもぎり係はしていた)のだが、受け身の覚えも早く、ロープワークにもすぐに順応した。通し稽古をしてもプロレスのセンスが良いとディネルースが思う程には目立っていた。
工兵からプロレスにやってきた仲間と共にグスタフノートの色々な技を試していた彼女にはお気に入りの技があった。パワーボムである。ボムという名前がキャメロットの言葉で『爆弾』なのを知っていたからだ。背中から落とす技の総称がボムであるコトを知った彼女は色々な技を考え、仲間と試し始めた。工兵ならではの改善魂か。
そんな中でついに彼女が開発したのが相手を自分の肩に横に担ぎ、相手の頸椎に手を当てて(相手の頸椎を守りつつ)自ら横に倒れて相手の背を強くマットに落とす技である。彼女は戦時に出来なかった『橋の爆破』から、そのボムにこう名前をつけた。
『デストロイブリッジボム、略してデスブリッジボム』
オルクセン女子プロレス最初のオリジナルホールド(選手だけの必殺技)の誕生である。そう、ダークエルフたちのプロレスにはいつのまにか我が王グスタフから『オルクセン女子プロレス』と号されていた。
最初、エッダ軍曹からはデスブリッジボムを工兵あがりのレスラーの共有技にしようという話も出たが
「見栄えも良く素晴らしい技だ。これは勿体ない。唯一無二のエッダ軍曹の技としよう。そして我がオルクセン女子プロレスの最初のストーリーはエッダ軍曹が努力の末にデスブリッジボムによりてっぺんを、チャンピオンベルトを獲りに行く話としよう!まあ、途中で見合わない試合をしたらそれまでだが」
ディネルースが言い、作戦参謀でありオルクセン女子プロレスの基本ストーリーを手掛ける立場とされたラエノアル・ケレブリン大尉にそんな長期シナリオの作成を要請した。
以後、オルクセン女子プロレスのエースとして羽ばたく爆弾娘(ボンバーガール) エッダ・ミッターマイヤー軍曹の誕生である。
後日、武道館にリア・エフィルディス大尉がいつもの笑顔で大量の箱を運ばせてきた。中身はおもにメリヤスなどで作られたカラフルな試合用のスーツである。オルクセンにはビキニどころかスーツ状の水着も存在しなかったが、グスタフノートには『こんな衣装で』と数点の絵が描かれていたのだ、当然グスタフの自筆で。それを元にリア大尉がバリエーションを増やし、デザインが重ならないように余分に用意されていた。
「これはちょっとエグくないですか?」
「体の線が出て、とても恥ずかしいのですが、私たち本当にコレ着て観客の前に立つのでしょうか?」
「これはリア大尉にしか着こなせないのでは?ちょっと試着して見せてください」
「少将は我が王の前ではいつもこんな姿で……」
「バカ、わたしは裸がユニフォームだ!」
「ほほう……」
など、若干我が王グスタフの性癖を危ぶむ声も出たが、着てみると思いのほか動きやすく、鍛え上げた筋肉も強調されるのが理解され、我が王の評判はさほど落ちなかった。
衣装には様々な長さの編上げブーツと厚いクッションの入った膝当ても用意されていた。靴に関しては先に採寸しており、膝当てについては
「膝は大事だ、膝を守らねばいかぬ。とにかく膝は守れ!」
そうグスタフノートには記されていた。我が王グスタフには膝になんらかのトラウマがあるのかもしれないなとディネルースは思ったりした。
色々な種類の衣装の中でエッダ軍曹はフリルの多く付いた橙色のセパレートの衣装を選んだ。
「露出が多くて色も派手だなぁ、まあエースにはそれが良いのかもしれないが」
「爆発みたいで可愛いじゃないですか、最高ですよ。わたし腹筋もキレキレですし」
「爆発か、やはりお前は最高の爆弾娘(ボンバーガール)だな」
そうディネルースと話すとエッダ軍曹ははにかみながら小走りで布を張った簡易な更衣室に向かい、衣装に着替え、膝当てと長めの白の編上げブーツを装着した。そしてリングへ行き、中で待っていた仲間の工兵にデスブリッジボムを仕掛けた。橙色の衣装は白いマットにとても映え、爆発の色を得て『ダダーン!』と音を響かせるデスブリッジボムは威力すら増したように感じられた。
ディネルースは『これが本当のプロレスの景色か』などと思った。
そう思ったのはディネルースだけではなかった。皆、少し恥ずかしかった衣装をこれは素晴らしいユニフォームだと受け入れたのである。
後日、そんなやりとりを自宅でディネルースから聞いた我が王グスタフは
「わたしの性癖からのデザイン……なんというコトだ、否定しにくいが、いや、そうか、でも、しかし……」
などと少し狼狽えた後に
「しかし、あの技を自分たちで考えて作り出したか。やはりこの世界でもか、あの技を女子レスラーが作り上げたのか!」
とにこやかに笑った。
「え、まさかあなたの元の世界でもデスブリッジボムがあったの?」
「ああ、名前は少々違うが素晴らしい技だ。女性レスラーが作り、皆が、男性レスラーも多数が使うようになった見栄えも音も威力もある本当に素晴らしいプロレスの技……」
我が王グスタフは笑いながら、しかしその目からは涙が一筋こぼれ落ちた。彼の夢はまたひとつ叶えられていたのである。彼はレスラーになった彼女たちが自分で技を生み出すようにあえて基本的な技だけしかディネルースに伝えていなかった。そこから自分たちの新たな技を創造した選手が出て来たのは彼のひとつの夢の具現化なのである。
このことからエッダ・ミッターマイヤー軍曹は我が王グスタフお気に入りの選手となった。だがしかし……
~ つ づ く ~
プロレス好きなら誰もが知っているあの技をモデルにした話、谷か橋かそれだけ(笑)
自分も大好きな技です。札幌のプロレスの聖地テイセンホールで、あの選手に気恥ずかしくて握手に行けなかったのもいい思い出です。
……かなり後悔しています。
膝が大事な話。もう我が王が大好きだったレスラーはふたりに絞られた感じですが、多分ふたりとも好きだと思います。
そしてここに出ている三人のレスラーは皆、オレンジのコスチュームの使い手ですね。
次回もオリジナルレスラーの話。皆さま応援よろしくお願いいたします!