絢爛!エルフィンドールズ   作:えびたこ

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日本のプロレスの創成期

戦勝国のアメリカのレスラーを招き、彼らに国内のレスラーが勝利するコトで熱狂をあおった時期があったのは否めない。

だが、そんな状況を打開したのは招かれたレスラーの心技体だったのも間違いない事実だ。

いつしか彼らは日本で国民的な人気者となり、日本のプロレスの質も観客の質も向上させてくれたのだ。

そして、今も彼らの魂を受け継ぐキャラクターは日本のマンガで戦っている……


第5試合 傷だらけの天使たち

 

 

 リア・エフィルディス大尉は元エルフィンド領の港町、ファルマリアに来ていた。ファルマリアは外港の海軍をオルクセンの第一水雷艦隊に焼かれ、街はオルクセン第一軍に包囲されて降伏した場所であり、戦後処理で一番揉めた場所であった。

 

 エルフィンド側は海軍の艦船、基地施設についてはオルクセンに譲渡すると約束して外港の海軍施設についての譲渡は当然としたが、民間の住民も多く住む内港と都市部については維持したいと思っていた。実際は降伏しているので事実上オルクセン領となっていたのだが、それでも戦後処理で揉めた部分である。最終的には内港は諸外国の商船も多く寄港していた場所であったことから各国が完全なオルクセンの占拠を嫌い、オルクセン領ではあるが各国の目の届くファルマリア自治区とし、50年後にエルフィンドに返還するという微妙な落としどころに落ち着いた。

 

 アンファングリア旅団の予算縮小後、リア大尉は必要兵站の費用削減のために特に輸入品についてファルマリアへ直接買い付けに来ていた。自治区となったファルマリアにはキャメロット連合王国などから自治区監視のための外交官と共に企業も多く進出していたからだ。オルクセン王国が完全統治して開発し、オルクセンの経済成長の糧にするはずだった目論見の失敗を利用して、そこにまんまと刺さり込んだともいえる。もちろんオルクセンと白エルフの緩衝材としても人間種は必要でもあったのだが。

 

 なんにしろファルマリア港は以前よりも大きな貿易港へとなる見込み、いや、既に大きくなっていた。

 

 

 リア大尉はファルマリアの軍拠点に移動に使った馬を預け、昼食の後、事前に拠点に届いていた品の確認と馬車への積み込みを部下に任せた。そこから20分程歩いて港近くの『ベルナール商店』と看板のかかった石造りの店の小さな木の扉を開けた。

 

「これはこれはリア大尉、本日もご機嫌麗しゅうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 店の奥から暖簾を潜って人間種の若い男でこの商店の店主の息子、ジャン・ベルナールが揉み手をして歩み寄って来た。ベルナール商店は元々グロワール帝国の観光地で油関係の輸入・販売を行っていたのだが、戦争のどさくさに生じてひと儲けを企みファルマリアに進出してきた。油関係を中心になんでも手配してくれるため、リア大尉もここでの買い付けを始めてからは懇意にしていた。

 

 

「ランタン用の良質な油の調達をお願いしたくて」

 

「はいはい、種子油でも魚油でもなんでもご用意いたしますよ」

 

「今回は屋内でも使うから香りの良い物、種子油のほうがいいかしら、これぐらいで」

 

 リア大尉はポケットから希望の量と単位額を書いたメモを出してジャンに渡した。

 

「うーん、オリーブだとちょっと厳しいかな。ゴマでも亜麻油でもいいですかね?」

 

「なんでも良いわ、煙が少なくて香りが良ければ」

 

 条件を緩めたと同時に、リア大尉得意の笑顔がさく裂する。彼女だけの恐るべき交渉術。

 

「ではちょっと時間をいただければこの金額でなんとかしましょう、馴染の工場を当たってみます」

 

「あとは……難しいと思うのだけど」

 

 リア大尉は笑顔から目を閉じる。ジャンはちょっと難題が来ると身構える。

 

「白エルフが欲しいの」

 

「ま、まさか、銃の試し打ち用とかリア大尉のペット……」

 

「違うの、実は……ちょっと長くなるのだけど……」

 

 リア大尉はまずプロレスのなんたるかをジャンに説明した。そして……

 

 

【数日前】

 

「うーん、評判はそれほど悪くないが、どこかインパクトに欠けるな」

 

 ディネルース・アンダリエル少将がつぶやいた。オルクセン女子プロレスは旗揚げ大会を夏のイベントに決めて、関係者を集めたテスト興行を始めた。テストは2週毎に5回。軍部の人間で2回、格闘技や演劇、商社などから有識者を集めて2回、両方入れて1回だ。ディネルースがつぶやいたのは最初の軍部だけのテスト興行の後である。

 

 客に『プロレスのしくみ』を説明した後、師団の山岳猟兵、山砲、工兵、その他から選抜した選手で全5試合を戦わせた。エッダ軍曹のデスブリッジボムも隠さず見せる。案外と軍部の格闘好きはそれなりに拍手を送ってくれ、『俺たちもやってみたい』などと言い出す者もいた。しかし、何かがまだ欠けている気がしたのだ。

 

 その夜、ディネルースは我が王グスタフに相談に行った。試合の流れなどを説明して、なにかが足りない、それが何かは解らないのだと。

 

「う~ん、だいたい話したコトはやっているのだが。でも足りないのは熱狂かな」

 

 グスタフがベッドで半身を起こし、顎に手をかけて考える。

 

「熱狂?」

 

「それなりに盛り上がったのだろうけど、観客は立ち上がったり、叫んだりまではしなかったのだろう?」

 

「椅子に座って拍手してくれた程度、そうね、言われてみれば立ち上がったりはしてなかったわ」

 

「なにかインパクトのあるストーリー、ブックがいるな。キャラの強い悪役がいると良いのだが」

 

「インパクトのあるストーリーと悪役?」

 

「うむ、ここまで話すこともないと思っていたが……とある国のプロレスの創成期には、戦勝国の悪役レスラーを呼び、自国のレスラーがそれを倒すのを見せて敗戦国の民を熱狂させるというストーリーがあった」

 

「それは……あまり趣味が良いとは思わないけど盛り上がりそうね。でもわたしたちは戦勝国よ」

 

「でも、あの戦争の終わり方では納得してない民も多いだろう。いっそ白エルフのレスラーでもいてくれたら熱狂を引き起こせるかもしれないな」

 

「白エルフのレスラー?でもダークエルフの集団の中に入って、さらに負け役を引き受けるエルフなんているかしら?」

 

「まあ、それぐらいのインパクトが必要だというコトだ。件の敗戦国のプロレスは後にどうなったと思う?」

 

「まあ、ずっとそのストーリーを続けて盛り上がったのでは?」

 

「いつしか戦勝国から来たレスラーのプロレスの上手さに感嘆して、皆がファンになって行ったのだ。いいレスラーは客を育ててくれる。いつしか戦勝国も敗戦国も関係なく、上手いレスラーを皆が応援するプロレスに進化していったのだ」

 

「もし白エルフを雇えてもプロレスが上手い選手とは……」

 

「さらにもうひとつ悪役には大事な条件があるしなぁ」

 

「さらに?」

 

「プロレスの悪役は真に心が優しい者でないと出来ないのだ」

 

「それは、難しいわね」

 

「あと、プロレスの説明なんかはきみがやったのだろう?」

 

「ええ、人前で話すのは不得手ではないから。しっかり伝わったとは思うのだけど」

 

「熱狂を呼ぶには良いアナウンスや良い実況者も必要だ。笑いも涙も呼べる素晴らしい道化が」

 

「なるほど……」

 

 

 次の日、ディネルースはリア大尉を自分の執務室に呼んだ。

 

「リア大尉、ちょっと調達して欲しいものがあるのだが……」

 

 椅子に座り、机に肘をつき、視線を窓のほうに向けたまま話すディネルースに違和感を感じ、ほんの少しリア大尉の笑顔が曇る。

 

(ちょっと難題なのかも、でも……)

 

「はい、少将が望む物であればなんでも手に入れてまいりますが」

 

「なんでも。今なんでもと言ったな」

 

(これはまずい流れかしら……)

 

「実は、オルクセン女子プロレスに白エルフの悪役が欲しい。見た目が悪そうで、プロレスが強くなりそうな、心優しい白エルフが。どうにか調達出来ないか?」

 

「なんか矛盾している者をご所望のようですが……」

 

「私もそう思う。だが我が王はそれが必要というのだ」

 

 ディネルースは顎の下で手を組み、やはり視線をリア大尉には合わせずに言う。

 

「なにか、つてのようなものはないだろうか」

 

「近日、ファルマリアに調達仕事があります。便利の効く人間種の店がありますので、ちょっと頼んでみます……が、簡単には……」

 

「それはそうだろうな。ダメなときは別の調達を頼むコトになるのだが……」

 

「別な?」

 

 リア大尉が頭をかしげて言うと、ディネルースが大きく息を吐いてから言う。

 

「なんでもと言ったよな」

 

「は、はい」

 

「絶対に人気の出る者と思われる者がいる。もし白エルフが無理ならその者を手配して欲しいのだ」

 

「だ、誰でしょうか」

 

 とてもとても嫌な気配を感じたため、リア大尉が恐る恐る聞いた。

 

「リア・エフィルディスというんだ。テスト興行のアンケートに彼女のプロレス衣装をつけた姿が見たいという声が。多分、今は旅団内の同族からだとは思うのだが、それはもう多くて……噂を聞いた人間種にも少なからず期待されている」

 

 ディネルースが顔を上げて、右手の人差し指をちょこんとリア大尉に向けた。

 

「む、無理ですよ。わたしはずっと兵站畑の人間で、格闘などまったくダメですし、皆さん、今後の興行であの衣装をみた人間種の男性がどう思うか知らないから平気で着ているのですよ、自分、人間種と会う機会も多いですから彼らの視線の行先を知っているのです……確かに同族にもそんな視線をする者が結構いますけど……いやいや、無理、無理です!」

 

「格闘がダメ?そうだったかなぁ?まあいい、視線については……わたしの身近にも異種の雌に興味のある雄がいてな。そういう視線についてはかなりの知見があるのだが。だが、まあ、大尉が白エルフの協力者を連れてくれば良い話だ」

 

 リア大尉は格闘術をディネルースから直接学んでいたのを失念していたワケではなかったが、ディネルースが忘れているのを期待したのだ。だが無理だった。こうなってはなんとしても白エルフのレスラーを確保するしかない。あの衣装、兵站将校は着たくない!

 

 

【現在】

 

 

「そういうワケで、プロレスの悪役を務められる白エルフを紹介して欲しいの」

 

「……それは紹介しないほうが自分的には良いような気が。でも、ちょっとアテはあります、ただし」

 

「ただし?」

 

「先程からの話を聞くとプロレスってコンビで戦うタッグマッチっていうのがあるのでしょ?」

 

「ええ、あるけれどそれが?」

 

「ひとりじゃなく、ふたりセットだったら条件に合いそうな奴らを紹介できます」

 

「それは願ったり叶ったりだけど、本当に?」

 

「ええ、あともうひとつ条件が」

 

「もうひとつ?」

 

「自分をマネージャーにして下さい。彼女たちだけをダークエルフの中に入れるのは気が引けるし、それに……」

 

「それに?」

 

「自分はこんな仕事のおかげで多くの国の言葉を話せますし、客商売で話術には、笑いを取ったりするのには自信があります。アナウンスとか実況とか、将来的に他の国での興行する場合の調整とか色々と役に立つと思うのですが」

 

「ここの仕事はいいの?」

 

「いつまでも親父の元にはいたくないし、店は順調でいい人材もたくさんいます。親父も一度は外に出ろと以前から言っていますから」

 

「それならいいのだけど……まず、その白エルフたちを見たいのだけど」

 

「それなら今から船に行きましょう」

 

「船?」

 

 数分歩くと港に係留されている大きな輸送船の荷下ろしが行われていた。船につけられたタラップから麻袋を担いだ荷役作業員が降りてきている。

 

「あいつらです」

 

 ジャンが視線を向けた先では、ふたりの白エルフが両肩に重そうな麻袋をふたつずつ乗せて歩いていた。ふたりとも上は袖を肩まで破いた白のメリヤスのシャツ、下はエルフィンドの水兵の制服だったズボンと靴の姿だ。しばらく荷役をしているためか腕まわりの筋肉は鍛えられたエルフの筋肉を見慣れているリア大尉が見てもかなり凄いと思える程だ。いや多分、全身の筋肉が鍛えられているに違いない。

 

「前を歩いている右目に大きな傷のあるほうがマリン・ファング、後ろの左頬に十字傷のあるほうがニコ・ファングです。元は水兵でベアファラス湾海戦の生き残りですよ」

 

「姉妹?美人さんなのに酷いキズね」

 

 美人揃いのダークエルフの旅団でも、とびきりの可愛さと言われているリア大尉が美人と言う程度には元が良い白エルフたちだが、傷のせいで十分コワモテ、怖い顔にも見える。良く見るとふたりは腕にも切り傷や火傷の後がついていた。ベアファラス湾海戦において、オルクセン海軍のトービードという魚雷とブリッツと呼ばれる焼夷弾に焼かれたエルフィンドの軍艦と水兵たちの最後は、それはそれは酷い惨状だったという話は当然尉官であるリア大尉も聞いている。『素晴らしい惨状』だったとだが。

 

「マリン!ニコ!話がある、後で飯食いに行くから少し聞いてくれ!!」

 

ジャンが叫ぶとマリンが叫び返した。

 

「おう、わかった。なんか怖そうな兵隊さんがいるな。私らなにかやったか?!」

 

 マリンとニコはジャンの横にいたリア大尉の顔を伺う。当然リア大尉はいつもの笑顔なのだが、ダークエルフの軍人というだけで怖いと言われるのも仕方ない状況だ。

 

「この人はクライアントさんだ。悪い話じゃないから!」

 

「わかった、今日は金曜日だから黄色い香辛料のスープだ、楽しみにしてろ!」

 

 ニコが答える。ふたりはそのまま荷役を続けるため歩き出した。やりとりを見ているとリア大尉にはふたりともサバサバして明るい性格に感じられた。

 

「夕食の時の話にわたしは同席しても?」

 

 リア大尉がジャンに聞く。どちらにしろ、一度帰って本業の兵站仕事を纏めないとならないのだが。

 

「あー、本当ならそのほうがいいのだけど、場所が場所だから大尉には遠慮してもらうかな」

 

「場所?」

 

「あいつら荷役が終わったら白エルフの孤児院で夕飯作っているので。ここの戦いで家族を亡くした子ばかりだから、オルクセン軍の大尉が顔を見せられる時が来るにはまだしばらく時間がかかる。それこそプロレスってので子供たちの心を開いていければ、いつか」

 

「孤児院……そうなのですね。でも彼女たちを引き抜いたら孤児院は……」

 

「ちょうど、もう大きい子たちが飯の準備を自分たちで出来るようには仕込んだって話を最近聞いていたので。そうじゃなきゃ紹介しませんよ」

 

「わかったわ、交渉はおまかせします。決まればファルマリアの部隊の兵站に連絡してもらえれば、わたしまで連絡が来るよう手配しておきます。あなたの件も上には通しておくわ。多分大丈夫」

 

「ではよろしくお願いします。油のほうの手配の連絡には間に合わせるように致します」

 

「本業を忘れるトコだったわ、ではそのようにお願いします」

 

 リア大尉はジャンに軽く手を振って別れ、港を後にした。そしていつもよりさらに晴れやかな笑顔で軍歩きながら思う。

 

(なんでも人の縁と素敵なタイミング、これであの白エルフたちが来てくれれば、わたしはあの恥ずかしい衣装は着なくて済む。最悪の事態だけは避けられそう……)

 

 まあ、少なくともこれでしばらくは『リア大尉のプロレス姿が見たい』のアンケートが途切れるコトは無くなるハズなのである。

 

 

~ つ づ く ~

 

 

 

 




ついに主人公(のハズ)の登場ですが、個人的には長いので二話構成になります。

前作「白銀の追撃戦 ~ラリー・モナークチェリオ~」を読んで頂いた方にはおなじみ?の主人公、マリンとニコとジャンが使いまわし……いや、スターシステムです(笑)

戦争とプロレスを語るならば戦勝国と敗戦国のプロレスの時代を避けては通れないかと思いました。今回の主役ふたりの姓は「ファング」。まあ、あの絶大な人気を誇ったテキサスブロンコの姓からですね。

孤児院の話はメキシコのルチャドール、暴風神父(フライ・トルメンタ)から。孤児院の神父が経営の為にプロレスをしていた事実は映画にもなりましたが、その事実の前にも孤児院の神父がレスラーが映画になっていたという事実。

ルチャ、恐るべし……
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