絢爛!エルフィンドールズ   作:えびたこ

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最強とはなにか

全ての格闘を愛する者は最強を求めている。

圧倒的な強さ。

だがしかし多々ある格闘術のなかで何が最強かはいつまでも議論が終わらない

ボクシング、空手、柔道、柔術、総合格闘、相撲、そしてプロレス……

プロレス最強を唱えるために他の競技に出向いて潰されたレスラーも多い。

それでもレスラーは、ファンは、今もプロレス最強を信じているのだ。


第7試合 地上最強のオーク

 

 

 ゾフィー・スコヴァは言語学を学ぶ学生のオークであった。

 

 戦争が終わり、平和がやってきた時、彼女は全てを失った。

 

 彼女の父、ビョルン・スコヴァはオルクセン王国の駐在武官であった。世界を回りオルクセン軍強化の情報を得る仕事をしていた彼はキャメロット連合王国駐在中にひとつの格闘術に出会った。

 

『ブリツ』である。

 

 キャメロットの言葉で電光を指す『ブリッツ』、それよりも速く敵を叩くという意味でブリツと名付けられたというそれは、関節の動作方向と自由度を全て頭に記憶した上で、それを利用して極る、投げる、抑え込む技であり、さらに必要があればステッキアクション(棒術)も含めて敵を制圧する技であった。

 

※ 現代日本の合気道と薙刀を合わせたような格闘術である

 

 

そもそも新しい物好きでのめり込むタイプだった彼。良い方に向かえば駐在武官として最高の癖であるが、悪く言えば周りが見えなくなる性質である。ブリツに関して言えば彼は後者だった。彼は駐在武官の職を捨て、オルクセン王国の首都ヴィルトシュヴァインにブリツの道場を開いた。

 

 早くに母を亡くしたゾフィーだったが駐在武官時代のビョルンの稼ぎは良く、各国でお手伝いさんに育てられた。聡明な子だった彼女は各国の言語の覚えが良く、将来は外交官になるコトを目指していた。

 

 だがブリツの道場を開いたビョルンは彼女の勉強の時間を減らしてブリツを叩きこんだ。道場の看板に恥じない娘にしてブリツを世に広めたかったからだ。最低限の勉強でも語学では成績優秀を続けつつ、親子ふたり、父が大好きだったゾフィーはブリツの鍛錬を怠るコトなく過ごした。

 

 体躯にも恵まれた彼女は小学校に入る頃からは各種の格闘術の世代チャンピオンになった。白く厚い綿の上下を黒い紐で縛ったブリツの道着の下に父の道場のロゴが入ったデザインのシャツを着て何度も表彰台のてっぺんに立った。魔種族でも人間を含めても。『ブリツのゾフィー』の名はオルクセンの外にも広まった程である。

 

 しかし彼女が成長して道場の師範代として実質ほとんどの指導をやれるようになって、時間を余したビョルンはまた新しい物に飛びついてしまった。野戦糧食(レーション)の開発である。

 

『中年からは麺に走る』。なぜか定年退職するとシュペッツレという名物卵麺をこしらえるのにハマるオークは多かった。そんな中でビョルンが先にハマっていた友人に紹介されたのが『揚げ麺』だった。

 

 その揚げた麺は麵自体に薬味や香辛料を混ぜており、鉄鍋で相当量の水が無くなるまで数分ヴルスト(ソーセージ)と茹でると独特な美味しい麺料理となり、茹でなくとも割って食べるだけで美味しく食べられる携行食となる。さらに長期保管も可能だ。

 

 多人数の調理に適し、携行食にもなるその揚げ麺は武官だったビョルンには最高の野戦糧食に見えた。ただ友人も大量生産の方法までは考えておらず、ビョルンは生産方法にしばらく頭を悩ませた。当然、道場には足が向かなくなり、ゾフィーに会うのも寝るために帰宅するだけとなった。食事も失敗品の揚げ麺で済ませていたからだ。

 

 その後、ついに大量生産の目途が立ったビョルンは昔馴染である軍の兵站担当に話を持ち掛けた。兵站担当は戦争が始まるのを見越して、大量生産が可能になれば野戦糧食として大規模に購入したいと口約束をくれたのだ。

 

 商売のプロではなかったビョルンは即座に友人と金と人をかき集め揚げ麺工場を作った。なんとか戦争の前に工場は完成して試験生産に入ったが、安定操業にはまだ少しの時間が必要だった。揚げ麺には直前のファルマリアでの勝利を記念して『ファルマリアあげめん』と名付け、名を印刷した紙袋が工場に届いたその日だった。

 

 終戦が発表された。

 

 そこからの数日はビョルンにとって地獄であった。終戦が決まった翌日には友人は夜逃げしていた。空になった部屋には『すまぬ』と書かれたメモだけが残っていた。あの馴染の兵站担当に契約の話をしに向かったが無下に扱われた。既に軍部の兵站上層部では『これから起こること』が見えていたのだ。多量の新規の野戦糧食など、しばらくは金の無駄でしかない。すぐに多数の借金取りが押し寄せて来たが払う当てなどあるハズもない。

 

 

「平和になった、平和になっちまった……」

 

 ビョルンは冷たい夜の工場の床に膝をつき、泣きながら叫んだ。そう平和がやってきたのだ、やってきてしまったのだ。勝利の凱歌が上がる中で、ほんの少しタイミングを逃したために彼は全てを失った。

 

 彼は娘ゾフィーを捨ててその夜にオルクセンを発った……

 

 

 翌日の朝にはゾフィーの住む道場の横の家に借金取りが押し寄せていた。道場も家も抵当に入っていたからである。恐ろしい思いをして眠れぬ日々を過ごし、ゾフィーは身の回りの物だけをバックに詰めて家を出た。

 

 当初は親類の家を回ったゾフィーだが、借金取りは彼女の行く先行く先に現れた。ビョルンが金を借りて家と道場を抵当に入れていたのは銀行で対応もいささかマシであったのだが、ビョルンが連帯保証人となっていた友人の借金元は一筋縄ではいかない闇金が多々いたのである。ビョルンは自分さえ去れば家と道場の差し押さえだけで済み、ゾフィーは親類に守ってもらえるのではと算段して夜逃げしたのだが、現実は甘くない。ゾフィーは首都で家が四軒は持てる額の借金を背負ってしまった。いつしか匿ってくれる親類はいなくなった。

 

 彼女は学校の言語学サークルの部室で寝る日々となった。しかし、そこにも借金取りはやってきた。学費も既に底をつき、当時付き合っていた彼氏にも『住む世界が違ったようだ』と捨てられた。彼女は全てを失った……

 

 

 最後に彼女が逃げ込んだのは首都近く、ヴァルダーベルクにあるアンファングリア旅団であった。彼女の道場にはアンファングリア旅団の王警護隊からマチルダ・バッケスホーフ少尉とフリーダ・ゲデック曹長というふたりのダークエルフがブリツ習得のために通っていたのだ。

 

 事情を聴いたふたりは兵站参謀のリア・エフィルディス大尉に協力を求めた。リア大尉もゾフィーの話は良く知っていたので彼女をとりあえず旅団の外部格闘指導員および清掃員として雇い、借金取りから隔離した。ゾフィーは開催されていた旅団の格闘技『アンファングリア-アインス』で稼ぐつもりだったが、それは旅団から拒否された。

 

 『彼女は強すぎた』のである。

 

 ゾフィーとまともに戦った場合、マチルダとフリーダがふたりがかりでも勝てないと聞かされていたのだ。マチルダとフリーダは王警護隊という立場のため『アンファングリア-アインス』には参加していなかったが、参加すれば上位確定という格闘強者であった。それでも個人ではゾフィーにまったく歯が立たないのだ。ゾフィーもまともに戦えば相手を壊してしまうという恐怖すらあったため、『アンファングリア-アインス』への参加は諦めた。

 

 借金はリア大尉を中心にかなり圧縮してくれたのだが、それでも首都に三軒家が持てる程残っていた。貧乏になった旅団の格闘指導員の清掃員の給与では払い終わるのはゾフィーの寿命が尽きる程かかる。長命種のオークのゾフィーでもだ。

 

 そんな時に『アンファングリア-アインス』の終了、そしてプロレスへの転換が決まった。ゾフィーは話を聞いて参加を打診したが、まだダークエルフ以外の参加は誰も決まっていなかったので待遇が決まらなかった。

 

 そして問題が発生した。リア大尉の持ってきたプロレス衣装を見た時にゾフィーは『これは着られない』と思ったのだ。ゾフィーは圧倒的強者だが言語学を愛する文学少女でもある。どうもダークエルフたちは異性のいない環境で育って羞恥心が薄いのか拒否反応が薄く、すぐに衣装を着てリングに登っていったが、オークには異性が存在する。彼氏もいたゾフィーには異性がこの衣装をどう思うかのイメージが頭に浮かんでしまった。自分には無理すぎる……

 

 リア大尉からプロレスの契約内容が纏まったと話が来ても、ゾフィーはあの衣装では無理と言った。リア大尉は恥ずかしいのは理解しているが制服だし、借金をぐんと減らせるから契約しようと勧めたが、とりあえずこの日はそこから進展しなかった。傍から様子を伺っていたディネルースもゾフィーの暗い顔を見て心配した。それはしばらくの間続いた……既にオルクセン女子プロレスのテスト興行も始まったのに。

 

 

 ある夜、ディネルースは我が王グスタフにその様子を話した。

 

「衣装か、こだわらなくてもいいのでは?」

 

「でも他の選手の立場も……」

 

「強ければそれも個性になる。ゾフィーという子は有名な選手なのだろう?衣装が違うほうが、キャラが強く出るのではないか?そんなプロレスラーもいた記憶が……」

 

「良いのですか」

 

「勿体ないし、君も彼女が欲しいのだろう。そのぶんプロレスをしっかりしてもらえば良い。ブリツはあの厚い綿の道着なのだろう、プロレスで使うには厳しい面も出てくるハズだ。しかし、最強の格闘家……素晴らしい存在だよ、プロレス的には」

 

「そうね、素晴らしいキャラだわ」

 

 

 翌日、ディネルースは俯きながら武道館に清掃に来たゾフィーを呼び止める。

 

「ゾフィー、あなた、さっさとプロレスの契約をしなさい!借金もラクになるから」

 

「でも、正直、あの衣装を着るのは絶対に無理です!」

 

「着なきゃいいじゃない。あなたにはやはりブリツの道着が一番似合うわ」

 

「でもリア大尉が……」

 

「それがゾフィーのキャラだと言ってあげる、大尉にも他の皆にも。だからあなたは道着に恥じない最高のプロレスを目指して!選手も観客も、皆がゾフィーの衣装はこれしかないと思う程の強くて凄いプロレスを」

 

「ありがとうございます!」

 

 大きく頭を下げたゾフィーを連れて、ディネルースはリア大尉の執務室へ行き、契約をさせた。書類を確認するゾフィーの隙を見てディネルースはリア大尉の耳元で

 

「あの子に無理に着せるなら、あなたもすっごい衣装を着てリングに登るコトになるわ」

 

 と囁いた。リア大尉はいつもの笑顔と違う笑顔、いや、さらに違う笑顔になって固まったという。

 

 

 翌日にはゾフィーも練習に参加した。刹那の速さで勝負を決めるブリツを極めし彼女にはスタミナがないという欠点が露呈する。プロレスの訓練を見て、隠れて鍛えてはいたけれど、腕立て・腹筋・スクワットでバテるのは早かった。さらに厚い綿の道着は彼女の汗を全て吸い、錘となる。熱もこもる。ゾフィーはプロレスの衣装が雄へのアピールではなくしっかりと機能性の高さに向けられた物だと理解した。しかし道着を選んだのは自分、これで30分は動ける体力を得なければと練習に気合を入れた。

 

 その頃には白エルフのふたり、マリンとニコも武道館の練習に合流していた。

 

「なんだよ、ブリッツ(電光弾)に焼かれた俺たちが今度はブリツにやられるのかよ!」

 

 そう笑ってロープを飛び回るマリンとニコを見てゾフィーは思う。

 

(プロレスの強さってこのふたりのコトを言うんじゃないだろうか)

 

 でも負けてはいられない。ゾフィーは最強という看板である道着を着てリングに登るのだ。世界を興行で回って、いつか逃げた父を見つけ、その拳で制裁する。そんな目標も心に秘めて。

 

 今ここに地上最強のオーク、武神ゾフィー・スコヴァのオルクセン女子プロレス参戦が決定したのである。

 

 

~ つ づ く ~

 

 




見事な「心に棚を作れ」っぷりのリア大尉……

「ファルマリアあげめん」のモデルはもちろん道民のソウルフードのあれですね。

そして、ここでやっと1話の前書きにたどり着いたという(笑)

もう一回、オリジナルキャラの紹介をやって、その次こそオルクセン女子プロレスの旗揚げ回になる予定です。

次回以降も、何卒皆さま応援の程よろしくお願い致します!
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