絢爛!エルフィンドールズ   作:えびたこ

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無差別級。

無差別級は格闘技のロマンである。

しかしそれには当然リスクが伴う。

男子プロレスもヘビー級とジュニアヘビー級という枠組みがある。

でも女子プロレスには……

過去には真に無差別と言える試合があった。

過去?あった?いや違う。違うのだ……


第8試合 小さな勇者たち

 

 

 ディネルース・アンダリエル少将は困惑していた。その日、練習へ向かったリングのある武道館の入り口にいたのはコボルトふたりであった……

 

「少将殿、わたしたちにプロレスをやらせて下さい!」

 

「ずっと鍛えています、プロレスがしたいのです!」

 

 そう訴える彼女たちをディネルースは見下ろした。そう見下ろしたのだ。彼女たちはコボルトの中でも小さい部類のビーグル種であったから。ディネルースは膝を折ってしゃがみ、目線を合わせて話す。

 

「ええと…名前は?」

 

「ミー・シュルツです!プロレスをやりたくて参りました」

 

「自分はゼッツ・クナウストです!同じくプロレスをやりたくて」

 

「と、とりあえず中に入りなさい」

 

 無下に返すのもなんなのでディネルースはふたりを武道館に入れた。とりあえず床に座って練習まで待つようにした。練習を見せればその厳しさに帰ると思ったからだ。

 

「あら、ミーさん、ゼッツさんじゃないですか、元気でしたか?」

 

 武道館の更衣室から道着に着替えて館内に入ってきたオークの格闘家であるゾフィーが言う。

 

「知り合いなのか?」

 

「何を言っているので……ああ、ダークエルフの方々にはまだ馴染みがない競技かも知れないですね。彼女たちはトゥルネンの軽量級トップ選手です。私は体育関係のイベントで何度も会っているのです」

 

 ディネルースに聞かれたゾフィーが答えた。格闘技の女王たるゾフィーは運動界の見識が深い。

 

「トゥルネン……ああ、器械体操か……」

 

 トゥルネンはオルクセンの体育教師のコボルト、フリードリッヒ・ルーンが作り出した器具も使う体操競技である。コボルト種の体育として広まったそれは、いつしか種族を越えてオークや人間種にも広まった。男子のトゥルネンは戦前には既に世界体育祭の競技になっていた。しかし……

 

「次の世界体育祭で女子のトゥルネンも公式採用するという協議が行われる前に戦争が始まって、その協議は今でも宙ぶらりんとなっているのです」

 

「次回の協議の後の世界体育祭まで私たちはトップ選手を維持できるかわかりません……というか、その前に所属しているヴィッセル社がトゥルネン部を解散する運びとなりまして」

 

 ミーとゼッツが言う。オルクセン最大の鉄鋼製造業と兵器製造を生業とするヴィッセル社は早急な終戦により一番被害を受けた会社である。継戦能力を最大限に引き上げるための銃火器の大量生産、軍艦の製造・近代化改修対策等、最大限に拡大していたヴィッセル社はこの大幅に前倒しになった終戦により、その製造品の出口をほぼ失ってしまった。銃器などは他国へ輸出しか処分方法がなく、軍艦は民間への転用作業を国家から幾分か請け負ったが、その程度では工員を維持出来ない。当然、株価の下落も始まっていた。

 

 その中で採算を度外視して自社の宣伝と国威掲揚のために持っていたスポーツ部門の切り捨てをするのは残念だが当然の判断なのだ。さらにそれは世界体育祭の女子トゥルネン競技採用の道を閉ざす要素のひとつとも言える。

 

 彼女たちはそんな中、オルクセン女子プロレスの識者向けのテスト興行を観戦に来ていた。ヴィッセル社は女子プロレスに興味のかけらもなかったので、社内で居場所を失いつつあった彼女たちを運動の識者として要請のあったテスト興行に送り込んだのだ。辞めさせる前のイベントのひとつとして……

 

 そんな中で期待も持たずに行ったプロレスにふたりは驚いた。それは鍛えられた者だけが出来る、物語を伝える素晴らしい競技だったのである。そして特に彼女の眼に焼き付けられたのは宙を飛びまくる白エルフのふたり、エルフィンドールズだった。もしかしたらこれならば私たちにも……

 

 

「しかし、あなた達に格闘技をさせるのは世間的には」

 

 ディネルースが言う。あまりにも小柄すぎるのだ、ビーグル種は。オークであるゾフィーと他の選手の体格差でもかなり気を使うのに。格闘技経験が長く、道場で子供相手の組手も多かったと知るゾフィーでもだ。

 

 とりあえずふたりに練習メニューをさせてみた。フリードリッヒ・ルーンが決めたといわれる薄い綿の上下と首にネックチーフを巻いたトゥルネン衣装を着たふたりは、腕立て、腹筋、スクワットを疲弊しつつもメニューを全てこなした。見た目は小さくともふたりはトップアスリートなのである。

 

 ディネルースはふたりをマットに上げ、ロープワークをさせた。すぐに動きに慣れ、走りながら側転や前方宙返りを入れる彼女たちの軽業には白エルフふたりすら目を丸くした。ロープの上はさすがに歩けなかったが、コーナーポストには軽々と駆け上がり、そこから軽々と後方二回転でマットに降りる。トゥルネンのトップ選手、流石に軽業の動きには突出したものがある。ついにはロープを鉄棒競技のように使いだした。

 

 とりあえず、明日も武道館に来るようにとふたりに言い、その夜、ディネルースは我が王グスタフにふたりのことを相談した。

 

 

「動きは素晴らしいの、名の通っている選手のようだからオルクセン女子プロレスの人気にも繋がる。でもあんな子供よりも小さいコボルトにどう試合をさせれば……」

 

「プロレスが上手くなれば、そして客が成長すれば最高の素材なのだろうが……器械体操出身のレスラーは沢山いた。真にプロレス界の代表になったレスラーになった選手もいれば、プロレスラーになるために学生時代に器械体操をしていたレスラーもいた」

 

「そうなのね、今日見たふたりの動きを見ればそれも納得する。しかし体格差は……」

 

「鍛えられていれば体格差なんて関係ない。一流レスラーは箒や空気とすら戦えるという言葉もある。そうだな、ただの人形だったレスラーが希代の名選手と呼ばれる存在になった例もあると言われたら信じるか?」

 

「ただの人形が?それってただのお笑いでしょ?」

 

「鍛えられたレスラーと鍛えられたファンが『彼のプロレス』を認めたのだ。相手を務めたレスラーに技量があり、目の肥えたファンがそれを認めて応援をすれば、種族に関係なく、体の大小に関係なく、無機物すらもリングで立派なレスラーに、スターになれる、それがプロレスだ。見せるから魅せるに変えられる技量があってこそ、だが」

 

「でも、わたしたちがそのレベルまで成長するには時間が……」

 

「お客の成長もなぁ。う~ん……そうだ、しよっきりか、しょっきりならば!」

 

「しょっきり?」

 

「うむ、別の格闘技なのだが、その競技のルールをコミカルに試合形式で魅せるものがあるのだ。技量と観客のレベルが成長するまで第一試合としてそれを魅せる役を彼女たちにしてもらえば良いのではないだろうか?」

 

「なるほど。テスト興行ではわたしがプロレスのなんたるものかからを観客に説明したけれど、本当の興行では必要ない部分も多いし、いっそそのしょっきりと言う方法で説明するほうが楽しいのかもしれないわね」

 

「体格差は問題ない。それこそ女子プロレスを小さい体で生まれた男子レスラーたちが支えた時代もあった。逆に大きな体に生まれた選手の活躍の場でもあった。そんな選手たちを受け入れるのもプロレスのひとつの役目だったと思うのだ。技量あって、その上で差を認めてこそだがな」

 

「なるほど……」

 

 ディネルースは新しい黒革の手帳を取り出して、グスタフの語り出した『しょっきり』のアイディアとか体格差を生かしたプロレスの技などを書き留めた。新たなグスタフノートは後にプロレスの楽しさを探すオルクセン女子プロレスの羅針盤となるのである。

 

 

 翌日からミーとゼッツはしょっきりの練習を始めた。作戦参謀のラエノアル・ケレブリン大尉がつきっきりでふたりの動きを見てしょっきりのシナリオを考える。ふたりは案外と笑いに理解があった。子供への器械体操指導の機会も多かったからだと言う。ゾフィーもだが、優秀な選手は器の大きい人格者が多いのかもとディネルースは思ったものだ。

 

 笑いのアイディアは練習に参加している皆でも考えた。練習後に近くの居酒屋で白ビールをあおりながら出したネタも数多い。むしろ酔った時のアイディアにこそキレがあった。そんな夜の翌日は飲み代をネタ出しの経費とするため、ディネルースが居酒屋の領収書をリア・エフィルディス大尉に提出したが、いつもと違う笑いのリア大尉にサクっと却下された。何度も。ディネルースの財布は軽くなり反比例して酒量は増える……

 

 

 最後のテスト興行ではコボルトふたりが戦うしょっきりが第一試合に実施された。色々な識者の各種族にも、人間種からも彼女たちの動きから何度も大きな笑いが起こった。髪を引っ張る、5秒以上の反則、武器の使用、リングアウトの時間オーバー、そんなアクションの後に必ず『これではいけませんよ』と実況役であるエルフィンドールズのマネージャー、ジャン・ベルナールがツッコミを入れて動作をやり直す。そんなムーブ(お決まりの動き)にはいいマニュアルが作られていると話題になった。

 

 しかし、その笑いの中に組み込まれたトゥルネン仕込みの技の凄さも観客には伝わっていた。ミーとゼッツはしょっきりのお約束の合間に色々な空中動作を含ませていたのだ。観客の脳に残ったそんな動きの記憶は後の試合の白エルフ、エルフィンドールズの空中技の魅力にも繋がるものだった。最後のテスト興行は観客全てが立ち上がって拍手を送る中で終了した。

 

 

 全ての準備は整った。素晴らしい選手が集まり、素晴らしいシナリオ(ブック)が用意された。それを魅せるための素晴らしい練習も続いている。

 

オルクセン王国首都、ヴィルトシュヴァイン最大の公園であるヴァルトガーデン。そこで行われるオルクセン王国最大の納涼チャリティビール祭り「オルクセン納涼ビアガーデン」その会場こそがオルクセン女子プロレス旗揚げ興行の場となる……

 

 

~ つ づ く ~

 

 

 




まあ、ミゼットプロレスのお話です。

小さき体で生まれた彼らは女子プロレスの(男の)華として活躍、色々なTVのバラエティ番組でも活躍していました。特撮で活躍したレスラーもいます。

彼らの素晴らしい活躍がマットの上で見られる機会は少なくなりましたが、それには様々な理由があります。

でも彼らがコミカルかつ素晴らしい動きをしていた記憶と映像が消えていくのは、とても寂しいコトだと思います。

次回、ついにオルクセン女子プロレス旗揚げです。

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