絢爛!エルフィンドールズ   作:えびたこ

9 / 9
白ビール、ヴァイツェン。

小麦の甘さとバナナのような香りを放つ美味しいビール。

とある北の街の大きな公園のビールの祭りでは毎年、夏には

11丁目の会場でそのビールとソーセージやアイスバイン等の

オルクセン飯が味わえる。

2026年の開催は2026年7月23日(木)~8月18日(火)。

全会場合計1万人の酔っ払いのひとりになるのはいかがだろう。


第9試合 旗揚!オルクセン女子プロレス

 

 

 オルクセン王国首都、ヴィルトシュヴァイン最大の公園であるヴァルトガーデン。その公園を6区画に分けて、色々なビールを楽しめる真夏の納涼チャリティビール祭り『オルクセン納涼ビアガーデン』の最終日。通りに面した6区画は毎年白ビールを楽しむ区画となっており、ダークエルフの住むヴァルダーベルク近くの居酒屋が采配していた。

 

 オルクセン女子プロレスは祭りの開催期間の設営、配膳、調理などを手伝い、その替わりとして区画の真ん中にリングを設置し、最終日の夕方から旗揚げ試合を行うコトを確約した。ディネルースの財布が軽くなったのと引き換えに得た会場である。ディネルースの酒量が増えたのは悪いコトだけではなかったのだ。

 

 アンファングリア旅団は前日から工兵がリングを中心に木製の丸テーブルと椅子を配置し、さらに外周に簡易なベンチを配置。なんなら通りからもリングが見える、理想的な会場を設営した。交代で祭りの制服であるディアンドルというやや胸元が強調される衣装を着て区画に来る酔客に配膳をし、その度にオルクセン女子プロレスのチラシを配った。客の状況を見て実況役のジャン・ベルナールが適時リングに立ち、『アイン・プロージット』というビール祭りの歌を客と一緒に歌いながらその後にレスラーの紹介などを行った。武神ゾフィー・スコヴァや器械体操のミー・シュルツとゼッツ・クナウストが参戦するコトは酔客たちにも大きなインパクトを与えた。

 

 そして当日。祭りの元々の人気、白ビールの旨さ、当然毎日の広報活動が実を結び、会場は満員で通りまで立ち見客が溢れていた。試合開始の数分前にリングサイド南側に唯一リザーブされていた丸テーブルにスーツ姿の我が王、グスタフ・ファルケンハインがやってきて右手を軽く挙げ、観客に挨拶しつつ席についた直後には観客のボルテージもしっかり上がっていた。

 

「我が王!」

 

「我が王万歳!」

 

 急な終戦で軍部の威信は落ちてはいたが、我が王グスタフのカリスマ力は現在も強固なのである。

 

 グスタフがこの場に来るのをディネルースは、一度は止めた。彼の警護もアンファングリア旅団の重要な仕事であるし、警備とプロレス両方の采配に気を使いたくなかったのである。だがグスタフから『このビール祭りには毎年、巨狼族のアドヴィンの護衛だけで来ていたし、警護は通常の市内視察と変わらない体制で良い、それぐらいの応援はさせてくれ。わたしも見たい、見たいのだ』との話があり、押し切られた。

 

 結局ディネルースは市内視察程度ではなく、警護班26名全員を会場近辺に張り付かせる形として、当日の警護は全部彼女たちに任せた。元々、全てそれぐらいの信頼のある部下だけのチームではあるのだ。警護計画の確認は当然したが。当日、彼女は東西に天幕で用意した控室の片方、西側控室横に指揮用として置いたテーブルに陣取った。グスタフの席でも良かったのだが、気恥ずかしいし、引いた目でオルクセン女子プロレスの旗揚げを見たかったのだ。

 

 

「皆さま、お待たせしました!それではオルクセン女子プロレス旗揚げの試合を始めたいと思います。尚、本日は我らがグスタフ国王の御前試合となります!今一度、我が王に盛大な拍手をお願いいたします!」

 

 ジャンの声かけでグスタフが立ち上がり、再度右手を上げて手慣れた形で周囲を見回す。盛大な拍手を受けて軽く笑い、着席した。席には既に茹でたグルストとヘラジカの香草煮込み、そして白ビールがきっちり一リットル入ったジョッキが並べられていた。ヘラジカの香草煮込みはダークエルフたちが最初にグスタフに助けられた時に与えられた食事であり、グスタフは離れた席のディネルースに皿を指さして笑顔を送った。

 

「それでは第一試合を行います。赤コーナーよりトゥルネン界の至高!ミー・シュルツ!青コーナーより究極のトゥルネン選手!ゼッツ・クナウスト!なお、この試合は特別ルールとして実況のわたくし、ジャン・ベルナールが随時試合を止めてルール解説をさせていただきます。それでは……レフリー、リア・エフィルディス」

 

 試合開始のゴングを打ち消すような大歓声で会場が震えた。これは旗揚げ興行である、最大戦力で戦わねばならぬ、出し惜しみなぞ出来ない……というコトで旅団最高人気のリア大尉をレフリーに選んだのだ。最初は抵抗したリア大尉だが、『いやならこちらを』とディネルースが机に置いた実に布面積が少ないプロレス衣装を見て諦めた。それから数週間びっしりジャンとレフリーの訓練をして、黒白の縦縞の上着と黒のパンツルックにてリングに立っているのである。

 

 試合はしっかりと『ウケた』。ふたりのどちらかがルールを破るたびにジャンが『これではいけませんよ』と試合を止めてルールを説明する。その繰り返しで笑いを煽りつつふたりはリングを縦横無尽に跳ね、最後はミーがトップロープから『上からトン!』とチョップを放ち、それを頭に受けたゼッツが『それでなくとも低い身長がまた2mm縮んだぁ』と叫び倒れてレフリーストップ。居酒屋で開発されたこの技はとても評判が良く、その後しばらくの間、彼女たちの得意なムーブとなった。

 

 

 第二試合は山岳猟兵と山砲、それぞれ3名ずつのタッグマッチとなった。派手な戦いはなく、力比べ、ロープワークからのチョップの応酬、マットに倒れてのグラウンドでの関節技と地味だがシリアスな、第一試合としっかりコントラストのついた試合となった。結果は山岳猟兵チームのふたりがリング下に落とされた中で残りひとりがヘッドロックでタップして負けるというタッグマッチの基本のような試合となった。

 

 

 第三試合は旗揚げ特別試合として騎兵第一連隊長のアーウェン・カレナリン中佐と山岳猟兵連隊長のエレンウェ・リンディール中佐の顔合わせ、アンファングリアーアインスの伝説の組み合わせをプロレスルールで行った。アーウェン中佐は旅団で進めている競馬の責任者のひとりとしてプロレスには参加していなかったが、旗揚げの目玉としてあの遺恨試合をとエレンウェ中佐が無理やり引っ張ってきたのである。

 

 右目に黒い眼帯をして『この痛みを返してやる、倍返しだ!(当然なんちゃってな眼帯でちゃんと目は治っている)』と叫んで突進して行ったエレンウェ中佐だが、いきなりドロップキックで返されて倒れた。そこからアーウェン中佐が足4の字固めを決めて長い間エレンウェ中佐が悲鳴を上げる状態となった。

 

 一応、アンファングリアーアインスで負けたエレンウェ中佐がプロレスでは勝つというブックが用意されていたのだが、ふたりはそれを無視するコトにしていたらしい。客が飽きても困るのでリア大尉がレフリーストップで試合を止めた。当然、結果に不服なエレンウェ中佐はリア大尉に文句を言ったが、アーウェン中佐がその後ろからバックドロップを決め、リア大尉がマットを叩いて3カウントして再度勝負ありとなった。エレンウェ中佐が首を押さえて『来年ここで借りを返す』と叫んで帰ったため、これから毎年名物の組み合わせとなるのかもしれない……

 

 

 第四試合は工兵が夜なべして作った3m以上もある巨大な『ジャイアントオークキング』と工兵で一番受け身の上手いレスラーが戦う試合となった。からくりとしてはワイヤーで作った骨に綿布を張って作った人形を大鷲軍団の大鷲と彼らに乗ったコボルトたちが糸で吊って操るというものである。ゼッツの田舎にある金物屋のコボルトの息子が大鷲軍団に所属していて、彼から大鷲たちに頼むことが出来たのだ。『アンファングリア旅団のためなら』とコボルトの息子がかなり頑張って仲間を説得したらしい。

 

 朝から布を掛けて会場脇の芝生に隠しておいた、なんとなく我が王グスタフの面影がある『ジャイアントオークキング』が立ち上がり、マットの上に飛び登るだけで会場の子供から大変な声援を受けた。まだまだ相手をした工兵の技量は低かったが、なんとか腕に当たってレフリーストップされる負けムーブをこなした。勝った『ジャイアントオークキング』が大鷲に引かれて空を飛び、西の空へ飛び去る時には

 

「さよならジャイアントオークキング!」

 

「また来てねジャイアントオークキング!」

 

 と多数の子供たちが手を振って追いかけた。

 

 吊ったまま止まるのは大変なので交代で大鷲三羽がかりの大変な仕事だったが、大きな肉塊のプレゼントだけでやりとげてくれた。コボルトたちは後で白ビールである。屋外会場の試合にしか出せないので今後の改造……特訓が期待されるジャイアントオークキングである。

 

 

 第五試合はいよいよエルフィンドールズの登場となった。いい感じで温まった会場だが、魔種族に嫌悪されている白エルフ、控室からの入場はマリン・ファングとニコ・ファングのふたりでも怖く感じていた。それでもジャンの合図と共に勇気を出して控室を出たふたりに大声で罵声がかかる。

 

「ぶち殺されろ!死んでしまえ白エルフども!!」

 

 ふたりはその声を聴いて安心した。最初の、とてもきつい罵声はふたりの知る声だったから。

 

 声の主はファーレンス商会を率いるイザベラ・ファーレンス女史、その人であった。訳あって心の奥底ではオルクセンで一番と言ってもいい程に白エルフを憎悪していたイザベラは、識者向けのテスト興行の最初から参加していた。最初は同じような罵声を心から叫んでいたイザベラだったが、プロレスのなんたるかを丁寧にディネルースに説明されて、負け役を引き受けるためにオルクセンにやってきたふたりへの憎しみは消えた。それどころか最後のテスト興行の時点ではエルフィンドールズはすっかり彼女の推しの存在になっていたのだ。

 

 彼女たちから直接、孤児院の話なども聞いた。彼女の心の奥底から憑き物が少しずつ落ちて行った。そして今、リングサイドの丸テーブルからマリンとニコの名前の書かれた自作の団扇を両手に持って、『誰もが追従したくない』程の大きな罵声をふたりに向かって上げたのである。

 

 もちろん他の魔種族からの罵声も上がったが、もう心配はなかった。エルフィンドールズ特有のロープを使った空中技が相手になった山岳猟兵のタッグに降りかかる。明らかに相手より力強く、ひとまわり上手く見栄えのいいプロレスの技はどんどんと客を魅了していった。劣勢の時には『ちっとは頑張れ白エルフ』などと声援も飛ぶようになった。

 

 試合はトップロープからのマリンのドロップキックがニコに誤爆、その流れで山岳猟兵タッグがマリンをリング下に落とし、ニコがスリーカウントを取られてエルフィンドールズの負けとなった。

 

 ニコを担いでリングから控室に戻るマリンにも色々と罵声はあったが、同じぐらい声援もあがり、拍手も起こった。ニコとマリンがイザベラの座るテーブルを見ると、イザベラは笑顔で団扇を振っていた。ふたりは思っていたよりも随分と良い仕事が出来たのではと思って引き揚げた。

 

 

 そして最終試合は武神ゾフィー・スコヴァと爆弾娘エッダ・ミッターマイヤーのシングルマッチである。

 

ここまでは、ここまでは順調だったのだ……

 

 

~ つ づ く ~

 

 

 




やっとのコトで旗揚げまでたどり着いたオルクセン女子プロレス。

皆の努力で素晴らしい試合が続いた様子。

でもそれはここまでの話。

世の中そんなに甘くない。白ビールは甘いけど。

次回、とんでもない事件が発生する。

オルクセン女子プロレスはどうする、ディネルースはどうなるのか

続けて応援の程、よろしくお願いいたします。
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