廃人サバイバー、異世界へ行く   作:ドレットノータス

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カイザーとの散歩

門を開けてから、数日が経っていた。

 

初日は、外へ出る子達も少し落ち着かなかった。 ドードー達は門の前で何度も足を止めたし、モスコプスは草地の匂いを嗅いではすぐに寝床の方へ戻っていった。オヴィラプトルは外と内を行ったり来たりして、結局その日は入り口近くで丸くなっていた。

 

けれど、数日もすれば、それぞれの過ごし方が少しずつ定まってくる。

 

門の近くの日当たりのいい草地は、小型組と生活組のすっかりお気に入りになった。 午前中はそこにドードーが数羽集まり、モスコプスが草を食み、ダエオドンが少し離れた日陰で大きな身体を横たえている。

 

採取組の一部は、朝になると自分から外へ向かうようになった。 ビーバー達は森の浅い場所へ。アンキロサウルスは黒っぽい岩場へ。ドエディクルスは石の多い斜面へ。

 

全員が外へ出るわけではない。 家の中の方が落ち着く子もいる。自分の区画の寝床からほとんど動かない子もいる。一度外を見て、それで満足したように戻っていく子もいる。

 

それでいい。 外に出られることと、外に出なければならないことは違う。 門を開けたのは、追い出すためではない。出たい時に出て、戻りたい時に戻れるようにするためだ。

 

私は門の内側に作りかけの石床を見下ろしながら、仮置きの板に印をつけた。

 

『小型用の通路、今のところ問題なし』 『採取組用の搬入口、もう少し広げる』 『ワイバーン用の高所出入口、風除けを追加』 『大型組用の動線、正門側をさらに拡張の必要あり』

 

やることは多い。でも、少しずつ形になっている。 この家は、着実に島と繋がり始めていた。

 

その中で、一体だけ、あまり変わらない子がいた。 カイザーだ。

 

黒い山のような巨体は、今日も正門の近くに伏せていた。 門が開いた今でも、カイザーはほとんどそこから動かない。外へ出ていく子達を見送り、帰ってくる子達を迎えるように、正門の横で静かに周囲を見張っている。 採取組が戻ってくると片目を開き、小型組が門の近くで遊んでいる時は、ただ黙ってそこにいる。

 

頼もしい。それは間違いない。 カイザーが正門にいるだけで、家の入り口の安定感は桁違いだった。たとえ森の奥から何かが襲いかかってきても、正門までは絶対に近づけないだろうと思える。

 

実際、ここ数日で拠点周囲の危険な気配はかなり薄くなっている。 戦闘組やワイバーン達が動き始めた影響も大きいだろう。ギガノトサウルス達が外周を歩き、ティラノサウルス達が採取組の近くに立ち、ワイバーン達が空を巡回する。それだけで、普通の生き物なら寄り付かない。カイザーが正門に鎮座しているなら、なおさらだ。

 

けれど。 私は作業の手を止め、正門の横にいるカイザーを見た。

 

本当に、そこにいたいのだろうか。 正門を守ることを、自分の役目だと思っているのかもしれない。そこが一番落ち着く場所なのかもしれない。それなら、無理に動かす必要はない。

 

でも、門は開いた。外へ出られるようにしたのだ。 小型の子達も、採取組も、ワイバーン達も、少しずつ外に自分の場所を見つけ始めている。

 

なら、カイザーにも『門番以外の時間』があっていい。 正門前にいるのが好きなら、それはそれでいい。でも、外へ歩いていけることも知っていてほしい。そう思った。

 

板と炭を置き、正門へ向かう。

 

途中、シルヴィアがこちらに気づいて顔を上げた。 高所の足場にいたはずなのに、私が正門へ向かうだけで、もう翼を広げかけている。反応が早すぎる。

 

「シルヴィア、今日はちょっと待って」

 

声をかけると、シルヴィアは露骨に不満そうな顔をした。 まだ何も言っていないのに、置いていかれる気配を察したらしい。

 

「今日はカイザーの日」

 

シルヴィアの首が少し傾く。

 

「地上から見たいところがあるの。空から見るのとは違うから。あなたは上から見てて」

 

シルヴィアは、低く鼻を鳴らした。不満。かなり不満。 けれど、『上から見ていてほしい』と言われた部分には少し反応したらしい。翼を半分広げ、どこか得意げな顔をする。任せてもいいのよ、という顔だった。

 

「うん。頼りにしてる」

 

そう言うと、シルヴィアはさらに得意げになった。 扱いやすい。いや、分かりやすい。 私は苦笑しながらカイザーの前に立った。

 

近くで見ると、やはり大きい。 伏せていても、見上げるほどの高さがある。黒く重い鱗。丸太のように分厚い首。大地に食い込むような爪。閉じているだけでも圧倒的な圧を放つ顎。いかなる命であれ、対峙しただけで本能からひれ伏すような圧倒的な存在感。

 

けれど、私は怖いとは思わなかった。 頼もしい。大きい。強い。そして、大切なうちの子だ。

 

「カイザー」

 

声をかけると、片目がゆっくり開いた。深い瞳が、静かにこちらを見る。

 

「散歩しよう」

 

言ってから、自分で少しだけ笑いそうになった。 調査ではある。生活圏の確認もする。草地も、森の入り口も、岩場も、水場も、狩場候補も見ておきたい。 でも、本音は別だ。私はカイザーと一緒に、外を歩きたかった。

 

カイザーはしばらく動かなかった。私を見ている。 それから、ゆっくりと鼻を鳴らした。

 

低く、腹の底に響くような音。 確かな返事に聞こえた。

 

「うん。行こう」

 

カイザーが立ち上がる。 地面が揺れた。 近くにいたドードー達が、ぴ、と短く鳴いて少し離れる。モスコプスが顔を上げる。ビーバー達が木材を抱えたまま、一瞬だけ固まる。

 

でも、恐慌状態にはならない。みんな、カイザーを知っている。驚きはしても、怯えて逃げ惑うことはなかった。

 

カイザーの背には、サドルがついている。 戦闘組の子達には、基本的にサドルをつけている。ワイバーンのようにサドルがなくても乗れる子もいるが、カイザーは違う。巨大な身体に合わせて作られた、重く頑丈なサドル。

 

戦うためだけの装備ではない。私が必要な時、カイザーと一緒にいられるための場所。大きすぎるこの子の背で、私が落ちずにいられるための、小さな居場所。

 

手入れはされていた。 革も、固定具も、記憶にある通り整っている。細かな傷はあるけれど、放置されていた感じはしない。

 

私はカイザーの横からサドルへよじ登った。 高い。シルヴィアに乗る時とは違う。

 

シルヴィアの背は、空へ向かうための場所だ。翼の動きと風の流れが近く、乗った瞬間から身体が空へ持ち上げられる感覚がある。 カイザーの背は、大地そのものに乗っているようだった。

 

分厚い筋肉の躍動。低く深い呼吸。一歩ごとに伝わる途方もない質量。 視点は高いのに、空ではなく大地に深く繋がっている。

 

私はサドルの固定を確認し、首元に手を添えた。

 

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

 

カイザーが低く鳴き、重々しい一歩を踏み出した。

 

正門を出る。 門は大きく開いている。けれど、カイザーが通ると、その巨大な門でさえ小さく見えた。私が何度も広げたはずの大型用の通路も、カイザーが歩くと余裕があるとは言い難い。これはさらに拡張した方がいい。

 

外の草地へ出る。 カイザーの足が地面を踏むたび、草が大きく倒れる。柔らかい土にはクレーターのような足跡が残る。小さな虫のようなものが一斉に草むらへ逃げ込み、遠くで鳥に似た生き物が高く飛び上がった。

 

歩くだけで、周囲の環境が動く。 普通の人間から見れば、歩く天災みたいな光景だと思う。でも、私にはそれが不思議と頼もしかった。

 

ただし、合理的には考えなければならない。 カイザーが歩くルートは決めた方がいい。小型組の日向ぼっこ場所と重ねるのは危ない。採取組の搬入路とも分ける。水場周りも、踏み荒らす可能性がある。

 

「カイザーの散歩道もいるね」

 

呟くと、カイザーがわずかに首を動かした。聞いているのかもしれない。

 

門前の草地は、朝日をよく受けていた。 背の低い草が広がり、ところどころに白い花が咲いている。ドードーやモスコプスが好みそうな場所だ。

 

カイザーの背から見下ろすと、地面の起伏がよく分かった。 一見平らに見える場所にも、浅い穴がある。草が少し深い場所もある。小型組が入り込むと姿が隠れそうな茂みもある。

 

「ここは小型組向け。ただし、深い草は刈るか、目印を置く」

 

カイザーが少し進む。その足元で、草が大きく薙ぎ倒された。 私はすぐに追記する。

 

『カイザー通行不可。大型組は外側ルート』

 

「あなたが悪いわけじゃないよ。大きいだけ」

 

そうフォローすると、カイザーは低く鼻を鳴らした。返事なのか、ただの呼吸なのかは分からない。でも、私は返事として受け取る。

 

次に向かったのは、森の入り口だった。 家から見える範囲の森。まだ奥へは入っていない。採取組が使っているのも、あくまで浅い場所だけだ。

 

近づくにつれ、木の匂いが強くなる。 湿った土。樹皮。葉。少し甘い果実のような匂い。どこか薬草にも似た青い匂い。

 

資源は豊富そうだった。 木材。繊維。果実。もしかしたら食べられる植物もあるかもしれない。

 

ただし、視界が悪い。 木々が太く、葉が幾重にも重なり、奥は暗い。背の高い茂みが多く、小型組が入り込むと完全に見失う。足元には太い根が張り出し、ところどころにぬかるみもある。

 

森の奥に、何かの気配があった。 けれど、カイザーが近づいた途端、その気配がさっと遠ざかる。枝が揺れる。何かが複数、奥へと逃げていく音がした。

 

「……やっぱり逃げるね」

 

私はカイザーの首元に手を添えた。 カイザーがいると、安全にはなる。ただ、繊細な採取には向かないかもしれない。大きすぎるのだ。カイザーが森へ入れば、物理的に道はできる。けれど、それは森を踏み潰すことに等しい。採取組が使うには、もっと細いルートでいい。

 

「森の入り口は採取組用。奥は保留。護衛はティラノかスピノ一体くらい。カイザーは入り口まで」

 

森の奥から、もう一度枝が鳴った。 カイザーが低く唸る。それだけで、奥の気配がさらに遠ざかった。

 

頼もしすぎる。私は少しだけ苦笑した。

 

「あなたがいると、調査対象が逃げるね」

 

カイザーは何も言わない。ただ、ゆっくりと瞬きをした。

 

次は岩場へ向かった。 アンキロサウルスが反応していた黒い岩場とは別の、起伏のある場所だ。石材や鉱石の候補地として見ておきたかった。

 

カイザーが近づくと、地面の硬さが変わる。 草が少なくなり、黒い石と灰色の岩が増える。ところどころに、金属のような光沢を含んだ石が見えた。 アンキロやドエディクルスにはよさそうだ。

 

でも、足場が悪い。小型組は論外。生活組も近づけない方がいい。採取組でも、通るルートを決める必要がある。

 

カイザーが一歩、岩の上に足を置いた。 みし、と不吉な音がした。 次の瞬間、脆い岩が少し崩れる。小石が転がり落ち、下の草地へ散った。

 

「……ここ、カイザーは駄目だね」

 

私は即座に判断した。カイザーが悪いわけではない。ただ、重い。圧倒的に重いのだ。岩場の足場が耐えられない場所もある。

 

「ごめんね。ここは崩れる」

 

カイザーは低く喉を鳴らした。分かっているのかもしれない。

 

岩場を離れ、次は水場へ向かう。 上空から見た時に川のような筋が見えていた場所だ。

 

近づくと、涼しげな水の音が聞こえてきた。 細い小川だった。森の端から流れ出し、草地を横切って、やがて海の方へ向かっているらしい。 水は透明に見える。流れは速すぎない。けれど、場所によっては足元がひどくぬかるんでいる。

 

カイザーは水辺で足を止め、鼻先を近づけた。匂いを嗅いでいる。 それから、少しだけ水を飲んだ。

 

私はその様子を見ながら考える。 飲める可能性はある。ただし、まだ完全に安全とは言えない。水中に何がいるか分からない。泥の中に危険な虫や小動物がいるかもしれない。小型組が足を滑らせる可能性もある。大型組が頻繁に使えば、岸が崩れる。

 

「大型組用と小型組用を分ける。小さい子用には浅い場所。滑りにくい道。柵か目印。水は一度確認」

 

書きながら、周囲を見る。ここは生活圏に必須だ。 飲み水。水浴び。泥落とし。採取物の洗浄。使い道は多い。でも、整備がいる。

 

「主任に相談かな」

 

呟く。万能扱いするつもりはない。でも、あの様子なら、必要な杭や板くらいは無言で用意してくれそうだ。水場周りの動線も、見てもらえば何か分かるかもしれない。

 

カイザーがもう一度水を飲む。 その巨大な口元から水がこぼれ、小川の流れが大きく波打った。

 

「あなたが飲むと、小川が大変」

 

カイザーが低く鼻を鳴らす。悪びれてはいない。当然だ。ただ水を飲んだだけなのだから。 私は少し笑って、次の場所へ向かった。

 

狩場候補。 過日、大型の猛獣を倒した方向だ。そこは、生活圏の外側にあたる場所だった。 草地が広く、森からも少し離れている。大型の足跡がいくつかあり、獲物になりそうな生き物が通る気配もある。

 

拠点に近すぎない。でも、遠すぎもしない。狩場としては十分候補になる。

 

ただし、問題もある。 血の匂いが出る。大型肉食組が動く。獲物が逃げる。他の危険生物が寄る可能性がある。 小型組の生活圏や採取組のルートとは絶対に分けるべきだ。

 

カイザーがいると、周囲の気配がさらに遠ざかった。獲物になりそうな小さな影まで、かなり早い段階で逃げていく。 私はその様子を見て、少し考える。

 

「カイザーを狩場に連れてくると、効率は悪そう」

 

強すぎる。存在感が大きすぎる。獲物が逃げる。 カイザーは狩場の主役というより、外周や正門の要。必要な時に動く切り札。普段は、やっぱり入り口や大きな道を守る方が向いている。

 

ただし、散歩は別だ。

 

カイザーが鼻を鳴らした。私はその首元に手を置いた。

 

「あなたの道は別に作るから」

 

そう言うと、カイザーは静かに前を向いた。

 

しばらく歩いたところで、見晴らしのよい高台に出た。 山というほどではない。草地の先にある、少し盛り上がった岩混じりの場所だ。

 

カイザーはそこまで登ると、ゆっくり足を止めた。 視界が開けると家が見えた。

 

高い外壁。開いた門。高所のワイバーン用足場。 その周囲に広がり始めた草地の生活圏。森。岩場。小川。遠くの海。

 

空にはシルヴィアがいた。 こちらを見つけたのか、少し高度を下げて旋回している。でも降りてはこない。一応、「上から見てて」という言葉を守っているらしい。 偉い。あとでうんと褒めよう。

 

カイザーが静かに腰を下ろした。地面が軽く揺れる。

 

私はサドルの上で少し息を吐いた。 思っていたより、ずっと多くの場所を見られた。門前の草地。森の入り口。岩場。水場。狩場候補。そして、カイザーが歩く場所。

 

板には印が増えている。まだ仮のものばかりだ。でも、生活圏の輪郭は少し見えてきた。 私はサドルの上から身を乗り出し、カイザーの首元に手を添えた。

 

「門番、助かってるよ」

 

カイザーが低く喉を鳴らす。

 

「でも、ずっとそこにいなくてもいいからね」

 

返事はない。けれど、カイザーの呼吸がゆっくり深くなった気がした。

 

「そこが好きなら、いていい。正門が落ち着くなら、それでいい。でも、たまにはこうやって外を歩いてもいい」

 

私は高台から、さっき通ってきた草地を見る。カイザーの巨大な足跡が、ゆっくりと続いている。

 

「ここ、カイザーも歩いていい場所にするから。小さい子達の場所とは分ける。岩場は崩れるから避ける。水場も別にする。だから、たまには散歩しよう」

 

カイザーが静かに首を動かした。それから、低く鳴く。 胸の奥に響く音。私には、それが確かな返事に聞こえた。

 

「うん」

 

私は小さく笑った。

 

「また行こうね」

 

上空でシルヴィアが鳴いた。 少し不満そうだった。自分もいる、と言いたいのかもしれない。 私は空を見上げる。

 

「シルヴィアとも行くよ」

 

シルヴィアはそれで少し機嫌を直したらしく、翼を大きく広げて旋回した。

 

その時だった。

 

遠くの空が目に入った。 海の向こう。島の端のさらに先。 そこだけ、空の色が重い。

 

黒い雲が低く垂れ込め、渦のように巻いている。時折、雲の内側で不気味な白い光がちらついた。 雷だろうか。普通の嵐にも見える。

 

けれど、少し引っかかった。 雲の形が不自然だった。風の流れも、そこだけ違っているように見える。海の色も、遠くでそこだけ暗く沈んでいる。

 

シルヴィアが上空で旋回を止める。 カイザーが低く唸った。 私は目を細める。

 

「……嵐?」

 

そう呟く。 遠すぎる。今日の目的は、生活圏の確認だ。カイザーとの散歩だ。あそこまで行く理由はない。それに、まだ分からないことが多すぎる。

 

カイザーがゆっくり立ち上がる。休憩は終わりらしい。 私はもう一度遠くの空を見てから、サドルを握り直した。

 

「帰ろうか」

 

カイザーが低く鳴き、来た道を戻り始めた。

 

帰り道、私は今日見た場所を頭の中で整理していた。 小型組の日向ぼっこ場所。採取組が使う森の入り口。アンキロやドエディクルス用の岩場。水場の整備候補。肉食組の狩場。カイザーの散歩道。

 

家の外にも、少しずつ明確な役割ができていく。 ただの外ではない。うちの子達が歩く場所。食べ物を探す場所。資材を集める場所。水を飲む場所。見回る場所。 そして、帰ってくるための道。

 

門が見えてきた。 正門の前まで戻ると、カイザーはごく自然にいつもの場所へ向かおうとした。 私は止めなかった。そこがカイザーの落ち着く場所なら、それでいい。

 

正門前に伏せることも。外を歩くことも。どちらも選べればいい。

 

カイザーは正門の横にどっしりと伏せた。 私はサドルから降り、少しだけその首元に手を触れる。

 

「ありがとう。助かった」

 

低い音が返ってくる。

 

「また散歩しようね」

 

カイザーはゆっくり目を細めた。返事に見えた。

 

背後で、シルヴィアが降りてくる羽音がした。 振り返ると、案の定、どこか対抗心のある顔をしている。

 

「シルヴィアも、上から見ててくれてありがとう」

 

そう言うと、彼女はすぐに得意げになった。本当に分かりやすい。

 

私は広場へ戻り、板を見下ろした。 生活圏の輪郭は、まだ仮の線ばかりだ。けれど、昨日よりは少しだけ見えている。

 

門前の草地。森の入り口。岩場。水場。狩場候補。外周。カイザーの散歩道。 家の外にも、家族達の歩く場所ができ始めた。

 

小型組が日向ぼっこできる場所。 採取組が通る道。 戦闘組が見回る外周。 カイザーが歩くための大きな道。

 

門の外は、少しずつ『家』の延長になっていく。

 

けれど、そのさらに遠くで。 海の向こうの空だけは、ひどく不気味に荒れていた。

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