廃人サバイバー、異世界へ行く   作:ドレットノータス

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門を開ける前に

家だと思ったからこそ、翌朝になって最初に浮かんだのは、安心ではなく責任だった。

 

眠れたのか、眠れなかったのかはよく分からない。

 

ベッドに横になった記憶はある。窓の外でシルヴィアが時折身じろぎする音も、正門の方から響いたカイザーの低い呼吸も、小型区画から聞こえた小さな寝言のような鳴き声も覚えている。

 

けれど、目を閉じている間も、頭の中ではずっと同じ景色が回っていた。

 

高い外壁。増築だらけの通路。広すぎる居住区。奥にしまわれた青白い設備。柔らかな寝床。低い餌場。水場。工房。正門。高所の岩棚。

 

そして、そこにいるうちの子達。

 

昨日、私はこの場所を家だと思った。

 

まだ名前はない。胸を張ってそう呼ぶには、少しだけ怖い。けれど、拠点でも城でも工場でもない、もっと近くて、もっと温かい何かだと感じた。

 

だからこそ、朝になって冷静になった時、最初に考えなければならないことが見えた。

 

「……暮らすって、食べるってことだよね」

 

ぽつりとこぼした声に、窓の外でシルヴィアが顔を上げた。

 

格好いい竜の顔が、窓枠の向こうからこちらを覗き込む。昨日までなら、その姿だけで胸がいっぱいになっていたかもしれない。

 

でも今は違う。

 

嬉しい。安心する。可愛い。大切だ。

 

その全部の奥に、別の現実がある。

 

シルヴィアも食べる。カイザーも食べる。ギガノト達も、ティラノ達も、カルカロ達も、ワイバーン達も、小型組も、生活組も、採取組も。

 

まだちゃんと見に行けていない水の中の子達も、いるなら当然食べる。

 

みんな、生きている。

 

生きているなら、食べる。

 

食べるなら、食料がいる。

 

昨日までの私は、みんながいてくれたことに安心するだけで精一杯だった。けれど、家だと気づいてしまった以上、そこにいる子達を飢えさせるわけにはいかない。

 

ベッドから降りる。

 

足が床に触れた瞬間、昨日よりも少しだけ、この部屋が自分のものに近づいた気がした。

 

けれど、立ち止まってはいられない。

 

「確認しなきゃ」

 

まずは、餌場と倉庫。

 

そして、その後は外だ。

 

この家の中だけを見ていても、たぶん答えは出ない。

 

みんなとここで生きていくなら、家の外側を知らなければならない。

 

廊下に出ると、拠点の朝は静かだった。

 

もちろん、普通の家の朝とはまるで違う。

 

遠くで大型の子が寝返りを打つたびに床がかすかに震え、高所ではワイバーンの翼が空気を押す音がする。小型区画の方からは、餌場の周りを歩く小さな足音がいくつも聞こえていた。

 

それでも、昨日のような圧倒されるだけの恐怖はなかった。

 

ここにいるのは怪物ではない。私のうちの子達だ。

 

そう思えるようになっただけで、同じ音が少し違って聞こえた。

 

私は通路を歩きながら、壁に残った擦れ跡や、床に残った爪痕を見る。

 

昨日は、それが『生きている証』に見えた。今朝は、それに加えて『これからも続いていく生活の跡』に見えた。

 

なら、その生活を続けるために必要なものを見なければならない。

 

広場へ出ると、シルヴィアが待っていた。

 

いや、待っていたというより、私が部屋から出てくるのを当然のように見張っていた。

 

窓の外から覗き込んでいた時点で予想はしていたけれど、本当に近い。

 

「おはよう、シルヴィア」

 

声をかけると、シルヴィアは喉を鳴らした。

 

昨日よりも、その音を聞いて驚かなくなっている自分がいる。

 

慣れた、とはまだ言えない。でも、少なくとももう、名前を呼ぶたびに現実を疑うほどではなかった。

 

「これから倉庫を見るから。ちょっと待ってて」

 

シルヴィアは首を傾げた。ついてくる気満々の顔だった。

 

「そこ、あなたが入るには狭いから」

 

そう言うと、シルヴィアは分かりやすく不満そうに鼻を鳴らした。

 

見た目だけなら、空を支配する竜だ。朝日を受けた紫の鱗も、身体の内側を走る青白い光も、本当に綺麗で迫力がある。

 

なのに、この距離感と反応のせいで、どうしても威厳が長続きしない。

 

私は少し笑って、鼻先を撫でた。

 

「すぐ戻るから。カイザーのところで待ってて」

 

シルヴィアは納得しきっていない顔をしたまま、それでも正門の方へ視線を向けた。

 

そこにはカイザーがいる。

 

黒い巨体は昨日と同じように、正門近くで静かに伏せていた。寝ているようにも見えるけれど、私が視線を向けると片目がゆっくりと開く。

 

起きている。たぶん、ずっと。

 

「カイザーも、おはよう」

 

声をかけると、低い音が返ってきた。

 

地面の下で石が動いたような、重く落ち着いた音。

 

それだけで、正門の周りの空気が少し締まる。頼もしい。

 

でも、今日はその頼もしさに甘えるだけでは駄目だった。

 

私は工業・ストレージエリアへ向かう。

 

ストレージエリアへ入ると、ひんやりした空気が肌に触れた。

 

ここは他の区画よりも静かだ。

 

箱が並んでいる。棚がある。素材ごとに区分けされた置き場がある。肉やベリー、乾いた保存食のようなものがまとめられた場所もある。

 

薬らしきもの。布。革。繊維。金属片。石材。木材。予備の道具。

 

思ったよりも、整っている。

 

私は一つずつ確認していった。

 

肉はある。ベリーもある。保存できそうな食料もある。水は断線してる、けど貯水槽はある。薬も、最低限は残っている。

 

最初は、少しだけ安心した。

 

「……ちゃんとある」

 

思っていたより、ずっとある。

 

昨日の混乱の中で見た時よりも、今の方が量を冷静に見られる。

 

肉の保管場所には、まだかなりの量があった。小型組用の餌もある。採取組や草食寄りの子達に使えそうなものも揃っている。

 

これなら、すぐにどうこうなるわけではない。そう思った。

 

けれど、その安心は長く続かなかった。

 

私は肉の置かれた場所を見つめ、ゆっくりと拠点の奥を振り返る。

 

カイザー。ギガノト軍団。カルカロ達。ティラノ達。ワイバーン達。

 

大きな子達の姿が、頭の中に順番に浮かんだ。

 

そして、小さい子達。

 

ドードー。オヴィラプトル。モスコプス。ダエオドン。ビーバー。採取組。移動組。

 

みんな、生きている。生きているなら、食べる。それは当たり前だ。

 

当たり前なのに、その当たり前が急に恐ろしくなった。

 

「……これ、減るんだ」

 

声に出した瞬間、背筋が冷えた。

 

減る。本当に減る。

 

ただ数字としてそこにあるわけではない。倉庫に入っているから安心、というだけでは済まない。

 

この子達は、本当に食べる。本当に腹を空かせる。本当に食料がなくなれば困る。

 

補充しなければ、尽きる。

 

私は棚に手を置いた。

 

ある。たくさんある。

 

けれど、たくさん食べる子達が、もっとたくさんいる。

 

その事実に、口の中が乾いた。

 

今すぐ飢えるわけではない。備蓄はある。水もある。保存できるものもある。

 

でも、それは永遠ではない。ただの猶予だ。

 

ここで生きていくなら、食料を安定して得る必要がある。

 

肉を確保しなければならない。食べられる植物を見つけなければならない。水場が安全か確認しなければならない。草食や雑食の子達が食べられる草地が必要だ。肉食の子達の狩場も考えなければならない。魚や海の資源も、もしかしたら重要になる。

 

そして、食料だけでは足りない。

 

木材。石材。繊維。薬草。補修に使うもの。怪我をした時に必要なもの。

 

全部、いつか減る。

 

拠点の中だけを見ていても、答えは出ない。

 

外を知らなければならない。

 

私は倉庫を出た。

 

通路へ戻ると、外から入ってくる風の匂いがした。

 

草。土。海。

 

まだ知らない自然の匂い。

 

私はその匂いを吸い込みながら、もう一度ファミリア達の居住区を見て回った。

 

昨日は、そこにいてくれたことだけで胸がいっぱいだった。

 

今日は、少し違う。

 

大型組の区画は広い。

 

カイザーやギガノト達が身体を休められるよう、通路も部屋も馬鹿みたいに大きく作ってある。床は踏み固められ、壁は何度も補修されている。

 

ワイバーン達の高所は、天井が高く、外気が入りやすい。翼を畳んで休める足場もある。

 

小型組には柔らかい寝床と、踏まれないように区切られた安全な場所がある。日差しが入る場所も、水場も近い。

 

採取組の区画は作業場に近く、動きやすい広場になっている。

 

私なりに、できる限り快適にしたつもりだった。そのはずだった。

 

けれど、食料や外のことを考え始めた後に見ると、少しだけ息苦しい。

 

狭いわけではない。人間から見れば十分すぎるほど広い。

 

でも、空が足りない。風が足りない。土や草や水辺が足りない。

 

この場所は居場所だ。

 

寝床がある。餌場がある。水場がある。安全がある。

 

でも、世界の全部ではない。

 

ワイバーン達の高所では、一体が外の空をじっと見ていた。翼は畳まれている。けれど、首は外へ向いている。

 

正門近くでは、カイザーが外から入ってくる風に鼻を鳴らした。

 

小型組の何体かは、日差しが差し込む場所へ集まっている。ドードーが目を細め、モスコプスが身体を伸ばしている。

 

採取組の区画では、アンキロが床の土を前足でかすかに掻いていた。外の岩場や地面の匂いに反応しているのかもしれない。

 

シルヴィアは、私の方を見てから、外へ続く門をちらりと見た。

 

それから、何でもないような顔でまた私を見る。

 

「……外、行きたい?」

 

言葉は返ってこない。

 

けれど、シルヴィアは翼を少しだけ広げた。それだけで十分だった。

 

この場所は家だ。

 

でも、家は閉じ込める場所ではない。

 

帰ってくる場所だ。

 

その言葉が、胸の奥にすとんと落ちた。

 

出ていける場所でなければ、帰ってくる場所にはならない。

 

眠るための場所があるだけでは足りない。

 

朝になれば外へ出て、空を飛び、地面を歩、草の匂いを嗅ぎ、水辺で休み、必要なものを食べて、疲れたら戻ってくる。

 

そんなふうに過ごせるなら、きっとその方がいい。

 

門を開けたい。

 

居住区と外を繋ぐ門を、全部。

 

この子達が自由に出入りできるように。のびのびと過ごせるように。

 

けれど、そう思った直後、私は首を横に振った。

 

駄目だ。今すぐ開けるのは違う。

 

外には何がいるか分からない。

 

この前聞こえた咆哮。草原に残っていた巨大な足跡。空を飛んでいた翼竜。深い森。荒れた海。黒い岩場。崖。

 

毒を持つ植物があるかもしれない。危険な水場があるかもしれない。病気や寄生虫を持つ生き物がいるかもしれない。この土地の生き物が、私の知っている生物と同じとは限らない。

 

それに、危険は外から来るだけではない。

 

逆もある。みんなが外へ出た結果、周囲を荒らしすぎる可能性もある。

 

肉食組が狩りすぎれば、近くの獲物がいなくなるかもしれない。大型組が歩くだけで、地形が変わるかもしれない。小型の子が危険な場所へ入り込めば、怪我をするかもしれない。ワイバーン達が遠くへ飛びすぎれば、戻る場所を見失うかもしれない。

 

自由にしたい。でも、自由にした結果、誰かが傷ついたら意味がない。

 

私はシルヴィアの鼻先に手を置いた。

 

「まず、私が見る」

 

シルヴィアが私を見る。

 

「すぐに全部開けるわけじゃないよ。危ない場所があるかもしれないから。食べ物がどこにあるか、水が安全か、どこまで行っても大丈夫か。それを先に調べる」

 

シルヴィアは少し不満そうに喉を鳴らした。自分なら飛べる。自分ならすぐ見てこられる。そんなふうに聞こえた。

 

「うん。だから、シルヴィアには一緒に来てほしい」

 

そう言った瞬間、シルヴィアの目が分かりやすく変わった。

 

得意げ。本当に、得意げだった。

 

「……さっきまで不満そうだったのに」

 

シルヴィアは胸を張るように首を上げた。こういうところに、どうしても威厳がない。

 

私は小さく笑ってから、正門の方を見た。

 

「カイザーは留守番」

 

「カイザーを連れて行くと、周りへの影響が大きすぎると思う。それに、ここを守っていてほしい」

 

カイザーはしばらく私を見ていた。

 

やがて、低く喉を鳴らす。それは了承のように聞こえた。

 

「お願いね」

 

もう一度そう言うと、カイザーは目を細めた。

 

それだけで、正門の安心感が増す。

 

私は次に、主任のいる工房へ向かった。

 

主任はヘルメットを被ったまま、作業場の前に座っていた。

 

昨日と同じように静かで、でもどこか落ち着いている。

 

その周りには、いくつかの物が並べられていた。

 

水袋。保存食。採取用の袋。布。包帯のようなもの。簡単な道具類。

 

私は足を止めた。

 

「……主任?」

 

主任は何も言わない。

 

ただ、片手を上げた。ゆるい。昔と同じような、ゆるい返事。

 

でも、並べられた物は妙に的確だった。これから外へ出るなら、確かに必要になりそうなものばかりだ。

 

「主任って、そういうことできたっけ」

 

思わず呟く。

 

主任は答えない。ヘルメットの下で、じっとこちらを見ているだけだ。

 

昔は、みんなでふざけて乗って遊んでいた子だった。わざわざヘルメットを作って、色まで塗って、妙に似合ったから主任と呼んで笑っていた。

 

それなのに、今は少しだけ頼もしく見える。

 

不思議だった。でも、悪い気はしない。

 

「ありがとう。借りるね」

 

主任はまた片手を上げた。

 

私は並べられた荷物を確認し、必要なものだけを選ぶ。

 

過剰な装備は持たない。

 

奥の方に、もっと強力なものがある気配は分かっている。青白い光を宿す設備。冷たい金属。強すぎる力。

 

けれど、今は違う。

 

家の周りを見に行くのに、あれを持ち出したいとは思わなかった。あの冷たい光は、まだこの場所の朝に合わない。

 

それに、シルヴィアがいる。最初の調査なら、それで十分だと思いたかった。

 

荷物をまとめ、私は中央広場へ戻った。

 

シルヴィアが待っている。カイザーは正門で静かに控えている。高所のワイバーン達がこちらを見ていた。小型組の何体かも、遠くから顔を出している。

 

主任は工房の前に立っていた。ヘルメットの端が朝の光を受けて少し光っている。

 

私は広場の中央で足を止め、みんなを見回した。

 

「……少し、外を見てくる」

 

声は大きくなかった。

 

でも、拠点の中は静かだった。だから、ちゃんと届いた気がした。

 

「食べ物がどこにあるか。水が安全か。どこまで歩いて大丈夫か。危ない場所がないか。それを見てくる」

 

ワイバーンの翼が小さく動いた。小型区画から、短い鳴き声が返る。

 

「すぐに全部の門を開けるわけじゃないよ。危ないかもしれないから。まず、私が見てくる」

 

シルヴィアが得意げに喉を鳴らす。

 

「シルヴィアと一緒に行く。空から見た方が分かることもあると思う」

 

また、誰かが鳴いた。カイザーが低く息を吐く。

 

それだけで、正門付近の空気が震えた。

 

「大丈夫だって分かったら、みんなで外に出られるようにしたい。草地も、空も、水辺も、ちゃんと見てから。危ない場所は避けて。帰ってこられるようにして」

 

言葉にしながら、胸の奥が少し熱くなった。

 

私は本当に、この子達を外へ出したいのだと思った。

 

ただ安全な中に閉じ込めるのではなく。好きな場所へ行けて、疲れたら戻ってこられるようにしたい。

 

「だから、もう少しだけ待ってて」

 

言い終えると、拠点の中にいくつもの音が重なった。

 

低い唸り。短い鳴き声。翼が動く音。爪が床を擦る音。

 

言葉ではない。でも、返事だった。私はそう受け取った。

 

「ちゃんと帰ってくるから」

 

シルヴィアがぐい、と鼻先を寄せてくる。

 

近い。いつも通り近い。

 

「うん。あなたも一緒に帰ってくるんだからね」

 

そう言うと、シルヴィアは当然だと言うように胸を張った。

 

私は正門の方へ歩いた。

 

門はまだ閉じている。分厚く、重く、拠点を守るための門。

 

昨日までの私にとって、門は外敵を防ぐものだった。

 

外と内を分けるもの。危険を入れないためのもの。この子達を守るためのもの。

 

でも、今は少し違って見える。

 

この門は、閉じるためだけのものではない。開くためのものでもある。

 

外に出るために。そして、帰ってくるために。

 

私は門の前で立ち止まった。

 

カイザーがすぐ横にいる。巨大な瞳が、静かにこちらを見る。

 

「行ってくるね」

 

カイザーは低く鳴いた。それだけで、十分だった。

 

主任が少し離れた場所で片手を上げる。小型組の方から、誰かがぴ、と鳴いた。高所では、ワイバーン達が顔を上げている。

 

私は門に手を触れた。

 

冷たい。でも、今度は怖くなかった。

 

ゆっくりと仕掛けを動かす。

 

がこん、と音がして、門のロックが外れる。

 

重い扉が、少しずつ開いていく。

 

外の風が流れ込んできた。

 

草の匂い。土の匂い。海の匂い。まだ知らない生き物の気配。

 

拠点の中の空気が、少しだけ変わる。

 

小型組が遠くで鳴いた。ワイバーンの翼が揺れた。カイザーが静かに息を吐いた。

 

シルヴィアが私の横に立ち、翼を広げる。

 

朝の光を受けて、紫がかった鱗が輝いた。青白い光が、身体の内側をゆっくりと流れる。

 

見た目だけなら、空の王みたいだった。でも、私を見る顔はどこか得意げで、やっぱり少し威厳がない。

 

「行こうか」

 

シルヴィアが低く鳴く。

 

私は門の外へ一歩踏み出した。

 

足元の土の感触が変わる。拠点の中の踏み固められた床ではない。

 

柔らかい草と、湿った土。

 

外だ。知らない島の外。いや、家の外。

 

私は一度だけ振り返った。

 

正門にはカイザーがいる。高所にはワイバーン達。奥には小型組の気配。工房の前には、ヘルメット姿の主任が立っている。

 

みんな、こちらを見ていた。

 

私は小さく手を振った。

 

「行ってくる」

 

そして、シルヴィアの背に手をかける。

 

現実の鱗は硬くて、温かい。翼の付け根からは、微かな雷の匂いがした。

 

シルヴィアは誇らしげに首を上げ、翼を広げる。

 

風が起きる。草が倒れ、私の髪が大きく揺れた。

 

まだ、家の外側を私は知らない。

 

この草原も。森も。海も。山も。何が食べられて、何が危険なのかも。何も知らない。

 

だから、まず私が見に行く。

 

門を開けるために。みんなが、いつかのびのびと外へ出られるように。

 

私はシルヴィアと共に、まだ知らない朝の向こうへ踏み出した。

 

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