廃人サバイバー、異世界へ行く   作:ドレットノータス

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第8話 最初の獲物

翌朝、私は工房の机に広げた調査メモを眺めながら、今日の予定を考えていた。

 

昨日はシルヴィアと一緒に拠点の周辺を飛び回り、地形を調べたあと、海の子たちにも会ってきた。モササウルスやメガロドンたちは元気そうで、近海で狩りをしていることも確認できたし、少なくとも当面の食事には困っていないらしい。

 

波の下から次々と姿を現したあの子たちを思い出すと、今でも自然と頬が緩んでしまう。全員の顔を確認できたわけではないけれど、主だった子たちが元気に泳いでいる姿を見られただけでも、随分と安心できた。

 

「……さて、次は陸の方だね」

 

メモに残しておいた『陸上の食料』という項目に目を向ける。

 

拠点には十分な備蓄が残っているものの、いつまでもそれだけで暮らしていけるわけではない。特に、カイザーをはじめとする大型の肉食恐竜たちが食べる量を考えれば、安定して肉を確保できる場所は早めに見つけておきたかった。

 

幸い、昨日の飛行で拠点の周辺に広い草原や森があることは分かっている。そこで、今日は実際に地上を歩き、どんな生き物や植物がいるのか調べてみるつもりだった。

 

「シルヴィア、今日は森と草原の方を見に行こうか」

 

工房の外で待っていたシルヴィアに声をかけると、嬉しそうに大きな頭を持ち上げた。昨日は海岸で少し退屈そうにしていたけれど、今日はその心配もなさそうだ。

 

「ただし、今日は地面も調べたいから、最初は歩いていくよ?」

 

そう付け加えると、シルヴィアは少しだけ首を傾げたものの、すぐにごろごろと喉を鳴らしてくれた。どうやら、一緒に出かけられるなら何でもいいらしい。

 

私はその鼻先を撫でてから、工房で水袋や保存食、採取用の道具を揃えた。近くにいた主任にも出かけることを伝えると、いつものヘルメットを被ったまま片手を上げてくれる。

 

「じゃあ、行ってくるね。お留守番よろしく!」

 

主任に手を振り返し、準備した荷物を持って正門へ向かう。途中、カイザーにも留守番をお願いしておいた。低く喉を鳴らしてくれたので、今回も頼りにさせてもらおう。

 

開閉装置を操作すると、重たい音を立てて正門が開き始めた。流れ込んできた朝の風には草や土の匂いが混じっていて、昨日より少しだけ慣れた足取りで外へ踏み出すと、シルヴィアも当然のように隣へ並んでくれた。

 

「今日は食べ物を探すのが目的だからね。危なそうな場所も確認したいけど、無理はしないようにしよう」

 

そう言って見上げると、シルヴィアは分かっていると言いたげに鼻を鳴らした。その頼もしい姿に笑いかけ、私は草原へ向かって歩き始めた。

 

◆

 

拠点から少し離れると、辺りには広い草原が広がっていた。

 

昨日は上空から眺めただけだったので、今日は地面の様子を確かめながら歩いていく。背の低い草が続く場所もあれば、私の腰ほどまで伸びた草むらもあり、ところどころには小さな花や見覚えのない植物が生えていた。

 

「……結構いろいろ生えてるんだね」

 

しゃがみ込んで近くの草を観察してみると、葉の裏に細かな棘が並んでいるものや、鮮やかな色の実をつけた植物も見つかった。いかにも食べられそうな実もあるけれど、見た目だけで判断するのは危険だろう。草食の子たちに与えるにしても、まずは種類や毒性を確かめる必要がありそうだった。

 

私は気になった植物の特徴をメモしながら、少しずつ先へ進んでいった。シルヴィアは私の歩調に合わせて隣を歩いていて、ときどき周囲へ目を向けたり、何かを探るように鼻先を動かしたりしている。

 

やがて、草が大きく踏み倒された場所を見つけた。

 

「あれ、これ……足跡?」

 

近づいてみると、柔らかな地面に大きな足跡が残っていた。幅の広い蹄のような形をしていて、かなり深く土にめり込んでいる。周囲の草も押し潰されていることから、相当重たい生き物が通ったらしい。

 

「うわぁ、結構大きそう……」

 

昨日見つけた恐竜のような足跡とは違い、私の知っている猪や牛に近い形をしている。ただし、大きさはそのどちらとも比較にならない。足跡は森の手前を横切り、少し離れた岩場の方まで続いていた。

 

これだけ大きな生き物が暮らしているなら、肉食の子たちの餌を確保できるかもしれない。もちろん、実際に食べられるかどうかは別の話だけれど、どんな生き物なのか見てみたくなった。

 

「……何がいるんだろうね」

 

そう言ってシルヴィアを見上げると、彼女はいつの間にか足を止め、森の方をじっと見つめていた。

 

「……シルヴィア?」

 

私の声にも反応せず、大きな瞳は木々の奥へ向けられている。その視線を追ってみると、森と草地の境目で何本かの若木が不自然に傾いていることに気づいた。

 

風はそれほど強くないのに、奥の茂みがゆっくりと揺れている。

 

「……何かいるの?」

 

小声で尋ねると、シルヴィアは低く喉を鳴らした。

 

私は少し身を屈め、木々の隙間を覗き込んだ。すると、茂みの向こうで何か大きなものが動き、太い枝が音を立てて折れた。

 

そして、その正体がゆっくりと姿を現した。

 

「……うわっ、大きい!」

 

思わず声を漏らしてしまった。

 

そこにいたのは、猪によく似た巨大な獣だった。

 

ずんぐりとした身体は、私の知っている猪とは比べものにならないほど大きい。肩の高さだけでも数メートルはありそうで、全身を覆う硬そうな毛はところどころ逆立っている。口元からは大きく湾曲した牙が突き出し、太い脚が一歩動くたびに草が押し潰されていた。

 

どうやら、先ほど見つけた足跡の持ち主らしい。

 

「……すごい。こんなのが普通にいるんだ」

 

恐ろしさもあったけれど、それ以上に驚いてしまった。

 

『ARK』にも巨大な猪のような生き物は登場するけれど、目の前の獣は私の知っているものとは少し違う。牙の形や毛並みにも見覚えがなく、少なくともゲームで見てきた生物そのものではなさそうだった。

 

獣はまだ私たちに気づいていないらしく、地面に鼻先を押しつけ、太い根のようなものを掘り返して食べている。その動きは意外と器用で、何度も地面を掘りながら、見つけたものを次々と口に運んでいた。

 

「……あれ、植物の根っこかな?」

 

どうやら植物を食べる生き物らしい。ただ、あの牙と巨体を見る限り、大人しい動物だと決めつけるのは危険だろう。

 

それにしても、本当に大きい。

 

あれだけの身体なら、食料として確保できた場合の量も相当なものになるはずだ。もちろん、肉に毒がないか、うちの子たちが食べても大丈夫なのかは確かめなければならないけれど、少なくとも候補にはなりそうだった。

 

そんなことを考えていたとき、不意に獣の頭が持ち上がった。

 

「……あっ」

 

小さな目が、まっすぐこちらを向いている。

 

どうやら、気づかれてしまったらしい。

 

獣は低い唸り声を上げながら身体をこちらへ向け、背中の毛を大きく逆立てた。私が後ずさりすると、今度は巨大な蹄で地面を掻き始める。

 

「……まずいかも」

 

そう呟いた直後、獣が地面を蹴った。

 

巨体が勢いよく飛び出し、まっすぐこちらへ向かってくる。思っていた以上の速さに一瞬身体が固まったけれど、次の瞬間にはシルヴィアの名前を叫んでいた。

 

「シルヴィア!」

 

すると、隣にいたシルヴィアが素早く私の前へ出た。

 

さっきまでの甘えん坊な雰囲気が嘘のように、大きな翼を広げて獣へ向き直る。首筋を流れていた青白い光が強まり、周囲の空気がかすかに震え始めた。

 

「お願い、止めて!」

 

私が叫んだ次の瞬間、シルヴィアが大きく口を開いた。

 

青白い閃光が空気を引き裂き、獣の巨体を正面から捉える。

 

「っ!」

 

あまりの眩しさに、思わず目を細めた。

 

続いて耳をつんざくような轟音が響き、周囲の草が大きく揺れる。雷を浴びた獣は苦しげな声を上げ、勢いを失ったまま前のめりに倒れ込んだ。

 

重たい身体が地面にぶつかると、足元まで衝撃が伝わり、土や草が大きく跳ねた。

 

それきり、獣は動かなくなった。

 

「…………」

 

私はしばらく、その場に立ち尽くしていた。

 

本当に一瞬の出来事だった。あれほど巨大な獣が、シルヴィアの攻撃を受けただけで倒れてしまったのだ。ゲームの中でもその強さは知っていたけれど、現実の光と音を伴った雷は、想像していた以上の迫力だった。

 

「……すご」

 

思わず呟くと、シルヴィアがこちらを振り返った。ついさっきまで恐ろしい雷を放っていたというのに、私と目が合うなり嬉しそうに喉を鳴らし、大きな頭を下げてくる。

 

「……もう、ほんとにすごいね。ありがとう、シルヴィア」

 

首元を撫でてやると、シルヴィアは満足そうに目を細めた。

 

もっとも、いつまでも感心しているわけにはいかない。倒れた獣がまだ動く可能性もあるし、雷の音を聞きつけて別の生き物が寄ってくるかもしれなかった。

 

私はシルヴィアに周囲を見てもらいながら、慎重に獣へ近づいていった。

 

◆

 

近くで見ると、獣はさらに大きかった。

 

分厚い毛皮の下には頑丈そうな筋肉があり、口元から伸びた牙もかなりの長さがある。シルヴィアの雷を受けた部分には焦げた跡が残っていて、周囲には独特の匂いが漂っていた。

 

様子を確かめてみたけれど、獣は完全に息絶えていた。私は持ってきた道具を取り出し、焦げていない部分を少し調べてみることにした。

 

「……うわ、硬いなぁ」

 

毛皮や皮膚はかなり厚く、刃を入れるだけでも一苦労だったけれど、その下にはしっかりと肉がついている。見た目や匂いだけでは安全かどうか判断できないものの、食料として利用できる可能性はありそうだった。

 

「……これなら、みんなのご飯にできるかも」

 

もちろん、確認するまでは食べさせられない。それでも、拠点の近くにこれほど大きな生き物がいると分かっただけでも、今日の調査には十分な意味があった。

 

問題は、どうやって持ち帰るかだった。

 

「……うーん。さすがに全部は無理だよね」

 

倒れた獣を見上げながら、思わず首を傾げる。

 

これだけ大きければ、肉を切り分けるだけでも相当な時間がかかるだろう。シルヴィアに運んでもらうことも考えたけれど、あまり長くここに留まるのも危険だ。

 

ひとまず確認用に少しだけ持って帰ろうと考え、焦げていない部分から肉を切り取った。

 

「……よいしょ」

 

切り分けた肉を手に取ると、思っていたよりもずっしりとした重みがあった。どうやって袋に入れようかと考えた、そのときだった。

 

手の中にあった肉が、ふっと消えた。

 

「……え?」

 

思わず、自分の手を見つめる。

 

さっきまで確かに握っていたはずの肉が、跡形もなくなくなっていた。地面に落ちたわけでもなければ、誰かに取られたわけでもない。

 

「……あれ? どこ行った?」

 

慌てて足元を探してみるものの、やっぱり見当たらない。

 

けれど、不思議なことに、完全になくなったような気はしなかった。目には見えないのに、どこかにしまってあるという感覚が残っている。何というか、自分の持ち物がひとつ増えたことを、理由もなく理解できているような感覚だった。

 

「……まさか」

 

そこで、ひとつ思い当たることがあった。

 

『ARK』のインベントリ。

 

ゲームの中では、採取した素材や道具を収納できる、お馴染みの機能だった。肉や皮、石や木材まで、さまざまなものを持ち運べる便利な仕組みだけれど、もちろん現実にそんなものがあるはずはない。

 

……ない、はずなのだ。

 

「……いやいや、ちょっと待って」

 

私はもう一度、自分の手を見つめた。

 

目の前では恐竜が歩いているし、ワイバーンだって空を飛んでいる。今さらゲームの機能が現実になったくらいで驚くのも変な話かもしれないけれど、何の前触れもなく肉が消えたら、さすがにびっくりする。

 

何より、肉をどこにしまったのか、自分でも説明できないのが気になった。

 

試しに、消えた肉のことを意識してみる。

 

すると、どこかにしまってあるという感覚が、少しだけはっきりした。目には見えないけれど、確かにそこにある。何となく、取り出すこともできそうな気がする。

 

「……うそでしょ」

 

思わず呟いたところで、近くから大きな物音が聞こえてきた。

 

振り返ると、シルヴィアが倒れた獣に顔を近づけている。

 

「……シルヴィア?」

 

私が声をかけるより早く、シルヴィアは大きな口を開き、獣の身体へ噛みついた。

 

すると、噛みついた部分から肉や皮が不自然なほどの速さで失われていった。普通なら時間をかけて食いちぎらなければならないはずなのに、まるで見えない何かに回収されているように、獣の身体がみるみる小さくなっていく。

 

「……えっ、ちょっと待って!?」

 

慌てて声を上げたものの、シルヴィアは気にした様子もなく、もう一度獣へ噛みついた。

 

その直後、残っていた身体がふっと消えた。

 

「…………」

 

後には、踏み荒らされた草と焦げた跡が残っているだけだった。

 

私はしばらく、その場所を呆然と見つめていた。

 

「……シルヴィア?」

 

名前を呼ぶと、シルヴィアは何事もなかったようにこちらを向いた。むしろ仕事を終えたことを褒めてほしいのか、得意げに喉を鳴らしている。

 

「……今の、採取したの?」

 

そう尋ねると、シルヴィアは短く鳴いた。

 

「肉とか、皮とか……全部?」

 

もう一度、鳴き声が返ってくる。

 

「……そっかぁ」

 

思わず額に手を当てた。

 

どうやら、私だけではないらしい。

 

シルヴィアも、ゲームの中と同じように素材を採取できるようだった。少なくとも、獣の身体が消える様子は、私がよく知っている『ARK』の採取そのものだった。

 

ただ、実際に目の前で起こると、何とも奇妙な光景だった。さっきまで生きていた大きな獣が、ほんのわずかな時間で消えてしまったのだ。ゲームでは当たり前のように見ていた処理も、現実の出来事として考えると、少し怖い。

 

「……でも、すごく便利だよね」

 

思わず、そんな本音も漏れた。

 

本当にインベントリが使えるなら、大量の食料や資材を持ち運ぶのがずっと楽になる。シルヴィアだけでなく、ほかのファミリアたちも同じことができるなら、今後の採取や運搬にも役立つはずだ。

 

もっとも、まだ分からないことは多い。どのくらいの量を収納できるのか、入れたものが腐ることはないのか。シルヴィアが採取した素材はどこに入ったのか、私のインベントリとは別なのか。

 

その辺りは、実際に確かめてみる必要がありそうだった。

 

「……うん。これは帰ってから実験だね」

 

そう言ってシルヴィアを見上げると、本人は嬉しそうに喉を鳴らした。

 

「ふふっ、ありがと。おかげで助かったよ」

 

首元を撫でてから、私はもう一度周囲を確認した。

 

先ほどの雷の音もあったし、いつまでもここにいるのはよくないだろう。それに、今日の目的だった食料候補は見つかったし、思いがけず新しい発見までできた。

 

これ以上欲張る必要はなさそうだ。

 

「シルヴィア、そろそろ帰ろうか。持って帰ったお肉も確認したいしね」

 

そう声をかけると、シルヴィアは嬉しそうに翼を広げた。

 

私はその背中へ乗り、しっかりと身体を支えてから、空へと舞い上がった。

 

◆

 

帰り道、シルヴィアの背中から見下ろした草原は、来たときとは少し違って見えた。

 

背の高い草むらも、森の近くに残された巨大な足跡も、そこに何がいるのか分からないうちは不安だった。もちろん、危険がなくなったわけではないし、まだ知らない生き物だってたくさんいるだろう。

 

それでも、少なくともこの島には、うちの子たちの食料になりそうな生き物がいる。しかも、シルヴィアなら十分に対応できる相手だった。

 

今日のように襲われる可能性もあるので油断はできないけれど、周囲の状況を少しずつ調べていけば、安全に狩りをする方法も見つけられるかもしれない。

 

「……うん。何とかなりそうかな」

 

そう呟くと、シルヴィアが嬉しそうに喉を鳴らした。

 

もちろん、まだ決まったわけではない。今日倒した獣の肉が食べられるかどうかも分からないし、周辺にどれだけの数が生息しているのかも調べなければならない。

 

でも、昨日まで何も分からなかったことを考えれば、大きな前進だと思う。

 

しばらく飛んでいると、森の向こうに見慣れた外壁が姿を現した。

 

「あ、見えてきた!」

 

高い城壁と大きな正門、それから増築を重ねた建物の屋根。相変わらず少し不格好だけれど、今となっては、その形を見るだけでほっとしてしまう。

 

シルヴィアは正門近くの草地へゆっくりと降り、私が背中から下りるのを待ってくれた。

 

「ありがと、シルヴィア。今日も助かったよ」

 

その首を撫でると、シルヴィアは満足そうに喉を鳴らした。私も自然と笑顔になり、一緒に正門へと向かった。

 

◆

 

拠点へ戻ると、カイザーがいつもの場所で迎えてくれた。片目を開けてこちらを見るその姿に手を振り、中央広場へ向かうと、工房の前には主任も座っていた。

 

「ただいま! 今日はちょっと面白いものを見つけたんだ」

 

そう声をかけてから、私は持っていた荷物を下ろし、先ほど肉が消えたときのことを思い出してみた。

 

何となく、どこかにしまってあるという感覚はまだ残っている。

 

「……これ、取り出せるのかな?」

 

試しに、さっきの肉を取り出すところを思い浮かべてみた。

 

すると、次の瞬間。

 

「わっ!?」

 

目の前に、どさりと肉の塊が現れた。

 

慌てて受け止めようとしたものの、思っていたより重たく、そのまま地面へ落としてしまう。

 

「……ほんとに出てきた」

 

思わず目を丸くした。

 

消えたときも驚いたけれど、こうして何もないところから肉が現れるというのも、なかなか衝撃的だった。

 

「……すごい。これ、本当にインベントリなんだ」

 

どうやら、採取したものをどこかに収納し、必要になったら取り出せるらしい。仕組みはさっぱり分からないけれど、少なくとも自分の意思で使うことはできるようだった。

 

隣ではシルヴィアが得意げに喉を鳴らしている。

 

「……いや、シルヴィア。あなたは分かってたの?」

 

そう尋ねても、返ってくるのは嬉しそうな鳴き声だけだった。

 

「もう……先に教えてよぉ」

 

思わず苦笑しながら、私は取り出した肉を布の上へ移した。

 

実際に触ってみると、重さも手触りも普通の肉と何も変わらない。まだ温かさも残っていて、見たところ腐敗している様子もなさそうだった。

 

もっとも、だからといって安全に食べられると決まったわけではない。

 

「……これは、ちゃんと調べてからだね」

 

私は肉を確認用に取り分け、残りもほかの食料と混ざらないようにしておくことにした。未知の生き物の肉なのだから、少なくとも問題がないと分かるまでは、みんなに食べさせるわけにはいかない。

 

主任がこちらを見ていたので、作業台を借りながら、今日分かったことを簡単に書き留めていく。

 

森の近くには巨大な猪に似た生き物がいた。植物の根を食べていたけれど、こちらに気づくと襲いかかってきたので、シルヴィアに倒してもらった。肉は食料として利用できそうだが、安全性についてはまだ不明。

 

それから、もうひとつ。

 

どうやら私にも、ファミリアたちにも、『ARK』のインベントリのような機能があるらしい。

 

「……これ、かなり便利だよね」

 

書き終えた内容を見直しながら、思わず呟く。

 

もしこの力を自由に使えるなら、今後の採取や運搬はずっと楽になるだろう。何しろ、巨大な恐竜たちが食べる分まで運ぶとなれば、普通の方法では大変なことになりそうなのだから。

 

ただし、どこまで使えるのかはまだ分からない。特に食料の保存に関しては、腐敗するまでの時間や収納できる量など、いろいろと確かめておく必要がありそうだった。

 

「……うん。これも、ちゃんと調べよう」

 

そう決めてから、私はメモを机の上へ置いた。

 

今日の調査で、食料の問題がすべて解決したわけではない。それでも、この島には食料になりそうな生き物がいて、採取したものを持ち帰る方法も見つかった。

 

昨日は海の子たちが元気に暮らしていることが分かり、今日は陸にも利用できそうな資源があることを知った。

 

まだ知らないことは山ほどあるけれど、少しずつ、この場所で暮らしていくために必要なことが分かってきた気がする。

 

私は工房の外で待っているシルヴィアへ目を向けた。大きな竜は私と目が合うなり、嬉しそうに首を持ち上げている。

 

「……ふふっ。明日もよろしくね、シルヴィア」

 

そう声をかけると、その子はいつものように、ごろごろと優しく喉を鳴らしてくれた。

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