時間が巻き戻ったので今度こそと死ぬつもりで助けたら、何故か生還して激重感情持たれるやつ 作:二次創作を漁る爬虫類
人理継続保障機関、カルデア。
少し前まで日本で高校生として過ごしていた俺が、どうして南極大陸の山奥にあるカルデアに居るのかと聞かれれば、偶然としかいいようがない。
偶々近所で献血がやっていて、
偶々受けてみようという気持ちになって、
その献血をしている団体が偶々カルデアに属するもので、
さらに偶々レイシフト適性なるものが自分にあって、
そんな偶然が重なって、俺は
半ばというか完全に拉致だよねコレ。なんで許されてるのコレ。日本は法治国家のはずなんだが。
まあカルデアがあるのは日本じゃないけどさ。どの国でも人攫うのはダメだと思うんだよ。
……悲しいことに南極は国じゃないから、そんな理屈は通用しないかもしれないけど。
「……て思うんだけど、沖田さんはどう思う?」
「世界がこんな状況なんですから、ルールなんてあってないようなものなのでは?」
「それ言っちゃおしまいじゃん……」
沖田さん。マスターの適性に恵まれなかった俺が、唯一召喚したサーヴァントだ。
真名、沖田総司。かの有名な新選組の一番隊隊長、沖田総司その人である。
女性だったことにはちょっと驚いたけど、一緒に色々と乗り越えてきたこともあって、気の置けない間柄になっている。
「そもそも、ただでさえマスターはネガティブ思考なんですから、考えすぎたら負けですよ」
「でもさ、最初に比べたらマシになったと思わないか?」
「そうですね。マスターを矯正し続けた立香さんやマシュさん、何より、沖田さんのおかげですね!!」
胸を張って鼻高々にそう言った沖田さんだったが、彼女の明るさには実際とても助けられた。
ちょっと元気すぎるかもしれないけど、気を抜けば暗い雰囲気になってしまう俺には、きっとそれくらいが丁度良かったんだと思う。
というか、突然世界が滅亡したって言われたに等しい状況なのに、変わらず元気にやれる人のほうがおかしいと思うんだ。カルデアの人達、メンタル強すぎないか?
なんて考えていると、胸を張った姿勢のままの沖田さんが、恥ずかしそうにプルプルと震え始めた。
「……あの、マスター? ツッコミ待ちなんですが?」
「んー……沖田さんの明るさに助けられたのは事実だし、このままで」
「そんな!?」
『わーん! マスターに辱められました〜!』なんて誤解を招くようなわめき声をあげ始めた沖田さんを止めようとしていると、誰かがこちらに近づいてくる気配を感じた。
「こら
「言いがかりなんだが!?」
『蒼くん』というのは、俺の名前である"
そして、そんな風に俺のことを呼ぶのは、目の前にいる藤丸 立香。人類最後のマスター*1であり、俺と違って複数……どころか大勢のサーヴァントと契約している。
別名コミュ力の鬼。彼女が居なければカルデアは回らないと言っても過言ではない。
ちなみに余談だが、立香も俺と同じく半ば拉致される形でカルデアに連れてこられたらしい。誰かこの組織止めろ。
「ダメですよ蒼介さん。ちゃんと正直に言わないと」
「マシュまでそっち回るの? ……いや、マシュはどう足掻いても立香側か……」
流れるように立香の援護射撃を始めたのは、彼女の隣に立つマシュ・キリエライト。
立香のファーストサーヴァントであり、それはもう立香のことを慕っている。なんなら、慕いすぎててたまに怖い。時々過激な発言が出たりするし……。
「それで、お二人ともどうしてここに? 昼食のお誘いとしてもまだ早い時間ですし……」
「それがね、見つかったんだって!
「え゙っ」
特異点。俺も詳しいことはよくわかっていないけど、人類史の行く末が変わってしまうような歴史介入がされた、
人類滅亡の原因にもこの特異点とやらが関わっているらしく、どうやら7つの特異点を解消しなければ、このまま人類滅亡が確定してしまうとのこと。
これまで立香と俺は、3つの特異点を乗り越えてきた。それで今日、新たに4つ目が見つかったということらしいんだが……。
「聞かなかったことにしたい……」
「ほらっ、泣き言なんて言ってないで行くよ蒼くん! ダ・ヴィンチちゃんが待ってる!」
「待って! せめて心の準備させて! 行くから! ちゃんと行くから! 手ぇ引っ張られなくても行くから!」
「Dr.ロマンもお菓子を用意してくれているらしいです。ラインナップが楽しみですね、蒼介さん!」
「俺お菓子で釣れると思われてる?」
「心配しないでください立香さん。マスターは首根っこ掴んででも連れて行くので」
「沖田さん???」
「だーいじょーぶ! 今回もパパっと解決して、さっさと終わらせちゃおー!」
「ノリかっる……」
……でも、こんな風に軽い口を叩いている立香が、俺達の中では一番の立役者なんだよな。
俺は今までの特異点攻略で、『コレは無理だ』と、諦めてしまったことが何度もある。
でも、立香はどんな状況でも諦めない。動き続けて、考え続けて、皆を引っ張って、どんな辛い目にあっても必ず、最後に勝利を掴み取る。この前まで俺と同じく普通の学生だったにも関わらず……だ。
……だから、かな。そんな立香を見ていると、俺も頑張らなきゃという気持ちになる。
彼女が諦めていないのに、俺も諦めるわけにはいかないと、そう思えてくる。
マシュだって、立香に感化されたのか、どんな状況でも希望を捨てなくなった。
……第4の特異点、そう簡単に乗り越えさせてはくれないだろう。
だけど、皆が居れば越えられない壁はない。本気でそう思っていた。
思っていたから、こそ──。
「──やはり、こんなものか」
第4特異点。その最終局面で姿を顕した魔術王ソロモンと名乗る男に、現地で出会ったサーヴァント達が一瞬にして退去させられた。
そして、残っている戦力の状況も芳しくない。
沖田さんは現界こそ維持しているものの、立ち上がることすら難しいほど負傷しており、マシュも盾で自分を支えてやっと立っていられるくらいだ。
「そんな……モードレッドさん達が、一瞬で……」
「マシュ! 気をしっかり!」
「ッ! ……はい!」
今までにも、格が違うと感じた相手と対面する機会は何度かあった。
でも、アイツはそんなレベルじゃない。格が違うどころの話じゃない。
話を聞くところ、どうやらこの男が人類滅亡を目論んだ黒幕らしい。要は、ラスボスってやつだ。
ラスボスが急に目の前に現れるなんて、ゲームなら負けイベも良いとこだ。
でも、これは現実。負けイベなんていう生易しい言葉で許されるもんじゃない。この男に負けることは正真正銘、俺達の死を意味する。
だけど……こんな相手に、どうやって……!
「……ふむ」
あの男の一挙手一投足が死の要因に成り得るこの状況。すぐにでも動けるように構えていた俺達に対して、ソロモンは何でもないかのように言葉を発した。
「では、帰るか」
「……は?」
言っていることの意味がわからなかった。
自分の計画を阻止しようとする存在が目の前に居るのに、ソロモンは帰ると言ったのだ。
「私はお前達を見逃すのではない。お前達など、初めから見るに値しないのだ」
「ここに来たのはただの気まぐれ……それだけだ」
「ここで生かすも殺すもどうでも良い」
俺達のことを歯牙にもかけない様子でそう言ったソロモンを見て、俺は身体から力が抜けていくのを感じた。
要は、今ここで俺達は殺されないということだ。それなら、まだ可能性はあるはずだ。
カルデアに戻って、ソロモンへの対策を皆で考えて、準備すれば、きっと、いつか──。
「──
「──え」
「先輩!!」
ソロモンが立香に視線を向けるのと、マシュが立香に割り込んだのは、ほぼ同時だった。
しかし、ソロモンの攻撃は早すぎた。それこそ、マシュが盾を構えることも間に合わないくらいに。
結果として──気の緩んだわずか数秒で、立香とマシュは自らが作り出した血の水溜まりに倒れた。
「気まぐれとはいえ、折角ここまで来たのだ」
「どちらか有害な方を殺しておくのもまた一興──と、思ったわけだが」
「盾の娘まで巻き込む想定はしていなかった。……まあ、過ぎた話か」
つまらなそうにそう吐き捨て、ソロモンは徐々にその姿を薄くしていく。
「さらばだカルデア。もう会うこともないだろう」
「だが、万が一、億が一、7つの特異点が消失したそのときには──」
「──私が解決すべき案件として、お前らのことを見てやろう」
そう言って、消えていくソロモンの姿を。
俺は何も言えずに、見ていることしか出来なかった。
「食べられるもの、置いておくからね」
扉の向こうから、ダ・ヴィンチちゃんが声をかけてくれたのが聞こえた。
でも俺は、何かを食べるつもりにはなれず、かと言って眠ることもできず、ただただ部屋の中で蹲っていた。
立香とマシュが亡くなった。最善を尽くしたがどうにもならなかったと、ロマン先生が教えてくれた。
カルデアに居るサーヴァント達の暴動が起きた。当たり前だ、どれだけ立香が慕われていたかなんて、言うまでもない。
でも……
「なんで誰も、責めないんだよ……」
もし俺が気を抜いて居なければ、立香を助けられたかもしれない。
決して離れた距離にいたわけではなかった。基礎的な魔術しか教わっていなかったけれど、それでも、間に合った可能性は十分にあった。
それなのに、職員の人も、サーヴァントの皆も、誰も彼も、俺を責める人は居なかった。
「なんでだよ……」
あの日、死ぬべきだったのは俺だ。立香とマシュが生きていれば、この先の特異点だって乗り越えていけただろう。
なのに──
『……
『私、知ってるんだよ……?
『きっと、この先にどんな壁があっても、乗り越えられる、から……』
『そう、ですね……。沖田さんと、一緒なら……間違いなし、です……』
死に際の彼女達の言葉が脳裏をよぎる。
違う。違うんだよ立香、マシュ。
お前達が居たから、俺は頑張れたんだ。どんな絶望にだって立ち向かう二人が居たからこそ、俺は──。
「マスター。入っても、よろしいですか……?」
「……沖田さん?」
許可を出すと、やつれた表情の沖田さんが、扉の前に置いてあったであろう食料を持って部屋の中に入ってきた。
「あはは……お互い、酷い顔してますね……」
「そう、だな……」
「ご飯も、食べなきゃダメですよ? 私と違って、マスターは人間なんですから」
「うん……」
ただただ相槌を打つだけになってしまった俺だったが、沖田さんは特に気にせず、俺の隣に腰を下ろした。
「……今、カルデアがすっごい状況なんですよ」
「そう、だろうな」
「でも、誰も私のことを責めないんです。それがかえって、一番辛いと言いますか……」
「……そっか」
でもあのとき、沖田さんは立ち上がることすら困難な状況だった。その状況で助けろと言うのは、酷な話だろう。
「……私、また最後まで戦い抜けませんでした」
「でも、それは……」
「怪我なんて理由なりません。目の前で二人の命が奪われていくところを、私はただ、見ていることしか出来ませんでした」
『最後まで戦い抜く』。それは沖田さんが聖杯に託す願いだったはずだ。
その願いが届かない様をまたしても痛感させられた沖田さんの気持ちは、察しようとすることすら烏滸がましいものがあるだろう。
「あの日は、体調が良かったんです」
「え?」
「発作も無くて、普段より身体が軽くて、動きたいように身体が動いて……」
『それなのに』と、沖田さんは続ける。
「結局、この有り様です。『病に倒れた』なんて、言い訳でしかなかったんですよ」
「健康だろうがなかろうが、私が最期まで戦い抜くなんて、出来っこなかったんです」
「笑ってください、マスター。貴方のサーヴァントは、こんなにも情けない英霊だったのです」
「そんな、ことは……」
沖田さんが情けないサーヴァントだなんて、そんなわけがない。だって沖田さんは、俺の────。
口に出そうとして、俺はあることに気がついた。
「……はは」
「ふふ、少しは元気が出ましたか? その調子で、情けない私のことなんて笑って──」
「いや、情けないのは俺のほうだよ。自分の情けなさに、笑っちゃったんだ」
「え……?」
ずっと一緒に頑張ってきた沖田さんがここまで落ち込む姿を見るまで、俺は今の自分がどんな醜態を晒しているのか気づくことが出来なかった。
「立香とマシュに言われたんだ。沖田さんと俺なら、どんな困難も越えられるって」
二人の存在を心の支えにしておきながら、俺は彼女達の言葉を信じることが出来なかった。
いくら俺が俺をダメだと思おうとも、そんなのは関係ない。二人が俺を信じてくれたのなら、二人が信じてくれた俺を信じてやらなきゃダメだろう。
こんなの、情けないったらありゃしない。
「お二人が、そんなことを……?」
「うん。だからさ」
沖田さんに向けて、俺は手を伸ばした。
「情けないマスターで申し訳ないけど──」
「──こんな俺でも良ければ、これからも力を貸してほしい」
一瞬、呆然としたような表情になった沖田さんだったが、涙を浮かべながら口を開く。
「私なんかで、いいんですか?」
「沖田さんが良いんだ」
「でも、私は、大事なときに何もできない、サーヴァントで……」
「違う。沖田さんは、これまでも、これからも……」
沖田さんが自分を信じられなくなってしまったのなら、その分俺が沖田さんを信じればいい。
二人が俺のことを信じてくれたように。だから──
「──俺の大事な、相棒だよ」
「──────ッ!」
俺の言葉に沖田さんは言葉なく頷くと、俺の手をギュッと握った。
「わかりました。沖田総司、最後まで一時たりとも、貴方から離れません」
「……ん?」
「どこへ行くにも何をするにも……これからはずっとお供します、マスター」
「……いや、それは流石に重いかな」
「もーーーーーーーーーー!!!!!!」
握った手を不満気にブンブンする沖田さんを見て、なんだか久々に笑えたような気がした。
「──ん?」
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
何日も寝れてなかったからか、気絶するかのように意識が飛んでしまったのかもしれない。
いつのまにか沖田さんも居なくなっていた。先に部屋の外に出て何かしているのかもそれない。
「ダ・ヴィンチちゃんとロマン先生にも心配かけちゃった、よな……」
でも、もう心の内は決まった。俺は立香の旅を引き継いで、第5から第7の特異点までの攻略を完遂する。
そして、あの男を倒す。胸を張って二人に報告出来るように、ここから頑張っていこう。
そうと決まれば、ダ・ヴィンチちゃんとロマン先生に俺の意思を伝えに──
「
「……へ?」
いやいやいや。そんなわけない、俺は幻聴でも聞こえてるのか?
なんで扉の向こうから立香の声が聞こえる?
というか
「召喚、楽しみだね! どんな人が来てくれるのかな!?」
「ん……?」
いや、やっぱりこれ立香の声だよな? いや、落ち込んでるときにこういう幻聴が聞こえてくるのはわかるよ?
でも、なんというか、『前を向いて頑張っていこう』って決意した後だよ? それなのに幻聴が聞こえてくるほどメンタル弱ってるってことか……?
それとも、誰かが幻覚を見せてるとか──。
「先輩、やっぱり蒼介さんは部屋の外から呼ぶだけじゃダメです。冬木での怯えようからして、部屋の中から無理やりにでも引っ張り出した方が良い気がします」
「もー! そんなことしなくても大丈夫だって! ね、蒼介くん!」
「……え?」
ゑ?
「問おう。貴女が私のマスターか?」
「わぁぁぁぁぁぁ!! 格好良い! 藤丸立香です! よろしくお願いします!」
「こ、こちらこそ……」
立香の勢いにたじろぐセイバーという構図に、俺は見覚えがあった。
これ、最初に立香が英霊召喚したときとまったく同じシチュエーションじゃないか……?
なんだこれ、なんだこれ。立香とマシュが生きてるかと思ったら、カルデア内にダ・ヴィンチちゃん以外のサーヴァントを見かけないし、連日の稼働で目が死んでたロマン先生がまだ元気そうな顔してるし、マジでなんなんだこれ。
夢? 夢なのか? いや、でも夢にしては随分とリアリティがあるし……。
……もしかして、巻き戻ったのか? 冬木を乗り越えた後の、あの日に。
「さ! 次は蒼介くんの番だよ! どんなサーヴァントが召喚出来るか楽しみだね!」
「あ、うん……」
召喚用のコストを受け取り、俺が召喚陣の前に立つ。
「ちなみに残念なお知らせなんだけど、蒼介くんはマスター適性がちょっと変というか、
「カルデア式の契約システムを用いても、一人のサーヴァントとしか契約出来そうにないんだ」
一言一句、聞き覚えのあるダ・ヴィンチちゃんの説明に、俺はコクリと頷いた。
要するに、前と同じだ。ここで呼んだサーヴァントが、ここから先、長くお世話になるサーヴァントになるってことだ。
さっきの立香の結果を見れば、俺のときは前と同じく沖田さんが来てくれるのかな?
……だけど、仮に沖田さんが来てくれたとしても、きっとそれはさっき約束した沖田さんじゃない。
もしここが巻き戻った世界なのだとすれば、当然沖田さんの記憶からも俺のことは消えているだろう。
でも、不思議とそれでも良いと思った。だって、どんな沖田さんだったとしても、それが沖田さんであることに代わりはないんだ。
ならきっと、また仲良くなれるはずだ。相棒って言えるくらいに。
「……よし」
どこか清々しい気持ちで召喚をしてみると、やはり見覚えのある姿が現れた。
よかった。今回も俺は、沖田さんと一緒に頑張れるらしい。関係構築は一からになってしまったけど、これから仲を深めて──
──あれっ? 最初から新選組の羽織着てたっけ?
確か召喚したてのときは、桃色の着物を着ていたような──。
「新選組一番隊隊長、沖田総司推参! あなたが私のマスターですね? 羽織は……約束と一緒に、持ってきちゃいました!」
初めて会ったときとは少し違う挨拶をして、沖田さんが俺の前まで歩いてくる。
「これから