この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜   作:ゲスト047562

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第10話 天の外の理から愛されし者

 私は、どこにでもいる普通の女の子だった。

 友達とお喋りして、人並みに勉強して、明日は一体何しようって妄想して……恋、はまだした事ないけど。

 そんな、本当に普通の女の子。神霊から力を与えられた特別な存在、加護持ちとは無縁な生活を送っていた。

 ……送っていた、筈だった。

 

『……──ぁ』

 

 ある日から、夢を見るようになった。ぼんやりとした光の空間で、誰かが私を呼んでいる夢。

 

『聞こえますか』

 

 初めは単なる夢で終わると思っていた。けどそれから毎日同じ夢を見て、夢の中で私は段々意識をはっきりと持つようになっていた。

 

『理亜。天外理亜。私の声が聞こえますか』

 

「貴方は、誰? ここは……」

 

『……嗚呼、良かった。届いてくれたのですね』

 

 夢の中で私の目の前に立つその人は、周りの空間みたいにボヤけて良く見えない。なのに、不思議と恐怖は無かった。

 

『ごめんなさい。今の私は顕現出来る時間が少なく、必要な事だけ教えます。もうすぐ、この国に大いなる災いが訪れます。その災いを治める為の力を、貴方に授けました』

 

「災い……? 一体何を……」

 

『お願いします。貴方には特別な縁があります。その縁の糸は、これまで幾年も続いた厄災を討ち滅ぼす事でしょう』

 

 どういう意味なのか。問いただす前に私は目を覚まし、気付けば加護持ちとなっていた。

 今まで見ていた、感じていた世界がまるで違う。何も変わらない景色の筈なのに、色が目まぐるしく変化している様に感じる。

 そして、今にも溢れて爆発してしまいそうな程の、激流の様な力の塊。これが神霊、加護持ちだと気付くのに時間はかからなかった。

 けど、これは非日常の入り口でしかなかった。

 

『貴方が特別な神霊の加護持ちとなった事を、神託にて伝えられました。天外さんは、来年から神霊学園へと入学していただきます』

 

 あまりに一方的な要求。けど相手の方も困惑していて、とても断れる様な雰囲気じゃなくて。

 

『ねえ……天外さんってさ』

 

『何か最近おかしくね?』

 

『加護持ちだったらしいよ……』

 

『えぇ……何でここにいるの? 家庭の事情?』

 

 加護持ちの件は内密だと聞かされていた。なのにいつの間にか、私が加護持ちになっていた事が周囲に知れ渡っていて。

 私は皆から少しずつ距離を取られ、段々と学校の中で孤立していった。

 

『理亜……大丈夫?』

 

『うん……』

 

 両親もどうして良いか分からず、唯私の様子を見てくるだけ。

 家にも居づらくなって、あんなに広かった世界が小さくなっていって……。

 私は限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どしたん? 話聞こか?』

 

 ──そんな時だった。

 私の道を照らしてくれた人に出会ったのは。

 

 ◇◆◇◆◇

 

「おらおらー、妖魔は待っちゃくれねえぞー」

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 のんびりとした声。けど飛んでくる攻撃は鋭く、素早く私の元にやって来る。

 人1人を簡単に掴めそうな程大きい黒紫の手が、上から降って来る。それを横に逃げて、彼……私が勝手に師匠と呼んでいる代陀羅団君に、とにかく銃を撃つ。

 

「そうそう。戦いってのは、情報と場所の取り合いだ。自分が逃げても、敵に逃げてると思わせるなよー。元々力の無い俺や、お前みたいな奴が身を守る為にどうすれば良いのか、それを考え身に付けるのが()()()()()だ。自分の身を守るにはどうするか、それは実際に危険な状況にならないと分からないもんだ」

 

「だ、だからって急にハード過ぎない!? 私、まだ神技も覚えたばっかりなんだけど」

 

「安心しろ。お前はスポンジだ」

 

「何も安心出来ないよ!?」

 

「間違えた。お前の吸収力はスポンジ並みだ。プラス、神霊のサポートもある事を忘れるな。まずはどんな攻撃がきても慌てない事、これはその訓練だ」

 

 言うや否や、また攻撃が飛んでくる。

 師匠が空掌(くうしょう)と名付けたその妖技──神技ではないんだって。妖力を使ってるから?──は、今度は正面から私を掴みにくる。

 落ち着いて、冷静に……師匠は実戦って言ったけど、あくまでこれは訓練。なら付け入る隙だって必ずある!

 

「花水鬼!」

 

 花が散る様に弾ける巨大な水球が、空掌の勢いを止める。その衝突の影に隠れて、ひたすら移動して銃を撃つ。撃つ。撃つ。

 当たらなくて良い。少しでも彼の気を引ければ……!

 

「ほーん、やっと自分の手札を理解し始めたか」

 

「花水鬼!」

 

 感心している様子の彼の頭上に、本命の神技を落とす。

 やり過ぎなんじゃ……とも思ったけど、そんな事言ってられない。私の命を狙ってくる攻撃は怖くて、彼の安全をかまけている余裕なんて無い。

 

「お願い!」

 

 更に神力を上乗せした銃撃をお見舞いする。

 上と横の波状攻撃! これで……!

 

「初めてにしちゃ、やっぱ筋が良い」

 

「……え、あれ」

 

 私の放った二つの攻撃が、当たってない。師匠は相変わらず動いてない様に見えるけど、一体何をしたの?

 

「っ!?」

 

 師匠の後ろに、音も無く巨大な顔が現れた。

 ボサボサな長い髪、口を開けて笑うその歯は真っ黒で不快感を煽る。忙しなく動かすその眼が、師匠をロックオンする。

 これは、青女房(あおにょうぼう)! 妖魔だ!

 

「師匠、あぶな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、邪魔」

 

 白刃一閃。白い軌跡を中心に二つに分かれた青女房は、何が起きたかも理解出来ず塵と化した。

 呆気に取られる私を前に師匠は、いつの間にか握っていた剣を振って鞘に戻す。

 

「ヤベ斬っちゃった。今の人じゃない? 人じゃないよな?」

 

「う、うん……」

 

 気にする所そこなんだ……凄く格好良かったのに、何となく締まらないなぁ。

 安心した様に眼鏡をクイっと上げる師匠。息切れ一つしていないその仕草に、心臓がさっきの訓練とは違う跳ね方をする。

 

「周囲に気を配るってのはこういう事だ。まず自分を助けられなきゃ、他人を助けるなんて無理だからな。お前に教えてるこの献魂護身術は、そういった覚悟の土台を作る作業とも言える」

 

「でも今、人か妖魔か判断出来て……」

 

「いやー天外君ちょっと疲れてない? 疲れたよな? 良し分かった、少し休憩にするか!」

 

 さっきの行動を誤魔化す為に、彼は有無を言わせず私をセーフエリアに押し込む。

 その際、身体が触れ合ってまたドキッとするのだが、彼は全然気にしてないみたい。

 ……私だけそんな事を気にしてるのが、何故か腹が立つ。休憩出来るのは有難いから、何も言わないけど。

 

「にしても天外の成長速度ヤベェ〜……ある意味頼もしいわ」

 

「そんな、まだまだだよ……さっきも妖魔に気付くのが遅れ、てぇぇぇえ!?」

 

 一息ついて彼の方を見ると、何と口に煙草を咥えて指先から火を出している所だった。

 な、何してるの!? 師匠まだ未成年だよね!? 流石に煙草はマズイよ!

 

「あ、大丈夫大丈夫。これは狐火っつう妖技だ。指が燃えてる様に見えても、熱くないぞ」

 

「そっちじゃなくて! ていうか分かってるよね!?」

 

「あー()()か? これは薬草だよ。俺だって、流石にまだ吸っちゃいけねえってのは理解してるって」

 

 そう言って悪戯っぽく笑う師匠。

 師匠は不思議な人。見た目は普通の男の子と変わらない。違うのは、彼の纏う大人っぽい雰囲気。それでいて、加護無しなのに加護持ちの私より強くて、同い年なのに先生みたいに色んな事を教えてくれる。

 そんな師匠が不意に見せるその子供らしさに、また心臓が煩くなる。

 赤くなった頬を見られたくなくて、大袈裟にソッポを向く。

 

「も、もう……紛らわしいよ」

 

「ははっ悪い悪い。試練の祠以外じゃ吸わねえから勘弁してくれ。じゃあこの一服が終わったら、また扱くぞー」

 

「一服って言った!? 本当に薬草なんだよね!?」

 

 師匠の言う通り、煙草(にしか見えない薬草)を吸い終えた後はまた息つく暇も無い手合わせが始まった。

 

「安心しろ天外。お前は加護持ち、神霊と一心同体なんだ。もっと神霊と意思を一つにしろ。そうすりゃお前は最強だ」

 

「攻撃しながら言わないでよぉ!」

 

「余裕あるなコイツ」

 

 全然無いんだけど!?

 

 

 

 

 ……なんて。普通とは程遠い日常になっちゃったけど、今は辛かった日々を忘れてしまうくらい楽しい。

 それは間違いなく師匠のお陰。師匠がいなかったら、私は今も暗い未来を歩んでいたと分かるから。

 だから、あの時は恨んだ神霊にも今は感謝してる。だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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