この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜   作:ゲスト047562

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第11話 神と魔は表裏一体

「妖魔って絶滅しないの?」

 

 良い質問デスネェ、お嬢さん。

 ヒロインと出会ってはや2ヶ月。俺との手合わせも死にそうな顔をせずにこなせるようになってきたある日、今日も神技と銃をぶっ放しまくりトリガーハッピーな天外が、突然正気に戻って話しかけてきた。

 ずっと同じ試練の祠で妖魔を倒しまくったから、心配になったのか? 倒す相手に気を回せる程優しいのか、はたまた余裕が出来てきたのか、どっちにしろ好ましい変化だ。

 

「しないしない。妖魔は人間の心から生まれるからな」

 

「えっ、そうなの?」

 

「簡単に言や、負の感情を食い物にして現れるのが妖魔なんだよ。だから人間がいる限り、妖魔という存在が消える事は無い」

 

 逆を言えば、妖魔を絶滅させたければ人間を先に滅ぼせば良い。妖魔と人と神霊の歴史は、全て結びついているのだ。

 

「ついでに神霊も、人間がいなくなったら消えるぞ。まあ、神霊の場合は()()()()()()()()()

 

「そうなの?」

 

「おう。まあその内分かる。それより、お前は神霊と妖魔の事をもっと知った方が良いな。はーいちょっとチクッとしますねー」

 

「え」

 

 天外の反応を待たず、軽く腕を斬る。

 防御に失敗した彼女の腕がパックリ裂けるが、血は出てこない。代わりに光の粒子が溢れ、中空に消えていく。

 

「痛……く、ない?」

 

「お前が戦う代わりに、神霊はダメージを引き受ける。少し違和感がある程度で済むんだ。だから安心して特攻しろ」

 

「しないからね? それで死んじゃったらどうするの」

 

「試練の祠の中じゃ、お前は死なねえよ。死ぬ程度のダメージを受けたら、神霊が最後の力を振り絞ってお前を祠から脱出させる仕組みになってる」

 

 これがゲームだとパーティ全滅後のリトライ要素になるんだったな。

 結によると、神霊学園の生徒はその説明と実体験を経て、死をも恐れない薩摩兵の如く試練の祠に突撃していくらしい。化け物かな?

 

「そうなんだ……」

 

「お前と神霊は一心同体って言ったろ? お前の痛みは神霊の痛みでもあるんだ。大事にしろよ」

 

「特攻しろって言った後に言われても……」

 

「後、お前がもし妖魔に負けたら、お前の持つ霊力と神力が妖魔に喰われるからな。気を付けろよ」

 

「え? 食べられるって……どういう事?」

 

「妖魔は負の感情から生まれるって言ったろ? そうやって生まれた妖魔は、人の心と神力が大好物なんだよ。そして加護持ちは、心が弱っている時程神力を手放しやすくなるんだ」

 

 妖魔は、人の心がどの様に壊れるのかを本能で知っている。何故ならば、人の悪意が彼らを生み、呼び寄せるのだから。

 妖魔は幽世で生まれ、人の負の感情を縁として現世に向かい、試練の祠に現れる。そしてそこから人を甘い言葉で誑かし、仮初の幸せを与え、一時の優越感を乗せ、全て奪い去るのだ。

 その時に生まれる絶望こそ、彼らのご馳走。故に奴らは、可能な限り残虐に加護持ちを弄び、神霊を喰らおうとする。

 全ては、現世に我が身を完全に顕現させる為に。

 

「ずっと言ってるだろ? 『心を強くしろ』ってのはそういう事だ。お前の心の弱さが、いつの日かお前の大切な人を殺す。そしてお前も無様に殺され続ける」

 

「……」

 

「そしてとうとう神霊が完全に喰われて、本当の死を迎える。お前が今生きてるのは、そういう世界だ」

 

 いつか直面しなければならない、彼女の厳しく残酷な現実を教える。天外は、震えながら俯いてしまった。

 うーむ、脅しすぎたか? いやいや、今ここで覚悟を決めておけば、祠で死ぬショックも少しは和らぐやろ……多分。

 それに、本当にそんな事態にはならないと断言出来る。原作前からレベルアップしてるし、戦いにも慣れてきている。今の彼女は、俺の知る世紀末女子に近づいてきているのだから。

 ……唯、今はまだ普通の少女である事も事実なんだよなぁ。い、一応フォローいっとく? アフターケアも万全ですよ的な?

 

「……あ、あー。で、俺達は今そうならない為に強くなろうとしてる。そうだな?」

 

「……うん」

 

「安心しろ。お前は強くなった。後はその強さを自覚して、自信を持て。それが心を強くする1番の方法だ」

 

「ううん、そうじゃないの」

 

「おん?」

 

 違う? もしもの未来を想像したんじゃないのか?

 

「……師匠」

 

 彼女は顔を上げ、不安そうに俺を見つめる。

 

「師匠は……その、大丈夫だよね?」

 

「ハァ?」

 

 いきなり何を言い出すんだコイツは。

 呆れと苛立ち、2つの感情をブレンドさせたデコピンを、天外に見舞う。

 

「あたっ」

 

「あのな、そういうのは俺より強い奴が言うもんなの。お前が心配するのは、家族とか友達とか、大切な人だけで良いんだよ。お前に心配される筋合いは無い」

 

「だって、いきなり怖い事言うから……」

 

 額を押さえて恨めしそうに見てくる天外。

 ……何か、コイツ思ったより余裕そうじゃね? 確かに怖い事は言ったが、そこで俺が出てくる方がおかしいだろ。我、唯の一般妖力持ち加護無しぞ? 貴方の今後の人生設計に関わるつもりは毛頭ありませんので、あしからず。

 

「そもそも、神霊と妖魔なんてほぼ同じなんだから、お前が闇堕ちして神霊ごと妖魔になる可能性だってあるんだぞ」

 

「え!? 何言ってるの!?」

 

「何って……あ」

 

 そういや教えてなかったか。いや、神霊学園でも割とタブーな話題だから、教えて良いものか悩んでたんだが……マズった。完全に口を滑らせたな。

 ……あー、まあ良いか。寧ろ、そんな可能性にならない為に、今教えた方が得かもしれん。

 

「加護持ちが悪に染まれば、神霊もその心の影響を受けるんだよ。心が折れる程の絶望や、行き過ぎた欲望……色んな心の闇を抱え込んだ結果、妖魔になっちまうんだ。珍しいケースらしいが、そんな妖魔と何処かで会うかもな」

 

 まあ、その内の1体とはほぼ確実にエンカウントするんだが。こっちが経験値マラソンしてる時に出くわしやがって、あの死神……!

 原作が始まった後に出てくる、クソ強妖魔と脳内で格闘しながら、今度は良い情報を教える。

 

「逆に、妖魔から神霊に昇華するケースもある。人の心を食って成長した妖魔は、段々自分好みの味を覚えるんだ。で、善良な心が好きな妖魔が人に協力するパターンもあるらしい。それがやがて神霊に昇華されていくんだと」

 

「そうなんだ……師匠。今更なんだけど、師匠は妖力を持ってても大丈夫なの? 妖魔に操られたりとか……」

 

「マジで今更だな。まあ、お前の心配は分かる」

 

 不敵に笑ってみせ、剣の鯉口を切る。

 剣を振り抜き、天外の背後に迫っていた妖魔を斬り捨てる。

 

「安心しろ。俺の心は、妖魔如きじゃ手に負えねえよ。言ったろ? 力は結局、扱う奴次第なんだよ」

 

「……! うんっ! 流石師匠!」

 

 彼女の顔に笑顔と輝きが戻っていく。

 まあ、天外にとっては俺も一応恩人枠くらいには入ってるだろうしな。恩人に手は上げられないか。

 神託に選ばれし少女。その限りない善性と優しい心を垣間見て、何となくだが彼女が何故神霊に選ばれ、愛されるのか分かった気がする。

 ……いやぁ、でもどうだ? 神霊に愛されるのは、同じくらい妖魔からも注目を浴びるんだぞ? しかも本人は、割と闇堕ちしそうな部分も抱えてるし……え? 無いよな? 闇堕ちして攻略キャラ皆殺しルートなんて、そんな非道な事は流石に乙女ゲーでやらないよな?

 アカン、不安になってきた。とりあえず今は見なかった事にして、いざとなったら結を連れて国外逃亡する算段を後で立てよう。

 

「さーて、入学まで後2ヶ月。もっと強くなるぞー」

 

「おー!」

 

 うんうん、ノリが良くて大変よろしい。闇堕ち要素を考えなければ、花丸をあげたかったね。

 天外は元気に周囲をクリアリングし、妖魔を駆逐していく。敵を屠った後も、気を抜かずにすぐ神力を銃に込め直している。

 ……体幹がブレずに安定してるな。戦いへの忌避感も無くなっている。献魂護身術の教え……如何にして身を守るかについては、まだまだ改善の余地は残されているが、それなりに堂にいっている。

 今の天外のレベルは確か5、6辺りか。ずっと同じ試練の祠、その浅瀬でチピチピチャパチャパしてるだけだから、大して高くない筈。レベルを確認する手段が、神霊学園で貰える学生証しかないのが面倒だな。こういう時、別作品のラノベのチート転生とかで良く見る、ステータスやスキルの可視化があればなぁ……とか思う。

 ……でもまあ、基本的な事は教えたし、そろそろ潮時かな。今の天外ならば、俺の補助が無くてももう大丈夫だろう。

 勘違いしてもらっては困るが、俺は彼女の今後のキャリアまで面倒を見るつもりは無いのだ。彼女には、その輝かしい人生に相応しいイケメン達が待っているのだから。

 

「師匠、セーフエリア見つけたよ」

 

「ん? おお、そうだな。ここまで潜ったのは初めてか」

 

「うん。このレベルの妖魔が相手なら、もっと奥まで行けそうかな」

 

 おっと。俺が考え込んでいる間に、いつの間にかセーフエリアに辿り着いていたようだ。

 巣立ちの時を迎える小鳥を見る様な気持ちを抱きながら、セーフエリアに入る。

 

 ──先客が、いた。

 大口を開けた蝦蟇が描かれた法被の下からは、テカリのある緑の肌が顔を覗かせている。明らかに人間ではないと分かるが、最大の特徴はその顔。

 蛙だ。ニホンアマガエルに人の要素をプラスした様な、愛嬌のある蛙人間。それが、地面に風呂敷を広げて道具を並べていた。

 俺達の足音に気付き、その蛙人間が振り向いた。ギョロリとした眼が、俺達の目とかち合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、妖の(アン)さんでやんすか! いやぁ、お久s「花水鬼!」ギャアアアアアア!!?」

 

「判断が早過ぎんだろ」

 

「師匠! セーフエリアなのに妖魔が!?」

 

「落ち着け。ソイツは良い妖魔、つか俺の友達(ダチ)だ」

 

「ええっ!? そうなの!?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ギブギブギブゥゥゥゥ!!!」

 

 マズイ。ヘッドロックが完璧に決まってる。奴の頭が柘榴みたいに弾ける前に止めねば。

 どうどう、落ち着きなさい主人公ちゃん。銃口を頭に押し付けないあげて? 頭バーサーカーかよ。誰だよ、こんなヤベー教育を施したヤベー奴は……。

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