この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜   作:ゲスト047562

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第12話 商人と友達になって損は無い

「助かりやんした、兄さん……いやはや、まさかあの無頼な兄さんが女と連れ立ってるとは」

 

「本当に師匠の知り合いだったんだ……」

 

「どういう意味だコラ」

 

「しかもそのお相手が、あの噂の神託の巫女サマとは。こりゃ、アッシも商いが捗るってもんでさぁ!」

 

 言うや否や、蛙人間の妖魔は身を翻し、仁義を切るポーズを取る。

 

「アッシは、生まれは幽世育ちは現世。人との商いを生業とする大妖魔から生まれたしがない妖魔。かつては御魂寂衆(おたまじゃくしゅう)と呼ばれし名も無き眷属でやんしたが、この度親方より正式に『蝦蟇』の名を頂きやした。蝦蟇猫(がまびょう)商店が誇る商人一味が1人、蝦蟇九郎(がまくろう)と申しやす。以後お見知り置きを」

 

 今は蝦蟇九郎と名乗る友人の見栄に、拍手を送る。俺につられて、天外も困惑しながら拍手する。

 

「おめでとさん。遂に立派な商人として独り立ちって訳だ」

 

「へへ、これも兄さん方が懇意にしてくれたお陰でやんすよ」

 

「商人って……お店やってるんですか?」

 

「そう。前に、妖魔の中にも良い妖魔はいるって話を覚えてるか? コイツがその良い妖魔の1人なんだよ。色んな試練の祠を放浪しながら、便利なアイテムを売ってくれるんだ。お前に渡した霊銃も、コイツから買ったんだよ」

 

「へー! そうだったんですね。さっきはすいません、いきなり……」

 

「いえいえ! 見た目でとやかく言われるのはもう慣れやんしたから。さあさそんな事より、この蝦蟇九郎の記念すべき初商売、是非ともご賞味くだせえ!」

 

 先程並べていた様々な品物を俺達の前に出し、嬉しそうに笑う蝦蟇九郎。

 蝦蟇九郎は、ゲームだとセーフエリアに一定確率で現れる放浪商人。蝦蟇九郎以外にも、蝦蟇三狗(がまさく)やら蝦蟇一(がまいち)やら……とにかく沢山の蝦蟇〇〇がいる。蝦蟇九郎は、そんな蝦蟇と名の付く商人達の新入りという訳だ。

 そういえば確かに、俺と会った時はまだ今の姿ではなく、オタマジャクシと蛙の中間みたいな姿だった。それが俺の知る姿にまで成長したって事は、いよいよ原作が近くなってきたって事か。

 

「お代は兄さん方が持つ霊力で支払っていただくでやんす。どうぞ、気の済むまで見ていってくだせえ」

 

「霊力で?」

 

「ええ。アッシらは妖魔、現世での通貨など興味無いでやんすから。神霊様にお渡しになる分の幾らかを、こちらに流して欲しいでやんす」

 

「あ、新しい霊銃くれ。それといつもの」

 

「まいど! いつもありがとうでやんす」

 

 霊力を蝦蟇九郎に受け渡し、新たな相棒の霊銃と、煙草が詰め込まれた箱……カクボロを受け取る。

 そうそうこれこれ。銃はともかく、煙草がもうすぐ切らしそうだったから助かったぜ。すぐに封を開け、煙草(モドキ)に火を付ける。

 肺に煙が充満する感覚。ニコチンやタールを含まないが、それは十二分に俺の身体に活力を巡らせてくれる。

 

「ふぅ〜……最初に封を切ったこの1本が良いんだよな……今日はミント味か」

 

「師匠の煙草って、この人から買ってたんだね」

 

「へへ、妖の兄さんはずっとアッシを使ってくれてるお得意サマでやんすからねえ。この()()()()も、アッシが手ずから作った特注品でさあ」

 

「あ、本当に薬草だったんですね。唯の言い訳だと思ってました」

 

「さっきから辛辣過ぎない?」

 

「ところで、巫女サマは何か欲しい物は無いでやんすか? 初回特典でお安くしておくでやんすよ?」

 

 話を振られて、天外は品物を吟味し始める。

 ゆっくり品物と俺とを交互に見て、やがて彼女が手に取った物は……。

 

「剣?」

 

 1番安物の、凡鉄で造られた剣だった。

 俺が普段使ってるのと同じ物だが、天外ならもっと良い物が買える筈だ。それに、今の彼女のメインウエポンは銃、無理して剣を握る必要は無いんだが……。

 

「せめてもっとマシな奴にしたらどうだ?」

 

「ううん。これにする。師匠がさっき見せてくれたあの技、凄かったから。同じ剣を持ったら教えやすいかなって」

 

「あ、あー。あれか」

 

 あれ、別に技なんて呼べるものじゃないんだよな。間合いに不用意に近付いてきた奴を、唯無造作に斬っただけで。特に教えるつもりも無かったんだが。

 

「それに、剣の使い方とか、また色々教えてくれるでしょ?」

 

「……」

 

 俺を見つめてくるその目に、僅かに言葉に詰まる。

 気付いてたのか。彼女が試練の祠に挑む時、俺が殆ど戦いに口を出さなくなっている事に。

 今日、妖魔について聞いてきたのもまさか……いや、流石にそれは考え過ぎか。

 一瞬過った馬鹿な考えをかき消す様に、頭をかく。

 

「あー、剣を教えるのは長いから、簡単な振り方と防御だけ教える。もう入学まで時間も無いしな」

 

「うん。よろしくね」

 

「ほうほう。妖の兄さんもスミに置けないでやんすねえ」

 

「ははっ、勘弁してくれよガチで。そういやお前、最近全然見なかったな。そのせいで煙草も切らしかけちまったじゃねえか。何してたんだよ?」

 

「アダダダダ!? 頭! 頭弾けるでやんすうううううう!」

 

 妄言を吐く蝦蟇九郎の頭を、恐怖を見られない様に物理的に塞ぐ。

 確かにさぁ、天外は多感で年頃な乙女だよ? でもさあ、俺は無いって。年齢的にも釣り合わないし、そもそも彼女は乙女ゲーの主人公だからさ。もっと隣に立つのに相応しい人がすぐに来るんだから、俺がいちゃ駄目だろ。下手したら世界滅亡ぞ? 勘弁して下さい。

 ……ふぅ、よし。落ち着いた。鷲掴んでいた蝦蟇九郎を下ろし、暫く現れなかった理由を聞く。

 

「数ヶ月前に、神託の巫女サマが現れるって予言があったでやんしょ? それから東は五行、西は御三家から注文が殺到して、正しく東奔西走! 坊主も逃げ出す大忙しでやんしたよ。どうも戦の臭いが漂ってきやんしたねぇ」

 

「五行? 御三家?」

 

「五行ってのは、この国を影から支えてきた加護持ちの五代貴族みたいなもんだ。神霊学園で会うから、仲良くしろよ。お前にとって大事な出会いだからな」

 

「へー、そんな凄い人達がいるんだ」

 

「そう。超大事だからな。絶対仲良くなれよ。絶対だぞ。良いな?」

 

「親戚のおじさん?」

 

 君と彼らに世界の命運が託されてるんだからな。君らの愛と絆パワーで頑張るんやで。俺は何処かで後方腕組み師匠面で見守ってるから。

 

「じゃあ御三家って?」

 

「……御三家って?」

 

「兄さんも知らないでやんす!?」

 

 いや、多分続編で出てくる奴らなんだろうなーって事は分かるんだが、そもそも俺が知ってるのはバトルシステムぐらいしか知らねえのよ。五行家は、結から聞いてたから知ってる程度の知識しか無いし。

 

「妖の兄さんも、変なとこで抜けてるでやんすねぇ……御三家は、五行家よりも更に歴史の古い、西方守護の一族でやんすよ。安倍、蘆屋(あしや)、土御門。それぞれ一癖も二癖もある連中でやんすが、古から受け継がれてきたその力と権威は絶大でやんす。しかも奴さん、妖魔を調伏する術を独占してるから、五行家とは犬猿の仲らしいでやんす」

 

「へー」

 

「ほーん」

 

「妖の兄さんはともかく、巫女サマはもっと興味持ってほしいでやんす!?」

 

 安倍に蘆屋、土御門。そして西方守護……なるほど。カミカゴ2では、確かに安倍とかいうキャラがいたな。続編では舞台が東京から京都に変わるのか。

 じゃあ、御三家はこっちには関係なさそうだな。ヨシ!

 

「サンキュー蝦蟇九郎。天外、とりあえず御三家は無視で良いや」

 

「うん、分かった」

 

「ケケッ御三家のご威光も、兄さんには無駄やんすねえ。それに神託の巫女サマも随分たくましいお方で、正直安心しやんした。今日も良い商売をさせていただいたでやんす」

 

 楽しそうに笑い、荷物を纏め始める蝦蟇九郎。どうやら今回はこれで店じまいのようだ。

 

「商人が忙しいのは良い事だが、次は煙草が切れる前に来てくれよ」

 

「へい! 今後ともアッシをご贔屓にしてもらえるなら、いつだって用立てるでやんすよ。妖の兄さんには、ウチのお頭も気にかけてるでやんすからねえ」

 

「ありがとうございました。蝦蟇九郎さん、また」

 

「毎度ありがとうやんした! また会うでやんすよ、ご両人」

 

 そう言って、セーフエリアを抜けた蝦蟇九郎はドロンと消えてしまった。

 相変わらず、こっちに物を買う気が無いと分かった時の撤収は早えな。商魂逞しい奴だ。

 

「良い人だったね」

 

「良い妖魔だからな、アイツは。他にも蛙の商人は色々いるから、試練の祠で会ったら仲良くしてやってくれ」

 

「うん。そうする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みにアイツらはツルツルな肌だから土属性。殺すなら木属性がお勧めだぞ」

 

「私って今サイコパスとお話してる?」

 

「ん? 何で?」

 

 妖魔の話してただけだろ? 何もおかしな事は言ってない筈だが。

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