この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜 作:ゲスト047562
パリッとした新品の制服に袖を通す。独特な匂いが、かつての懐かしさを想起させる。
「……よし」
人間万事塞翁が馬。やれる事はやった筈。結から簡単に教えてもらった知識に基づいて、俺なりに色々調べて、主人公を戦えるように鍛えて、とうとうこの日を迎えた。
カミカゴ。『神の加護の下、君と』という乙女ゲームの世界に転生して、半年と少し。
今日から、原作がスタートする。神霊から力を授かった、死をも厭わない化け物達がうじゃうじゃひしめく、あの神霊学園で。
「……まあ、それを考えるのは俺の仕事じゃねえか」
後は頑張れよ、天外。
鏡の前で軽く身だしなみを整えて、家を出る。
空は雲一つ無い晴天。神霊と共に生きてきたこの世界では、国に悲しい日があれば滝の如き雨が突然降るし、祝い事や祝日なんかはポカポカと陽気になる。
神霊にとって、今日はめでたい日らしい。当然か、今日から天外が入学するんだし。
「あ、おーい」
そうそう、こんな感じでね。イケメン達と初々しく登校するんだろうな。
確かに俺はスレてる。が、それはそれとして思春期の男女の揺れる恋模様を眺めるのは好きなのだ。
「おはよう師匠!」
それを同級生という特等席で見れるのは、かなり美味しい立ち位置なんじゃないか? もしかしたら、天外限定の情報通の友人ポジとしての地位も得られるやもしれん。
「あれ? どうしたの?」
あ、それは普通に楽しみだな。一体誰とくっ付くのか、近くでニヤニヤしながら眺めさせ──。
「グェッ」
「無視は酷くない?」
「スマン考え事してた」
後ろから襟首を引っ張られ、振り向くと可愛くむくれる天外がいた。
おお、俺の知ってる天外(制服の姿)だ。私服姿と違って、しっくり来るものがある。俺は人を、シンボルカラーやワンポイントで覚える癖があるからなぁ。
天外が俺の隣に並び、2人でのんびりと学園への道を歩く。
「改めて、今日からまたよろしくね」
「……ああうん」
「今の間は何かな?」
「五行家と仲良くしてくんないかなって」
「ふぅん……ずっと言ってるよね。何で私をその、五行さんと関わらせたいの?」
「え、五行家の事忘れてる? 嘘だろ?」
シナリオ的にも超重要なイケメン達の事を一括りにしてやるなよ。君のお婿さん候補なんだから。
しょうがない。入学式の前に、今一度説明してやるか。
「あのな、五行家ってのh「おにいいいいいいいいいいいい!!」ウェポッ」
正面から砲弾の如き一撃。長男でなければ耐えられなかった。
神霊学園の正門。我が妹が俺を轢殺しようと、そこから飛んできたのだ。
だが俺も、昔の俺ではない。結の背中に手を回し、衝撃を逃す様にクルリと一回転。
ふっ。妖力で強化したこの身体、容易く弾き飛ばせると思うなよ。
「来るの遅い! もうすぐ入学式始まっちゃうじゃん!」
「はいはい悪うござんした。別にまだ時間あるから良いだろ」
「良くな〜い!」
「し、しし師匠……? その子……」
「あー! ヒ、天外ちゃんだー!! 可愛い〜〜!!」
「え、きゃっ」
俺との再会のハグを終えた結が、今度は天外の前に立つ。
先程まで地蔵の様に固まっていた天外が、突然目の前に現れた珍動物を見て戸惑っている。
「結」
「あ、そだ。代陀羅結です! いつもおにいがお世話になってます! これからよろしくお願いします!」
「い、妹さん!? 嘘!? 本当に!?」
「うん。外来種っぽいけど、ちゃんと兄妹なんだわ」
まあ全然似てないもんな。片やモブ顔一般人、片やニチアサアニメの主人公みたいな見た目だし。
つか結よ、やっぱお前目立つね。ヒロインちゃんと並んでると余計際立つわ。天外の素朴な一輪の華の様な愛らしさと、彼女の周りをちょこまか動き回る結の小動物みたいな可愛さが合わさって、最強に見えるもん。
そのせいでさっきから、周囲の視線が痛いんだよね。百合百合するのは良いけど、人前でするんじゃありません。こっちにヘイトが向くだろ。
「すごーい! 可愛い〜! あ、天外さんって呼んでも良いですか?」
「え、あ、ありがとう。結、ちゃんだって凄く可愛いよ?」
「〜〜! おにい聞いた聞いた? ウチ、ウチ……!」
結が嬉しそうに身体を震わせ、俺を見る。
そりゃそうか。好きな作品の推しに出会えるというのは、ファンからしたら飛び上がる程嬉しいだろうな。しかも作中のヒロインから『可愛い』って言ってもらえたんだから、感動で言葉もないみたいだ。
「良かったな。公式に認知してもらって」
「認知って何?」
「ウチ、生きてて良かった……! ねえおにい、このまま天外さん連れてって良い?」
「え、私……」
ん? 何で2人してこっちを見るんだ? 俺の許可なんざいらないと思うが。
「おー行ってきな。天外に味方は多い方が良いだろ」
「師匠……」
「天外、他の加護持ちを見る良い機会だ。これからお世話になる奴らと仲良くなってきな。後もう師匠じゃないから」
「ありがとおにい! 天外さん、守護科はこっちですよー」
「あ、うん。それじゃ、えっと……だ、代陀羅君。またね!」
結が天外の手を引いていき、あっという間に校舎の中に消えていった。2人の美少女がいなくなったことで、俺への視線も幾分かマシになり、俺も自分のクラスに向けて歩き出す。
いやぁ、相変わらず騒々しい、嵐みたいな奴だったな。ああいう、場を引っ掻き回す能力は天性のものだからな。俺にも真似出来ない。
……アイツ、マジでカミカゴのキャラに転生した訳じゃないんだよな? 原作に関わる気が無かったから何も聞いてなかったが、マジで不安になってきたぞ。
「はぁ……煙草吸いてえ」
「未成年からアカンでー、タバコは」
「わーってるわーってる。そんな気分なんだよ」
「飴ちゃんでも舐めときや。気晴らしくらいにはなるやろ?」
「飴ねぇ。昔良く食ったから、もう良いやって感じになるんだよな」
「分かるわー。子供ん頃あんだけ欲しかったんに、大人になると手を伸ばせる物が増えてしゃーないからな」
「な。
で、お前誰よ」
滅茶苦茶スムーズに会話してきましたが、初対面ですよね?
「ん?」
いつの間にか俺の隣を歩いていたのは、これまた美少女。
背丈は天外と同じくらいだが、その肌は褐色で健康的な印象を受ける。何を考えてるか分からない糸目に笑みを浮かべ、八重歯を見せて猫の様に笑う。
「たっはーバレてもうた。
「代陀羅団だ、よろしく」
「さっきオモロそうな事してやん。見てたでー? このハーレム男め、初日から美人を2人も侍らすとかやるやん。莉乃ちゃんも新入生で寂しいねん、受け入れてーな」
「良いぞ。じゃあまず、手近な試練の祠にお前を投げ捨てるから頑張れよ」
「ナハハ! オモロい事ゆーやん! ……え、ジョークよな? 莉乃ちゃん加護無しなのん、助けてくれるんよな?」
冗談じゃないんだなぁこれが。
再び周囲の視線が突き刺さってくる中で、今度は茂木裏とクラス発表の掲示板を見る。
「……1組か」
「莉乃ちゃんも。なんや幸先ええやん、初めての友人がクラスメイトなんて。運命感じるんちゃう?」
「……そだねー」
「テキトーか!」
馬鹿め、そこらの思春期男子共とは年季が違うのだよ。からかい上手の茂木裏さんになどさせるものか。
神霊学園の校舎は、一見普通の高校と大差無い様に見える。しかし、校門を潜った時から神霊の気配があちこちからして、何処か落ち着かない。
俺が妖力を持ってるせいだろうか。だが、歓迎されてない気配はないんだよなぁ。
「この1年、仲良うしよなー? 楽しくなりそうやん」
「お、そうだな」
何にせよ、既に賽は投げられたのだ。後は野となれ山となれ、だ。
頑張れ天外! 負けるな天外! 希望の未来へ、レディーゴー!