この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜   作:ゲスト047562

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第20話 その姿を定義出来る者は存在しない

「我が身に宿る(かしこ)き神霊、八咫烏に願い奉る。

 ここに集いし魂は、我らが道を共に歩む者。

 我、導きに従いここに試練の陣を張らん。

 八咫烏、神命に従い彼の者らに一時の安寧を約束し給う。

 神の加護の下、我らは祓魔(ふつま)の城とならん! 開け、束の間の安息地(ヴァルネスト)!」

 

 厳かな声が響き、透明なドームが校庭に現れる。

 当事者以外の者達はドームから追い出され、2名の男達だけが取り残される。

 当事者の1人、朱夏燕次が複雑そうな顔で、対面に立つもう1人の当事者である、代陀羅団を見る。

 

「先生が張ってくれたのは、ここを試練の祠と同じ仕様にする結界だ。だから……」

 

「あーあー気にすんなレッド。とにかく、俺はお前相手に()()()()()()()()良いって事だろ。分かりやすくて助かる」

 

「俺はレッドじゃなくて、朱夏燕次だ!」

 

「……あ、うん。ソウダッタネ」

 

 いまいちやる気の感じられない、ダラけた態度を崩さない代陀羅に、朱夏も思わず気が抜けそうになる。

 だが、すぐに顔を引き締める。彼がすべきは、目の前の男が()()()()()()()()()()()()を確認する事なのだから。

 教師が表に出した言葉は、ただの建前。言外に彼は、『神託の巫女を護る盾としての役目を果たせ』と朱夏に告げていた。

 1年前に突如降りてきた神の告示、災厄の天啓が神魔統制管理局に降り立ち、彼らは国民の混乱を避ける為秘密裏にその災厄に向けて準備してきた。

 朱夏も、幼馴染である青春もそう。五行家と神霊学園は、神託の巫女である少女が入学してきた時、総力をもって彼女の力になるつもりでいた。

 そしていざ蓋を開けてみると、天外理愛は謎の加護無し、しかも妖力を持った男に完全に心を開き、あまつさえ共に試練の祠に挑む気でいる。

 確かに事前準備の期間中、彼女には神霊と妖魔について少しでも知ってもらおうと、試練の祠に行って欲しいと()()()はしていた。

 だがそれは、妖力を操る青年と懇意になって欲しかった訳ではない。『神霊学園と五行家が彼女に付いている』という事を知らしめたい彼らにとって、それは到底見過ごせなかった。

 故に、彼らは天外に見せる必要があるのだ。古来より国を護り支えてきた者達の実力を。

 全ては自分達のサポート不足。なればこそ、今一度証明しなければならなかった。自分達が、如何に頼りになるかを。

 

(それに……)

 

 チラ、と朱夏は外で代陀羅を応援している天外を見る。

 もし、この戦いで先の失敗を挽回出来れば──。

 

(って、何考えてんだ俺は!)

 

「……っし。行くぞ!!」

 

「っしゃバッチコーイ」

 

 邪念を払い、気合いと共に全身に神力を込める。

 それを見て、代陀羅もまた腰を深く落として身構える。

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 足を高く振り上げ、強く踏み込む。そして代陀羅目掛けて閃光の様に──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパァァァァアアン!!!

 

 放たれた炎の魔球が、彼のミットに綺麗に吸い込まれた。

 

「ナイピナイピ! 球走ってるよー」

 

「へへ、お前のリードが上手いからだ。しかも、誰も取れなかった俺の炎の消える魔球を、まさか完璧に受け止めるなんてな」

 

「あったり前だろ。俺を誰だと思ってんだよ。分かっただろ? 俺のリードとお前の魔球、この2つがあれば誰にだって勝てる」

 

「ああ、そうだな! 俺達は、最強のバッテリー「違うだろ」ダッファ」

 

 朱夏(バカ)の頭に野球ボール程の隕石が突き刺さり、地面にめり込む。

 

「なに超次元スポーツの世界行ってんだ。何を平然とキャッチボールしてんだ。お前ら何処の高校球児だ」

 

「先生! 何をするんすか!? 俺達、本気で甲子園「違うよね?」ニンフェッ」

 

 抗議の声を上げる代陀羅(バカ)の頭を天外が掴み、万力の如き力で地に沈める。

 

「目標は甲子園じゃないよね? 目指す所違うよ? 2人で行くなんて許さないから」

 

「ふぁい……」

 

「ふぃふぁふぇんふぇした……」

 

 仕切り直して、再び2人は対峙する。

 

「あーツイてねー。これでいけると思ったのに」

 

「逆に何でいけると思ったんだよ」

 

【主モナ】

 

 朱夏の頭に声が響く。傍らに炎の様な神力を纏い、赤茶けた羽根を持つ孔雀の姿をした神霊が現れる。

 神霊の声音には笑いが含まれ、心なしかその顔はニヤニヤしている様に見える。

 

(ホウ)……)

 

【アノ男ガ妖魔ノ傀儡ニナッテイルト思ッテイタナ? 我ノ声モ散々無視シヨッテ……奴ニ悪意ノ類ガ無イノハ分カッタロウ?】

 

(……そうだな。最低な事言っちまった、後で謝らないと)

 

【マア、主ハアノ巫女様ガ……】

 

(い、良いから早く出せ!)

 

 朱夏は先程の恥を思い出し、自身に付く神霊、鳳との会話を無理矢理打ち切る。

 鳳は笑いながら光となり、その身を現世へ顕現させる。

 

「来い! 鳳千手(おおとりせんじゅ)!」

 

「……槍、ね」

 

 朱夏が握るのは、紅い刀身を持つ十字槍。鳳凰が翼を広げるかの様な独特な形の刀身に、見る者が思わず溜息を吐くほど美しかった。

 

【燕次ヨ、コノ場ニ立ツ者ハ皆戦士。彼奴ガ例エ悪人デナカロウト、手加減ハ無粋ゾ】

 

「ああ、分かってるよ」

 

 加護を受けて15年。己を最も良く知る友であり神霊でもある鳳からのお小言に答え、朱夏は槍を構え──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャリ。

 

「…………?」

 

 気付けば、身体が後ろに引いていた。

 唯、目の前の男がこちらに1歩歩いてきただけで。

 

「まあ、武器まで出されちゃしゃあないか」

 

 気怠そうな声は変わらない。

 だが、その()()に気付いたのは、まず戦おうとした張本人である朱夏の本能。

 次いで、学園の内外にいる一握りの強者と呼べる者達。

 常日頃戦いに身を置く強者達が、今頃になってその実力を、その差を理解する。

 特に、代陀羅から滲み出た殺気を真正面から浴びた朱夏の目には、ハッキリと視えていた。

 

「少しだけ真面目にやってやるよ」

 

 ()()は、妖魔ではない。

 

「っつう訳だ、レッド」

 

 しかし、人間とも言い難い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

踊ろうか(Shall we dance)?」

 

 得体の知れない怪物の虚妄が。

 

「あああああああああっっ!!!」

 

 雄叫び、ではなく絶叫。

 身体に纏わりつく恐怖を振り払う様に声を上げ、全力で槍を突き出す。

 加減や様子見など、考える余裕は無かった。見ているだけで押し潰される程の代陀羅の迫力に、生存本能が()()()()を命令していた。

 だが。

 

「惜しい」

 

「──は?」

 

 全身全霊を込めた突き。の筈が、槍は代陀羅に当たる寸前で止まっていた。

 

(何で!? 距離を誤った!? とにかく攻撃を……!!)

 

 混濁していく思考。だが肉体に刻まれた記憶により、朱夏は槍を振り回す。

 半歩踏み込む。完璧な間合いで外される。横に振る、逃げられる。下から突き上げ、当たらない、回転し範囲攻撃槍の内側に入られる柄で突き放す前に逃げられる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!!」

 

(何だよ、何なんだ一体……! 何で()()()()()()()()()()()()()()()()!?)

 

 もし今、攻撃されていたら……そのイメージが、未だに構えらしい構えをしない代陀羅の虚妄を大きくしていく。

 

「ァア゛ッッ!!」

 

 理解出来ぬならば出来ないなりに、理由を問う前に当てに行く。

 思考を強引に戦いに押し込み、更に肉体を酷使し、攻撃をする気の無い相手に対してひたすら加撃する。

 そうしなければ本当に殺されるという、怪物の恐怖から逃げる為に。

 

羽を広げ飛び立て(ストライクバード)!!」

 

「!」

 

 遂に朱夏が、出すつもりの無かった神技を放ち始める。

 彼の繰り出す連撃に合わせ、炎の孔雀が代陀羅に突撃する。

 爆音が響き、土煙が代陀羅の姿を隠す。その間に、朱夏は乱れた息を整え……。

 

「いや勘弁して? これ一張羅なんだが?」

 

 制服に付いた汚れを払いながら何事も無く現れる怪物に、呼吸が止まる。

 怪物の様子は、先程と何も変わらない。それが一層不気味で、より深く恐怖を刻み込まれる。

 

「な、んで……」

 

「その神技は()()()()から。つかもう良いだろ、この辺で終わろうぜ」

 

「! 舐め、んなぁ!!」

 

 その言葉に、僅かに残ったプライドが燃やされ、自身と槍を炎で包む。

 

(決めてやる……俺の超神技!)

 

 地面を抉りながら、代陀羅に突進する。

 何の捻りも無い愚直な一撃は、簡単にかわされる。

 しかし、朱夏の狙いは代陀羅ではない。勢いを殺さずに彼の周りを動き、その軌跡が幾何学模様を刻んでいく。

 

「この身は焔! 我が槍は希望を拓く羅針盤!」

 

 祝詞を唱えながら、突進を繰り返す。

 

「! これは……燕次!」

 

「焔は消えず、揺らがず、行先を正しく指し示す。俺を支える神霊よ、この血を薪に焔の道を大地に刻め!」

 

「超神技!? 朱夏、やり過ぎだぞ!」

 

 通常の神技よりも更に特別な神技、超神技。

 神力の軌跡で陣を描きながら祝詞を唱える事で、通常の神技より遥かに強大な神技を繰り出す、正に奥の手。

 そんな必殺技を使う事に、躊躇いは無かった。教師の『やり過ぎ』という言葉など、怪物と直接相対している朱夏には全く響かない。

 超神技を発動しようとしている今ですら、勝てるビジョンが全く浮かばないのだから。

 やがて、地面に渦を描く陣が出来上がり、その中心に代陀羅を置く……否、代陀羅が自ら陣の真ん中に立つ。

 

「ところでお前、()()()()()()()()()()()?」

 

 超神技の発動前、突然意味の分からない質問が投げられてくる。

 こちらの全力に対しあまりに呑気なその質問に、神経が逆撫でされる。

 

(そんなのもう数えきれない程あるに決まってんだろ! 俺達がどんだけ神霊と試練の祠に挑んでると思ってんだ!)

 

「そのふざけた口を閉ざしてやる! 全てを焼き溶かし呑み込め、渦禍炎焉(かかえんえん)!!」

 

 朱夏の描いた陣を中心に、炎の渦が地面と上空から幾つも現れる。炎は周囲を太陽の如く照らし、観客が漏らす悲鳴や息を呑む音を掻き消し、一部の世界の光源を赤く塗り替える。

 朱夏は槍を支えに肩で息をしながら、油断無く自身の出した炎を睨む。

 

「ハァ、ハァ……」

 

(し、神力も出し尽くした……これで)

 

「間近で見るとやっぱやべえわこれ」

 

 後ろから聞こえて来た声に、全身が総毛立つ。

 凍り付いて動けない朱夏の肩に、優しく手が置かれる。怪物は同じ方向を見ており、朱夏の様子にはまるで興味が無さそうだった。

 

「これ超神技だよな? 良いよな、叫んで決める必殺技って」

 

 自らを焼く筈だった火柱を眺めながら、怪物は仲良さげにこちらに話しかけてくる。

 怪物は、何一つ変わらない。自分の全力を尽くしても、()()()()()()()()()()事実に、とうとう朱夏は膝を折ってしまった。

 

「おっと、大丈夫か?」

 

 が、完全に崩れ落ちる事さえ怪物は許してくれない。

 身体を抱き止めて心配そうに覗き込む代陀羅の、その恐怖から逃げる様に、朱夏は自ら意識を手放した。

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