この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜 作:ゲスト047562
試練の祠の最奥。そこに踏み込んだ私達を待っていたのは、鱗の剥げ落ちた茶色い大蛇だった。ここにいる3人を丸呑みにしても、そのお腹は膨れないんじゃないかと思うぐらい大きい。
……この妖魔、今まで倒してきた相手とは格が違う。試練の祠に漂う霊力を吸い上げ、身体から妖力がはち切れそうになってる。
間違いない。この妖魔が、試練の祠の主……私が初めて相対する強敵だ。私の中に眠っている神霊も、危険を表す様に神力を漲らせてくれる。
でも、不思議と恐怖はあまり感じない。どっちかというと、今の自分を試したくてワクワクしている私がいる。
後ろに彼がいるからかな。目の前の敵に集中出来る安心感からか、少しだけ笑みが漏れる。
「あれは
「うん!」
「シャアァァァァ──ッ!!」
野槌が悲鳴の様な咆哮と共に、大柄な巨躯に見合わぬスピードで突進してくる。
後ろには、お札──巫術って言うんだっけ──を構えた青春君がいる。彼を守る為、私は向かってくる野槌に神技を放つ。
「花水鬼!」
花水鬼が野槌の左目に着弾し、突進が弱くなる。身体を振って痛がる野槌の、もう片方の目に銃を何発も撃ち込む。
くっ、全然当たらない。皮膚に吸い込まれたり、あらぬ場所に飛んでいってしまう。やっぱり点の攻撃じゃ全然当てられないなぁ、もうっ!
でも、攻撃は止めない。少しでも有効打を増やす為にも、動き回って狙いやすい位置を取り続ける。
「フシュルルル……」
「雷符!!」
殺意を宿した巨大な瞳が、私を射竦める。その瞬間、野槌の頭上から稲妻が落ち、野槌の絶叫が響いた。
雷!? 電気の属性なんて聞いた事ないんだけど!? でも、野槌が苦しそうにしてる今が最大のチャンス!
「花水鬼! はああああああ!!」
今度は右目に神技を当てる。苦しそうに呻く野槌に向かって、私は単身突撃する。
「天外さん!?」
この妖魔の大きさじゃ、弾丸は小さすぎてあまり効果が無かった。だったらいっそ、直接弱点の頭を叩く!
目を潰されて私を見失った野槌に向けて、高く跳び上がる。そして、その頭部に思い切り剣を突き刺した。
「くうっ!?」
硬い。まるで岩の様な手応え。剣の切先が少し食い込んだだけでも、幸運だったと思わせられる。
彼なら、これくらいの敵一突きで倒せるのに。やっぱり私はまだまだだ。
「ッッジュルルルァァァァ!!」
間近で聞こえる妖魔の咆哮が、精神を恐怖で侵そうとする。巨体が暴れ回り、私を振り落とそうともがき苦しむ。
しかし、手の力は緩めない。引き剥がされないように力を込めて、剣をより深く刺し込もうとする。
「根弦萌芽!!」
暴れる野槌の胴体に、木の根が絡まる。
これは、青春君の神技! 彼のアシストに感謝して、剣に神力を流し込む。
「いっけえええええええええええ!!」
その時、私の身体から光が溢れ出す。神々しさを纏う青い光に包まれ、新たな力が私の中で芽生えていく。
この感覚……前にも経験した事がある。彼と初めて神技の練習をした時にも感じた、新しい神技が目覚める瞬間!
「神霊よ。私は、新たな未来を切り開く……!」
頭に浮かんだ祝詞が、自然と紡がれる。
「道を拓く剣を、今ここに!」
青い光が剣に集束していく。剣と光は1つの巨大な刃となり、強靭な野槌の身体を豆腐みたいに切り裂いていく。
「
巨大な青い光の剣が、野槌を両断する。
断末魔の悲鳴も無く、野槌はその身に溜め込んだ妖力を爆散させて消えた。
「はぁ、はぁ……!」
た、倒せた……。野槌を倒した霊力が私に宿り始めて、その実感がじわじわと達成感に変わっていく。
戦いが終わった事を確認して、青春君が私の所に駆け寄ってくる。
「素晴らしい戦いでした、天外さん」
「ありがとう。でも、あんな強い敵を倒せたのも、青春君のお陰だよ」
「いえ、天外さんが前衛で敵の注意を引き付けてくれたから、私も動き易かったのです。感謝してます」
お互いに褒め合い、感謝の言葉を交わす。
同じ加護持ちの青春君に認めてもらえたみたいで、少し嬉しい。それに、1人で戦ってた時と比べてとても戦いやすかった。
これが、パーティで試練の祠に挑む感じなんだ。確かに色んな人の神技を見れるし、戦いが有利に進められる。
彼はこれを見越してたんだね、凄いなぁ。
「わっ?」
戦いを終えて安堵の溜息を漏らす私の中から、光が飛び出す。
「な、何?」
「光が……」
青春君にも光は見えてるみたい。その光は段々と人の形になっていき、やがて巫女服を着た綺麗な女の人が私の前に現れた。
【……理愛。聞こえますか、理愛】
「あ……」
この声は……!
「私の、神霊様……」
【『様』などと、他人行儀は辞めて下さい。私は貴女のお陰で、この様に姿を取り戻せる程にまでなれたのですから】
「あ、はい。分かりました……」
口は動いてないのに、何故か言葉が分かる。彼女の言葉、他の人には聞こえてないのかな? 青春君も私を見てるだけだし……。
【私は
「は……うん。私からも改めて、これからもよろしく、セオリツさん」
神霊……セオリツさんは、柔らかく微笑んで一礼し、私の中に戻っていく。
……力が出ない中でも、ずっと頑張って護ってくれてたんだ。本当にありがとう。彼女の優しさに、思わず涙が零れてしまう。
「セオリツ……初めて聞く名前の神霊ですね。とにかく、おめでとう御座います」
「……うん。ありがとう、青春君」
「お、お疲れー」
「代陀羅君!!」
彼の声が聞こえた瞬間、心が一気に華やぐ。
緊張感の無い欠伸をしながら彼──代陀羅君がやって来る。
相変わらず目は死んでるし、煙草吸ってる時以外は表情もあまり変わらない。けど私にとって、彼はずっと面倒見の良い師匠でいてくれた。
かっこいい所を見せれた自信のある私は、代陀羅君に褒めてほしくて急いで駆け寄る。
「ねえねえ。私、やっと試練の祠の主を倒したよ!」
「あー見てた見てた。凄かったぞー」
「……適当すぎない?」
「答えの分かるクイズ見て面白いと思うか?」
「え?」
「最初から、お前ならやれるって知ってたからな。これで晴れてお前は一人前だ、おめでとう」
一人前……その言葉に、嬉しさと同時にどこかモヤっとした気持ちになる。
彼の言葉に嘘はないって分かる。この坑道の道中も青春君と……青春君と
今思えば、あれは私を試してたんだよね? 弟子を置いて他の人と話すなんて薄情な事する訳無いもんね? だから最後の方では、試練の祠の主を相手に大立ち回りする私を、安心して見ていられたんでしょ?
代陀羅君の手を借りずに強敵を倒せた事は、彼にとって嬉しい出来事の筈。でも何故か、褒められても嬉しくないと思ってしまう私がいる。
それが顔に出たのか、代陀羅君も怪訝そうな顔で見てくる。あ、ちょっと近いかな。一杯動いたから、汗が……!
「……何だよ顔は」
「い、いやっ? 何だろうね? 私も分かんないや……あはは」
「緊張しっぱなしで頭おかしくなったとか?」
「今すぐ代陀羅君の頭もおかしくなりたい? 物理的に」
「アッス……」
本当、そういう所だよ? 私だって女の子なんだから、もっと気を配ってくれて良いんじゃないかな。
……まあ、嫌って訳じゃないけど。気を許してくれてるって感じるし。
「あの、お2人共。そろそろ出ませんか?」
「あ、うん。分かった」
「そうだな。んじゃ天外、ご褒美に何が欲しいのか考えとけよー」
「!」
そうだ。ご褒美……!
私は勝った。勝ったんだ。つまり、
「だ、だったら今使っても良いかな……?」
声が上擦る。流れのままに言おうとして、どう口にすれば良いのか分からなくなってしまう。
「……はい?」
「あ、その! 代陀羅君が忘れない内に言っちゃおうと思って! はぐらかされない様に!」
「凄えや。面と向かって言うのかよ」
ああ違う。はぐらかしてるのは私だ。
何を言えば良いんだろう。もっと教えて欲しい? また一緒に試練の祠に行きたい? 今度は2人で一緒に戦いたい?
何だか違う。そうじゃなくて。
「あの、あのね? 私……」
「うん」
もっと、代陀羅君と──。
背後で、妖力が爆発した。
『!?』
もう危険の無い筈の場所での、突然の出来事。だが、身体は反射的に銃を構え、臨戦態勢を取りながら振り向く。
さっきまで私達が野槌と戦っていた場所に、黒いナニカがいた。
黒いのは妖力……でも、その量は野槌とは比にならない。無造作に垂れ流している莫大な妖力のせいで、相手の全体像がまるで見えない。
ゆらり、と
「──ッッ!!?」
その動作を見ただけで全身が総毛立ち、指先が震える。
加護持ちというアドバンテージが吹き飛んでしまうくらいの死が、目の前にいた。
【理愛、逃げて下さい】
恐怖で脳が思考を放棄しかけた時、セオリツさんが必死に話しかけて来る。
【逃げて下さい理愛。アレは駄目です、勝てません】
辛うじて人の姿と分かるようになった
「……アレは、何?」
心臓が五月蝿い。その音が
震える声で、現実逃避気味にセオリツさんに問いかける。
【……試練の祠をあてどなく彷徨う亡霊。そして、かつての貴女達の先達です。神霊と共に妖魔へと身を堕とした、
「妖憑き……」
【元加護持ちの妖魔、
『……?』
背骨に氷柱を刺し込まれたみたいに走る悪寒。今まであった自信が打ち砕かれ、全身から力が抜けていくのが分かってしまう。
「だ、だいだら、君……!」
私にとってせめてもの、最後の希望。
側にいた彼の袖を摘み、なけなしの勇気を振り絞る。
「ん? あーうん」
震える声で名前を呼べば、いつもと変わらないテンションで応じてくれた。
それが嬉しくて、事態を理解出来てないのか不安で、思い切って彼に目を向ける。
代陀羅君は──。
「タイム!!」
腕でTの字を作っていた。
…………え? それ分かると思ってるの? 馬鹿じゃない!?