この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜 作:ゲスト047562
あ、あっぶねェェェェ! つい手を出しちまった!
だってしゃあないやん! 今の天外のレベルで
加護削ぎ。ゲームでは、バトル中にレベルダウンさせてくるクソ仕様の攻撃。文字通り神霊の加護を削ぎ落とし、加護持ち達の命を砕く最悪の攻撃となっている。
この世界ではどんな仕様になっているか分からなかった為、咄嗟に手を出したが……顔を真っ青にしている天外を見る限り、どうやら正解だったみたいだ。
まあ、1番厄介な問題は片付いてないんですがね。
『コレハ……』
「よう、
現在、鍔迫り合いの真っ最中の相手に話しかける。
血紅御前の纏っていた黒いオーラ。それが、俺の攻撃を
その結果、えー……はい。所謂第2形態という奴にですね、突入してしまいました。誤算も誤算、大誤算だ。
影の様にボンヤリと曖昧だった血紅御前の姿が、最初よりも鮮明になる。
血で黒く汚れた戦装束、目が隠れる程大きな額当てには角が生えており、意思を感じさせる赤い光が目の位置から漏れている。肉体は変わらず黒いオーラで構成され、最初よりもスマートで洗練されたフォルムとなっていた。
これが第2形態。俺のお気に入りの姿である。
普段ならば写真の1つでも収めたいところなのだが、そうも言ってられない。最初の威容も凄まじかったが、こちらはより本能に危険信号を送ってくる。冗談みたいな妖力と殺気が混ざり合い、唯そこにいるだけで全身を締め上げられている様に身体が固くなる。
血紅御前は赤く光る目を明滅させ天外を見た後、俺に首を向ける。
『……ソウカ。貴様、ノ
「……え?」
『デハ、貴様ハ?』
「通りすがりの一般人です」
『……ナラバ失セヨ』
「てめえがなっ!」
くぐもった声と共に迫る薙刀を押し返す。
『ッ!?』
「シッ!」
ガラ空きになった胴目掛け、横薙ぎの一閃。
それを紙一重で防がれ、今度は俺が後方に下がる。
「チッ」
『! コノ力……貴様、
今のを防がれたか。最初にやってたら決まってたんだが。
僅かにあった隙は消えている。第1形態は、言ってみればオートモードの自動迎撃システムだったが、今は目を覚まして手動モードに切り替えている。行動に意志が宿り、最初とは違う挙動をする為、より気を付ける必要がある。
……流石に天外を守る余裕は無いな。
「天外」
「! はい!」
「危ないから、出来るだけ離れてろ」
加護削ぎ以外の攻撃なら、喰らっても試練の祠から吐き出されるだけ。だが、戦いに巻き込まれ無闇に傷付く必要もないだろう。
つか青春君や、まだかね? チュートリアルだからって道の復元を遅らせなくてもええんやで?
「悪いな血紅御前、選手交代だ。少しだけ遊んでやるよ」
『……血紅御前。某ハ今、ソノヨウナ名デ呼バレテイルノカ』
「ん?」
何か変な事言ってんな。
……あー、コイツも元々人なんだっけ? 血紅御前ってのは自分で言い出したんじゃなくて、後世の人間が付けた通称だったりする?
『良カロウ。久方ブリノ戦ダ、某ヲ楽シマセテクレ。名ヲ聞カセテクレ』
「……代陀羅だ」
『代陀羅……覚エタゾ。デハ、某ハ血紅御前……推シテ参ル』
後で結にもう一度きいとかないとな。
これ、マジで乙女ゲーム? 修羅の世界の間違いなんじゃ。
◇◆◇◆◇
「……凄い」
代陀羅君と血紅御前。2人の戦いは、私にはまるで別世界の風景だった。
『
「ちっ!」
代陀羅君から放たれた幾つもの弾丸が、血紅御前の周囲を不規則に巡る。かと思えば、突然彼に向かって動きを阻害する。
その間隙を縫う様に接近した2人の間に、今度は刃の嵐が吹き荒れる。
血紅御前はもう、最初に私と戦っていた時のロボットみたいな動きじゃない。
『
薙刀を自在に振り回し、刃の通った道を遅れて無数の鎌の様な斬撃が通り抜けていく。
『
空間が歪み、巨大な動物の口が彼を丸呑みにしようとする。
普通なら確実に勝負が決まっている一撃が、間断無く放たれ続けている。普通なら既にこの場にいる事すら不可能な、死の領域。
「師匠!!」
だけど、代陀羅君も全然負けていない。
振るわれる薙刀の柄に剣を当てて抑え込み、牙が生え揃う口から逃げる。その先に待ち構える死の刃を十字受けで防ぐ。
「ティアドロップ・レーザー!」
『風……ッ!?』
銃口を向け妖技を叫ぶ。しかし、妖技は放たれない。
彼の言動に釣られた血紅御前は動きを止め、その間に素早く体勢を整える。
息つく暇もない攻防に、知らず止まっていた呼吸を再開させる。
代陀羅君が強いのは何となく分かってたけど、あんな化け物と張り合えるぐらい強いなんて……。
『……師匠。ナルホド、貴様ガ巫女ノ師ナラバ、ソノ強サモ納得出来ル』
「あっ……!」
つい言い慣れた呼び方が出ちゃった。それを敵に聞かれてて、少し恥ずかしい。
代陀羅君はというと、血紅御前の言葉に疲れた様に溜息を吐いていた。
「成り行き上、仕方なくだがな」
『ソレニ、ソノ戦イ方ニハ覚エガアル。ケン……
「……知ってるのか。マジで歴史あるんだな、献魂護身術」
『ソウ、ソレダ。只人ノ為ノ技、慎マシキ
「なっ──!?」
頭に血が上る。
苦心して学んだ技術を馬鹿にされ沸騰しそうな私とは裏腹に、代陀羅君は表情を崩さない。
「……で? 意外とお喋りなんだな」
『ム? アア、貴様ガモシヤ、某ノ望ム者カモシレヌト思ッテナ。多弁ニモナロウヨ』
「そうかよっ!」
弾丸の雨が降り注ぐ。それを一瞥もせずに、血紅御前は彼と鎬を削り合う。
その間にも、彼らは言葉を交わし合う。
『妙ダナ。
「これが1番安かったんだよ! 選り好み出来ねえからな!」
『……ヤハリ貴様──』
「はっ!」
鍔迫り合いから体勢を崩して蹴りを入れる。その後、銃で追撃。
流れる様な一連の攻撃。それを軽々と吹き飛ばし、血紅御前は怯む事なく突き進む。
駄目……代陀羅君がどれだけ攻撃しても、奴の鎧には未だ傷一つ付けられていない。
でも、私も協力すれば……! 少しでも隙を作れれば、きっと!
神力を銃に込めて機を伺う。静かに、気付かれぬように……。
「……──そこっ!!」
幾度目かの剣戟の最中、代陀羅君が血紅御前と離れた瞬間を狙う。
『……邪魔ダナ。
こちらに一瞥もしないまま、弾が妖力の嵐と共に返される。
あ、駄目だ。これは……。
「……ッッ!」
目を開けてられない程の突風が吹き荒れる。
しかし、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。恐る恐る目を開ける。
「ぐ……!」
「ぁ、え……?」
代陀羅君が、私を庇ってくれていた。
頭が真っ白になる。剣と鞘で私の弾丸と衝撃を受け止める姿に、心臓が悲鳴をあげる。
「あ、ああ……!」
私が、私の、私のせいで。
「嫌あああああああああああ!!!ごめん、ごめんなさい! ごめんなさい!! しっかりして!! 師匠!!」
「うるせェェェェ!!」
涙で滲む世界に、怒号が響く。
思わず肩が跳ねる。すると、今まで見た事無い必死の形相が、視界一杯に広がる。
「無事か!? 喋ってるなら無事だな!? ヨシ! 後は下がってろ!」
「でも私のせいで! ごめんなさい!」
「……ハァ。お前なりに助けようとした結果だろ? 気にすんなって」
頭に手を置かれる。その手つきは優しく、私を安心させる為にと2、3回軽く叩いてくる。
戦いの最中なのに、彼に気を遣わせてしまった。
それが情けなくて、でも側にいてほしくて、溢れる涙を拭わず彼の手に縋り付く。
私のじゃない、ヌルリと生温かい水滴が手を伝った。
「し、しょ……血が!?」
『……加護無シ。
「ん? あー……」
代陀羅君は、まるで初めてそれに気付いたとでも言うように、己の身体から流れる血を振り落とす。
試練の祠で血なんて、初めて……いや、でも彼は……。
指先の感覚が失われていく。血の気が引いていき、喉に詰め物を詰め込まれたみたいに声も出なくなる。
『貴様程ノ猛者ガ知ラヌ筈ナカロウ。加護ノ無イ者ガコノ場ニ立ツ意味ヲ』
やめて。
『人ガ試練ノ祠ニ挑メルノハ、神霊ノ加護アッテコソ。妖力ヲ持トウト加護無シハ加護無シ、ソノ痛ミヲ肩代ワリスル存在ハイナイ』
これ以上、私に現実を見せないで。
私がずっと聞けなかった事を、血紅御前は平然と口にする。それが一層腹立たしい
『マサカトハ思ウガ……貴様、死ニニ来テイルノカ?』
血が凍る。そうとしか表現出来ない痛みが、全身を突き刺す。
祈るように、代陀羅君を見つめる。
お願い……! 否定して! そんな奴の言葉なんか──!
「ははっ」
「そうだよ」
私の心を打ち砕いた。