この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜 作:ゲスト047562
「何で保健室いるのかな俺は」
「顔中血だらけだったからだよ!」
「いや別に問題無いんだが」
「駄目」
どーしてーエエエエエエエエエェェェェェェェェエエエエエォウ!
血紅御前との戦いを制し、青春が直してくれた試練の祠を出た俺達。そんな俺達を見て、校庭は騒然としていた。
今にも突入しそうな勢いで待ち構える教師達。心配と困惑の眼で遠巻きに見つめる生徒達。顔面血だらけの俺、緊張から解放されて泣き出す天外、何があったのか説明しろと詰め寄られる青春。
目に見える形で重傷だった俺は、いの一番に保健室に運ばれていた。
『触らないで下さい!』
『私が責任を持って彼を助けます!』
『急いでるんです! どいて下さい!』
そんな感じで、天外の想像以上の剣幕に押され(俺も含め)、強制的にベッドに寝かされて今に至る。現在、彼女の神技ヒールカーテンを浴びながら天井を見つめている最中です。
いやマジで大事無いんだよな。血紅御前からは殆ど攻撃を受けてないし、身体に傷を負ったって意味なら天外を庇った時だけだし。
「……はぁ。まあ良いや」
頑なな天外の態度に根負けし、ベッドに沈み込む。退屈なベッドで自然と思いを馳せるのは、血紅御前との極限の戦い。
血紅御前……強かった。今まで戦ってきた中で断トツでヤバい相手だった。ゲームの知識が無かったら、もっと苦戦してただろうな。
血紅御前の使っていた銀色の液体……勘の良い諸君ならお察しだろうが、あれは水銀である。
水銀は強い毒性のある金属。そこで俺は、毒を受けても良いように、事前に万死螺旋皇虹輪を展開していたという訳だ。
アレはフィールドの最適化というよりも、体内に入る毒をメタる為の妖技だったんだが、上手くはまってくれて助かった。知識無しの完全初見だったら、不用意に毒を喰らってそのままアウトだった気がする。
で、最後は剣に火属性の妖力を付けてカウンター。金属性は火属性が弱点だからね、その対策をされない様にトドメの一撃まで火属性は使わなかったって寸法よ。
……うん? そこまで分かってたならさっさと仕留めろ? うんうん、俺も最初の一撃でそれが出来れば良かったんですがね、そう単純な話じゃなくってぇ……。
「……塵気術、ね」
「師匠、まだどこか痛い?」
「師匠じゃない」
後泣き止むの早いね君。
ともかく、奴との戦いで得たものは、霊力だけではない。
今まで俺が使った妖技は、ゲームの知識や妖魔からパクってきた、既に名前のあるものばかりだった。
塵気術は、今までの『俺』の集大成ともいえる武術。前世で俺がやっていた武道や武術と献魂護身術を掛け合わせ編纂した、本当に新しい技術体系。
それに名前を与えた事で、初めて名付けというものがどれ程力を与えるのかを実感した。
バラバラだったパズルのピースが埋まっていく様な、複雑に絡み合っていた糸が解れていく様な、全てが繋がる感覚。
血紅御前と命のやり取りをする程に、その感覚は鋭く、そして力強くなっていくのが分かった。
……まあつまり、自分の努力が開花して成長していくのが楽しかったんだよねウン。
それに、バトルシステムの知識だけとはいえ、ゲームの推しだぜ? そりゃ張り切って殺したくもなるよ。
「……ん?」
戦いの記憶を反芻しながらボーッと天井を眺めていると、黒い穴が空いていた。
幻覚や見間違いの類かとそれを見つめていると……。
ガンッ。
「ファァァァッツ!!?」
「きゃああああ!? だ、代陀羅君!?」
いったぁ!? 何か落ちてきた! てか鼻が! 鼻が潰れたァ!? 何じゃおどれ何処のモンじゃゴルァ!
怒りに任せて降ってきたモノを捕まえる。すると、懐かしい感触がして思わず目を見開く。
「えっ、それは……!」
「……刀?」
俺の手に吸い付く様に握られていたのは、鮮血の如く赤い鞘に収められた、反りのある太刀。ずしりと重く、見ただけでそれが大業物と呼ばれる類の代物であるオーラを纏っている。
……これ、血紅御前が腰に
確か、ネームドの妖魔は特別なアイテムをドロップする。それはソイツが持っている武器だったり防具だったりと様々だが……うーむ、血紅御前が落としたのってこれだっけ? チュートリアルで倒した時の報酬は別だったりするんだろうか。
「……まあ良いか。有り難く使わせてもらおう」
「む」
推しから認知された感あるなコレ。良いよね、ライバルが自分の力を認めて、自分の相棒である武器を渡して共闘するパターン。滅茶苦茶燃えるシーンですよこれは。
という訳で天外さんや。不満そうな顔で俺の手を弄らないでくれませんかね。最初に血紅御前と戦ってたのは貴方ですからね、獲物横取りされたのがそんなに不満ですか。
「……」
「……あの。どうかしたk」
「ねえ代陀羅君」
「アッハイ」
ヒエッ。急に首がグルンって回るの怖すぎィ!
「ご褒美なんだけど」
「あ、ああ! そうだったそうだった。忘れてたな。で、何が欲しいんだ?」
「うん。それなんだけど……」
天外が身を乗り出し、ベッドに体重をかける。ベッドが軋み、スプリングが音を鳴らす。
そのまま彼女は、俺に覆い被さる様にして馬乗りになった。
え? え? 何、
「……私に、塵気術教えて」
「えっ、そんなので良いのか? もっとブランド物のバッグとか……」
「いらない」
「もっと腕にシルバー巻くとかs」
「いらない」
「お前は銃も護身術もある。別に無理して身体を鍛える必要も……」
ドンッ!! (俺の寝ている枕に手が置かれる音)
ブワッサ(枕から羽毛が飛び散る音)
ベッドが揺れる。舞い散る羽根を背にした彼女は天使の様に、しかし天使と呼ぶにはあまりにも昏い、暗い目をして俺を覗き込んでいる。
「……ねえ。代陀羅君は、私に塵気術を教えたくないの?」
「……あの。違くて」
「何が違うの? アイツが良くて私が駄目な理由って何?」
「アイツ?」
血紅御前の事か? いやアイツにも教えたつもりはないが。
塵気術とは、対妖魔用のオリジナル武術。だがそれは、前世での殺人術を改造したもの。
ぶっちゃけ俺は、こんな技術は無い方が後の世の為だと考えている。それ程までに、この世界は人との争いが少なかった証でもあるのだから。
それをまず分かって欲s
ドンッ!!! (もう片方の手が俺の横に落ちる音)
「……約束、したよね? 教えるの? 教えないの?」
「教えます」
「じゃあ、これからも師匠って呼んでも良いよね?」
「いやそれh「良いよね?」ハイ」
「じゃあこれからもよろしくね、師匠」
彼女は、安堵した様に優しい微笑みを浮かべる。
少女とは思えない艶やかな笑みにつられて、俺も軽く口角を上げる。いやこうしないとちょっと駄目かなって。
……ところで、降りてくれない? 結構近いしヤバいんだけど。もうね、感覚がオッサンなの。ドキッ(恋愛発展カモ!)より、ドキッ(社会的制裁カモ!?)なの。
「──何してんの?」
それは、保健室の入り口から聞こえた。
良く知る人間の、全然知らない声音。身体が芯まで底冷えしてしまいそうな声が、俺達の耳に届いた。
「……おにい! 怪我したからお見舞いに来てあげたのに、何してるの! キモいんだけど!!」
「あ、結! いや俺じゃない! 今回は俺何もしてないから!」
「今回はぁ!? 前は何かしたの!?」
「あ、結ちゃん。聞いてよ、師匠が……」
ステイステイ!! 来てくれたのは嬉しいが、この状態はマジでヤバいって! 後話すならいい加減降りろや!
結が怒ってますよアピールをしながら、俺から天外を遠ざける様に保健室を出て行く。静けさが戻ってきた室内で、俺はやっと安堵の溜息を吐いた。
あ、危なかった……そりゃまあ、兄貴の未成年淫行未遂(に見える)現場を見たら、発狂モンだよな。あんな声も出るわ。
しかし、長いようであっという間だった準備期間。今日から本格的に、ゲームがスタートする訳だ。
ここまで色々あったが、とりあえず俺の言いたい事は1つだけ。
「まだチュートリアルしか終わってないってマジ……?」
ハッピーエンドとやらはいつ来るんですかね、妹よ。
◇◆◇◆◇
「惜しかったなぁ……」
学校からの帰り道。
保健室で代陀羅君……ああ、また師匠って呼んでも良くなったんだ。やっぱり師匠って言う方が特別な関係っぽくて良いや。
師匠と保健室でやろうとした事を思い出して、顔が赤くなる。夕陽で隠れてると良いけど。
結ちゃんが来なかったら……。
「それにしても……」
あの子、本当に師匠と兄妹なのかな。性格も顔も全然違うし、それに……思い過ごしかな。
「……いけない。そんな事より、これからの事を考えなくちゃ」
雑念を追い払って、頭を冷やす。
血紅御前と戦って、師匠が戦ってるのを見て良く分かった。
私は弱い。どうしようもなく、ちっぽけな存在なんだ。
そして私は、そんな私が1番許せない。
彼に喧嘩を売った朱夏君より、彼と一緒の世界で戦ってた血紅御前より何より、弱い私が1番嫌いだ。
彼の見ている世界に私はいない。彼のいる世界に、私はいられない。
そう考える……ううん、感じるだけで吐き気がする程自分が嫌いになっていく。
「……強くなるんだ」
守ってもらえる様な私? いらない。
皆の為に献身的になれる私? いらない。
いつも優しくて明るい私? いらない。
いらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらない。
彼の眼に映らない私なんて、必要ない。
絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対、強くなって。それで……。
今度は、私が師匠を守る。
誰にも。妖魔にも、神霊でさえも邪魔はさせない。
「そうしたら、私だけを見てくれるよね?」
その為にも、この世界の何者よりも強くなる。
彼の本音を聞いた時、そう誓ったんだ。