この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜 作:ゲスト047562
「さーて、今日はどこに行こっかねー」
妖力を手に入れて数ヶ月。様々な試練の祠を練り歩き、俺はゆっくりだが着実にレベルアップしていた。
いやー、肉体が若くなったから動く動く。しかも今が中学生って事は、まだまだ全盛期があるって事だ。え? 勉強? 知らない子ですね……つか、授業で習う内容なんざ殆ど社会で使わないんだから(会社のクソ上司によるマウント合戦を除く)、使わない知識は忘れていくに決まってんだろ。
閑話休題。今日の獲物は何にしようかと、妖魔を八つ裂きにする方法を考えながら通りがかった公園。
「ぐす……グスッ……!」
そこのベンチで、今の俺と同じ年頃の少女が泣いていた。一人で。
栗色のボブカットの少女は、青い瞳からぼろぼろと涙を零して途方に暮れていた。普段なら愛らしく見える容姿も、今は痛ましい。
「……」
まあ、だから何だって話だし? 別に俺関係無いし? 今時の女子が公園で一人なんて、流石に……。
「どうすれば良いの……」
「……」
まあ、別に? 今日祠行くの辞めたって、弱くなる訳じゃないし? もし本当に一人なら、悪い奴に唆されるかもしれないし?
周囲に連れらしき存在がいないのを確認して、自販機で買ったお茶を彼女の横に置き、どっかりとベンチに座る。
「どしたん? 話聞こか?」
「え……」
すげーや俺。第一声が完全にヤリチンのそれだよ。
「俺は唯の通りすがりだ。人気の無い場所で泣いているお前が心配で、少し話を聞きにきた。それを分かってくれたら、さっきそこの自販機で買ってきたお茶を飲みな。ゆっくりで良いから」
予防線に予防線を貼り重ね、そこから少女を見ない様に明後日の方を向く。
だ、大丈夫か? 警察に電話とかしてないよな? 俺終わるぞ? まだ序盤で逮捕エンドは勘弁してくれよ?
怯える俺を他所に、ペットボトルを開ける音が聞こえる。そのまま暫く静かな時間が続き、彼女が話しかけてきた。
「あの……話を聞いて、くれるんですか?」
「おう。お前と共通の知り合いはいないだろうから、愚痴でも何でもお好きにどーぞ」
せ、セェェェェフ!! とりあえず通報は免れたみたいで助かった。
「……私、普通の中学生だったんです。普通に学校に行って、勉強して、友達と遊んでただけの」
「良いじゃん。特に勉強に頑張れるのはすげーよ。俺は無理」
「あはは。でも、急に……」
彼女の雰囲気が、再び暗くなる。
自分じゃどうしようも出来ない事態にでも遭ったんだろうな。死別だったり、仕事の都合だったり……一人で悩むしかないってのは嫌になる程理解出来る。
だからこそ、せめて辛い気持ちだけでも吐き出させてやりたい。そうすれば、少しは気も晴れ──。
「いきなり神託の巫女に選ばれたとかで、加護持ちになっちゃって……」
おっと話が変わってきたな???
どっかで聞いた様な内容だなうん。俺と近しい人間から、そんな感じの物語を聞きましたね。
い、いやー凄い偶然ダナー。一旦タイムいっすか?
つかさあ……こいつ……。
「それまで普通に接してくれた友達も急によそよそしくなって……進学先まで決められて」
やっぱ主人公かよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
ごべぇぇぇぇぇえええん!!!! 君にそんなバックストーリーがあるなんて知らなかったんや!! そらそうよな! いきなりそんな事になったら泣きたくなるよ! 俺だったらキレ散らかしてグレるまであるから! 誰にも当たらず泣いてる君メッチャ良い子だから!
「ひっく……うう……」
「……」
嫌な汗ダラダラ。この子の言動で今針の筵です。
え。俺、こんな子に世界の命運がどうのとか、無責任に考えてたんか? 死んだ方が良いか?
「それでぇ……私、どうしたら良いか分かんなくてぇ……!」
でっすよねええええええええええ!!
アカンこれ以上は死ぬ! 俺の心が死んでまう!!
「いきなり神託の巫女になったからって何か出来る訳じゃないし……世界の運命が懸かってるから戦えなんて言われても、納得出来ないよ!」
ハイそれ俺でーす!! 知らない子に全部押し付けたクソ野郎その人でーす!!
心が……心が痛い……! 申し訳なさから、人目も憚らず土下座する。
「……スマン」
「っあ……」
ぶっちゃけ、主人公はもっと芯の強い世紀末系女子かと思ってた。ゲームで見ていた姿は、妖魔をワンパンで制圧する効率厨な彼女だった訳だし。
だが目の前にいる彼女は、どこにでもいる様な、幸せを当たり前に享受する……普通の女の子。
俺はそんな彼女の苦しみを知った上で、のうのうと自分の都合だけを押し付けられる程に外道にはなれなかった。
つかさぁ! 聞かなかった俺も悪いけどさぁ! 結も言えよ! こんな思い悩んでるなんて思わねえじゃん! ストーリー始まる前から終わりかけてんじゃん! 妹から見たら俺唯のゲス野郎じゃねえか!
……まあ今更だけどさぁ。
「え、あの……」
「実は俺も聞いてたんだよ。何か特別な奴が神に選ばれたとか。でも俺には関係ねえと思ってた。俺はお前に責任を押し付けた大衆の一人だ。本当にスマンかった」
どうぞ好きなだけ罵って下さい。いやそういう趣味じゃなくて。
彼女はオロオロと俺を見つめるばかりで、まだ俺の言葉を完全に飲み込めていないようだ。ならば罵声を受けるのは後回し。まずは、彼女を追い詰めた人間の一人……いや、大人として果たすべき義務を言わなければ。
「だから、お前が望むなら……その役割から逃がしてやる」
「えっ!? それは……!」
「神託の巫女だろうが関係ねえ。メンタルケアも出来ねえ、嫌だと言わせねえ状況まで追い込んだ奴らの為に動く必要なんざねえ。お前に責任を押し付ける前に、奴らが責務を果たしてねえんだ。なら、お前がそれに従うなんておかしいだろ」
最初から覚悟の決まってる奴なら構わなかっただろう。神霊や国の意思に従順で、すぐに戦いに身を投じる事の出来る奴なら。
だが、その覚悟が出来てねえ奴に無理矢理やらせるってのは話が違う。
一人の少女の心を救えずして、何が国の為だ。そんな国なら、とっとと潰れた方が良いに決まってる。
「無理しなくて良い。後の事は、国を守りたいと本気で考えてる奴らにやらせりゃ良い。お前はまだガキだ、その生き方を縛るなんざ許されねえ」
「……」
「まあ、俺の出来る事は限られてるがな。それでも、何とかしてやるよ。その上で聞かせてくれ。お前はどうしたい?」
土下座を止め、膝立ちになって彼女の様子を見守る。少し急過ぎる話だったか、少女は俯いたまま動かない。
……勢いで言っちまったが、どうすっかなぁ。もしマジで逃げたいっつーんなら、結と一緒に国外逃亡の計画でも立てないと駄目か?
「……わ。私、は」
自身の考えが纏まったのか、少女がゆっくりと口を開く。
「私は、お父さんとお母さんが大切です。友達も居て……皆には、死んでほしく無いです」
「ん」
「……だ。だから……怖いのは、嫌……だけど。私は、大切な人達を助けたい……です」
「……めっちゃ良い子やん」
「え?」
前世も合わせて、俺の精神はもう50を超えている。社会に揉まれ、人の醜さに折り合いをつけ、何かにしがみつく余力を失う事で、自分の人生とは何たるかを勝手に悟り、腐っていく。それが良い歳にもなって形成された、俺という人間だった。
だからだろうか。まだ年端もいかない少女の純粋に人を思いやる心に、素直に胸を打たれたのは。
俺より遥かに年下の彼女が見せた、幼くも気高い精神。それに触れて、思わず言葉が漏れてしまった。
「……凄えなお前」
「ふえっ!? ぜ、全然凄くなんか無いですよ! ただ、それが嫌だなあって思っただけで……」
「そう思えるだけで凄えよ。……良く言ってくれた。頑張ったな」
「っ……うん! うん!」
労わる様に頭に手を置く。彼女は緊張の糸が切れたのか、しがみ付く様に俺に抱き付いてわんわん泣き始めた。
「うんうん。今までお疲れさん」
あやす様に背中を優しく叩く。
「ずっと……辛かった……! 誰にも言えなくて……」
「そうだな……」
本来なら、こういったメンタルケアは攻略予定のイケメンズとやるんだろうなぁ……だが後悔はしていない。
辛い時に辛いと言えない苦しみは、10代の彼女が背負うには重過ぎる。早いうちに何とかしないと、取り返しの付かない事になるからな。
ミシッ
「ん……?」
今、俺の背中から不穏な音が聞こえた様な……。
「ヒック……!」
「あー、ハ……?」
一旦離れてもらおうと声を出そうとする。しかし口を開いても、息が僅かに漏れ出す事しか出来なかった。
おかしい。何か、致命的な見落としがある気がする。嫌な予感を感じると同時、俺の背中に回されている腕が、どんどん俺の肺を圧迫している事に気付いた。
華奢な細腕からは想像も付かない、万力の如き力。彼女はそれに気付かず、今も涙を流している。
痛みと酸欠で麻痺していく頭。薄れゆく意識の中、ふと結との会話を思い出す。
『神霊学園って中高一貫だっけか。加護持ちだけ集めて何すんの?』
『えっとねー。身体の使い方をとにかく学ぶヨ! 加護持ちは力が強くなってるから、普段の生活で暴走しない様に訓練してる!』
『ほーん。まあお前も加護持ちになってから凄え馬鹿力にってぇぇぇええ!!?』
『おにい、怒るよ』
『踏み潰す前に言ってもらえますぅ!?』
あっ違うこれ走馬灯や! アカンこれじゃ死ぬぅ!
一気に覚醒する。空気を何とか摂取し、必死に彼女に伝えようと背中をタップする。
「ちょ……とま」
「うぁぁぁぁ……!」
ちょっ聞いて!? 早くギブアップに気付いてくれません!? 貴方の腕めり込んでますよ、俺の身体に! もうタップどころかゴリラのドラミングだよ! 何で気付かねえんだよ!
「コッ……コ……!」
「怖かったよぉ……!」
俺も超怖い。スプラッタになった自分が間近でおいでおいでしてる。
死ぬ……ガチで死んでまう……! 美少女とのハグがこんな命懸けなんて聞いてないっすよ旦那。
「アッアッアッ……」
ヤバいって! ガチでボケてる場合じゃないんだって!
生搾りオレンジになる! 色んな所から吐き出しちゃううううううう!!!
「あ、あり……ありがとう……!」
そう思ってるなら手を離せぇぇぇぇぇぇえ!!
だ、誰かあああああああ!! 助けてェェェェェェ!! フレッシュジュースになりゅうううううう!!