この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜   作:ゲスト047562

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第8話 1度のチュートリアルで全部覚えられたら苦労はない

 その後は妖魔をひたすら撃ちまくり、天外の集中力が切れかけていたので、レベルアップを済ませて解散となった。

 別にあのまま特攻させても加護持ちは死にはしないのだが……ショッキングな体験は、自分のミスで経験しないと痛い目に見るからな。俺の目の届く内は護りますとも、ええ。仮にも師匠と呼ばれてますからね。

 

「師匠。今日は本当に、本当にありがとう」

 

「いや、天外が頑張ったからだ。そっちこそお疲れさん。どうだった? 試練の祠は」

 

「……やっぱり、怖かった。けど、師匠がいてくれたから、なんていうか……楽しくもあった。試練の祠を進めたのは、絶対に師匠のお陰。ありがとう」

 

「いや、マジでそんな感謝しなくて良いって。寧ろ、俺の罪滅ぼしに付き合ってくれたからな。こっちが感謝したいぐらいだ」

 

「ふふ、やっぱり師匠は優しいね」

 

 ふわりと微笑む天外。花が綻ぶ様な可憐なその姿は、ヒロインと呼ぶに相応しい、純真無垢なオーラを醸している。

 ……いや普通に青いオーラバリバリ出てるな。神力が後光みたいに照らしてるわ。いらんとこで乙女ゲームの演出すな。

 うーむ、こういうイベントはやっぱ攻略キャラが享受すべきでは? 俺みたいなモブキャラオッサン(17)じゃスチルも台無しだろ。NTRモノじゃあるまいし。

 

「今日は色々覚えるも多かっただろ。来週は別の試練の祠で、神技の練習をしてみるか」

 

「分かった! 楽しみにしてる。あ、試練の祠に行く日じゃなくても連絡して良い?」

 

「ん? あー、別に良いぞ。愚痴は吐ける内に吐いた方が良いからな」

 

「そうじゃないんだけど……じゃあ帰ったら連絡するから、絶対返信してね?」

 

「わーったわーった。んじゃ、またなー」

 

 最近の若者は誰かと繋がってたい欲が強いなぁ。

 非日常から日常に戻り、年相応の笑顔を見せてくれる天外に、こちらも微笑ましくなる。

 

「ぁ……」

 

 何故か固まっている天外に手を振り、俺も帰路に着く。

 うーむ、別に肉体は疲れてないが脳が疲れたな。慣れない事をしたせいか、まだ陽が辺りを照らしてるのに、家に帰って寝たい衝動に駆られている。

 人に何かを教えるのは難しい。学校の教科書の様にマニュアルがある訳じゃなし、完全に俺の主観で教えてしまっていたが、大丈夫だろうか。教える側に立って初めて気付く、教師の偉大さよ。

 ……まあ変な部分の教えは、後々学校で矯正してくれるだろ。多分。知らんけど。

 

「……ん?」

 

 結から電話? いつもはメッセージだけなのに。学校で何か問題でも起きたのか?

 

「もしもし?」

 

『おにい、変な事してないよね?』

 

「口の聞き方に気を付けろよ。電話出て第一声がそれなのはおかしいだろがい」

 

 仮にも前世からの付き合いでっせ? 兄に対する信頼がマイナス突っ切ってて、怒り通り越して笑うわ。

 

「で、いきなり電話してどうしたんだ?」

 

『ヒロインちゃんと祠行ったんでしょ? どうだったの?』

 

「あー天外か。筋は良いと思うぞ。戦いにもすぐ慣れてたし、神霊学園の入学までには即戦力になr」

 

『そうじゃなくって! 可愛かった?』

 

「あ? そりゃヒロインなんだから可愛いだろ」

 

『ウチは?』

 

「はいはい可愛い可愛い。顔面SSR」

 

『んへへ』

 

 何だコイツ。自己肯定感低めの日か? それだけの為に電話してきたんじゃないだろうな?

 

「そういや聞きたかったんだが、神霊学園は何で神託の巫女をすぐ転校させないんだ? 加護持ちになった理由が特別な奴なんだから、普通速攻で囲い込むだろ」

 

『それがね〜、緘口令(かんこうれい)が敷かれてるみたい。神託の巫女が選ばれる程大きな災いが来るって宣言したら、皆が混乱しちゃうでしょ? だから、学校も自然に入学出来る様に色々準備してるみたいだヨ』

 

「ほーん、そんな設定だったのか。じゃあ知ってるのは、教師とか攻略キャラだけか?」

 

『そう! 青春(せいしゅん)先輩と朱夏(しゅか)先輩! 2人は五行家で主人公と同い年だから、主人公が入学してきて最初にサポートしてくれるの! 2人共仲が良いから、普段からずーっと一緒にいて……』

 

「あーはいはい。そうか、五行家か」

 

 この世界の日本国を守護し続けてきた5つの一族、通称五行家。彼女の攻略対象となるイケメン達の事だ。

 確か、五行思想に因んだ名字になってるんだったか……詳しい事は知らん。

 さっき言った青春ってのが結の推しだったな。ソイツは俺も覚えてる。メリバを迎えた人。以上。

 

「そうなると、やっぱスタートは入学式からになんのか」

 

『うん。原作通りだと思うヨ! おにいの影響は殆ど無いかも!』

 

「なら安心だな。それだけ聞けりゃ十分だ。つかお前、推しに会いに行ったりしないのかよ。カップリングの話しかしてねえじゃねえか」

 

『何言ってんの? キモ』

 

 おっと、いかんいかん。額に青筋が……電話越しで良かったな、対面だったらお前のこめかみに穴が空いてたぞ。

 

「いやお前……推しが死ぬルートがあんだろ? その回避の為に動くんじゃなかったのかよ」

 

『そうだけど! それで青春先輩と積極的に関われるかは別じゃん! ウチは推しカプを見守る壁になりたいの!』

 

「ははっめんどくせえ」

 

 だがその気持ちも理解出来てしまう。原作の展開を生で拝みたい、あわよくばバドエンを回避したい、しかし推しとは絡みたくはない。オタクとは、相反する気持ちを抱える悲しき獣よ。

 うーん、いやでも結は顔も良いし、何なら最初からメンバーに入ってましたよって言われても違和感無いし、異世界転生したら巻き込まれるタイプの美少女だと思うんだが。もしかしたら、後々ダブルヒロイン的なポジションになるかもしれん。まだ原作が始まってないから、結の方も推しと進展してないだけか?

 

「まあ、お前は原作の流れ知ってるんだから上手くやれよ」

 

『りょ! おにいはどうするの?』

 

「決まってんだろ。テキトーn」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうだな、弟子」

 

 アカン。反射的に出たのは、そんな感想。

 固まる俺の背後から、のしりと肩に腕を乗せてきたのは、献魂院奏師範。下から覗き込む様に見てくる彼女の瞳は、深淵の様に黒く濁っていた。

 

()()か。良いなぁ、私はそう呼ばれるのに何年もかかったのに」

 

「シ、師範。ちゃうんすよ、成り行き上そうなっただけで、俺がそう呼べって言ったんじゃないすよ」

 

「しかも弟子が、あんなに可愛い女の子を侍らせているなんて知らなかったなぁ。電話越しから別の女の子の声も聞こえたぞ。まさか三股とは」

 

「身に覚えの無い罪状が増えてくゥ!」

 

 天外はともかく妹まで手を出してるクソ野郎にまで成り下がってるじゃねえか! まさかまだこの前のデキ婚事件引きずってんじゃないだろうな!?

 おごごご……首が、首が締まる。師範の腕が蛇の如く俺に絡みついて離さない。あの良いんすか師範、年頃の乙女が思春期の男子にそんな身体を密着させて。ふよんふよん効果音が聞こえてきそうっすよ。

 

「弟子ぃ……お前は私の1番弟子だよな?」

 

「も、もちっす師範……」

 

「なら師である私の言葉は聞けるな?」

 

「その変な誤解を解けるなら」

 

「良し。なら明日、予定を空けておけ。私と特別訓練だ」

 

「ッス」

 

 その程度か。また地獄のメニューやる程度なら問題ないな、ヨシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺の財布は死んだ。

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