主ビアの日常・追憶編   作:アロンの杖

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リュカとビアンカ・熱愛編

 およそ3週間もの間中、ずっとビアンカと繋がりっ放しのまま、日に夜を継いで彼女を激しく掻き抱き続けたその後でー。

 

 元々の体格の自分に戻ったリュカは彼女と共にバスマットレスの中央で3日の間は死んだように眠り続けた、お互いに疲れがドッと出て来て頭の芯から熟睡してしまったのであるモノの、それからー。

 

 先に目を覚ましたリュカは起き上がると顔を洗って歯を磨き、(うがい)を済ませた後に再び愛妻王妃の横へと戻る、すると。

 

「・・・ビアンカ、起きたのかい?」

 

「う゛う゛う゛、ん・・・っ❤❤❤」

 

 傍らで寝ていた花嫁が、欠伸(あくび)と共に覚醒して彼と同じように身嗜みを整えて来る。

 

「ねえあなた・・・」

 

「なにさ?ビアンカ・・・」

 

「・・・好きっ❤❤❤」

 

 そう言ってビアンカは強く抱き着いて来た、二人きりの時の彼女はとても素直で優しくて、自身の気持ちを隠す事無く彼に甘えて身を擦り寄せて来る。

 

「本当に・・・。どうしてこんなに愛しいんだろう、あなたの事が堪らない程に好きっ、大好きっっっ❤❤❤❤❤」

 

「・・・ビアンカ、僕だって」

 

 “君のことが大好きだよ?”とリュカはそう応えて彼女をしっかりと抱擁した。

 

「自分以外の人をこんなにも愛しく感じたのは、大切に思ったのは初めてだよ。ビアンカ、君だけなんだ・・・」

 

「・・・・・っっっ❤❤❤❤❤」

 

 そう言って甘酸っぱい汗の匂いが濃厚に漂う愛妻王妃の乳白色の肢体に自身も身を寄せるが、そんな青年国王の言葉が嘘では無い事は付き合いの長いビアンカが一番良く知っている。

 

 それにー。

 

 セックスのインターバル時、生命力と精神力とを分け与えて自らを回復してくれていた際に流れ込んで来た彼の思念は彼女に対する限りない程の暖かさと優しさとに満ち満ちており、そう言う事もあってリュカの自分に対する真心を感じたビアンカは嬉しくて嬉しくて堪らず、後から後から愛しさが溢れ出して来てどうにも止まらなくなってしまった。

 

「リュカ好き、大好きなの。誰よりも何よりも愛してる・・・っっっ❤❤❤❤❤」

 

「あははっ、僕もだよ?ビアンカ。君のことを、僕は・・・」

 

「・・・・・?」

 

「・・・なんでもない」

 

「・・・あーっ、コラッ。何を隠したの?お姉ちゃんに教えなさいっ!!!」

 

「なんだよ、お姉ちゃんて。もう同い年だろ!!?」

 

「ん~ん。いーい?リュカちゃん。私はね、あなたにとっては最愛の妻であると同時に大切なお姉ちゃんなのっ!!!」

 

「知るもんか、そんなの。絶対に教えてやらない!!!」

 

「むーっ、なんですって?いい加減に素直になりなさい!!!」

 

 そう言って悪戯そうに微笑みながら夫にじゃれ付く愛妻王妃だったが、そんな彼女は芯の部分でしっかりと、彼の気持ちを感じ取っていた。

 

 “誰よりも何よりも・・・。自分よりも愛おしい”、“でも口には出せない”、“出したらこの気持ちが嘘みたいに聞こえてしまうかも知れないから”。

 

 それがリュカのビアンカに対する紛う事無き本心であり、魂の底に秘め宿していた真愛だったのだ。

 

 だけど。

 

(もうっ、リュカったら。口に出して言って欲しい事だってあるのにぃ・・・っ!!!)

 

 ビアンカにはそれがちょっぴり不満だった。

 

「・・・ねえビアンカ?」

 

「んん。なぁに?あなた・・・」

 

 そんな彼女に対して青年が、不意に神妙な面持ちとなって声を掛けた。

 

「君はね?僕の為だけに生まれて来てくれたんだよ?僕だけの女の子なんだ・・・」

 

「・・・ぷっ」

 

 “あっはははははっ!!!”とそれを聞いた途端に悪いとは思いつつもビアンカは笑ってしまった、真面目な顔をして何を言うのかと思えば、なんともキザったらしい台詞を吐くでは無いか。

 

「・・・あ、あのねビアンカ。言っておくけど真剣なんだよ!!?」

 

「あっはははははっ!!!も、もうリュカったら。止めてよ・・・」

 

 尚も破顔する花嫁に対して困ったような、それでいて戸惑ったような面持ちのまま花婿が語り掛けるが、こう言う言葉をくそ真面目に告げて来るのがリュカと言う人物なのだ。

 

 ・・・ただし。

 

「あははははは・・・っ、はあぁぁぁ~っ♪♪♪♪♪も、もうっ。かなり笑わせてもらったけれど・・・。一体どうしちゃったの?あなた・・・」

 

「・・・君は素晴らしい女性だった、僕なんかよりもずっとね?断っておくけど嘘なんかじゃないよ。本心からそう思うんだ」

 

「・・・それは、まあ。有り難うって言っておくけど。でも一体どうしたの?急に」

 

 一頻り笑い転げたその後で、ビアンカは改めて彼の話に耳を傾けていた、リュカは時々、突拍子も無い事を言い出すがしかし、それには必ず彼なりの、何らかの深い事情がある事を愛妻王妃は良く知り尽くしていたのである。

 

「実はね?マスタードラゴンからの修行をこなして行く内にさ・・・。“祈り”について考えさせられた事があったんだ」

 

「・・・祈り?」

 

「ねえビアンカ、あのさ。いきなり変な話をして申し訳無いんだけど“水子霊”って知っているかい?」

 

「・・・まあ、言葉ぐらいは」

 

 唐突に投げ掛けられた言葉にビアンカはキョトンとした表情を浮かべて彼に相対していた。

 

「確かまだ・・・。赤ちゃんになる前に亡くなってしまった胎児達の霊魂の事でしょ?それ位は知っているけれど・・・。それがどうかしたの?」

 

「この“水子”って言うのはね?経産婦からは必ず何体かは生み出されてしまうモノらしいんだよ。例えば妊娠中絶をした場合とか、赤ん坊の頃に病気や怪我で亡くなってしまったりだとか。・・・他にも“無自覚流産”って言うのもあるらしいんだよ」

 

「・・・“無自覚流産”?」

 

「例えばセックスの後になかなか生理が来ないな、なんて事が何度かあっただろ?君にも。あれがそうらしいんだ、単なる“生理不順”では無かったみたいなんだよね」

 

「・・・じゃあ。私達にもその“無自覚流産”って言うのは起きているって言う事なのかしら?」

 

「そうだよ?それをマスタードラゴンから教えられてね、直々に“君か僕が供養しなくてはならない”って言われたんだ」

 

 そう言って青年国王は当時の状況を振り返るが、その頃のビアンカは赤子に対する育児は一段落させていた、とは言えどもまだまだ幼少の我が子達をあやすのに忙しく、とてもではないが彼女にこれ以上の負荷を掛ける事は出来なかった。

 

 そこで急遽リュカが実行する事となった、“マスタードラゴン”からやり方を教えてもらってからと言うもの、リュカは懸命に祈りを捧げ続けた、どんなに疲れて大変な時でも決して欠かさず休むことなく彼等に謝罪と鎮魂の祈りを捧げ続けたのである。

 

 するとそれを始めてから半年が経とうとしていた頃のこと、いつものように水子霊達に祈りを捧げようとした所、“もう良いよ”と言う感覚を感じるようになり“マスタードラゴン”に改めて相談をした、すると。

 

 マスタードラゴン曰く“水子霊達は許してくれたようだ”、“もう大丈夫だろう・・・”との事だったのだがこの体験はリュカにとても大切な気付きをもたらした、それは“謝る”と言うことに付いてのモノだったのだが“自分達が一番苦しかった時期に、一番気付いて欲しかった時に何の謝罪も反省もしなかったお前を、一番我等を苦しめ続けたお前の事を何があっても許しはしない”とそう言っている相手に対して、許してもらえるように、許してもらえるまで謝り続けること。

 

 それがどうやら“謝る”と言う事なのだと彼は理解したのだ。

 

 そしてそれは=で“誠意を尽くす”と言う事なのだと直感したのだがこれに先立つ事半年ほど前に、リュカはエルヘブンの長老達からある教えを受けていた。

 

「“努力した”とは目標として掲げていた物事が達成された時に、初めてそう言えるのだ」

 

 それが彼女達の言葉だったのだが、その時は何の事だか解らなかった青年にもしかし、ようやくにしてその言葉の意味が理解できる日がやって来たのである。

 

 誠意を尽くせば必ず思いは伝わり願いは叶う、そしてそれこそが“祈る”と言う事なのだと、未熟ながらにリュカは体感したのであり、大切な経験として己の中へと修めたのであった。

 

「元々ね?“祈り”とはそれ自体が極めて純化された思念エネルギーの結晶体、その発現そのものに他ならないんだ。それはありとあらゆる障害にも負けず、様々な誘惑にも決して惑わされる事も無く、ただただただただ、どこまでもどこまでもひたすらなまでにその事だけに集中し尽くして行った結果として、それを貫き通して行った結果として最後の最後で現れる、余計なモノを全て刮ぎ落とした純粋なる思念エネルギーの塊であり、真心の顕現そのものなんだよ」

 

「・・・・・」

 

「それはね?全てを超越しては必ずや事象の本質や相手の心の奥底にまで、それも直接的なまでに響き渡って行くモノなんだ。その結果として思いは通じて願いは叶うモノなんだよ?何故ならばこの“純粋なる思念エネルギー”と言うのは、この宇宙の全てを創り出した“始原の超神”の、愛と光りの波動そのものに他ならないからだ・・・」

 

「・・・マスタードラゴンより、もっと凄い神様がいるの?」

 

「創造神“グランゼニス”と言う神様がいる。この方以上の神々も、もしかしたならいらっしゃられるのかも知れない・・・」

 

 リュカの言葉にビアンカは驚愕するが、そんな花嫁を彼は黙って見つめ続けていた。

 

「ビアンカ、君だって“祈りの光り”を発動させた事があるんだよ?君自身は気付いて無いみたいだけど。かつて僕を助けてくれた時に一度だけ、ね」

 

「・・・・・っ。私が、祈りを捧げて光りを発動させたって言うの?あなたを助ける為に!!?」

 

 驚き戸惑う愛妻王妃に対してリュカは静かに“そうだ”と頷くが、それはデモンズタワーで魔王の側近の一匹であった、“ジャミ”と対峙した時であった。

 

 あの時、ジャミの策略に嵌められたリュカはそれでも(さら)われてしまったビアンカを助ける為に後先も考えずにデモンズタワーに突入しては、大急ぎで彼女の元までやって来てくれたのである。

 

 しかし。

 

「あ・・・っ!!!」

 

 ビアンカがリュカにジャミの目論みを告げようとしたところで、ジャミから撃ち放たれた魔力によりその場から吹き飛ばされて床に叩き付けられてしまった、まだお産の消耗と疲労から回復し切れていなかった彼女はそのまま動けなくなってしまうモノの、それを見たジャミは“今がチャンスだ”とばかりにリュカとその仲間達に襲い掛かって来たのだ。

 

 この戦いは、最初はリュカの思うようには行かなかった、ジャミの全身は魔力のバリアーで硬く守られておりこちらの攻撃が一切通らなかったのである、ところが。

 

「うおおおおおっ!!!!?」

 

 リュカはそれでも遮二無二突撃を繰り返して行った、リュカはジャミが許せなかった、自分の父の仇だから、だけでは無くて、自分の妻を奪おうとしたから、だけでも無い。

 

「私、リュカに。あなたに生きていて欲しい。だから・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「よせ、ビアンカッ!!!」

 

「お願いだから逃げてっ。私の事は、もう忘れて・・・っ!!」

 

「・・・・・っっっ!!!!!」

 

 仲間達が見守る前で。

 

 リュカを守る為に喉から絞り出したのであろうその声は震えていた、消え去りそうな程の弱々しいモノだった、いや最後は殆ど嗚咽に近かったと言ってもいい、それ程までにその言葉はビアンカにとっては辛い、それこそ心が捻じ切られそうになる程のモノだったのだ。

 

 だけど。

 

「・・・ざけるな」

 

 “リュカに生きていて欲しい”、“無事でいて欲しい”と言うその一念で彼女は自分を押さえ込んだがそれを見た青年は激昂した、“巫山戯(ふざけ)るな!!!”といきり立った彼は一瞬で攻撃を仕掛けて来ていたジャミの剛腕を払い除け、その場に勢いよく立ち上がる。

 

「うおおぉぉぉっ!!?」

 

「・・・・・っ!!!」

 

 これにはジャミのみならず、ビアンカでさえも驚かされた、この傷だらけの青年の何処にこんな力が残されていたと言うのだろうか。

 

「な、なんだと・・・っ!!?」

 

「ジャミッ、てめぇは殺す!!」

 

「リ、リュカ。ダメ・・・ッ!!!」

 

「そこで見てろビアンカッ!!!」

 

 言い放つやいなや、リュカは剣を上段に構えるとジャミ目掛けて疾走した、傷口からはビチャビチャと血が滴り落ちて地面に赤い水溜まりを作るがこの時のリュカは気にしなかった。

 

「んなあぁぁぁっ!!?」

 

 ガキィィィィンッとジャミの首筋へと向けて刃が飛んでいった、少なくともビアンカにはそう見える程に、鋭くて素早い攻撃だった、しかし。

 

 それすらも見えない“何か”によって弾き飛ばされてしまい、攻撃が通らなかった、“クソッ”と彼は毒づいた、それは普段のリュカからは絶対に見えない感情ー。

 

 即ち“憎悪”と“憤怒”だった、彼は今、それに支配されていた、それだけジャミの行動と言葉とが腹に据えかねたのだ。

 

「よくもビアンカを泣かせたなっ!!?ぶっ殺してやるぞ、この馬面やろうっ!!!!!」

 

「こ、小僧・・・っ!!!」

 

「てやあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 今のリュカには最早、迷いと言うモノが存在して居なかった、普段の彼はどうしても何処かで“痛み”や“肉の抉られる感覚”、そして“骨の砕かれる悲惨さ”と言った、敵に対するダメージが認識されてしまい、それが憐れみとなって攻撃の際の緩さに繋がってもいたのだが、今のリュカにはそれがない、ただただ純粋に“ジャミを殺す”、それだけに特化した存在となっていたのだ。

 

 一方で。

 

 いつまでも防戦一方のジャミでも無かった、体勢を立て直すと自身も構えを解いて、リュカ目掛けて突っ込んで行く。

 

 しかし。

 

 ガアァァァァンッと言う音と共にその肉体は弾き飛ばされてしまい、ジャミはまたしても吹き飛ばされてしまった、ダメージは無いモノの、相変わらず信じられない事ばかりが起こった、如何に鍛え抜かれた体躯をしている、とは言えども優男で、しかもこの死に損ないの何処にこんな力があったと言うのか。

 

 しかも。

 

「だりゃあああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 その攻撃も熾烈を極めていた、先程から狙われているのは頭、喉、心臓、そして四肢だ、リュカはジャミの急所や当たれば大打撃となる箇所だけに狙いを定め、正確にそこを切り裂き、或いは刺し貫こうと剣を振るって来る、しかし。

 

 その全ては弾かれてしまい、ダメージが結局、ジャミに通ることは無かった、そればかりか。

 

「うぅぅぅっ!?ぐああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 遂にリュカが呻き声を発して膝をつき、その場に倒れ伏してしまった、周囲は血の海になっていた、全てリュカの体から流れ出した血液だった、衣服も真っ赤に染まっていた、彼は限界を超えてしまったのである。

 

「う、うぐぐっ?あああ・・・っ!!!」

 

 うずくまりながらもビアンカが呻き叫んだ、“どうしよう、リュカが死んじゃう”、“そんなの嫌だ、絶対に嫌だ”、“死んじゃだめ!!!”と思った、その思いだけがビアンカを突き動かした、傷付き膝を付いた青年の姿を見るにつけビアンカはいても立ってもいられなくなった、“リュカを生かす、何としてでも!!!”、“自分の大切な人を守りたい”、“生きていて欲しい、絶対にっ!!!”。

 

(リュカ、死んじゃだめ・・・っ!!)

 

 この時のビアンカにあったのはその一念だけだった、それは彼女から不要な雑念を全て捨てさせて意識を“今”、“この瞬間だけ”に集中させて行った、“リュカを守りたい”、“助けたい”、“自身の愛しい人を、何があっても殺させはしない”、その思いが願いとなり、純粋な祈りの領域にまで昇華された時ー。

 

 奇跡は起きた、ビアンカの祈りに彼女の中の“天空の力”が、“神の部分”が応えたのだ。

 

 それは彼女の“穢れなき純真さの発露”であり、リュカに対する“偽り無き真愛(まな)の輝きの顕現”、それそのものに他ならなかった。

 

「やめてーっ!!!」

 

 “止めなさい、ジャミ!!!”と王妃が叫ぶと同時に駆け出して行き、躊躇(ためら)う事無くリュカを庇うようにして立ちはだかるが、そんな彼女の全身は七色に輝く眩い光りを放っておりそれが周囲を覆って行く、するとー。

 

 なんとリュカの傷がみるみる内に塞がって行き、体力も気力もその身に蘇って来ていた、反面。

 

 その光によって照らし出されたジャミの身体からは、何やら衣のような透明な“何か”が剥がれ落ちて行き、跡形も無く消え去ってしまった、やがてその光の洪水が収まった時に、その場にあったのは傷の癒えて完全に復活を果たしたリュカと、だらしない表情を見せたまま、呆けた顔で立ち尽くしているジャミの姿だったのだ。

 

「・・・・・っっっ!?!?!?な、なっ。なにぃっ!!?」

 

「・・・・・っ!!!」

 

(こ、これは・・・?一体何が!!!)

 

「・・・リュカ!!!」

 

 みるみる復活してゆく青年の耳元に、“今よ!!!”と言う愛しい花嫁の言葉が届くがそれを聞いたリュカはまるで突き動かされるようにして起き上がると体勢を整える。

 

 その動きはゆっくりとしたモノではあったけれども力強くて頼もしい活力に溢れていた。

 

「ジャミ・・・ッ!!!」

 

「うおぉぉ・・・っ!!?」

 

 剣を構え直すと青年国王は怨敵の名を呼んだ、そしてー。

 

 次の瞬間、その首元目掛けて疾走し、躊躇(ちゅうちょ)無く刃を振るうが、それに何とか反応して(ひずめ)で受け止めたジャミはしかし、その鋭さと俊敏さとに心の底から驚愕していた。

 

 先程までの鈍重さが嘘のような身のこなしであるが、それは万全の状態のリュカが見せた、殺意を込めた一撃だった、その苛烈さはジャミの予想を遥かに上回る程に気迫に満ちていて激しく、凄まじいモノだったのだ。

 

「・・・・・っ!!!」

 

(な、なんだ。コイツの力は!!!これが本当に、先程まで死にかけていたヤツの力かっ!!?)

 

 その戸惑いは思わず表情に出てしまうモノの、それほどまでにこの時のリュカの攻撃は熾烈を極めたモノだった、それは青年に宿っている底力の発露そのモノに他ならなかった、相手への躊躇(ためら)いを無くしたリュカの力はそれだけ絶大なモノがあったのだ。

 

 上、下、斜め、横から次々と繰り出される、素早くて重たい一撃に、ジャミも反応仕切れずに徐々に追い詰められて行った、やがて。

 

 ガキィィィィンッと言う感触がして、剣を防御していた(ひずめ)が真ん中部分から真っ二つに切り裂かれた、一瞬の隙を付いたリュカが“斬鉄”を行ってジャミの蹄鉄(ていてつ)をへし折ったのである。

 

 そしてー。

 

「ぐわああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 続いてジャミから悲鳴が響き渡るが次の瞬間、リュカが間髪入れずにその左腕を切り飛ばしたのだ、胴体から離れた腕は地面をゴロゴロと転がってはそこに血溜まりを形成させた。

 

「があああぁぁぁぁぁ・・・・・っっ!!?うっぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!!」

 

「ジャミッ!!!」

 

 失った片腕を抑えてその場に蹲る怨敵を前に、しかしリュカは何の憐れみも掛けなかった、そのまま怒りに任せて右脚、右腕、左脚と次々に剣を突き立てては切り飛ばし、或いは抉り抜き、遂にはジャミを全く動けなくさせてしまう。

 

 そうしてー。

 

「ぐがあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 とうとう、その心臓を刺し貫いてジャミに対してとどめを刺すことに成功したリュカは息を整えつつもビアンカに、否、その場にいた全員に聞こえるように言い放った。

 

「ビアンカッ、お前は俺の女だっ。解ったかっっっ!!!!!」

 

「・・・・・っ。うん!!!はい、リュカッ。あなたっ。私はあなたのモノですっっっ❤❤❤❤❤」

 

 “またこの人の元に帰れた”と言う安堵と喜びに思わず涙を流して嗚咽を漏らすビアンカを、リュカは無言で抱き締めた、ただただ力強く抱き締めた。

 

 それはビアンカが何よりも、どんな言葉よりも待ち望んでいた事であり、そしてどんな甘い囁きよりもリュカの愛情と温もりとを直に感じられた瞬間であったのだ。

 

(私は、ずっとずっとこの人と共に生きる。いままでも、そしてこれからもっ!!!)

 

 改めて心の底から、否、魂の芯からそう思い直したその後で、リュカ達はジャミの断末魔の叫びを聞いて駆け付けて来たゲマによって石にされてしまうのだが、それから解放されてビアンカを大神殿から助け出し、無事に救出したその後で。

 

 リュカはまた、ビアンカを何も言わずに抱き締めた、“良かった”、“君が無事でいてくれて・・・!!!”と、ただそれだけを彼女に告げた以外は、彼は多くを尋ねなかった。

 

 そんな彼の強さと真心と暖かさとをビアンカは生涯忘れなかった、それどころかそう言った夫の何処までも真面目で真っ直ぐな思いに触れた刹那、ビアンカの全ては彼一色に染まって行き、青年国王が自分に向ける以上の超絶的で確かなる気持ちを、逆に彼に抱くに至っていたのだ。

 

「有り難う、ビアンカ・・・」

 

「あなた・・・」

 

「もう一度言うよ?君はね、僕の為だけに生まれて来てくれた女の子なんだよ。単に僕の妻になって共に歩んでくれるだけじゃなくて、僕をより高みへと導いてくれる為に・・・!!!」

 

「リュカッ、あなた・・・っ❤❤❤❤❤」

 

「誰よりも何よりも愛しいよ?うんとうんと大事だよ、君のことが。自分よりも遙かにね・・・!!!」

 

「・・・・・っっっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」

 

 だからバスマットレスの上で寝転びながら、その言葉を聞いた直後に。

 

 ビアンカは堪らなくなって再び夫にしっかりとしがみ付いていた、“私はこの人と共に歩むんだ”、“何があってもずっとずっと、永遠に・・・っ!!!”。

 

 瞳にある種の光りを滾らせながらも愛妻王妃が決意を新たにするモノの、今のビアンカはリュカに対する超慕と狂愛に満たされており、それだけが彼女を突き動かしていたのである。

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