リュカは端から見たならかなり穏和で優しい部類に入る人間であったがしかし、本人は必ずしもそうは思っていなかった。
彼の中にも怒りがあった、憎しみがあった、特に両親の仇であり、また自分の最愛の妻であるビアンカを
その三匹は特に念入りに始末を付けて完全に宇宙から抹殺させた、最後の瞬間に断末魔の叫びを挙げて魂もろとも全世界から消え去っていったゲマ達はもう、覚えていても仕方が無かったがリュカにとってはいくら憎んでも憎み足りない存在だった訳である。
「・・・・・」
(あんまり憎しみに囚われていると、僕も魔道に堕ちてしまうかもな・・・)
一息入れる合間にふとそんな事を考える青年国王であったが、世界最強剣士の一人にして勇敢な戦士であったパパスを父に持ち、一方でズバ抜けた霊力を誇る聖巫女マーサを母として産まれたリュカには確かに、強さと優しさに加えて逞しさとしなやかさ、そして何よりー。
人々を勇気付けては高みへと導いて行ける特殊な力があった、それらを駆使してビアンカを始めとする“天空の一族”を率いて魔界へと乗り込み、ミルドラースやエスタークすらをも討伐する事に成功した彼であったが、そのリュカをもってしても“自分の心の闇”を祓い清めるのは中々に至難な業だったのだ。
だけど。
「ビアンカ、可愛い・・・」
「あなた、嬉しいの・・・」
そんな花婿も自身の最愛の花嫁にして王妃であるビアンカと居る時は、全てを忘れて優しい気持ちになる事が出来ていた、自分が人間である事を実感させてくれる存在、自分の心の中にも暖かさがある事を実感させてくれる存在、それこそが彼にとってのビアンカだったのでありその逆もまた然りであった。
ビアンカにとってのリュカもまた、自分にとっての最愛であり生き甲斐であり、自分の生きる意味そのものであった、何よりも掛け替えの無い存在だったのである。
「ねえリュカ・・・」
「なにさ?ビアンカ・・・」
「私ね?あなたに出会えた事を神様に感謝しているのよ・・・?」
「・・・・・」
「もう絶対に何処にも行かないでね?絶対に私を離さないで・・・」
麗らかな日差しの下、グランバニア城の中庭で睦み合っていた際にビアンカは夫にそう声を掛けたのだったがそんな彼女は。
幼い頃から冒険を共にし、また長じてからは身も心も魂すらも結ばれて、ずっと彼と共に在り続けて来たビアンカはだから、リュカが“自分の中の強敵”と終わりの無い戦いを繰り広げている様を目にするに付け、とてもいたたまれない気持ちになった。
「ねえビアンカ」
「んん?なぁに、リュカ・・・」
「君から見た場合、僕って本当に優しいと思うか・・・?」
そんな愛妻王妃にある時、リュカが言葉を掛けて来た。
「みんな僕を優しいと言うけれど・・・。僕は時々、自分で自分が良く解らなくなるんだよ。僕は今まで多くの
「うん、絶対にそうよ。優しい人よ?あなたは・・・」
幾分、自信なさげに質問して来る夫に対してビアンカがハッキリと応える。
「あなたは何時だって色々な事に心を配ってくれているわ?それに今だって自分の過去を振り返って苦悩しているじゃないの。それはあなたが優しい人だからだわ、憂いを知っている人だからだわ!!?あなたはとっても優しくて強い、私の自慢の夫なの。だから胸を張っていて欲しいの・・・」
「・・・僕はいつも優しくしようとしている訳じゃ無い、ただ人として当然の事をしようとしているだけなんだ。それに自分で自分の事を“優しい人間だ”とか言っちゃってるヤツって、ちょっと信用出来ないだろ?そう言うのって他人から見ないと良く解らないもんじゃないか」
「・・・でも、だけど。あなたはとっても暖かい人だわ?私に触れる時だって、凄く優しくしてくれるじゃない!!!」
「それは優しい気持ちになれるからなんだ、君と居ると自然とね?それに君の事は大切にしたいんだ、傷一つ付けさせたくは無いんだよ。・・・僕にとって君は特別な人なんだよ?それは間違いなくハッキリと解る!!!」
「・・・じゃあ、私にとってもあなたは特別な人だわ?だって私も同じだもの、あなたと居るととても優しい気持ちになれるの。甘くて蕩けそうになるの、とっても愛しいのっ!!!あなたは私の全てなのよ?自分よりも誰よりも、物凄く愛しい人だからっっっ❤❤❤❤❤」
そう言ってビアンカは正面からリュカを見つめ、その唇に唇を重ね合わせた。
彼女とのキスはいつも切なくて恋しくて、とても甘酸っぱい味がするのだ。
「ねえあなた、知ってる?私ね、あなたと初めて会った瞬間に“私は将来この人と一緒に結婚するんだ”って思ったの!!!」
「・・・えっ。本当に!!?」
「うんっ❤❤❤❤❤」
嵐のように激しい接吻を満喫した後で、花嫁が花婿に告げるがそれに拠るとー。
まだ赤ん坊だった彼に出会った瞬間に、ビアンカの脳裏には祝福を受けながら共にヴァージンロードを歩く、大きくなった自分達の姿が浮かび上がって来て一瞬、何の事だか解らなかったが続いてそれが“正しい事だ”と胸の内で感じたのだ、と言う。
世の中にそう言う人が居るのは事実であるが、まさか自分の妻がその一人であったなんて!!!
「・・・ビアンカ、おいで?」
「あ・・・っ!!?」
そんな愛妻王妃からの言葉と自分への思いに堪らなくなってしまったリュカは彼女を力強く抱き寄せる。
「ビアンカ。どうも有り難う、君と出会って結婚出来て。こんなになれて幸せだよ、僕は!!!」
「・・・もうっ。リュカったら❤❤❤❤❤」
そんな夫にクスリとしつつもビアンカは自身もまた、彼に身を寄り添わせてウットリとなるモノの、そんな夫婦を祝福するかのように、天空では日輪が煌々と照り輝いていた。