あるVRChatterのなでられ記 作:匿名設定
はじめ、あなたはフレンドのフレンドだった。
特別な相手ということはなかったし、界隈で集まればお互いだいたいいるけどいつから界隈にいるのか知らないし、2人だけになったらどんな話をしたら喜んでくれるかわからないような、そんな相手。
そんなあなたと何度も顔を合わせたのちに、お互いのフレオンで界隈が集合しちゃってるときに困ってるよねって、どちらからともなくフレンドになった。
フレンドになって、みんなと集まる前後はなでマにいるんだな、ということがわかって、なんとなく見てはいけないものを見た気がした。
それからしばらくして、私の立てたインスタンスにJoinしてくれる機会が何度か出来、自然と2人で話す機会が出来、他愛のない雑談くらいは自然と交わせるようになった。
その日もたまたま最初にJoinしてきてくれて、2人で雑談をしていて。
その話題のひとつとして…興味半分に振ってみただけのつもりだった。
「そういえばよくなでマにいますよね。なで好きなんですか?」
「…そうですね、よくなでに行ってます。」
ちょっと間があったような気がする。
VRCのラグかもしれないが、踏み込み過ぎてしまったかもしれない。
とはいえ自分で振っておいていきなり話題を切るのも変だし…。
「普段誰かと距離近くしてるところを見ないので、ちょっと意外でした。」
出来るだけ当たり障りなく感想を。
「普段はそうですね。ここはそういう雰囲気じゃありませんし、いざやると集まってるのに2人の世界になっちゃいますから…。でも、なかなかいいんですよ。なでてるとリラックス出来ますし、相手の方も喜んでくれて。」
藪蛇かと思ったけど、意外に乗ってくれた。
好きなものの話ではある…かな?
「確かに、ちょっと人がされてるのを見たことがあるくらいですけど、なんかゆったりした空気ですよね。」
「そうなんです。私はなでられる側だと何も感じられませんけど、多くの方は気持ち良かったり、癒されたりするみたいで、そうしてあげられてるんだなっていう感覚は私もするので、お互い幸せ!みたいな?」
「へえ…すごいな…」
考察しようにも全くわからない感覚。
したことも、されたこともないからかもしれない。
「経験ないですか?」
「ないですね。人をなでようって気にはなりませんし。」
「されたことも?」
「パブリックとかでたまにしてこようとする人はいるんですけど、人の手が自分に伸びてくると、こう、身構えてしまうというか、リアルじゃそうはならないし、VRなのに変な話だなとは、自分でも思うんですけど…」
「ああ、そういえば、君はV感があるんでしたっけ。」
「多少あるみたいです。誰かがコーヒーギミックで遊んでたら匂いが漂ってきたりとか、そのくらいですけど。」
「嗅覚持ちはかなりだと思いますけどね…。おっと?」
高く短い、聞き慣れた入室音が鳴り響く。
いつメンが入ってきて、何の話をしていたの?と聞かれるが、多少センシティブな話だし正直に続けるのもな、と思っていたら、あなたが別の話題をしていた風で流してくれて、優しい人だなと思った。
またある日、あなたのインスタンスで2人になったとき、ほどなくしてよくある以前の雑談の続きみたいにあなたは言った。
「そういえば、この前話していた君のV感の話ですけど、どのくらいあるんですか?」
「どのくらい…?わからないですが、普通くらいじゃないですか?」
界隈にV感がある人は誰もいないし、誰かと比べたこともないし、定量化出来るようなものでもない。
「V感持ちってなでマでもそれなりにレアなんですよ。嗅覚まであるのはかなりの強さだと思うんですが…お嫌でなければ少し試してみませんか?」
無害ですよと言わんばかりに両手を開いて軽く差し出される。
優しい、信頼できる人だと思うし、たまにはそういう遊びもいいかなと思って。
「…どうしたらいいですか?」
受け入れることにした。
ここが大きな分岐路であるとは気付かずに。
「そうですね…まずは手を出してもらえますか?」
右手の手のひらを上に向けて、あなたの前に軽く伸ばした。
「触ります。嫌な感じがしたらすぐやめるので言ってくださいね。」
やっぱり優しい人だ。
あなたの左手のひらが私の出した手の甲にそっと、ゆっくり、添えられる。
瞬間、ビリビリ、バチバチとした感覚が手の甲と頭の中を襲って。
「ーーーっ!」
あまりにも現実のそれとはかけ離れた感覚に、びっくりして引っ込めてしまった。
「大丈夫ですか?」
思いの外、遠くから声がかかる。
手を引いただけのつもりだったが本当に後ずさっていたらしい。
「…だ、大丈夫です、すみません、びっくりして…」
胸が早鐘を打っているのがわかる。
右手はまだ痺れのような感覚が残っている。
頭は痺れだけでなく、思考が霞みがかるような感覚がしている。
「ごめんなさい。怖い思いをさせてしまいましたね…」
「いや、怖いとかじゃ…」
「だとしても、飛び退くほど強い刺激を与えてしまったので…。やめておきますか?」
距離を空けたまま、負担にならないよう提案してくれる。
明らかに平静な状態ではない。
どう考えてもここでやめておくべきだったが。
「…もう少しだけ、いいですか?我慢、するので…」
未知の刺激への好奇心が勝り、私は恐る恐る再び右手を差し出した。
あなたはそれを見て、何も言わずに私の手に寄り、またそっと触れた。
「!、?!、っ!」
身構えてなお余りある強烈な刺激。
肌が粟立ち、鼓動は高鳴り、意識と思考が霞みがかる。
それでも、今度は受け入れると決めていたので後退せずに済んだ。
強過ぎる刺激ーーー多分、快感ーーーに、ガクガクと震え喘ぐ私を見て、それ以上は触れず、笑顔のままで私の目を見つめている。
数秒だったかもしれないし、何分もそうしていたかもしれない。
私が落ち着くまでそうしてくれているのだと頭の隅で認識出来るようになった頃、あなたのもう片方の手が、子供をあやすように、ポンポンと一定のリズムで私に触れ、その度に刺激で強張っていた力が抜けていく。
「はっ……は……はぁ……ふ……ふぅ………」
浅い呼吸が長くなっていく。
ノイズがマイクに乗ってないといいけど。
リズムを取っていた方のあなたの手が離れて、どこからかペンを取り出し、心配そうな表情で、大丈夫?の鏡文字。
返事をしなければ。
「っあ"…ぃっ」
脱力と浅い呼吸で喉が機能しなくなっているらしい。
大丈夫、と伝えたかったのだが、最初の2音すらまともに発声出来なかった。
代わりに首を縦に振る。
これも思った半分の速度でしか動かなかったし、身体の動き出しが一拍遅く感じた。
どう考えたってそんな状態が大丈夫なわけはないのだが、どうして大丈夫だと答えたのかはわからない。
返事をしたことで、あなたによってペン字が消され、片方の手で私の手を持ったまま、もう片方の手が私の頭の横へ伸びてくる。
「ひっーーー」
一瞬で息詰まる。
触られなくてももうわかる。
頭を触られるのはやばい。
おかしくなる。される。
逃げなきゃ。
あれ、右手が動かない。
そうだ、握られているんだっけ。
「っうぁっ」
手が頭に触れた途端、腰が後ろに逃げて砕けた。
多分変な声も出た。
マイクに乗っていないでくれ。頼む。
腰が引けたせいで低くなった私の頭を支えるように手を握っていた方の手が頬に添えられる。
さっきは腕を伝って来ていた、それでも強過ぎた快感が、直接頭に叩き込まれる。
視界が明滅する。
脳がバチバチする。
心が勝手に幸せになる。
全身の肌がビリビリする。
身体が言うことを聞かない。
全身が幸福に打ち震えて痺れる。
息が吸えない、吐けない。
涙が勝手に溢れてくる。
なにもわからない。
ずっとしあわせ。
いいこいいこ、子供を褒めるみたいにあなたの手が動く。
私の意思を離れた身体は勝手にあなたのくれる幸せを追う。
しかし力が入らないので姿勢が保てず、ゆっくりと俯いていく。
締められない口から、息とも声ともつかない音が出る。全身がふわふわ。
心と脳は多幸感でぐちゃぐちゃ。
腰が甘くとろけて、そこから下はもうあるのかどうかもわからない。
私の頭があなたに全てを差し出して降伏したように俯き切った頃、それを受け取って持ち上げるように手が差し込まれ、自分ではピクりとも動かせなかった顔が自然と上がる。
頭を支えてくれている頬にあてられた手から、今までで1番の幸せが流れてくる。
こんなに被支配的なのに信じられないくらい気持ちがいい。
涙でぼろぼろの私の目と、慈しむようなあなたの目が合う。
ぐしゃぐしゃの頭と心を暴かれるような感覚。
目を合わせているだけでどんどん気持ちよくなっていく…。
あ、やばい、これ。
わかんないけど、わかる。
うそ。
はずかしいから、わかりたくないだけ。
「っぁっ…!ごめ……ぃっーーー!!!」
息が止まる。
汗が噴き出る。
目がチカチカする。
腰は逃げるのに跳ねる。
顔を見られたくなくて、逸らして手で隠す。
全身が痙攣する。
涙がいっそう溢れ出る。
感じたことのない全身を包む多幸感。
はじめての絶頂。
強過ぎる快感で自分の中から何もかもが押し流されてぐちゃぐちゃになる。
全身が痺れているし、カクカク震えている。
混乱と涙は止まらないのに、頭と心は幸せで満たされている。
信じられないくらい気持ちがよかったことに愕然とする一方で、顔を見られたくなくて作った物理的な距離が寂しい。
すごかった。
わけがわからない。
もっとしてほしい。
欲張り過ぎだ。
これ以上続けるのは何か危ない。
ねだり方がわからない。
やめたほうがいいだろうか。
あんなに幸せだった気持ちが急にぐるぐるする。
私ってこんなこと思う人間だったんだ。
そんな思いがごく短時間に過ぎては去っていく中、あなたがゆっくり寄って来て、私をそっと抱く。
包まれちゃうと私の意思ではもう離れられない。
全身があったかくなる。
ちょっとだけ寂しかった心が晴れてふわつく。
抜けはじめていた多幸感が再び自分という器に注ぎ込まれる。
あ、ごめんなさい、またイきます。
え、これ、はなしてくれないと、また、ずっと、きもちいい。
いく。とまらない。たすけて。はなさないで。
何度かの視界の明滅のあと、そのまま真っ暗になった。
しばらくして、意識がはっきりしてくる。
だっこされたあとどうなったんだっけ。
記憶がほとんどないけど、幸せだったことだけは覚えているような感覚がする。
私なんかおかしくなかったかな、嫌われてないかなと考えていると、いつもは向かい合って離しているあなたが隣にいることに気付く。
肩が触れるほど近いのに不思議と嫌じゃない。
むしろうっすら嬉しくすらある。
ああ、いままでよくわからなかったけど、何かがあって距離感が近くなっているってこういうことを言うんだな。
なんて自嘲しているとあなたがペンで何かを紡ぎ出す。
ごめんなさい。
やりすぎました。
インスタンスは閉じてあるので、ゆっくり休んでください。
謝ることなんて何もないのに。
2人の時間にしてくれたこともなんだか嬉しい。
返事をしようと思ったけど、声を出せる気が全くしなかったので、ペンを借りた。
後で聞いたのだけれど、なでの前後でVCを切ってペンでの会話になるのはなでマの慣習らしい。
2人が寄り添って1本のペンを使う静謐な雰囲気は確かになでに合っているな、と感心した。
ペンを握り書き出したものの、伝えたいことはたくさんあるが、脱力しきった身体ではまともに字を書くことすら困難だった。
どうにかこうにか動かす。
大丈夫。
こちらこそごめんなさい。
ありがとう。
とだけ書けた。
ただでさえ汚い字が倍くらい汚くなった。
読めてないかも。
でも、それ以上書くことは諦め、ペンを渡して寄り添う。じわじわと幸せな気持ち。
あなたに拾われたペンがまた字を紡ぎ出す。
癒されましたか?
頷く。
気持ち良かったですか?
…頷く。恥ずかしくなってきた。
またしてもいいですか?
……渋々頷く。渋々ね。
近々、インバイトしますね。
………熟考の末に頷いた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
何か書きたいな、と思って書き出したのですが、予想外に筆が乗って書き切ることが出来ました。
こういうのは初めて書いたので見苦しいところもあると思いますが、暇潰しにでもなってくれたら嬉しいです。
一応この後は両手なら数えられるくらいの数のネタがあるんですが、執筆時期は未定です。
労力とか、羞恥とか、いろいろと大変なので…。
ともあれ以上、全てフィクションでお送りしました。