手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜   作:みやび

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15 結婚式

 さて、結婚式である。あの絶対皇帝シンボリルドルフの。

 

 学園を卒業するや否や、ターフで見せた豪脚もかくやという猛烈な追い込みで担当トレーナーである岡辺さんとの婚姻届を提出したルドルフだが、実際の結婚式までには結構な時間が空いていた。

 まあ、名門シンボリ家の次期当主という超有名人と、出自こそ庶民だが三冠トレーナーという天才的な実績を持つ男との結婚式だ。親族の説得やら各界への根回しやら、裏で色々と大変な苦労と調整があったのだろう。

 

 季節はうだるような暑さが続く夏。都心にある格式高い立派な神社での結婚式に、なぜかボクは親族やごく親しい友人たちが集まる本式から招待されてしまった。

 皇帝の晴れ舞台であり、かつてターフで覇を競った(全敗したけど)悪友からの招待状だ。さすがに行かないわけにはいかないだろう。だが、ここでボクには一つ重大な問題があった。

 服装である。

 

 学生の頃ならば、トレセン学園の指定制服という、冠婚葬祭どこへ着て行っても文句を言われない最強の正装があった。だが、残念ながらボクはすでに卒業してしまっているため、現状そのカードは使えない。

 いや、ボクのちんちくりんな幼児体型なら、こっそり制服を着て行っても見た目的には全くおかしくないしバレないかもしれない。しかし、さすがにボクも現役時代の実績に加え今はトレーナーとしてそこそこの有名人になってしまったから、メディアや関係者に身分がバレる危険がある。いや、髪色考えればまず確実にばれるだろう。

 何より、もし制服で行こうものなら、あのルドルフに心底哀れまれる。「可哀想に、ヴィオラはまともなドレスの一着も持っていないのか……」と、ものすごく悲しそうな顔で哀れまれる未来が容易に想像できる。おめでたい席で、さすがにそれはボクのプライドが許さなかった。

 

 とはいえ、ボクはドレスの作法やブランドなんて全く分からない。

 そこで、正真正銘の令嬢である担当のアルダンに相談してみたのだが、彼女が分厚いカタログとともに持ってきた提案が、ゼロの数が一つおかしいくそ高いオートクチュールのドレスばかりで完全にビビってしまった。

 

「でも、トレーナーさん。一緒に参列するカップルは、服装の格やテイストが揃っていないと、それはそれでマナーとして問題ですよ?」

「いや、なんでいきなりカップルの話になってるのさ」

「ふふっ。実は私も、今回の結婚式に招待されておりますので」

「へー、そうなんだ。家同士の繋がりかな」

「ですから、エスコートするトレーナーさんと服装を合わせないと」

「いや、だからなんで?」

「私たちが、愛し合うカップルだからです」

「なんで!?」

 

 いや、百歩譲って、万が一にも恋人という関係性に近しいものだと仮に認めたとしてもだ。公式な結婚式の招待状の扱いで、ペアとして呼ばれるのはおかしいだろう。

 

「大丈夫です。私の『婚約者』という同伴枠の扱いで、公式にペアにしてもらいましたから」

「してもらいましたってなんだよ! どうやってルドルフの結婚式の席次を勝手にいじったんだよ!?」

「メジロの力を、あまり舐めないでいただきたいですね」

「こんなくだらないことに家の力を使うなよ!」

 

 まあ、シンボリ家とメジロ家は昔から付き合いも深いし、特にアルダンラモーヌ姉妹とシリウスはいとこ同士だったりして血縁がある部分もある。仲がいいから、ちょっと根回しをしたとかそういう裏事情なのだろうが。それにしても外堀の埋め方がエグい。

 

「でもさ、こんな高いドレス、着るのも汚すのも怖いんだけど。そもそも、あんな裾の長いドレスなんて着て、まともに動ける気がしないよ」

「まあ、トレーナーさんは普段からスカートすら穿くのが嫌いですもんね」

 

 普段のボクの基本装備は動きやすいジャージだし、ちゃんとした格好をするときはズボンのスーツだ。

 スカートなんて、学園の制服で指定されていたから渋々穿いていただけで、プライベートで着たことなど一度もない。ましてや、アルダンの提案するようなごつくて重いドレスなんて着せられたら、絶対に自分の裾を踏んづけて盛大に転ぶ自信がある。

 

「うーん……もういっそ、勝負服でよくない?」

「トレーナーさんの、あの現役時代の勝負服ですか? 本気ですか? あれで神聖な神社の境内を歩けるとお思いですか?」

「いや、大観衆の視線に晒されるターフのど真ん中で走るのに比べたら、なんてことないでしょ?」

 

 ウマ娘にとって、自身の魂の象徴である勝負服もまた、れっきとした正装として認められる服装の一つだ。

 黒と紫を基調としたボクのハイレグレオタード型の勝負服なら、色合い的にもそこまで派手じゃないし、まあいいかなと思ったのだが、アルダンはひどく渋い顔をしている。

 なるほど。確かに、アルダンが着るであろうメジロ風のフリルがついたお清楚な勝負服と、ボクの機能美あふれるレオタード勝負服では、横に並んだ時に全くテイストがマッチしない。ペアっぽさを気にする彼女が悩むのも無理はない。

 

「安心してよ、アルダン。そんな君のために、今日に合わせて『新勝負服』を用意してあるんだ」

「……へ?」

「機能美を極限まで生かした、最新鋭の新勝負服だよ」

 

 アルダンは、学園のイベント事や日々のレースでコンスタントに好成績を残しているため、URAから付与される勝負服作成の権利枠が余っているのだ。そのうちの一つのデザインをボクが任されたので、密かにこの日のために発注して作っておいた勝負服である。

 

 ボクのものをベースにしたハイレグレオタード型を基本に、脚のストライドと腕の振りの動きを極力阻害しないようにカッティングを調整。さらに豊満なアルダンのダイナマイトな肉体が不要に揺れたりして走りにくくならないように、走りの衝撃からしっかりと押さえつけて補強する一方でぴったりと張り付いて空気抵抗も配慮した、機能美あふれる特製勝負服だ。

 もちろん、黒とメジロの緑を基調としたカラーリングにしてメジロっぽさの意匠も残しているし、これならボクの勝負服と並んでも完全にお揃いのペアっぽさが出るだろう。

 走ってよし、ボクのパートナーとしての見た目もちょうどよし。まさに一石二鳥の完璧な仕上がりだ。

 

「ということで、今日の結婚式は二人でお揃いのこれで行こうね!」

 

 ボクが自信満々に新しいレオタードを広げて見せると、アルダンの美しい顔の表情が、ピキリと若干引きつっていたような気がした。

 きっと、突然のサプライズプレゼントに感動して言葉を失っているに違いない。

 

 そして迎えた結婚式当日。

 二人してピチピチのハイレグ勝負服で参加した夏の神前式は、結果から言えばとても楽しかった。

 

 白無垢姿のルドルフは、ターフで見せる威厳とはまた違った、息を呑むほど美しい花嫁姿だった。なんだかんだで彼女は終始幸せそうに微笑んでいたし、その横に立つ岡辺トレーナーは、皇帝の重すぎる愛と夏の厳しい暑さに当てられて完全に水分を抜かれた植物みたいに萎れていたが、まあ新婚さんだからしょうがないだろう。ご愁傷様である。

 

 一方、ボクの隣では、アルダンが真っ赤な顔をしてずっともじもじしていた。

 厳かな神社の境内で、メジロの令嬢がその豊満な体のラインを隠そうともしない際どいハイレグレオタードを着ているのだ。当然ながら、参列者たちからのギョッとした視線や、意味深な注目が一身に集まっている。普段は堂々としているアルダンが、恥ずかしそうに太ももをすり合わせ、ボクの腕にぴったりと身を寄せて隠れようとする仕草は、控えめに言ってとても可愛かった。

 

 披露宴の席で、親族席に座っていたラモーヌがボクたちの姿を見るなり、深くため息をついてこう言った。

 

「……あなたたち。そういう痴態を晒すプレイは、外じゃなくて家の中だけでやりなさい」

「え? プレイってなんのこと?」

 

 ボクが純粋な疑問を口にすると、ラモーヌはこめかみを押さえてそれ以上何も言ってくれなかった。

 痴態も何も、これはウマ娘の神聖な勝負服なのだから、堂々と胸を張ればいいのに。アルダンも顔から火が出そうなほど赤くなっているし、大人の女性たちの考えることはボクにはどうにも意味が分からなかった。

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