手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜   作:みやび

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19 年末のレース

 さて、うちのチームのもう一人のメンバーであるマックちゃんだが、秋から冬にかけてのレースでは非常に安定した走りを見せていた。ジュニア級の重賞において、1戦は危なげなく勝利を収め、もう1戦は距離が短かったせいで最後に1人抜かれたが2着という結果だった。

 そもそも同期のウマ娘たちと比べても彼女の基礎スペック自体が完全に圧倒的である上、レース中のペース配分や駆け引きも決して下手ではない。ボクが教え込んだ各種スキルも上手く使いこなしている。だから、ある程度以上の距離があり、スタミナとパワーが活きる舞台なら、同世代相手に負ける気は全くしなかった。

 

 そうして季節は巡り、その年のジュニア級の総決算であるホープフルステークスの日を迎えた。

 ちなみに先輩であるアルダンのほうは、年末の有馬記念ではオグリちゃんたちの末脚に惜しくも屈して2着だったが、天皇賞やジャパンカップでの戦績を総合的に見れば、ボクが内心目標としていた年度代表ウマ娘の選出は十分に期待できるだろう。トレーナーとしてはホッと胸をなでおろしているところだ。

 

 そして、肝心のチームの末っ子であるマックちゃんだが……。

 

「……マックちゃん。どうして、その勝負服になったんだ」

 

 中山レース場の控室。出走前の最終確認のために彼女を振り返ったボクは、頭を抱えてその場にしゃがみ込みそうになった。

 目の前に立つマックちゃんの勝負服が、どう見ても布面積の少ない『白ビキニ』だったからだ。

 ただでさえボクの基礎トレーニングの賜物でムチムチに育ち切った暴力的な肉付きが、一切の隠し立てなく晒されている。はちきれんばかりの胸元と、引き締まりつつも豊かな尻から太もものラインが合わさって、純真な青少年の性癖を木っ端微塵にぶち壊さんばかりの破壊力を持った見た目だ。

 というか、普通にメジロ家らしい上品な勝負服をオーダーメイドで作っていたじゃないか。へそチラが少しセクシーな感じの、黒と緑を基調としたあのカッコいい勝負服だ。

 一体全体、この布地が圧倒的に足りない別の勝負服はどこから出てきたんだ。

 

「それならたぶん、6月のビューティードリームカップの賞品かと」

「あー……」

 

 隣で付き添いをしていたアルダンの指摘で、ボクはようやく思い出した。

 確かにあの花嫁サバイバルレース、イベントの趣旨とか逃げるボクを捕まえるとかいう目的を全部ぶっちぎって、マックちゃんが空気を読まずに全部を無視して無事1位になっていた。そのため、彼女はURAから特製の花嫁衣裳風勝負服をゲットする権利を得ていたのを思い出す。

 でも、あそこでもらえるのは普通、ウェディングドレスをモチーフにしたフリルたっぷりの可愛い花嫁系勝負服のはずだ。

 どうしてそれが、こんなドスケベな白ビキニ衣装になっているんだ。

 

 いや、よくよく観察してみると、脚を包むストッキングは純白のレース地だし、腕にはめた長手袋も青いリボンがチャーミングなレース仕様だ。おまけに腰のあたりにはパレオのような白いヒラヒラがついているから、一応ギリギリで花嫁をイメージした意匠になっている……のか? 

 でも、メインの布地が白ビキニなのは絶対にダメだろ? エッチ過ぎないだろうか。いろんな意味で頭の中でサイレンが鳴っているが、とはいえURAが許可を出したからセーフなのか?

 そんなことを悩んでいるとマックちゃんがどや顔して説明し始めた。

 

「メジロの勝負服も決して悪くはないのですが、私、トレーナーさんの勝負服を見て思ったんです。布が少ない方が動きやすいし空気抵抗がへるから速いのではないかって」

「……トレーナーさん?」

 

 アルダンからのジト目の視線が痛い。

 いや、ボクの真似をしてこれを着たとは絶対に思わないでほしい。だいたい、ボクの勝負服は極限まで動きやすさを追求したハイレグのレオタード型だからお腹のへそは出ていないし、全体的にここまでエッチな造りにはなっていない。

 

「いいえ。トレーナーさんのあの勝負服は、十分にエッチで破廉恥ですよ」

「そんなことないもん!! ボクはちんちくりんだから健全だもん!!」

 

 ボクが必死に抗議するが、アルダンの冷たい視線は変わらなかった。

 そんなこんなで本人の強い希望であり、デザインのレギュレーション的にもURAのOKが出ているということで、真冬の12月末に白ビキニ姿でGⅠ競走の勝負を挑むマックちゃんという、前代未聞の化け物みたいな存在がターフに発生することになってしまった。

 

 当然ながら、この衣装は凄まじい話題になった。そりゃそうだ。ただでさえ発育の良いムチムチの中等部生が、真冬のレース場で白ビキニで歩いているのだ。最初は「品位に欠ける」「教育上よろしくない」と一部で反発やクレームが起きそうになったらしいが、彼女の担当トレーナーが「あのヴィオラレジーナ」だと世間に知れ渡った瞬間、「ああ、あの人の教え子なら仕方ないな」みたいな謎の納得の反応で収まってしまったらしい。

 なんでだよ。「痴女の教え子は痴女」って題名の記事を勝手に書いてボクのせいにしたスポーツ紙の記者、絶対に許さないからな。ボクの現役時代の写真と並べていたが、ボクの方が健全だろう。

 あと、厳格なメジロの本家に何か言われてお叱りを受けないか、ボクとしてはヒヤヒヤして非常に怖い。一応、当主であるお婆様も観戦に来ているはずだ。ラモーヌは「面白いじゃない」と笑って面白がっているが、いざという時になってかばってくれるのだろうか。

 

 しかし、そんな周囲の戸惑いやボクの胃痛など一切気にせず、マックちゃんはレース当日も堂々とパドックを周回していた。

 動きそのものは優雅で、気品あるメジロらしいポーズをとっているのだが、いかんせん格好が格好すぎて全く上品に見えない。観客席の最前列に陣取るカメラマンたちからのシャッター音が、異常なほどの密度で鳴り響いてうるさい。

 周りの観客や他の出走ウマ娘たちは、そんなマックちゃんの常軌を逸した様子に完全に飲まれていた。いや、担当であるボクだって飲まれているし、アルダンも若干飲まれている。ラモーヌだけが腹を抱えて楽しそうに笑っている。

 当の本人だけが、恥ずかしがるどころか立派な胸を張ってどや顔で歩いている。だから胸を張るな。でけえんだよ、色々と。

 

 さて、いよいよホープフルステークスのレース本番である。

 舞台は中山レース場の内回りコースで行われる2000m。その年の一番最後に中央で開催される大レースであり、秋から連続して使われてきた芝はすでにボロボロで、ほとんどダートみたいな荒れ果てた状態になっている。純粋なスピードよりも、タフな馬場を蹴り抜く圧倒的なパワーとスタミナが求められるレースであり、基礎トレーニングを積んだマックちゃんには最高に向いている条件だ。

 そんな荒涼とした冬のコースに、さっそうと降り立つ純白の白ビキニマックちゃん。

 そのあまりにも堂々とした姿を見ていると、徐々に「実はマックちゃんの格好こそが、ウマ娘として一番正しい勝負服の形なのではないか」という謎の錯覚にすらとらわれ始める。

 いや、冷静になれ。今は12月末の真冬だ。風が吹くたびに肌を刺すような寒さだぞ。あんなビキニ一枚で、本当に寒くないのだろうか。

 

「トレーナーさんは、あのレオタードで真冬に走っていて寒くなかったんですか?」

「いや、走ってる最中は体が熱くなるから、涼しくてちょうどよかったぐらいだけど」

「ほら。つまり、マックイーンもそういうことですよ」

 

 アルダンがしたり顔で言う。いや、だからなんでそこでボクと並列に語られるんだ。

 確かに現役時代、あのライオン丸やシリウスさんから「お前、見てるこっちが寒くなるから布を増やせ」と何度か真顔で聞かれたことはあるが。

 

 そんな話をしているうちに、次々と参加者たちがゲートに収まっていく。

 マックちゃんも白ビキニのまま気負った様子もなくゲートインし、特に問題もなくレースがスタートした。

 

 マックちゃんは今日も元気に前方の好位へと飛び出していく。いつもの彼女のスタイルである、先行抜け出しと逃げ切りの中間みたいな絶好のポジションだ。幸いなことに今回はハナを切りたがる逃げのウマ娘が一人いたので、マックちゃんは無理に先頭に立たず2番手にピタリとつけている。

 そのまま、荒れた芝を気にする素振りも見せず、強靭な太ももで地面をえぐるように蹴り立てながら、内ラチ際を丁寧にロスなく回っていく。

 向正面から第3コーナーを抜け、勝負所の第四コーナー。逃げていた先頭のウマ娘が、急なコーナーの中、疲労と荒れた地面に足をとられてわずかに外へと膨らんだ。

 マックちゃんは、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 膨らんだ先頭の内側、もっとも芝が荒れて誰も走りたがらないインコースを、有り余るパワーで強引に突いて前に出たのだ。

 無駄のない、まさにお手本のような完璧な先行抜け出しだ。

 そのまま短い中山の直線をぐんぐんと力強く伸びたマックちゃんは、追いすがろうとする周りのウマ娘たちをスピードとパワーの違いで完全に置き去りにし、後続を寄せ付けることなく無事に1着でゴール板を駆け抜けた。

 

 2着に数バ身以上の差をつける、あっけないぐらいの完全な圧勝である。

 

「トレーナーさん! やりましたわ!」

 

 ウイニングランを終えてターフから戻ってきたマックちゃんが、満面の笑顔で白ビキニ姿のままボクに向かって大きく手を振っている。

 冷たい冬の風の中で、湯気を立てながら輝く彼女の汗と笑顔。

 色々とツッコミどころは多すぎる一年だったが、それでも彼女がこうして怪我なく無事に、そして最高の結果を出してくれたことに、ボクは心からトレーナーとしての喜びを噛み締めていた。

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