手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜   作:みやび

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20 新年あけて

 さて、今年の年度代表ウマ娘だが、事前の予想通りアルダンが無事選出された。

 メジロ家悲願のタイトルということもあり、一族の方々は大変な大喜びらしく、ボクも担当トレーナーとして内輪のお祝いパーティに招待されることになった。

 といっても、ボクには立派な正装やドレスの持ち合わせなどない。となれば、正装として認められている勝負服の出番である。

 アルダンもボクとお揃いということで、あの夏に作ったハイレグレオタード型の新勝負服を着てくれている。

 残念ながら秋から冬の本番のレースでは、恥ずかしがって一度も着てくれなかった代物だが、こうして並んでお揃いの格好ができるのだからボクとしては大満足である。

 そんなことを考えながらメジロのお屋敷に通され、ホールみたいなところに到着したのだが……

 

「さて、メジロアルダンとヴィオラレジーナ、二人の婚約を祝って乾杯」

「まてまてまてまて」

「何か不満でも?」

「何もかも不満だよ!!」

 

 こじんまりとした慰労パーティだと聞いていたのに、婚約記念パーティってなんだよ。

 当事者であるはずのこちらとて、今この瞬間に初めて聞いたよ。

 当然でしょう? みたいな涼しい顔をしてワイングラスを傾けるなよ、ラモーヌ。

 

「説明を、きちんとした説明を求める!!」

「あら。うちの可愛いアルダンをこんな人前で辱めておいて、責任を取らないつもりかしら」

「辱めてないよ!?」

 

 この勝負服はれっきとしたURAも公認している、機能美にあふれた勝負服だよ! 

 

「もうお嫁にいけませんので、トレーナーさん、責任取ってくださいね」

「なにアルダンも便乗して畳みかけてきてるんだよ!」

 

 やばい。横を見るとラモーヌは当然アルダン側だし、上座で微笑んでいるメジロのおばあ様筆頭に、ずらりと並んだメジロ家の関係者たちも完全にアルダン側である。

 こんなアウェーの敵地のど真ん中に、ほぼ丸腰でのこのこやってきたボクが間抜けだったということだ。外堀どころか内堀まで完全に埋め立てられている。

 

「そもそも、あなた今年で18歳じゃない」

「そうだね、年齢的にはラモーヌと同い年だよ」

「あなた、自分がいろんなところから狙われているのに気づいている?」

「?」

「本当に、何も気づいていないのね」

 

 ラモーヌが呆れ果てたようにため息をつく。

 いや、こんな雑種上がりでちんちくりんなボクなんかの、どこに恋愛市場的な需要があるというんだ。いるとしたら一部の変態さんだけだろうと思うのだが。

 

「そもそもあなた、現役の学生時代から結構モテてたじゃない」

「????」

 

 ラモーヌが意味の分からないことを言い出した。

 モテ? モテってなんだ? モチの親戚か?

 そんなことを考えるほどボクには意味が分からなった。

 

「入れ替わり立ち代わり、いろんな人と食事に行ったり、お風呂で全身洗ってもらったりしてたじゃない。大人気だったわよ」

 

 いや、あれは違う。あれは女子力がゼロを通り越してマイナスだったボクを、みんなが哀れんでお世話してくれていただけだ。

 前世の知識に女子的な要素など何一つなかったし、こちらの世界に来ても孤児でそういった身だしなみを教えてくれる人もいなかった。おまけにレースと勉強漬けだったから、髪や尻尾、肌のお手入れ知識といった、女子力的な知識が軒並み怪しかったのだ。

 それを哀れに思った同級生たち……飛び級のボクから見れば、実質みんな二つ上のお姉さんたちが、見かねて助けてくれただけだ。

 美人のお姉さんたちに囲まれてワイワイやるのが楽しくて、ついつい調子に乗っていたのは否定しないが、モテという概念とは全く違うだろう。

 食事だって、大体複数で一緒に行って奢ってもらっていただけだ。こちらとて貧乏暮らしだったから入学してしばらくは全くお金がなかったのだ。稼ぎが入り始めてからは逆にお返しでいろいろ連れて行ったけど。

 

「後輩たちにも大人気だったでしょう?」

「いやまあ、一応生徒会やってたし、それなりに顔は広かったけど」

「学園祭の時に裏で開催されていた、6年連続ミスコン1位だったの知らないの?」

「なにそれ、そんなのあったの!?」

 

 裏で非公式のアイドル人気投票でもやっていたのだろうか。いや、でもそれで仮に1位になったとしても、愛玩動物的なマスコット人気でしかないはずだ。

 ルドルフやシリウスさん、それこそ目の前のラモーヌといった本物の美女たちに、ボクが勝てる気なんて全くしない。ただ、あのあたりでガチンコ勝負になると角が立つから、無害で愛玩動物なボクに組織票が集まっただけだとしか思えない。

 

「由緒ある家の縛りもない、フリーの天才。狙っている子、水面下にいっぱいいるわよ。まあ、アルダンが今の所は隣でがっちり牽制しているから近づけないだけで、これが外れたらラブレターで部屋が埋まると思うわ」

「そんなに」

 

 いやさすがに極端に盛りすぎだろうと思うのだが、周りのメジロ家の人々は「なんでこいつはこんなに暢気なんだ」という可哀想なものを見る目を向けてくる。

 いやいや、そんなことはあるまい。これはきっとボクを逃がさないためのメジロの巧妙な策略だ。

 

「競走者としても一流、トレーナーとしても一流。それだけでもすさまじい価値があると思わない?」

「まあ否定はしないけどさぁ……でも、ルドルフとかに比べれば大したことないじゃない?」

 

 ボクの反論に、ラモーヌが本日最大のため息をついた。

 

「で、アルダンはどうしてボクと結婚したいっていうのか、一度ちゃんと聞かせてほしいかも」

「先輩は、私が脚の不安で弱っていたころから、親身になって色々助けてくれたじゃないですか。あと、同室になって二人で暮らしていた時、とても楽しかったのもありますね」

 

 先輩という呼び方に、ひどく懐かしさを感じる。初めて出会ってから専属トレーナーになるまではずっとそう呼ばれていたので、実はそちらの期間のほうが長いのだ。

 というか、アルダンがボクを気に入っているポイントはそこなのか。

 アルダンの体が弱いという事実は前世の知識で知っていたことだし、姉のラモーヌと仲良くなった縁もあって助けたに過ぎない。三女神様との約束もあったし、前世の記憶に釣られてお節介を焼いただけに等しい。アルダンというウマ娘そのものを一人の相手としてちゃんと見ていたかと言われると、申し訳なさで首をかしげてしまう。

 あと、ルームメイトになったあの一年間。ボクは彼女にほぼ家事やお世話をされっぱなしだった記憶しかないのだが、あれを楽しかったと言っていいのかはかなり疑問である。いやまあ、ボクは甘やかされてすごく快適でよかったけど、アルダンがあれでよかったのだろうか。

 

 そんなこんなで、ボクの胸の中には後ろめたさしかないのだが……。

 

「先輩は、何が気になっているんですか?」

「いや、まずアルダンには何も不満はないよ。可愛いし美人だし優しいし」

 

 まあ、ここは本音だ。ちょっと愛情が重くて強引になる時があるが、基本的にはボクにべた甘で尽くしてくれるのがアルダンだ。トレーナーとして、そして先輩として、こんなことを言うのはちょっと情けないのだけれど。

 単純に、ボク自身のほうが彼女に釣り合っている気がしないのだ。

 お外向きの実績がどれだけあろうが何だろうが、中身は基本ダメな人間なのだ。お部屋もすぐにごみ屋敷にしてしまうし。

 

 ボクが耳まで伏せてしょんぼりしてしまうと、アルダンが優しく微笑み、ボクの頭をぎゅっと抱きしめた。

 顔面が、豊満でふわふわの双丘にすっぽりと包み込まれる。良い匂いがした。

 

「いいんですよ、先輩。私が先輩を、一生飼いますから」

「飼われるの!?」

「ええ。家事などはハウスキーパーさんを雇えばいいですし。先輩には、私の子供だけ産んでもらえるなら」

「やっぱりボクが産む前提なの!?」

 

 豊満な胸の中でじたばたともがくが、重戦車に鍛え上げられた彼女のホールドから逃れられるはずもない。

 つまり、ボクはもうどうあがいても逃げられないということだ。

 まあ、現役時代の賞金のおかげでお金だけは十分にあるから、彼女に飼われながら悠々自適で暮らせばいいのかもしれない。トレーナー業だけは、これからもやり続けるけれど。

 結婚式はきっと2年後、アルダンが成人してからになるだろう。

 こうしてボクは、抗うことを諦め、大人しく人生の墓場へと向かうことになったのだった。

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