手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜 作:みやび
さて、いよいよマックちゃんの世代のクラシック戦線が本格的に幕を開けるわけだが、実はこの年の世代はかなり層が厚い。
一番の強敵でありライバルとなるのは、同じメジロの血を引くメジロライアンだろうか。デビュー前にはマックちゃんよりも期待されていた逸材であり、現にそのパワーとスピードは最上位クラス。特にスピード勝負の展開になったら、今のマックちゃんでも勝てる気がしない。
ただ、なんというか……彼女はトレーナー選びが悪いというか、本人のレース運びが上手くないというか。純粋な能力以外の部分に、結構な隙がありそうな印象のある子だ。
ほかには、ハイセイコーさんの娘であるハクタイセイさんなんかもいる。
あの超有名アイドルの娘だけあってすごい美人な子であり、その実力もハイセイコーさんに全く劣るものではないと評判である。
というか、現役アイドルなのに結婚や出産が有りというウマ娘の生態系には、前世の常識との違いを痛感させられる。
あとは、アイネスフウジンさんか。昨年末の朝日杯を勝利し、ジュニア年度代表ウマ娘の座をマックちゃんと争った相手である。生粋の逃げでありながら、場合によっては先頭を譲ることもある技巧派の逃げを打つため、展開を読む上でかなり厄介な相手だ。
ほかには87年組といわれたメジロパーマーやダイタクヘリオス、ダイイチルビーも同期だがそのあたりは基本マックちゃんとクラシックレースでぶつからないだろうから置いておく。
「そんな強敵が揃う中でマックちゃんのレースプランを練りたいところなのですが」
「ですが?」
「今回は、特別ゲストを呼んでおります」
「シンボリルドルフだ。よろしく頼む」
「……なんでルドルフさん呼んでいるんですか」
アルダンが目を丸くして尋ねた。
「いや、この前ウマチューブの動画でさんざんボクのことをネタにしてくれたから、タダ働きさせてやろうと思って」
「たまには親友との友好を深めるのも悪くないだろう」
こいつの中で、ボクはどういう扱いになっているのだろうか。
親友とか言ったぞ、今。
「ひとまず、皐月賞の展開についてアドバイスをもらおうと思います」
「豪華なブレーンですね」
「私から見れば、マックイーン君は典型的な先行抜け出し型だろう? 序盤からいいポジションさえ取れれば、彼女のスタミナならそのまま押し切って勝てると思うが」
「いや、今回は前に行くライバルが多くてさ」
特に強い3名を含めて、今回の出走メンバーについての情報をルドルフに説明する。ルドルフは今でもレースの観戦ぐらいはしているだろうが、さすがに参加者一人一人の詳細な分析まではしていないだろうから、検討のための材料は必要だ。
出走表のデータをさらっと読み流したルドルフは、腕を組んで悩み始めた。
「ふむ……いや、それでもやはり、先行して前目に付けるのが最適解ではないか?」
「それは、逃げでフタバアサカゼさんが先頭を取る可能性が高いから不利じゃない? アイネスフウジンさんが無理に競り合わずに2番手につけると仮定すると、マックちゃんがどこにポジションを取るかが非常に難しい。後ろすぎるとハクタイセイさんに末脚勝負で差されてきつくなりそうだし、前すぎるとアイネスフウジンさんとのスタミナを削り合う真っ向勝負になりそうだし」
「ならば、いっそ後ろで脚を溜める形は?」
「マックちゃんには、ルドルフみたいな理不尽な末脚はないからきついよ。それに、後方でライアンあたりと真っ向勝負になったら勝てる気がしない」
ルドルフなら、中盤は後方でじっと控えて、第3コーナーから大外をまくるか、あるいは一瞬の隙を突いて内を鋭く突いてくるんだろう。だが、マックちゃんのトップスピードの限界値を考えると、後ろからでは前に行く有力ウマ娘に追いつけない可能性が高い。
それに、後方待機だとライアンと真っ向勝負になりかねない。さすがに展開の有利がない状態で、純粋な末脚勝負になったらマックちゃんじゃライアンに勝てる気がしない。
ああでもない、こうでもないとテーブルの上で白熱した議論を交わすボクとルドルフ。
アルダンはそんなボクたちを見て微笑みながら、温かいお茶を出してくれた。
さて、何時間もルドルフと話し合って決めた戦略だが、結論としては非常にシンプルなものに落ち着いた。
やはり前、2番手から3番手の好位で押し切るのが最も有利だから、レース序盤でそのあたりの一番いい場所を無理やり確保し、あとは力技で押し切るというものだ。
それを可能にするために、ルドルフと協力してマックちゃんにさらに磨きをかけさせたのが『独占力』のスキルだ。
自分にとって一番走りやすいポジションを力で独占し、それにより自身のスタミナ消費を抑えつつスピードを維持する。さらに、そのポジションから周囲のウマ娘に強烈なプレッシャーをかけることでデバフ効果まで生じさせるという、かなり贅沢で盛りだくさんな上位スキルである。
もともとルドルフのスキルなのだが、ボクがパクって得意技の一つとして使っていたものである。その関係でマックちゃんにもあらかじめ教えていたのだが、今回、皇帝ルドルフの監修により更なる改造が施されることになった。
ボクの使う独占力は、ほぼ100%が小手先の「技術」によって行うものだ。なんせボクのフィジカルは小柄な体格のせいでほかのウマ娘より劣る。だから、絶妙な位置取りや細かな加減速、あるいは視線誘導などで相手のペースを乱し、ポジションを独占する。
一方で、皇帝ルドルフの使う独占力は結構暴力的である。近寄ってくる相手を、その圧倒的なオーラと、場合によっては物理的なフィジカルで弾き飛ばしてポジションを奪い取るのだ。ボクの指導で筋肉をつけ、フィジカル的にはルドルフよりも恵まれているマックちゃんなら、間違いなくこちらの物理的な独占力の方が使いやすいだろう。
結果として、マックちゃんは技術と物理のどっちも使えるようになったので、さらに凶悪な上位のスキルへと昇華されている。
このスキルで、序盤からレース全体を支配する。それが今回のプランだった。
まあ、ほかにもルドルフと二人で色々な技術をマックちゃんに仕込んだのだが。
あまりにも熱中して一緒にやりすぎたせいで、アルダンが少し拗ねていたのはここだけの秘密だ。
そして迎えた皐月賞当日。
パドックには、新しい勝負服に身を包んだマックちゃんが姿を現した。
今回着用しているのは、昨年のジュニア最優秀賞に選ばれた特権として新たに作成したもので、前回の白ビキニのような過激な露出は完全に消え去っていた。
というか、黒と緑を基調とした全身タイツなので、顔ぐらいしか露出がない。
ただし、鍛え上げた体にぴっちりと密着しているため、彼女の豊満な体型と筋肉のラインが基本的に丸見えである。
「空気抵抗を減らしつつ、適度に筋肉を締め付けたほうがより強い力を発揮できるんですわ」
「まあ、間違ってないし、実際にそうなんだけどさぁ……」
特に筋肉のブレを防いで怪我防止に効果的だからトレーナーとして反対はしない。しないが、でもラインがくっきり出すぎていて、前回とは別ベクトルで色々とエッチな気がする。
URAの審査部局は、レギュレーションをもっと真剣に監査してほしい。
オッズは1番人気がアイネスさん、2番人気がライアン、3番人気がハクタイセイさんで、マックちゃんは4番人気だ。
ホープフルステークスから間が4か月空いているから、妥当な評価だろう。
ただ、その4か月の間、基礎トレーニングと実践的な練習をしっかりと積み重ねたため、彼女の能力は年末よりもはるかにパワーアップしている。
強靭なフィジカルはもちろんのこと、最近ルドルフと一緒に徹底的にスキルやテクニックを仕込んだから、先行抜け出しの完成度に関しては一切の隙がないはずだ。まあ、あとはその結果をご覧じろというところか。
ファンファーレが鳴り、一斉にスタートが切られた。
ゲートが開いた瞬間、マックちゃんが一歩先んじて綺麗に飛び出た。『コンセントレーション』と『盤石の構え』を合わせた、完璧で素晴らしいスタートダッシュである。
実は盤石の構えはボク自身が持っていないスキルだから、今回ルドルフ経由で特別に教えてもらったんだよね。やっぱりこのスキルがあると、スタートの安定感が一段階変わる。
素晴らしい出足を見せたマックちゃんは、そのままハナを切って前を行くフタバアサカゼさんにピッタリとつき、絶好の2番手を確保する。外から強引にポジション争いをしてこようとしたアイネスフウジンさんを、鍛え上げたフィジカルと独占力で軽く弾き飛ばし、その位置を死守した。
そのまま道中、ベストポジションをキープしつつ、マックちゃんの蹂躙劇が始まった。
鋭い視線、小刻みな動き、そしてタイミングを見計らった声で、周りのウマ娘のリズムを徹底的に乱していく。
『八方にらみ』に『魅惑のささやき』、各種けん制スキル、そして相手の息遣いから体力を奪う『スタミナイーター』まで、まさにやりたい放題である。
前方から絶え間なく放たれるプレッシャーとデバフの嵐により、後ろの集団の走りは完全にブレている。走りが無茶苦茶になり、集団そのもののペースが乱高下している。
これではライアンも相当難しいだろう。これだけ自分のリズムを崩された状態から、短い中山の直線で追い上げて勝つには、一定ランク以上の絶対的な能力と、決してぶれない鋼のメンタル、そして一瞬の隙間を縫う適切な進路を選べる頭脳が必要だ。ライアンは1番目の能力こそありそうだが、そのほかの二つの要素が決定的に足りていない。
まあ、そんな理不尽な三拍子がすべて揃っている奴なんて、ボクは横で観戦しているルドルフ以外に見たことがないが。
レースはそのまま第3コーナーへ。
ハイペースとデバフで完全にスタミナを失い失速しつつあるフタバアサカゼさんを躱し、マックちゃんが最内に鋭く切り込む。このあたりのコーナーリングの技術は中山を想定してさんざん練習したため、大柄でコーナーリングが外に膨らみやすくなるマックちゃんでも、完璧な軌道で上手く回れたようだ。
最後の短い直線。マックちゃんはそのまま後続を寄せ付けず、独走状態で力強く押し切り、見事1着でゴール板を駆け抜けた。
最後、ライアンが大外から剛脚で追い上げてきたが、あの絶望的な差から届くわけがない。とはいえ、あのボロボロのポジションから2着まで追い上げてくるライアンのポテンシャルには、素直に感心するが……。
ターフから戻ってくるマックちゃんは、少し調子に乗ったように、誇らしげに天に向かって1本指を掲げていた。
あの芝居がかったポーズ、絶対ルドルフの仕込みだろう。
隣で「どうだ」と言わんばかりにドヤ顔をしていたルドルフのほっぺを、ボクは無言で思い切り引っ張っておいた。
たいまにんマックちゃん