手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜   作:みやび

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 ぽんっ、という擬音が似合うほど、無事に子供が生まれた。

 これで晴れて、ボクはTS転生経産婦ウマ娘という属性の玉手箱みたいな存在になったわけだ。もうこれ、なんだかわけわかんねえな。

 

 子供は、ボクと同じ紫色の髪を持った、かわいいかわいいウマ娘だった。

 アルダンのような名家の気品はまだわからないが、まあ走る才能に関してはボクに似てあまりなさそうな子である。でも世界一かわいいから何の問題もない。

 ボク自身が現役時代にやっていたような自分の身を削って吐きながら努力してレースに出るような無茶をすればどうにかなるかもしれないが、そこまでやるのはお勧めできないしなぁ。それに、アルダンさんの体質の遺伝もあるかもしれないから、重い負荷にはそこまで耐えきれなさそうな気がする。

 

 まあ、将来どうするかはそのあたりは子供本人が大きくなってから考えればいいだけだ。

 今はただひたすらに、可愛い可愛いと甘やかしていればいいだろう。

 ただ、問題がないわけではない。この子は恐らく名無しだ。

 

 こちらの世界では、異世界の馬の名と運命を引き継ぐため、基本ウマ娘は生まれた時から名前がある。親もその名を直感的に理解するし、本人も自覚がある名前だ。

 だが、いい感じにウマソウルが引き継げなかった場合に、名前がない子が生まれることがある。歴史の授業で習ったが、時代や地域によってはそういう名無しのウマ娘が差別されることもあったとかなんとか。

 まあ、前世の人間社会の常識からすれば、親が愛を込めて勝手に名前をつけてしまえばいいだけの話だと思うんだけどね。

 そのあたりは落ち着いたらアルダンとゆっくり考えよう。

 

 さて、もう一つの問題は、マックちゃんのトレーナー業をどうするかだ。

 去年度、見事にクラシック三冠を達成し、年度代表ウマ娘になったメジロの至宝。今年はシニアの頂点として、天皇賞の春秋両方制覇を目指す大事な時期だろう。

 もちろん、子供をベビーシッターなどに預けて仕事を続けるのはそう難しい話ではない。ウマ娘の体力は凄まじいし、ボクの丈夫さも健在なので、働くこと自体は体力的に問題がない。

 

 とはいえ、子供は可愛いんだよなぁ…… もうずっと付きっきりで面倒を見ていたい……

 そんなことを病室のベッドでうだうだ考えていると、面会に来たアルダンがアドバイスをくれた。

 

「マックイーンさんもすでに選手として完成していますし、シニア級の期間は誰か信頼できる知り合いのトレーナーにお願いしてもいいのでは?」

「うーん、ここに来て担当トレーナーの変更かぁ。マックちゃんに悪いと思うけど……」

 

 一度、マックちゃん本人にも話してみよう。トレーナー変更はウマ娘のメンタルに影響を与えやすく、色々とトラブルも多い。

 とはいえ、この四六時中我が子を撫で回していたいという浮ついた気持ちで片手間に面倒を見るのも、頂点を目指すマックちゃんに対して不誠実だろう。

 

 後日、お見舞いに来てくれたマックちゃんに切り出してみた。

 

「ということで、ちょっと育休を取ることを考えてるんだけど、マックちゃんはどうかな?」

「かまいませんわよ」

「えっ、かまわないの!?」

 

 あっけなく、本当に秒でマックちゃんからOKが出た。少しは引き留められると思っていたボクは拍子抜けした。

 

「トレーナーさんの指導、結果は出ますけれどメンタル的には結構過酷ですし…… 菊花賞前の、あのバケモノが集結した野良レースは本気で泣きましたわ…… 思い出しただけでも胃が痛くなります」

 

 どうやら、ボクが良かれと思って開催した第一回ヴィオラレジーナ杯が、マックちゃんの心に深くトラウマを刻んでいたようだ。

 ということで、担当変更の許可はすんなり下りたのだが、そうすると今度は移籍先のトレーナーさん探しが始まる。

 

「ということで、岡辺さんどう? 天皇賞狙いのステイヤーの育成なら慣れてるでしょ?」

「すまない、最近色々と忙しくてな……」

 

 退院後、子供を抱っこして学園のトレーナー室に突撃、そのまま打診した岡辺さんには、申し訳なさそうに断られた。

 どうやらルドルフ関係で忙しいらしい。というかこの人、そろそろ現場のトレーナーを退いて、URAの幹部職員とかになりそうな気配がある。現状フリーのトレーナーとしてちょこちょこ色んな人にアドバイスしているようだが、学園外でスーツを着て働いている時のほうが多い気がする。皇帝の伴侶も大変だな。

 

「はいはーい! 頼れる天才ギャルトレーナーがアップを始めましたよー!」

「俵さんは即却下で」

「なんで!?」

「今年の秋、ジャパンカップや有馬記念テイオーちゃんとバッチリ競合するじゃない。あと、俵さんにマックちゃんを預けると、君の貞操観念のガバガバ具合がメジロのお婆様の逆鱗に触れてボクまで怒られそうだから」

「ひっどくない!? 私だって仕事とプライベートは分けるし!」

 

 まあ前者のテイオーちゃんとライバルになるという問題が大きいので、最初から選択肢から外していた。シニアになったらずっとバチバチのライバル関係になるのに、同じトレーナーが指導するのはお互いにきつかろう。

 

「ということで、二人のお勧めのトレーナーさんとかいないの?」

「そうだねえ……奈瀬さんのところとかどうよ?」

「クリークさんのトレーナーさんの?」

 

 奈瀬文乃トレーナー。去年、秋の天皇賞を勝ったスーパークリークのトレーナーだ。

 ボクっ子で、中性的な魅力を持つ天然美少女といった風貌の人である。トレーナーとしてはボクの1期上で、その見た目からウマ娘たちには大人気のトレーナーさんだ。美人はやっぱり得なのだ。

 

「奈瀬ちゃんなら中長距離の教え方も上手いし、あんまり自分の型に無理やりはめようとしなさそうだから、すでに完成しているマックイーンちゃんでも上手くやってくれるっしょ」

「フーム、なるほど。じゃあ、ちょっと挨拶に行ってくるか」

 

 そういうことで、ボクは奈瀬トレーナーのいるトレーナー室のドアを叩いた。

 

「はい、どうぞ。……ムラサキさん ご出産おめでとうございます」

 

 部屋に入ると、ショートヘアの奈瀬トレーナー出迎えてくれた。いつもの仏頂面だがやっぱり顔がいい。その後ろのソファでは、担当のスーパークリークさんがニコニコとお茶を淹れてくれている。相変わらず、どっちがトレーナーでどっちがお世話をされているのか分からない空間だ。

 

「ありがとう、奈瀬さん。突然ごめんね。実は今日、折り入って相談があって……マックちゃん、メジロマックイーンの今後の指導を、奈瀬さんにお願いできないかと思って」

「メジロマックイーンさんの!?」

 

 さすがの奈瀬さんも目を丸くして驚いた。無理もない。三冠ウマ娘の引き継ぎなんて、普通はあり得ない話だ。

 

「怪我をしましたか?」

「いや、次の目標は天皇賞春で、その前哨戦は阪神大賞典か大阪杯か悩んでるぐらいだね」

「ではどうして?」

 

 何かトラブルで長期間離脱する場合は所属を変えることはある。とはいえそういう場合でもベテランの治療が上手いトレーナーに依頼するから奈瀬さんには依頼しないと思うが……

 

「ボクが育休に入るからね」

「育休ですか?」

「そそ、子育てに注力しようかと思って」

 

 抱っこしているわが子を奈瀬さんに見せる。

 にぱっと笑うわが子はやはり世界一かわいい。

 

「ベビーシッターとかは?」

「ある程度お手伝いしてもらう予定だけどね」

 

 まあ常識的ではないのは確かだ。

 普通に考えて二度と手に入らないかもしれないトップクラスの担当を手放すなんて絶対しないだろう。だがまあ、ボクは現役時代の儲けもあるし、一生普通に暮らせる程度の資産はあるのだからがっつかなくてもいいだろう。

 

「マックちゃんは基礎的な体力もスタミナも、ボクのメニューで上限まで仕上がっている。デバフの知識や位置取りのスキルも、ルドルフと一緒に叩き込んだ。だから、今からプレースタイルを根本的に変える必要はないんだ。ただ、彼女の最高の状態を維持して、レースに向けたメンタルケアとスケジュール管理をしてくれる、信頼できる人が必要なんだよ」

 

 ボクが真剣に頭を下げると、奈瀬さんは少し顎に手を当てて考え込んだ。

 

「任せていただけるなら喜んで引き受けますが……」

 

 何となく腑に落ちなさそうな奈瀬さん。

 まあ非常識すぎて意味が分からないのだろう。

 特に奈瀬さんとボクはトレーナーとしてもほぼ同期のライバルだ。敵に塩を送るどころの騒ぎではない。

 

「たぶん他意はないかと」

 

 口を開いたのは、お茶を運んできたクリークさんだった。

 彼女は優しげな笑みを浮かべたまま、ボクの方を見て言った。

 

「ヴィオラさんといえばお人好しで有名でしたし、おっしゃる通りだと思いますよ。それに、ヴィオラさんがルドルフさんと協力して育てた三冠ウマ娘のデータは役に立つと思いますよ。トレーナーさん? 一緒にお世話、しましょう?」

「クリークがそう言うなら……」

 

 クリークさんの説得で奈瀬さんは頷いてくれた。

 というか、ボクについてどんなうわさが流れてるんだ。確かにクリークさんの中等部1年のころ、ボクは高等部3年でルドルフといろいろやってたけどさぁ……

 何となくこちらが腑に落ちない中、とはいえ応じてもらえた奈瀬さんに頭を下げる。

 

「ありがとう、細かい引き継ぎ資料は後で持ってくる。これで安心して休めるよ」

 

 こうして、ボクはマックちゃんの担当を無事に信頼できる同業者に引き継ぎ、愛しい我が子との時間を過ごすための育休へと入るのであった。

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