手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜   作:みやび

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40 悪いことの仕方

 さて、新たにボクの担当となったステゴちゃんだが、見た目は華奢で黒髪のとても可愛い子である。

 しかし、中身はあの狂気的な同世代の特徴的な連中とはまた違ったベクトルで、気性難を抱えていた。

 具体的に言うと、放浪癖がすごい。目を離すとすぐどっかに旅立ってしまう。

 

「いやさ、前世で馬だった時は、移動中外の景色なんてろくに見れなかったからな。自分の足で自由に歩いて、いろんな風景を見るのがめちゃくちゃ楽しいんだよ」

 

 どこからともなくふらりと帰ってきた彼女は、制服の裾に草の種をたくさんくっつけながら、あっけらかんとそう語った。

 本人の言い分や気持ちはわからなくもない。決められたコースしか歩けなかった前世と違い、ウマ娘の体なら自由に海にも行けるし、山にも登れるのだ。そんな制限されない状況を謳歌したくなるのも無理はない。

 だが、当然ながら放浪癖による現実での問題も山積みだった。

 

 まず、ふらりと旅に出るせいで、学園の授業をさぼりまくるのだ。当然、出席日数と成績の問題が浮上する。それに、決まった時間にグラウンドにいないから、定時のトレーニングだって碌にできないことが多い。

 このままでは、デビュー前に素行不良で学園を退学になりかねない。

 なので、彼女が突発的に旅に出てもこういった問題が起きないように、いろいろと仕込みをしてやることにした。

 

 まずは勉強関係だ。

 ここトレセン学園は、レース至上主義な側面があるため、結構柔軟性に富んでいる。なんせレースで北は北海道から南は九州まで、毎週末レースがあるからまじめに過ごしていても授業をきっちり受けられないからだ。

 なので授業免除の手続きが各種あり、中には進級試験にあらかじめ合格すればその学年の授業を完全免除してもらえたりする。

 この試験は通常の中間や期末テストよりはるかに難易度が高く設定されているのが問題だが、なんだかんだ言ってステゴちゃんは頭がいい。

 前世の経験値や記憶はほとんど役に立たないと思うが、地頭そのものは良いのだ。

 ボクが試験の傾向と対策を教えながら旅の合間に自学自習するよう詰め込み教育を施したら、あっさりと試験で合格点を取ってしまった。

 

 次に、レース関係のトレーニング関係である。

 現状、彼女にはレースに対する高度な戦術やトレーニング一切教えていない。やらせているのは、基礎トレーニングだけだ。

 そう、かつてライスちゃんが泣きながら三ヶ月間も挑み続けた、あの地獄の柔軟体操である。

 

「これを毎日、旅先でもいいから自分で欠かさずやるなら、それだけで十分だ。わざわざ学園のグラウンドに顔を出す必要はないよ」

 

 ボクがそう言ってメニューを渡すと、ステゴちゃんは「そんなの楽勝だろ」と笑って挑んだ。

 まあ、普通のウマ娘なら最初の数日で激痛と筋肉痛に泣き叫び、全員が根を上げるレベルの代物なのだが。本人が「自分でやる」と豪語するなら、まずはやらせてみようと突き放して様子を見ることにした。

 ひとまず一通り体験させてみたのだが彼女、わずか1週間もたつと、涼しい顔でケロッと一通りこなせるようになっていた。

 

 さすがは、数多の激戦を怪我一つなく走り抜いた頑丈さの持ち主である。

 ベースの柔軟性と頑丈さが、普通のウマ娘とは根本的に違った。同じメニューをこなすのに、ライスちゃんなんて毎日泣きべそをかきながら三ヶ月もかかったというのに。才能というか、体の作りの違いを見せつけられた気分だ。

 

「よし、確認した。完璧だね。じゃあ、後は君の好きにしていいよ。旅に出るなり、その辺を散歩するなり、ご自由にどうぞ」

 

 ボクがあっさりと告げると、ステゴちゃんは少し拍子抜けしたような顔をした。

 

「……え? 本当にいいのかよ、そんな放任で。普通、もっとビシバシしごくもんじゃないのか?」

「ボクは今、育児の真っ最中でね。小さい子供たちが家にいるから、君の気まぐれな一人旅に毎日同行して見張るなんてのは、物理的に難しいかなぁ」

「いや、そういう意味じゃなくてさ! ほら、レースの走り方とか、戦術とか、もっと色々と練習するべきことがあるんじゃないかって聞いてるんだよ」

 

 不満げに詰め寄ってくるステゴちゃんに対し、ボクは肩をすくめた。

 

「ステゴちゃんが『勝ちたい』のか、それとも『走りたい』のかによるね、それは。ボクは、君の目的が前世で叶わなかった色んな景色を見て、長く走りたいとすると、必要なのは怪我をしないための基礎だけだからね。後はデビュー戦が決まってからレースのスケジュールを組むぐらいだけど、君のデビューは来年以降の予定だから、今はまだ焦る時期じゃない」

 

 もし彼女がGⅠを全部勝ちたい、覇王になりたいと望むなら、もっと体重を削り、精神を追い詰めるような過酷なトレーニングを繰り返す必要がある。相手をすり潰すためのスキルの撃ち方も、徹底的に叩き込まなければならない。

 だが、ステゴちゃんの目標は怪我なく長く、多く走ることだ。何なら日本中の中央や地方のレース、さらには世界中のいろんなレースに出てもいいかもしれない。

 それに必要なのは、せいぜい未勝利戦をサクッと勝ち抜く程度の能力だ。ボクのような低スペックなウマ娘だと未勝利戦を一つ勝つのすら血反吐を吐く思いで一苦労だったが、彼女の持つ潜在能力なら、少し本気を出せば1回勝つことなど造作もない。

 無事に未勝利戦を勝ち上がりさえすれば、あとは本人が走りたいときに好きなだけレースに登録して走ることができるのだ。

 

「……トレーナーとして、それってどうなの? あんた、マックイーンやライスシャワーの時はもっとこう徹底的に管理してたんだろ?」

「なに? 君も手取り足取り、事細かに指導して管理してほしいの?」

「そ、そういうわけじゃないけどさ……なんか、こう、拍子抜けっていうか……」

 

 ステゴちゃんは、もどかしそうに黒髪をかきむしった。

 別に、ボクだって手取り足取りの過保護な指導ができないわけではない。アルダンの時は怪我を防ぐために付きっきりで身体のケアをしたし、マックちゃんもああ見えて結構寂しがり屋で甘えん坊だったから、二人三脚でみっちりスケジュールを管理してあげていた。

 一方でボクが現役時代に所属していたチームの担当トレーナーなんて、ボクの勝手な行動に全然興味を示さずトレーニングすら碌に見てくれなかったし、ただレースの事務的な登録手続きしかしてくれなかったのだ。そういう放任主義のトレーナーだって、別段この学園にいないわけではない。

 

 何より、自由に外の世界を見たいと願う彼女の気性を無理やり檻に閉じ込めてしまえば、必ずどこかでストレスが爆発して破綻する。

 彼女の特性と願いを理解した上で、ステゴちゃんのためにどうやって色んな場所の、色んなレースに長期間にわたって出走し続けるかという、面倒くさいスケジュールを真面目に考えてあげるつもりがあるだけ、ボクは自分でも相当優しいトレーナーだと思う。

 

「不満があるなら、スパルタなトレーニングしてもいいし、そういうトレーナーの所へ移籍してもいいんだよ?」

「……いや、いい。あんたのそういうところ嫌いじゃない。よろしく頼むよ、ちんちくりんトレーナー」

 

 ステゴちゃんはニヤリと笑うと、再び「じゃあ、ちょっとその辺見てくるわ」と手をひらひらと振って、夕暮れの学園の門の向こうへとふらりと消えていった。

 やれやれ、手のかからないようで、実は一番手のかかるタイプの娘を担当してしまったようだ。

 ボクはため息をつきながら、彼女のための申請書の束を小脇に抱え、家で待つ子供たちのもとへ帰路につくのであった。

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